上 下
79 / 111
知らない時間

78:殿下の用件

しおりを挟む
サラに嫌味をぶつけた翌日のこと、ニックスが私の所へオケアノスが呼んでいると言いにやって来た。サラと何かあると真っ先に反応するけれど、オケアノスはサラの行動を誰かに監視でもさせているのかしら。
の通達を読みながら、アガタに髪を結ってもらうと、鏡越しに目が合うので微笑んでみせる。

「今日は塗り付けるように、一糸も乱れないくらいに結い上げて頂戴ね」
「かしこまりました。しかし勿体ない気がいたします」
「そう?でも数週間ではさすがにこんなに伸びないでしょう?」
「昨日お会いしたサラ様は気付かれなかったとコラーロが申しておりましたが…」
「彼女は自分の見たい物しか目に入らないのよ」

なんて軽口を叩いていれば、約束の時間になり、私の部屋の前で待っていたニックスと顔を合わせた。するとニックスが眉間に皺を寄せた表情を見せているではないか。
「お久しぶりです。ニックス様はご機嫌ーーあまり良くないようですね?」
「失礼しました。そんなことはございませんよ」
「でしょうか。ーーさて、今日は私は何を仕出かしたのか、心構えをしたいので少し頭だしをしていただけますか?」
なんて、無理を承知で言えばニックスが愛想笑いで私を見てエスコートを始めてくれる。
「本日はいつものような用件ではありませんよ。身構えなくとも大丈夫です」
「意外ですね」
「またサラと何かあったのですか?」

ニックスの質問に微笑んで誤摩化せば、彼も微笑み返すだけでその話題が終わる。そうして数歩歩くと今度は別の話を切り出された。

「もうすぐ救民祭になりますが、皇女様はどなたと催し物をされるのですか?」
「私はエッセ侯爵令嬢とディークス辺境伯令嬢とご一緒させてもらうことになりました」
「それは興味深い組み合わせですね。何をするのかはーー」
「当日まで秘密ですよ」
「でしょうね。楽しみにしております」
「ええ、きっと驚きますよ」

そう言うと、オケアノスの部屋の前に到着した。
私はニックスが開けてくれた扉を通り、そのまま中へ入って行った。するとすぐに机に威丈高に座っているオケアノスが目についた。

「失礼いたします」
「ーー君か、かけなさい」
「はい。それでは失礼いたします」

側に置いてあった背もたれもない小さめの椅子に座ると、そのまましばらくオケアノスは私の方を見向きもしなかった。呼ばれた理由も分からずこうして座らされるのは過去にもあったことで、ここで『ご用件はなんでしょう?』とか質問をすればとんでもないことになるのは経験済みだ。
こうなることはある程度予想はしていたし、だからコルセットや靴もゆとりのある物を身につけて来た。長時間耐えられるように準備もしてあることだし、丁度考えることも沢山あるので諦めて向こうから話しかけてくるまで何も考えずに座り続けることにした。

アガタ達に未だ話せていない過去に戻って来たことの報告の仕方や、これからのことを考えていると時間が経つのを忘れてしまう程だ。窓から入り込む光が、この部屋に来た時とは様子が変わっているのに気がついた。
私は、どれくらい座っていたのだろう。
時計が見えない位置に座っているせいで見当もつかなかった。

「及第点だな」
ぼそりとオケアノスはそう言うと、私の方を向いた。それから続けた。
「君を呼んだのは2週間後の救民祭についての話をしようと思ってのことだ」
「はい。殿下」
「国王陛下から開会式には君も王族としてセレモニーに出席するようにとの指示だ。僕の隣に座っているだけで良い」
「恐れ多いことでございます」
「珍しく殊勝なことを言うんだな」
「まだ私のマナーでは分不相応な場と思います。もう少し訓練をつんでからーー」
「僕もそう思っているが、陛下が君に出ろと言っているのだから断ることは出来ない」
「承知しました。ではそのように準備いたします」
「僕に恥をかかせないでくれ」
「尽力いたします」

立ち上がってお辞儀をすると、もう帰って良いと手で指示をされる。私とはもう言葉も交わしたくないのだろう。奇遇にも私も同じ気持ちなので怒りもなかった。
とはいえ、過去と違い私はまだオケアノスと結婚をしていないのに、結局開会式に出ることになってしまったのは問題である気もする。
結局の所、私はこの開会式で命を狙われることになるのだと思うと、恐ろしいのではなく、若干期待しているような心地がし始めていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

悪妃の愛娘

りーさん
恋愛
 私の名前はリリー。五歳のかわいい盛りの王女である。私は、前世の記憶を持っていて、父子家庭で育ったからか、母親には特別な思いがあった。  その心残りからか、転生を果たした私は、母親の王妃にそれはもう可愛がられている。  そんなある日、そんな母が父である国王に怒鳴られていて、泣いているのを見たときに、私は誓った。私がお母さまを幸せにして見せると!  いろいろ調べてみると、母親が悪妃と呼ばれていたり、腹違いの弟妹がひどい扱いを受けていたりと、お城は問題だらけ!  こうなったら、私が全部解決してみせるといろいろやっていたら、なんでか父親に構われだした。  あんたなんてどうでもいいからほっといてくれ!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

処理中です...