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87:掌返し
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唐突すぎるこの状況について、一体誰に聞けば良いの?
「皇女よ、祭りの催しにも出ようと思っていたのだから、いい加減謹慎などつまらぬことは止めよ」
「ルサルカ様はカエオレウムに来てから一度だって城下を見ていらっしゃらないでしょう?この国の城下は色々ありますし、是非見ていただきたいお店もありますの。今日は天気もよろしいですし…」
「うむ、そうだな。サラの言う通り良い天気であるし、城下に行くのがよいな。ーー私が案内しよう」
早朝から私の部屋に、事前の確認もなくやって来たオケアノスとサラは席に着くとそう言い始める。突然の訪問に断わることも出来ず急いで支度をして疲れきっている私の顔には気がつかないのか。
その上、言うに事欠いて『良い天気』?
私は何気なく窓の方を向き、空模様を眺めた。
今にも雷が落ちてきそうな黒い雲が向こう側から流れて来ている。遅かれ早かれ大雨が降るのは予想に難くない。
私の視線に気がついたオケアノスはさすがに自分の物言いが苦しいことに気がつき、居心地が悪そうにテーブルに置いてあったカップに手を伸ばした。
「天気は…あまり良くなさそうですね。オケアノス殿下もサラ様もどうなさったのです?」
「い、いや。祭りでは君のお陰で誰も怪我をしないで済んだが、君はあの後どこも見られなかっただろう?祭りは終わってしまったが、城下町を見て回るのも良いかと思ってね」
「そうですわ!出店はないですが、私のオススメのお店がございますの!同世代の令嬢達もこぞって行かれるのですよ!予約は必須なのですが、オケアノス様やルサルカ様が行くのであれば…」
「それはいけませんわ。皆さん予約をしているのだから、もし行くのであれば私たちも予約をすべきだと思います。ーー殿下もそう思いますでしょ」
「う、うむ。そうだな。…それにしてもこのお茶は美味いな」
いつもであればどう折り曲げてもサラの案を肯定するのに、今日は珍しく私の意見を否定しない。さすがにサラの言ったことを完全にダメだと伝える勇気はないらしく、話をそらそうとしているのが気味が悪い。サラはといえば、私の答えに何がダメなのか分からないという顔をしていた。
サラにそれを教えてやる義理はない。それに私としても朝から嫌な気持ちになりたくないので、オケアノスの話題をはぐらかそうとするのに乗ることにした。
「ありがとうございます。ーー先日私の部屋の前にどなたかがくださったリビュアのお茶なのです」
「リビュア茶なのか。さすがだな」
「ええ。しかも特別製の『緑の壷』なのですよ」
ガチャンっ!!
食器が落ちる音がサラの方から聞こえた。
オケアノスとほぼ同時にサラの方を向けば、サラがカップを落としていた。
「サラ様大丈夫ですか?コラーロ!急いで拭く物を!」
「大丈夫か、サラ。珍しいな、そなたがカップを落とすなど…」
「ル、ルサルカ様…?今、なんと…」
「え?拭く物ではなく新しいドレスをご用意した方が良いですか?」
「そうではなくて、このお茶…」
「リビュアのお茶ですが」
「そちらでもなく…その後ですっ!!!」
ワザと焦らして違う答えを続けていると、サラは苛立ちを隠さずに私に詰め寄って来る。あまりに険しい表情をしているので、オケアノスも幼なじみの初めて見せる表情に驚きを隠せずに絶句していた。
「ああ、『緑の壷』ですか?リビュア製のお茶には壷の色でランク分けされているでしょう。私も存じ上げなかったのですが、白の上として緑があるそうなのです。そんな特別なお茶がある日突然、どなたかが贈り物として下さったようです。ーーほら、ペルラのような国ではリビュアの高級茶など手に入りませんでしょう?さすがカエオレウムと驚きました」
と、説明しながらカエオレウムだから手に入ったと強調すればオケアノスは得意そうに微笑んでいた。しかし、私の説明を聞いていたサラはドンドン青ざめていく。
「ル、ルサルカ様は頂いた後そのお茶は飲まれていないのですか?」
「ええ。お恥ずかしい話ですが勿体なくて使えていなかったのですが、今日は殿下とサラ様という特別なお客様がいらっしゃったので、ようやく開ける決心がついたのです。ああ、美味しいですわね」
見せつけるように私も一口ごくりと飲み干すと、オケアノスも同意して再びカップを口に着けようとすると、サラがその手を叩いた。
急に手を叩かれたオケアノスは思わずカップから手を離してしまい、床に落ちたカップは大きな音を立てて割れ絨毯にシミを作っていた。
「サラ!?どうしたと言うのだ!せっかく皇女が用意してくれたのに」
「オケアノス様、これは毒です!!」
「何だと?」
「ルサルカ様が、私たちに毒を飲ませたのです!!」
サラが叫んだ言葉で、ようやく私に毒を送った人にサラが関わっていることに確信を持った。これまでなかった製品が毒だと知っているのは送った人だけでしょう?
