上 下
99 / 101
新時代を垣間見る一人として

【09-09】

しおりを挟む
 スイム。
 水中の中でゴールまでのタイムを競う種目。スカイランとは違いコースが長く長期戦になるレースだ。
 選手は全員水中のゴールを目指す。さまざまなスキルを組み合わせて使うことでより有利な状況を作りながらゴールを目指す。ステージ上に設けられた障害を突破して先にゴールまで進む総合力が問われる。
 僕は昨日と変わらず雑用している。作戦会議にも参加したけどスイム自体に興味がない僕にはちんぷんかんぷんだった。

 スイムはゴールまでの距離がわからない。スタートは大海原にポツンと浮かぶ小さな円形の島。どの方向に進んでも構わない。その無限に広がるフィールドの中からゴールを探す。エリア内に現れるゴールは一人入る度にランダムで位置が替わる。そのゴールに入るためにはエリア内に設置された関門を潜り抜けてヒントとなるアイテムを入手しなければならない。偶然見つけてもすぐそこに入ることはできない。だからといって、アドバンテーがないわけでもないのだが。先にゴールを見つけているからこそ発見できる関門もあるからだ。

 スイムはアイテムの使用が許可されている。去年までの流れだと船を浮かべてエリアを捜索する。自分が泳ぐよりも速く移動ができて疲労も少ない。探知系のスキルを駆使してエリア内を一気に調べ上げた後にゴールを目指すわけだ。ただし、この作業は見ている側には海の上を船で進んでいるだけ。代わり映えのない光景が序盤中盤と観客を襲う。スイムが好きでなければ見続けられないよ。去年のような船の壊し合いが起きれば面白いのだけど。船好きな観客も一定数はいるから人気がないわけでもないけどね。
 選手たちはみんなそれを警戒して対策を練っているようだ。基本他の船には近寄らず、近づいてしまっても戦闘に発展しないように譲り合っている。戦闘が始まれば、自分たちの戦闘中に自由に行動できる戦闘をしていないプレイヤーに差を付けられてしまうからだ。

 僕もコーチたちと一緒に観戦していたけど、気もそぞろだったからかあまり内容を見ていなかった。去年と同じであれば今頃大会フィールドに出る出店を回っていたはずだ。何の因果か今僕は大会関係者としてここにいるけど、スイムは好きになれないかな。

 試合の内容は覚えてないけど、コーチたちが何をしていたかは覚えている。作戦室で大きなテーブルとディスプレイを囲んで指示を出していた。まだ今年で四回目の競技。城跡なんてものは存在せず、歴史的な海戦を参考にしているとはいつぞやにテレビのコメンテーターが言っていた言葉だ。
 ディスプレイで見える映像は大会側が提供してくれる各選手の映像。これは、僕たち関係者でなくてもVR空間であれば見放題。これを見ながらスイム好きの人はお酒を飲むのかな。あんまりわからないけど。



ーーーーーーー



 大会二日目も順調に終わった。日本としてはメダルが取れなかったから順調にとは言えないか。でも、なんのトラブルもなく終わったから僕にとっては順調だ。
 本戦に出場したのは一人だけで優勝争いにも関われなかったけどこんなものだ。

 VRオリンピックはオリンピックとは呼ばれているけど種目も少なく今はまだお祭り感覚だ。セカンドワールド内では言語の壁がなくなるからここぞとばかりに異文化交流会がいたるところで開かれている。
 僕がスイムに興味がないようにスピードランやシージと言った人気種目にすら興味を示さない人も多い。特に年齢を重ねている人ほどその傾向が強い。しかし、異文化交流はどの時代の人間にとっても刺激のあることで一年の内のこの時期のためにVR設備を整えたという人は多い。

