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2.墓守りのアトネ
①
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「また? それ管理者に問題があるんじゃ」
じとり。オズはドッグドッグを見下ろし、行きたくないとキッパリ言った。
「お願いしますよう……今色々大変で、墓荒らしなんて頻発すれば国民の不安をさらに煽ることにもなりかねないのはお分かりですよね」
「ま、そうだね。国民の動向に乱れがあれば、あの脆弱な王様がとんでもない事を言い出すだろうし。その前に何とかしよう」
ケタケタと笑ってから直ぐに面倒くさそうな顔に切り替えたオズはため息をついた。この国の王族は心配性をこれでもかと遺伝させている。安寧が保たれる国は一度強風が吹けば倒れるハリボテと同じ、オズはそう思っていた。
「墓地には、どう行くつもりなの? 」
そうオズが尋ねるとドッグドッグは萎びた紙切れを取り出した。
「もちろんお手を煩わせないようムブカードを持ってきました」
「何ですか? それ」
「ムブカードと言って、ここに書いてある場所に転移できる魔法道具です。一般市場でも流通してるんですよ。まぁ高額であまり一般的ではありませんが」
黄ばんだ小さな紙にミミズが這ったような文字とも言えないインクの染みがある。
「……へぇ。買って、ここに好きな場所を書くんですか」
「いえ、そんな便利なものではないんですよ。あらかじめ行先は決まってるんです。魔法士や魔術士、魔力を取り扱える方々が特定の転移場所に移動出来る魔法を紙に染み込ませるんです」
「なるほど」
「需要のあるカードでないと売れないので、国内の僻地や認可マーケットが主流ですね。場所を指定するオーダーメイドも出来るんですけど、それはとても買えた値段ではないですね」
サルモネはドッグドッグからムブカードを受け取るとじっとカードを見つめた。サムズウェアという非魔法国家で生きてきたサルモネにとっては新鮮な物だった。オズは「今度作ってみようか」と笑いかけると、サルモネは目を輝かせる。
「これから行くのは墓地ですが、魔法史上の偉人マーリンの墓もあります。観光地にもなっているので騒がしいかもしれません」
「マーリンって誰ですか? 」
「あぁ、そうですね。サムズウェアだと魔法史は禁書レベルで出回っていなかったですね」
「マーリンは英雄魔術士。様々な魔法道具を作ったと言われる偉人だよ」
へぇ、と唸る他ない。今まで触れてこなかった魔法の世界には人間と同じ深い歴史がある。サルモネはぼんやりとドッグドッグの首を絞める輪を捉えながら目を伏せた。
一瞬、頭の中で声が鳴った気がした。
「どうかした? 」
「なんでもないです。ムブカード、どうやって使うんですか? 」
「破るだけです。やってみますか? 」
「いいんですか?! 」
琥珀色の瞳がキラキラと光を抱き込んだ。ムブカードを手に取ったサルモネは勢いよくビリッと紙切れを引きちぎった。
足元に紙切れに書いてあったぐにゃぐにゃの文字が現れた。
「わッ!」
光が地面から差し込み、思わず目を瞑る。足元から突き上げるように吹く強風が三人を包んだ。
次に目を開いた時には、墓地の入口であった。緑の中にびっしりと並ぶ墓石、思わず息を飲むような荘厳な空気が肌を刺す。
「凄い……本当に移動してる」
「魔法士はムブカードなんて無くても転移魔法くらい出来るんだからね」
「いいんですよ。何事も経験でしょう」
オズの言葉にそう返したドッグドッグは「ね? 」とサルモネの顔を見た。
「この先が、マーリンの墓と記念碑があります。どうです、せっかくだし見ていきますか」
「……いいんですか? 」
「もちろん」
じとり。オズはドッグドッグを見下ろし、行きたくないとキッパリ言った。
「お願いしますよう……今色々大変で、墓荒らしなんて頻発すれば国民の不安をさらに煽ることにもなりかねないのはお分かりですよね」
「ま、そうだね。国民の動向に乱れがあれば、あの脆弱な王様がとんでもない事を言い出すだろうし。その前に何とかしよう」
ケタケタと笑ってから直ぐに面倒くさそうな顔に切り替えたオズはため息をついた。この国の王族は心配性をこれでもかと遺伝させている。安寧が保たれる国は一度強風が吹けば倒れるハリボテと同じ、オズはそう思っていた。
「墓地には、どう行くつもりなの? 」
そうオズが尋ねるとドッグドッグは萎びた紙切れを取り出した。
「もちろんお手を煩わせないようムブカードを持ってきました」
「何ですか? それ」
「ムブカードと言って、ここに書いてある場所に転移できる魔法道具です。一般市場でも流通してるんですよ。まぁ高額であまり一般的ではありませんが」
黄ばんだ小さな紙にミミズが這ったような文字とも言えないインクの染みがある。
「……へぇ。買って、ここに好きな場所を書くんですか」
「いえ、そんな便利なものではないんですよ。あらかじめ行先は決まってるんです。魔法士や魔術士、魔力を取り扱える方々が特定の転移場所に移動出来る魔法を紙に染み込ませるんです」
「なるほど」
「需要のあるカードでないと売れないので、国内の僻地や認可マーケットが主流ですね。場所を指定するオーダーメイドも出来るんですけど、それはとても買えた値段ではないですね」
サルモネはドッグドッグからムブカードを受け取るとじっとカードを見つめた。サムズウェアという非魔法国家で生きてきたサルモネにとっては新鮮な物だった。オズは「今度作ってみようか」と笑いかけると、サルモネは目を輝かせる。
「これから行くのは墓地ですが、魔法史上の偉人マーリンの墓もあります。観光地にもなっているので騒がしいかもしれません」
「マーリンって誰ですか? 」
「あぁ、そうですね。サムズウェアだと魔法史は禁書レベルで出回っていなかったですね」
「マーリンは英雄魔術士。様々な魔法道具を作ったと言われる偉人だよ」
へぇ、と唸る他ない。今まで触れてこなかった魔法の世界には人間と同じ深い歴史がある。サルモネはぼんやりとドッグドッグの首を絞める輪を捉えながら目を伏せた。
一瞬、頭の中で声が鳴った気がした。
「どうかした? 」
「なんでもないです。ムブカード、どうやって使うんですか? 」
「破るだけです。やってみますか? 」
「いいんですか?! 」
琥珀色の瞳がキラキラと光を抱き込んだ。ムブカードを手に取ったサルモネは勢いよくビリッと紙切れを引きちぎった。
足元に紙切れに書いてあったぐにゃぐにゃの文字が現れた。
「わッ!」
光が地面から差し込み、思わず目を瞑る。足元から突き上げるように吹く強風が三人を包んだ。
次に目を開いた時には、墓地の入口であった。緑の中にびっしりと並ぶ墓石、思わず息を飲むような荘厳な空気が肌を刺す。
「凄い……本当に移動してる」
「魔法士はムブカードなんて無くても転移魔法くらい出来るんだからね」
「いいんですよ。何事も経験でしょう」
オズの言葉にそう返したドッグドッグは「ね? 」とサルモネの顔を見た。
「この先が、マーリンの墓と記念碑があります。どうです、せっかくだし見ていきますか」
「……いいんですか? 」
「もちろん」
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