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3.どの道をゆく?
①
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「魔法士を目指すなら、先に役所で申請書を出さなければいけません。無許可で通そうとしないで下さいね、いくらオズさんであろうと目を瞑れませんよ」
ドッグドッグはそう釘を刺して帰っていった。
アリスフォードでは魔法士、魔術士を名乗るためには「自分が魔法士、魔術士である」という資格が必要なのだ。後ろ盾の魔法使いの名前も必要で、認められるには何かと難しい。
認められていない魔法使いは違法魔法士・魔術士と呼ばれ、世界警団から拘束を余儀なくされる。また拘束出来なかった場合は全世界に指名手配される事になるのだ。
しかし違法魔法使いの存在が知られているのはごく一部。目立った事をしなければ存在が明るみに出ることが無いという曖昧な線引きがされているのだが、それは違法魔法使いの類が把握出来ないほどに各地に蔓延っているからなのだ。
「さ、疲れたし、とりあえず家に入って朝食でも食べよう」
オズはふぁ、と欠伸をしてポストから新聞を取って、玄関の扉を開くとノソノソとリビングに入っていった。
サルモネもついて家へ入ると、オズは物だらけのソファで寝転がりながら新聞をふよふよと浮かせて読んでいた。
床に雑に置かれた本や羊皮紙、魔法薬に使う何かの骨や乾燥した植物。
「……あの、ちょ、朝食は」
「サルモネが作るんだよ」
オズは宙に浮く新聞を見上げながらなに食わぬ顔で言った。
「僕、料理出来ないし」
「え? 」
「保存庫に卵とか、ベーコン……あったかなぁ。あ、パンはあるよ」
「保存庫ってどこ……」
そう言いかけるとオズはサルモネに指先を向けてクイッと指先を右に揺らした。
「どわッ!! 」
途端サルモネの足は勝手に動きだし、床のものを蹴散らしながら廊下へ出た。カビ臭い廊下を抜け、ダイニングに入ると足二本、揃って立ち止まった。
「……」
サルモネは足元から視線を上に移すと、泥遊びしたかの如く汚いキッチンに悲鳴をあげた。
「ぎゃあ!!!!!!! 」
泥遊び、といっても汚れは泥ではない。何年も放置されたとんでもキッチンは異臭すらする。ホコリ臭いなんて文句を言おうとしていたサルモネもびっくりの地獄絵図に立ち尽くしていた。
「……こんな、こんなキッチンで料理出来るわけないでしょ」
とりあえず保管庫だ。ウッと口と鼻を押さえてキッチンの端にある食材保管庫の前に立った。
嫌な予感はずうっと頭の中にある。
「開けてはいけない」そう自分の心が開けようとする手を止めている。保管庫を開く取っ手もドロッと長年の油汚れなのか茶色い物質がこびりついているのだ。
「……うぅ」
目をギュッと瞑り、ヌルりとする取っ手を唇を噛みながら開いた。ヌチャ、と粘質を破るように開かれた扉。見てもいないのに身震いもした。
ムワッ、とカビ臭さと腐った匂いが塞いだ鼻にも飛び込んできた。
「ッッッ!!!!! 」
思わず飛び上がってキッチンから逃げた。ねちゃねちゃと靴裏を鳴らしながら必死でリビングに飛び込んだ。
「オズ!!!! 」
「うわ、何。大声出さないでよ」
未だ寝転がりながら呑気に新聞を読むオズは青い瞳をぎょろりとサルモネに向けた。
「なんですか! あのキッチン!! 」
「え? 」
「あんな場所にあるもの食べられるわけないし、あんなキッチンで料理できるわけないでしょ!!! 」
オズはきょとんとした顔をするだけで我関せず、なんて新聞に再び視線を移した。
「オーズーさーん!!! 」
宙に浮いた新聞を取り上げてオズの顔の前に汚れた手を突きつけた。