 種目を増やすって噂は僕も聞いたことがある。ここ三年は毎年聞いている。今年こそはと流れる噂もどれも信憑性に欠けているものばかり。
 しかし、種目不足なことも確か。アナザーワールドの限界かもしれない。AWが普及する前まではパソコンでのオンラインゲームが主流でチーム戦や個人戦と多くの大会があった。それらを参考に新しい種目を作ればいいとも思うんだけど、そう簡単ではないのかな。VRゲームであるAW│《アナザーワールド》が出る前はeSportsと言われていた種目の多くは銃で戦うものだ。少ない人数でチームを組んで他のチームを倒す。しかし、それが戦争の延長戦になるという懸念から生み出されたのがAWだ。僕としてはゲームと現実の区別ぐらいつくよと思うけれど、それは僕がなにも知らないからかもしれない。

 競技数の少なさは毎年取り上げられる。これもVR黎明期であると言えばそれっぽく感じるのかもしれないけど、どう考えても四種目は少ない。しかし、数を増やせばいいという物でもないのだ。新しい種目を作ることは労力を伴うことだ。公平なルールを作ることにも一苦労。だからこそ、今後VRサッカーやVR野球も競技に入れようという話が去年から上がっている。これはもはや秒読みだと思う。という噂が毎年流れている訳だ。

 僕はホテルの一室でベッドに横になってそんなことを考えていた。コーチたちスタッフ陣はまだ会議をしているみたいだ。明日のダンジョンランと明後日のシージは時間加速を使うためにスタッフ陣もVR空間に潜ることになる。VR空間に持っていく資料の確認や明日の作戦の確認とやることはいっぱいあるんだろう。僕って本当に来る必要あったのかな。
 僕は競技が終わった後のミーティングでもう戻っていいと言われて素直に戻ってきた。今は二十時過ぎ。夕食もホテルのレストランで値段が少しおかしい料理を食べて寝る準備もした。正直、料理の値段は高校生の僕が一人で食べるものじゃなかったし、高校生のような子供が一人で入るようなレストランでもなかったから少し居心地か悪かった。味もよくわからなかったよ。

「黒川。電気消して」
『かしこまりました』

 ベッド横にある小さなテーブルの上に置いたリンカーから黒川の返答が聞こえる。僕はテーブルの上に置いたはずのARグラスを手探りで見つけて、それをかける。

「ブラウザ出して」

 僕がそう言うとすぐに目の前にブラウザが浮かぶ。ARの操作に未だに慣れない部分があって苦戦しながらもネットの海に潜る。
 色々と流していくけどなんだかんだとAWの情報を漁ってしまう。動画サイトには初心者レクチャーなんてタイトルの動画が転がっていた。
 AWはゲーム内の機能で録画ができる。それを利用してネットに投稿しているユーザーは多い。しかし、十五才まで正規プレイができなかったように年齢制限の対象であることを踏まえた上で投稿しないと削除申請されてしまう。だから、ボス戦や強敵の動画は年齢が足らずにこれまであまり見れてなかった。存在も頭から抜けていた。

「すごいなぁ」

 最前線とタイトルに付けられた動画をいくつか見てみるけどどれも今の僕では到底かなわないだろうモンスターとの激戦連戦がそこにはあった。
 自動防御があるからと選手に選ばれた僕。プレイヤーとしての腕前はそこにない。もしも僕のアバターの研究がされて自動防御│《オートガード》の条件が発見されたら僕はお役御免かもしれない。そう考えると、少し焦る気持ちがある。
 ただより良い環境でアナザーワールドがプレイしたかっただけだけど、今の状況は嫌ではない。ゲームをプレイすることでお金をもらえる。いわば、プロゲーマーのような立場だ。

「もっと頑張らないといけないのかな」

 そう呟いては見るけれど実感が湧かない。そもそも僕はどう頑張れば良いのだろうか。僕の目指す先はなんだろう。当初の想定したプレイヤーアバターの半分は達成できたけどプレイスタイルを考えると半分は達成できていない。あの主人公のような戦いがしたい。だけれども、姿勢制御はヒューたちAIに頼っている状況でヒューマン側の性能もお粗末な状体だ。とてもじゃないけど飛んで跳ねることはできない。

