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知らない時間

74:令嬢達のヒエラルキー

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待ちに待った救民祭まで後2ヶ月となった。日々の辛い生活をほんの一時忘れられるこの祭りは、祭り自体も勿論楽しみではあるが別の関心も大きいことだろう。
国への貢献、人々への献身として、この国では代々名だたる貴族令嬢が舞や歌、楽器の演奏や詩の朗読など、我々庶民が普段知らないような華やかな世界を垣間見せてくれるのが恒例だ。そしてそれは、演目はもちろんのこと彼女達の人間関係を我々に見せてくれるのだから、『本誌ムンドゥス』読者には堪らない時間であろう。

昨今の若年令嬢達のカーストは『さる地位ある方』の幼なじみである令嬢が筆頭となっているグループが特に目立っている様子で、それ以外の家門の方々は大分大人しいのが筆者としては寂しい限りであった。
しかし、今年はその勢力図にも動きがでるのではと期待している。
何と言っても皇女という存在が海の向こうからいらしたのだから。

筆者はその人脈を辿りにたどって、皇女様について聞き込みをした。するとどうだろう。皇女様はカーストの頂点にある令嬢達の集まりを蹴っていると、とある宮廷で働く皇女に近しい人間から話を聞くことが出来た。
なんと素晴らしい判断なのだろう!
私は皇女のその判断に拍手を送ろうと思う。

上品(ぶっている?)な存在である貴族令嬢は、微笑みながら粛々と準備を進めながらも内心穏やかではないに違いない。


◆◆◆◆◆◆

「大枠は事実に沿いつつ、細かい所は想像と想定で書いている所がゴシップ紙らしいいかにもと言った感じね」
持って来てくれたシドンに感想を述べると、微笑んだまま質問をされる。
「書かれていることはどこまで本当なのです?」
「救民祭でサラ達のグループには確かに属さないわ」
「おや、それは書かれているように『さる地位ある方』の幼なじみである令嬢と対立をする為ですか?」
「違いますよ。誘っていただけなかっただけです。まぁ、気が楽ですからこのまま一人でやろうと思います」
「そうですか。私ども外国から来ている人間からしたら、この国の決まりは分かりませんがおひとりでも良いのですか?」

シドンの問いかけを聞き、過去を振返ってみれば、独りで何かをしている令嬢はいなかった。カエオレウムに居た10年間で9回救民祭に参加したけど、いつも一番目立って一番褒められることはサラのグループがやっていたっけ。救民祭の由来となった劇ではサラがヒロインで私が魔女役だったわね。
踊りでは誰かに裾を踏まれて盛大に転んで、サラが手を差し伸べてくれるというパフォーマンスがあったわね。
あ、来てから4回目くらいの時にサラ達じゃないグループが祭りの期間だけだったけど、無償の治療院を作って皆に喜ばれていたわねーーでも祭りが終わってすぐにその子の家自体が取り潰しになったっけ。

「・・・1人では難しそうね」
我々シュケレシュがお手伝いをしましょうか?」
「奉仕の精神の意味だから無償でやらなきゃいけないのよ。商会が無償は無理でしょう」
「それはそうですねぇ…。エッセ侯爵令嬢はどうされるんでしょうね」
「あ!確かにそうね。声をかけてみようかしら」
「そう仰ると思って、もうお声掛けをさせていただいてますよ」

と、シドンがホールクロックの扉を指差したのとほとんど同時にセールビエンスがそこから出て来たのである。
いつも穏やかな笑みを浮かべている彼女らしくなく、珍しく不機嫌そうに頬を膨らましているではないか。そして真っすぐに私が座っている場所までくると、キツイ目線で私を見つめた。

「ルサルカ様!体調が悪いことをなぜ教えて下さらなかったのですか!!」
「えっ!?」
「トゥットさんから伺いましたよ!で倒れられたと!どうしてすぐに教えて下さらないのです!私からの見舞いなんて不要と言うことですか!!」

座っている私の前に跪くようにして、私の膝に手を置いて一気に言うと今度は今にも泣き出しそうな表情を見せていた。
ーートゥットの方をみれば、私から顔をそらしている。
毒を飲んだとは言わないでいてくれたとはいえ、セールビエンスに伝えるなんて…きっとエッセ侯爵にも伝わっているんだわ。
「身から出た錆ですよ」
困っている私にシドンはボソッとそう言うので、思わず睨みつけると彼は肩を竦めてアガタ達がいる奥の部屋へと引っ込んで行ってしまった。
残された私は、私の膝に顔を埋めて悲しげにしているセールビエンスをどう慰めれば良いのか分からず、とりあえず頭を撫でてみたりした。

「ごめんなさいね。多分、ペルラと気候が違いすぎて疲れが出たのだと思うのよ。大げさにしたくなくて外の誰にも言っていないわ」
「ですが、ドゥ伯爵は御存知でしたわ!私、初めにドゥ伯爵から伺ったのです」
「・・・セールビエンス様はドゥ伯爵と親交があるのですか?」
「お父様の学生時代からの友人で、私も子供の頃から可愛がっていただいてますから。私こそ、ルサルカ様がドゥ伯爵とそんなに親しいなんて存じませんでした!」

いえ、親しくはないけど…
どうしようかしらね。いろいろ誤解が混じっている気がするわ。それにドゥ伯爵がノーメン・ネスキオだってセールビエンスが知っているとも限らないからこの間のことを伝えるのは良くないだろうし…

あ、こうしましょう!
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