「手! 一瞬保管庫の取っ手触っただけで! 」
「汚い……」
そのひと言でサルモネは声にならない声で叫んだ。
ドッグドッグはそう釘を刺して帰っていった。
アリスフォードでは魔法士、魔術士を名乗るためには「自分が魔法士、魔術士である」という資格が必要なのだ。後ろ盾の魔法使いの名前も必要で、認められるには何かと難しい。
認められていない魔法使いは違法魔法士・魔術士と呼ばれ、世界警団から拘束を余儀なくされる。また拘束出来なかった場合は全世界に指名手配される事になるのだ。
しかし違法魔法使いの存在が知られているのはごく一部。目立った事をしなければ存在が明るみに出ることが無いという曖昧な線引きがされているのだが、それは違法魔法使いの類が把握出来ないほどに各地に蔓延っているからなのだ。
「さ、疲れたし、とりあえず家に入って朝食でも食べよう」
オズはふぁ、と欠伸をしてポストから新聞を取って、玄関の扉を開くとノソノソとリビングに入っていった。
サルモネもついて家へ入ると、オズは物だらけのソファで寝転がりながら新聞をふよふよと浮かせて読んでいた。
床に雑に置かれた本や羊皮紙、魔法薬に使う何かの骨や乾燥した植物。
「……あの、ちょ、朝食は」
「サルモネが作るんだよ」
オズは宙に浮く新聞を見上げながらなに食わぬ顔で言った。
「僕、料理出来ないし」
「え? 」
「保存庫に卵とか、ベーコン……あったかなぁ。あ、パンはあるよ」
「保存庫ってどこ……」
そう言いかけるとオズはサルモネに指先を向けてクイッと指先を右に揺らした。
「どわッ!! 」
途端サルモネの足は勝手に動きだし、床のものを蹴散らしながら廊下へ出た。カビ臭い廊下を抜け、ダイニングに入ると足二本、揃って立ち止まった。
「……」
サルモネは足元から視線を上に移すと、泥遊びしたかの如く汚いキッチンに悲鳴をあげた。
「ぎゃあ!!!!!!! 」
泥遊び、といっても汚れは泥ではない。何年も放置されたとんでもキッチンは異臭すらする。ホコリ臭いなんて文句を言おうとしていたサルモネもびっくりの地獄絵図に立ち尽くしていた。
「……こんな、こんなキッチンで料理出来るわけないでしょ」
とりあえず保管庫だ。ウッと口と鼻を押さえてキッチンの端にある食材保管庫の前に立った。
嫌な予感はずうっと頭の中にある。
「開けてはいけない」そう自分の心が開けようとする手を止めている。保管庫を開く取っ手もドロッと長年の油汚れなのか茶色い物質がこびりついているのだ。
「……うぅ」
目をギュッと瞑り、ヌルりとする取っ手を唇を噛みながら開いた。ヌチャ、と粘質を破るように開かれた扉。見てもいないのに身震いもした。
ムワッ、とカビ臭さと腐った匂いが塞いだ鼻にも飛び込んできた。
「ッッッ!!!!! 」
思わず飛び上がってキッチンから逃げた。ねちゃねちゃと靴裏を鳴らしながら必死でリビングに飛び込んだ。
「オズ!!!! 」
「うわ、何。大声出さないでよ」
未だ寝転がりながら呑気に新聞を読むオズは青い瞳をぎょろりとサルモネに向けた。
「なんですか! あのキッチン!! 」
「え? 」
「あんな場所にあるもの食べられるわけないし、あんなキッチンで料理できるわけないでしょ!!! 」
オズはきょとんとした顔をするだけで我関せず、なんて新聞に再び視線を移した。
「オーズーさーん!!! 」
宙に浮いた新聞を取り上げてオズの顔の前に汚れた手を突きつけた。
「手! 一瞬保管庫の取っ手触っただけで! 」
「汚い……」
そのひと言でサルモネは声にならない声で叫んだ。
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