「僕は王都にたどり着けるのだろうか」

 最初の街ヴィーゼ。後はなんだっけ。グラスウルフか。いや、コボルトリーダーも倒してなかったかな。日本に戻ったらまだ夏休みも残っているからどうにかその二体だけでも倒したいな。幸い合宿でカズさんと模擬戦を続けたこととカズさんと他のプレイヤーたちの模擬戦を見学したおかげで戦い方の根本がほんのすこしだけわかった気がする。今僕の頭の中にある戦闘の組み立ては夏休み前の僕と変わっているはずだ。何よりの違いは奇襲に頼ろうと思わなくなったこと。思えば、僕はいつも奇襲をしかけていた。模擬戦という正々堂々と戦う機会を得たお陰か僕の戦闘スタイルに変化が起きているようだ。
 とりあえずはもっと体を動かす必要がある。仁王立ちではいけないのだ。装備も考えないといけないな。でも無いほうがいい気もするんだよな。体を重くする必要はないし。

 目の前に浮かぶARウィンドウそっちのけで思考に耽る僕はいつのまにか睡魔に誘われていた。



 寝息を立てる僕。その横には黒川がいる。

『仕方ありませんね』

 そう言ってARモードを終了してスリープモードに移行する。
 リンカーになったことで電源容量もその効率も格段に上がったとはいえ、充電せず寝たことを瑠太が軽く悔いることにそう遠くの話ではない。

『おやすみなさいませ、若様。よい夢を』



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

Condense Nation

SF
西暦XXXX年、突如としてこの国は天から舞い降りた勢力によって制圧され、 正体不明の蓋世に自衛隊の抵抗も及ばずに封鎖されてしまう。 海外逃亡すら叶わぬ中で資源、優秀な人材を巡り、内戦へ勃発。 軍事行動を中心とした攻防戦が繰り広げられていった。 生存のためならルールも手段も決していとわず。 凌ぎを削って各地方の者達は独自の術をもって命を繋いでゆくが、 決して平坦な道もなくそれぞれの明日を願いゆく。 五感の界隈すら全て内側の央へ。 サイバーとスチームの間を目指して 登場する人物・団体・名称等は架空であり、 実在のものとは関係ありません。

社畜だけど転移先の異世界で【ジョブ設定スキル】を駆使して世界滅亡の危機に立ち向かう ~【最強ハーレム】を築くまで、俺は止まらねぇからよぉ!~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
ファンタジー
 俺は社畜だ。  ふと気が付くと見知らぬ場所に立っていた。  諸々の情報を整理するに、ここはどうやら異世界のようである。  『ジョブ設定』や『ミッション』という概念があるあたり、俺がかつてやり込んだ『ソード&マジック・クロニクル』というVRMMOに酷似したシステムを持つ異世界のようだ。  俺に初期スキルとして与えられた『ジョブ設定』は、相当に便利そうだ。  このスキルを使えば可愛い女の子たちを強化することができる。  俺だけの最強ハーレムパーティを築くことも夢ではない。  え?  ああ、『ミッション』の件?  何か『30年後の世界滅亡を回避せよ』とか書いてあるな。  まだまだ先のことだし、実感が湧かない。  ハーレム作戦のついでに、ほどほどに取り組んでいくよ。  ……むっ!?  あれは……。  馬車がゴブリンの群れに追われている。  さっそく助けてやることにしよう。  美少女が乗っている気配も感じるしな!  俺を止めようとしてもムダだぜ?  最強ハーレムを築くまで、俺は止まらねぇからよぉ!  ※主人公陣営に死者や離反者は出ません。  ※主人公の精神的挫折はありません。

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

どうやら異世界ではないらしいが、魔法やレベルがある世界になったようだ

ボケ猫
ファンタジー
日々、異世界などの妄想をする、アラフォーのテツ。 ある日突然、この世界のシステムが、魔法やレベルのある世界へと変化。 夢にまで見たシステムに大喜びのテツ。 そんな中、アラフォーのおっさんがレベルを上げながら家族とともに新しい世界を生きていく。 そして、世界変化の一因であろう異世界人の転移者との出会い。 新しい世界で、新たな出会い、関係を構築していこうとする物語・・・のはず・・。

