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2章 従者との日々
お出かけ
しおりを挟む「峻矢様、そろそろマシロに仕事させてもよろしいかと思うのですが。」
「確かに・・・」
あれから数週間、マシロの体調もかなり良くなっているように見える。
傷跡はさすがに治せないが、顔色も大分よく元気そうだ。
ラナンの毎日の栄養のある食事のおかげもあるだろうか。
(そういえば、ラナンは仕事ばかりしているけどいつ休みをもらっているんだ?)
考えてみるとあれからそこそこ経っているがラナンが休んでいるところを見たことがない。
「ラナンさん」
「はい、なんでしょうか」
「ラナンさんは休みをもらっているんですよね」
「はい」
「いつ、もらっているんですか?」
「・・・」
ラナンは少し戸惑うように顔を伏せる。
「あの・・・もしかして本当は休日がないんですか?」
「・・・いえ、そういうわけではないんです。
休日はあるんですが・・・なんと言うか・・・」
「・・・?」
「別に外に行ってしたいこともありませんし、
何をすればいいのかわからないので・・・」
驚くべきことにラナンの答えは引きこもりのそれであった。
(・・・女の子だったらショッピングとかしたくないんだろうか・・・
いや・・・待て、そもそも給料渡してない・・・)
今思えば、父から受け継いだ多額の入った通帳には給料を与えているようなものは見えなかった。
給料を渡していないなんて労働基準を犯している。
そんな非常なことをするわけにもいかない。
ラナンは仕事もしっかりとこなしているのに・・・
「ラナンさん、いつも仕事をしているのでこれからは給料もあげたほうがいいかもしれません。」
「え!?い、いいえ!そんなここに住まわせてもらっているだけでも十分なくらいです。
それに最近では豪華な食事も一緒にいただいておりますし、それにもともと私はここに住まわせてもらうことを
条件にここで働いているんですから!その、給料なんてものは必要ありません!
お気持ちだけいただきたいと・・・」
ラナンはいつもより焦った様子で顔を赤くした。
謙虚さがうかがえるがこれはもう謙虚というべきか・・・
(それでもなあ・・・)
「ラナンさん」
「は、はい!」
「明日、一緒にデパートにでも行きましょう。」
「え!?」
「俺についてきてください、マシロの正装も買わないといけませんし」
「・・・?・・・わ、わかりました」
ラナンは少し戸惑った様子で頭にクエスチョンマークを付けていた。
(せめてラナンのために必要なものは買ってあげないとな)
天気、晴れ。
お出かけにはぴったりというかもう少し曇りがかってもいいくらいに日差しが強い。
今日はラナンにいつもの恩返しをするためのお出かけである。
・・・で
「ラ、ラナンさん」
「はい」
「なんで、いつもの服なんですか?」
「・・・どういうことでしょうか?」
どうやらラナンにとってこの白と黒のフリルの効いた可愛らしい服は
日常服であり、来ているのが当然らしい。
「他の服ってないんですか?」
「同じ服なら数着ありますけど・・・どこか汚れていますか?」
「・・・いや、何でもありません」
(まずは服からかもしれない。
こんな姿で歩いていたら周りからどう見られるか・・・)
「い、行きましょうか」
「はい」
「ラナンさんはいつもどんなシャンプーを使っているんですか?」
不思議に思っていることだったがラナンの金髪は綺麗ではあるが、注意深く
見てみると少し傷んでいる。洗い方が悪いかもしれない。
「申し訳ありませんが、峻矢様から頂いている食材の資金の余ったもので買わせていただいております。
あまり無駄遣いはしておりませんのでご心配なきよう」
「・・・ラナンさん、それは大問題です。」
「へ?」
それからラナンには髪が女性にとってどのくらい大事かを長々と説明した。
女性にとっての髪の艶や匂い、魅力についてもどのようなものかを詳しく説明したのである。
ラナンとはいうと「はあ」と浅い相槌を打って少し後ろから興味のなさそうに聞いている。
「・・・わかりましたか?」
「はあ・・・」
「ということでとりあえず今日からはとりあえずこのシャンプーとコンディショナーを使ってください」
そういいながらピンク色の容器に入ったものを指さし、2つずつ籠に入れる。勿論マシロの分も、である。
