上 下
99 / 111
やり直す時間

98:聞き覚えのある声

しおりを挟む
国王は唐突に話を終わらせると、私たちの顔をろくに見もしないで部屋から出て行ってしまった。それはシドンが言ったことがよほど都合が悪いのだという証拠だ。
リビュアとカエオレウムだと今の時点ではまだリビュアの方が強大だったはずーー戻ってきてからあまり気にしていなかったけど、リビュアとカエオレウムの国力差があと数年でひっくり返るっていうのはこの毒が影響していると考えるのが自然ね。
毒が問題になった事件とかあったかしら。

「シドン、リビュア王にはこの件は報告しているの?」
「もちろんです」
「反応はどうだったの?」
「それは後でお話しましょう…しかし、ルカはまた謹慎させられてしまうとなると話もできませんね」

そうだった。
また謹慎、と思うとさすがに気が重い。アケロンったらゲートを閉じちゃったみたいだし…本当に部屋から出られないとすれば今までとは全然違うでしょうし…
とはいっても自室で過ごせるだけマシかしらね。過去では有無を言わさず投獄からの処刑だったから、それを回避できたと思えば100倍マシね。

なんて思っていると、私の横に戻ってきたアガタが囁く。
「アケロン様と、フルクトス様の魔力が感じられます」
「ここに来ているということ?」
「おそらく」
アガタの言葉を聞いてシドンの顔を見れば、変わらない微笑を浮かべているだけってことは教えてくれる気はないのね。予想するしかないけれど目の前にいるドクトリスこそアケロンなんじゃないかしら。うまく言えないけれど雰囲気とかが似ている気がするもの。でもフルクトスの気配もあるというのがにわかには信じがたいわね。
フルクトスの立場からすれば、王宮に入るなんてあり得ないはず。それなのにフルクトスの気配?
フルクトスが生きていると王宮の人にばれたら、今度こそ幽閉では済まされないじゃない。

「ルカ、入り口の衛兵を見てください」
「衛兵?」
シドンったら急に何なのかしら。私は今いろいろ考えているのにそんなことを言われても困るわ。
衛兵ってあの人よね。王の衛兵に顔見知りはいないから見ても、名前なんてわからないけど……
なんか違和感があるわね。

なんて悠長に思っていると、その衛兵が私の方へ向かってくるではないか。
急に近づいてくる知らない人に驚いて動けなくなっている私に、シドンも周囲の人もアガタでさえも気が付いていない。ほとんど走っているよな衛兵はすぐに私の目の前に来てしまっていた。

「あ、あの…」
「皇女様、失礼いたします」

その声は確かに聞き覚えのある声だわ。

「ふっ!?」
フルクトス様!?と叫びそうになる私をフルクトスはとっさに口をふさぎ、口元に一本指を立ててシィっと言ったのでそのままうなずいて見せる。
「あとはアケロン先生が何とかしてくれますから、ここから逃げますよ」

何が何だかわからないけれど、私の方を見ているアガタも頷いていて問題視していないようだし、シドンもそれにドクトリスもこっちを見て何か言っているのが見える。
つまり、これは私には知らされていないか何かに過ぎないのね。私が勝手を繰り返すから、皆も私に伝えないで実行し始めてしまっているってことね…。

フルクトスが差し出す手を取って私はこれまでの自分の行いを反省した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。 真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。 そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが… 7万文字くらいのお話です。 よろしくお願いいたしますm(__)m

番を辞めますさようなら

京佳
恋愛
番である婚約者に冷遇され続けた私は彼の裏切りを目撃した。心が壊れた私は彼の番で居続ける事を放棄した。私ではなく別の人と幸せになって下さい。さようなら… 愛されなかった番 すれ違いエンド ざまぁ ゆるゆる設定

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった

白雲八鈴
恋愛
 私はウォルス侯爵家に15歳の時に嫁ぎ婚姻後、直ぐに夫は魔王討伐隊に出兵しました。6年後、戦地から夫が帰って来ました、妻という女を連れて。  もういいですか。私はただ好きな物を作って生きていいですか。この国になんて出ていってやる。  ただ、皆に喜ばれる物を作って生きたいと願う女性がその才能に目を付けられ周りに翻弄されていく。彼女は自由に物を作れる道を歩むことが出来るのでしょうか。 番外編 謎の少女強襲編  彼女が作り出した物は意外な形で人々を苦しめていた事を知り、彼女は再び帝国の地を踏むこととなる。  私が成した事への清算に行きましょう。 炎国への旅路編  望んでいた炎国への旅行に行く事が出来ない日々を送っていたが、色々な人々の手を借りながら炎国のにたどり着くも、そこにも帝国の影が・・・。  え?なんで私に誰も教えてくれなかったの?そこ大事ー! *本編は完結済みです。 *誤字脱字は程々にあります。 *なろう様にも投稿させていただいております。

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

【完結】愛していないと王子が言った

miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。 「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」 ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。 ※合わない場合はそっ閉じお願いします。 ※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為

処理中です...