アポカリプスV

うなぎ太郎
SF
2024年、突如世界を新型ウイルス「アポカリプスV」が襲った。 80億人いた世界人口はたったの100万人にまで減少。 しかし、疫病の惨禍を生き延びた者たちには、余剰状態となった地球の資源を利用し、自然と共生した豊かな生活が送れる楽園が待っていた_______? ※人類が衰退した様子が描かれますが、筆者は人類または特定の国の衰退を望んでいる訳ではおらず、また政体の変更もフィクションであり、特定の政治信条・思想を肯定または卑下するために執筆したものではございません。

メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井
SF
「えっ、クビですか?」 中企業アナハイニム社の事務課に勤める大津修也(おおつしゅうや)は会社の都合によってクビを切られてしまう。 ろくなスキルも身に付けていない修也にとって再転職は絶望的だと思われたが、大企業『メトロポリス』からの使者が現れた。 『メトロポリス』からの使者によれば自身の商品を宇宙の植民星に運ぶ際に宇宙生物に襲われるという事態が幾度も発生しており、そのための護衛役として会社の顧問役である人工頭脳『マリア』が護衛役を務める適任者として選び出したのだという。 宇宙生物との戦いに用いるロトワングというパワードスーツには適性があり、その適性が見出されたのが大津修也だ。 大津にとっては他に就職の選択肢がなかったので『メトロポリス』からの選択肢を受けざるを得なかった。 『メトロポリス』の宇宙船に乗り込み、宇宙生物との戦いに明け暮れる中で、彼は護衛アンドロイドであるシュウジとサヤカと共に過ごし、絆を育んでいくうちに地球上にてアンドロイドが使用人としての扱いしか受けていないことを思い出す。 修也は戦いの中でアンドロイドと人間が対等な関係を築き、共存を行うことができればいいと考えたが、『メトロポリス』では修也とは対照的に人類との共存ではなく支配という名目で動き出そうとしていた。

異世界楽々通販サバイバル

shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。 近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。 そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。 そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。 しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。 「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」

Tactical name: Living dead. “ Fairies never die――. ”

されど電波おやぢは妄想を騙る
SF
 遠い昔の記憶なのでやや曖昧だが、その中でも鮮明に残っている光景がある。  企業が作った最先端のロボット達が織りなす、イベントショーのことだった。  まだ小学生だった頃の俺は両親に連れられて、とある博物館へと遊びに来ていた。  そこには色々な目的で作られた、当時の様々な工業機械や実験機などが、解説と一緒に展示されていた。  ラジコンや機械弄りが大好きだった俺は、見たこともない機械の物珍しさに、凄く喜んでいたのを朧げに覚えている。  その中でも人間のように二足歩行し、指や関節の各部を滑らかに動かして、コミカルなショーを演じていたロボットに、一際、興味を惹かれた。  それは目や鼻と言った特徴はない無機質さで、まるで宇宙服を着込んだ小さな人? そんな感じだった。  司会の女性が質問を投げ掛けると、人の仕草を真似て答える。  首を傾げて悩む仕草や、大袈裟に身振り手振りを加えたりと、仰々しくも滑稽に答えていた。  またノリの良い音楽に合わせて、ロボットだけにロボットダンスを披露したりもして、観客らを大いに楽しませていた。  声は声優さんがアテレコしていたのをあとから知るが、当時の俺は中に人が入ってるんじゃね? とか、本気で思っていたりもしていたくらいだ。  結局は人が別室で操作して動かす、正しくロボットに違いはなかった。  だがしかし、今現在は違う。  この僅か数十年でテクノロジーが飛躍的に進歩した現代科学。  それが生み出したロボットに変わるアンドロイドが、一般家庭や職場にも普及し、人と共に生活している時代だからだ。  外皮を覆う素材も数十年の間に切磋琢磨され、今では人間の肌の質感に近くなり、何がどうと言うわけではないが、僅かばかりの作り物臭さが残る程度。  またA.I.の発達により、より本物の人間らしい動き、表情の動きや感情表現までもを見事に再現している。  パッと見ただけでは、直ぐに人間と見分けがつかないくらい、精巧な仕上がりだ。    そんな昔のことを思い出している俺は、なんの因果か今現在、そのアンドロイドらと絶賛交戦中ってわけで――。

処理中です...