サラ本人が送ったのか、裏で糸を引いていただけなのかはまだ分からないけど、過去で私があなたに誤って飲ませてしまった罪悪感がなくなった、それだけでも十分な収穫だ。きっとあれも知ってて飲んだのだ。
確証を得た私が俯いて込み上げる笑みを隠していると、窓ガラスに雨粒が当たる音が聞こえ始めていた。
「ど、毒だと!?皇女、それは本当か?」
オケアノスが狼狽えながら私にそう尋ねてくるのを、狼狽えながら否定する私は我ながら千両役者だ。
「毒だなんてサラ様酷いです。私も一緒のポットで入れているお茶を飲んでいるのですから、万が一毒であれば私も服毒しているでしょう?」
「そんなのどうとだって細工が出来ますわ!オケアノス様、急いで医療局に行きましょう!」
「う、うむ。そうだな。ーー君はこちらが手を差し伸べても振り払うのだな」
「酷いです!そんなはずはございません!!」
私の演技が最高潮になったところで、サラはオケアノスを引っ張ってこの部屋から出て行った。
「皇女よ、祭りの催しにも出ようと思っていたのだから、いい加減謹慎などつまらぬことは止めよ」
「ルサルカ様はカエオレウムに来てから一度だって城下を見ていらっしゃらないでしょう?この国の城下は色々ありますし、是非見ていただきたいお店もありますの。今日は天気もよろしいですし…」
「うむ、そうだな。サラの言う通り良い天気であるし、城下に行くのがよいな。ーー私が案内しよう」
早朝から私の部屋に、事前の確認もなくやって来たオケアノスとサラは席に着くとそう言い始める。突然の訪問に断わることも出来ず急いで支度をして疲れきっている私の顔には気がつかないのか。
その上、言うに事欠いて『良い天気』?
私は何気なく窓の方を向き、空模様を眺めた。
今にも雷が落ちてきそうな黒い雲が向こう側から流れて来ている。遅かれ早かれ大雨が降るのは予想に難くない。
私の視線に気がついたオケアノスはさすがに自分の物言いが苦しいことに気がつき、居心地が悪そうにテーブルに置いてあったカップに手を伸ばした。
「天気は…あまり良くなさそうですね。オケアノス殿下もサラ様もどうなさったのです?」
「い、いや。祭りでは君のお陰で誰も怪我をしないで済んだが、君はあの後どこも見られなかっただろう?祭りは終わってしまったが、城下町を見て回るのも良いかと思ってね」
「そうですわ!出店はないですが、私のオススメのお店がございますの!同世代の令嬢達もこぞって行かれるのですよ!予約は必須なのですが、オケアノス様やルサルカ様が行くのであれば…」
「それはいけませんわ。皆さん予約をしているのだから、もし行くのであれば私たちも予約をすべきだと思います。ーー殿下もそう思いますでしょ」
「う、うむ。そうだな。…それにしてもこのお茶は美味いな」
いつもであればどう折り曲げてもサラの案を肯定するのに、今日は珍しく私の意見を否定しない。さすがにサラの言ったことを完全にダメだと伝える勇気はないらしく、話をそらそうとしているのが気味が悪い。サラはといえば、私の答えに何がダメなのか分からないという顔をしていた。
サラにそれを教えてやる義理はない。それに私としても朝から嫌な気持ちになりたくないので、オケアノスの話題をはぐらかそうとするのに乗ることにした。
「ありがとうございます。ーー先日私の部屋の前にどなたかがくださったリビュアのお茶なのです」
「リビュア茶なのか。さすがだな」
「ええ。しかも特別製の『緑の壷』なのですよ」
ガチャンっ!!