「はあ・・・ってえ!?こんなに高いものを・・・わ、私には合いません。」
(まあ、そういうと思っていたけど・・・)
「では、俺のためにこれからは使ってください。
無くなったらお金を渡します。わかりましたか?」
「しかし、私にこんなお高いもの・・・」
「わかりましたか?」
ラナンは依然として納得していないらしかったので少し強めに言い放つ。
「し、承知しました」
(もしかすると洗顔料とかも同じような状態かもしれない)
ラナンの肌はきめ細かく今の現状特に目立ったデキモノはない。
しかし、できたからでは遅いだろう。早めの対処が必要だ。
「あとは洗顔料と化粧水、家事やってるならハンドクリーム、ボディクリームも
あとは・・・」
「あ・・・あの・・・峻矢様?・・・」
「流石にメイク道具まではいらないにしろ・・・
他には・・・」
一式必要なものを買い終わりやっとのことでラナンの服を買いにいくことができる。
ラナンは浮かない顔をしながら少し後ろからついてきている。
顔を少し伏せ、困ったような雰囲気をしている。
「ラナンさん、どうしたんですか?」
「・・・はい。私は買われた身の上です。その・・・オシャレなどは似合わないと申しますか・・・
身の程ではないと思うんです。こんなに高価なものを買っていただけるのは・・・申し訳なくて・・・」
「・・・ラナンさん」
「はい」
「ラナンさんは美人ですし、勿体ないですよ。」
「び、美人!?」
「はい」
先ほどまでの暗い顔は一変した。
ラナンは目と口を少し大きく開け、顔を赤らめる。
「それに、使用人には綺麗でいてくれたほうが俺も家にいて楽しいというか気分がいいです。
ラナンさんなら特にです。」
「・・・」
ラナンは依然として顔を赤らめている。
半開きになった口は石化したようである。
「俺のために綺麗でいてくれませんか?美人が隣にいてくれると仕事も捗ります。」
「び・・・峻矢様のために・・・ですか?」
「はい」
「・・・峻矢様。その・・・承知しました。」
ラナンはやっと理解してくれたらしい。不安そうなオーラはなくなった。
「では、お願いします」
「・・・峻矢様、深くお礼申し上げます。
これからも一生懸命峻矢様のために勤めさせていただきます。」
「では次は、服を見ましょうか」
「へ!?まだ買うんですか!?」
「はい」
こうしてやっとのことで本来の目的にたどり着くことができた。
デパートにいる間、注目を浴び続けた峻矢にとってはやっと安心を得られると胸をなでおろした。
そして、勿論女性服の店員さんには始め軽蔑しているような顔をされたのであった。
「あの・・・峻矢様、この格好は・・・」
ラナンは膝よりも少し高い淡青色のスカートを恥ずかし気に手で覆っている。
上半身は白いセーターに包まれていて胸のあたりが強調されている。ラナンのスタイルの良さが際立っているだろう。
「とても似合ってると思います。」
店員には普段切ることができるような服を数セットお願いしますと伝えた。
店員さんは喜んで
『可愛い彼女さんですから、なんでも似合うと思いますよ。』
といいながら、高いテンションで服を選びだした。
服屋の店員の血が騒いだのだろう。
「あの似合っているとかではなくて・・・
私はあのもともと着ていた服のほうが、着慣れているといいますか・・・
その、私はこんな高価なものは着る必要がないと思うんですけど・・・」
おそらく、もともとの服はもっと高価なんだけど・・・
どうやらラナンは何も理由が分かっていないらしかった。
「ラナンさん。ラナンさんのあの格好は外では目立つんですよ。
なので俺と一緒に外に出るときはせめて今日買ったものを着てください。」
「は、はあ・・・かしこまりました。
しかし、周りからの目は大して変わってないと思うのですが・・・」
確かに周りからはラナンの姿にくぎ付けになっている。
特に男は「あの子、超かわいい」「ナンパしろよお前!」などとつぶやきながら
チラチラとラナンの顔と胸を交互に見ている。
「・・・まあ、まだマシになったんじゃないかな・・・」
「峻矢様に買っていただいた服は生涯大切に使わせていただきます。」
「う、うん。ありがとうございます。」
これからも少しずつ揃えていかないと生活しにくいだろう。
ただ峻矢はラナンが家で着用している服はそのままでいいと心の中でつぶやいた。
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