食器が落ちる音がサラの方から聞こえた。
オケアノスとほぼ同時にサラの方を向けば、サラがカップを落としていた。
「サラ様大丈夫ですか?コラーロ!急いで拭く物を!」
「大丈夫か、サラ。珍しいな、そなたがカップを落とすなど…」
「ル、ルサルカ様…?今、なんと…」
「え?拭く物ではなく新しいドレスをご用意した方が良いですか?」
「そうではなくて、このお茶…」
「リビュアのお茶ですが」
「そちらでもなく…その後ですっ!!!」
ワザと焦らして違う答えを続けていると、サラは苛立ちを隠さずに私に詰め寄って来る。あまりに険しい表情をしているので、オケアノスも幼なじみの初めて見せる表情に驚きを隠せずに絶句していた。
「ああ、『緑の壷』ですか?リビュア製のお茶には壷の色でランク分けされているでしょう。私も存じ上げなかったのですが、白の上として緑があるそうなのです。そんな特別なお茶がある日突然、どなたかが贈り物として下さったようです。ーーほら、ペルラのような国ではリビュアの高級茶など手に入りませんでしょう?さすがカエオレウムと驚きました」
と、説明しながらカエオレウムだから手に入ったと強調すればオケアノスは得意そうに微笑んでいた。しかし、私の説明を聞いていたサラはドンドン青ざめていく。
「ル、ルサルカ様は頂いた後そのお茶は飲まれていないのですか?」
「ええ。お恥ずかしい話ですが勿体なくて使えていなかったのですが、今日は殿下とサラ様という特別なお客様がいらっしゃったので、ようやく開ける決心がついたのです。ああ、美味しいですわね」
見せつけるように私も一口ごくりと飲み干すと、オケアノスも同意して再びカップを口に着けようとすると、サラがその手を叩いた。
急に手を叩かれたオケアノスは思わずカップから手を離してしまい、床に落ちたカップは大きな音を立てて割れ絨毯にシミを作っていた。
「サラ!?どうしたと言うのだ!せっかく皇女が用意してくれたのに」
「オケアノス様、これは毒です!!」
「何だと?」
「ルサルカ様が、私たちに毒を飲ませたのです!!」
サラが叫んだ言葉で、ようやく私に毒を送った人にサラが関わっていることに確信を持った。これまでなかった製品が毒だと知っているのは送った人だけでしょう?
サラ本人が送ったのか、裏で糸を引いていただけなのかはまだ分からないけど、過去で私があなたに誤って飲ませてしまった罪悪感がなくなった、それだけでも十分な収穫だ。きっとあれも知ってて飲んだのだ。
確証を得た私が俯いて込み上げる笑みを隠していると、窓ガラスに雨粒が当たる音が聞こえ始めていた。
「ど、毒だと!?皇女、それは本当か?」
オケアノスが狼狽えながら私にそう尋ねてくるのを、狼狽えながら否定する私は我ながら千両役者だ。
「毒だなんてサラ様酷いです。私も一緒のポットで入れているお茶を飲んでいるのですから、万が一毒であれば私も服毒しているでしょう?」
「そんなのどうとだって細工が出来ますわ!オケアノス様、急いで医療局に行きましょう!」
「う、うむ。そうだな。ーー君はこちらが手を差し伸べても振り払うのだな」
「酷いです!そんなはずはございません!!」
私の演技が最高潮になったところで、サラはオケアノスを引っ張ってこの部屋から出て行った。
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