75 / 111
知らない時間
74:令嬢達のヒエラルキー
しおりを挟む
待ちに待った救民祭まで後2ヶ月となった。日々の辛い生活をほんの一時忘れられるこの祭りは、祭り自体も勿論楽しみではあるが別の関心も大きいことだろう。
国への貢献、人々への献身として、この国では代々名だたる貴族令嬢が舞や歌、楽器の演奏や詩の朗読など、我々庶民が普段知らないような華やかな世界を垣間見せてくれるのが恒例だ。そしてそれは、演目はもちろんのこと彼女達の人間関係を我々に見せてくれるのだから、『本誌』読者には堪らない時間であろう。
昨今の若年令嬢達のカーストは『さる地位ある方』の幼なじみである令嬢が筆頭となっているグループが特に目立っている様子で、それ以外の家門の方々は大分大人しいのが筆者としては寂しい限りであった。
しかし、今年はその勢力図にも動きがでるのではと期待している。
何と言っても皇女という存在が海の向こうからいらしたのだから。
筆者はその人脈を辿りにたどって、皇女様について聞き込みをした。するとどうだろう。皇女様はカーストの頂点にある令嬢達の集まりを蹴っていると、とある宮廷で働く皇女に近しい人間から話を聞くことが出来た。
なんと素晴らしい判断なのだろう!
私は皇女のその判断に拍手を送ろうと思う。
上品(ぶっている?)な存在である貴族令嬢は、微笑みながら粛々と準備を進めながらも内心穏やかではないに違いない。
◆◆◆◆◆◆
「大枠は事実に沿いつつ、細かい所は想像と想定で書いている所がゴシップ紙らしいと言った感じね」
持って来てくれたシドンに感想を述べると、微笑んだまま質問をされる。
「書かれていることはどこまで本当なのです?」
「救民祭でサラ達のグループには確かに属さないわ」
「おや、それは書かれているように『さる地位ある方』の幼なじみである令嬢と対立をする為ですか?」
「違いますよ。誘っていただけなかっただけです。まぁ、気が楽ですからこのまま一人でやろうと思います」
「そうですか。私ども外国から来ている人間からしたら、この国の決まりは分かりませんがおひとりでも良いのですか?」
シドンの問いかけを聞き、過去を振返ってみれば、独りで何かをしている令嬢はいなかった。カエオレウムに居た10年間で9回救民祭に参加したけど、いつも一番目立って一番褒められることはサラのグループがやっていたっけ。救民祭の由来となった劇ではサラがヒロインで私が魔女役だったわね。
踊りでは誰かに裾を踏まれて盛大に転んで、サラが手を差し伸べてくれるというパフォーマンスがあったわね。
あ、来てから4回目くらいの時にサラ達じゃないグループが祭りの期間だけだったけど、無償の治療院を作って皆に喜ばれていたわねーーでも祭りが終わってすぐにその子の家自体が取り潰しになったっけ。
「・・・1人では難しそうね」
「我々がお手伝いをしましょうか?」
「奉仕の精神の意味だから無償でやらなきゃいけないのよ。商会が無償は無理でしょう」
「それはそうですねぇ…。エッセ侯爵令嬢はどうされるんでしょうね」
「あ!確かにそうね。声をかけてみようかしら」
「そう仰ると思って、もうお声掛けをさせていただいてますよ」
と、シドンがホールクロックの扉を指差したのとほとんど同時にセールビエンスがそこから出て来たのである。
いつも穏やかな笑みを浮かべている彼女らしくなく、珍しく不機嫌そうに頬を膨らましているではないか。そして真っすぐに私が座っている場所までくると、キツイ目線で私を見つめた。
「ルサルカ様!体調が悪いことをなぜ教えて下さらなかったのですか!!」
「えっ!?」
「トゥットさんから伺いましたよ!貧血で倒れられたと!どうしてすぐに教えて下さらないのです!私からの見舞いなんて不要と言うことですか!!」
座っている私の前に跪くようにして、私の膝に手を置いて一気に言うと今度は今にも泣き出しそうな表情を見せていた。
ーートゥットの方をみれば、私から顔をそらしている。
毒を飲んだとは言わないでいてくれたとはいえ、セールビエンスに伝えるなんて…きっとエッセ侯爵にも伝わっているんだわ。
「身から出た錆ですよ」
困っている私にシドンはボソッとそう言うので、思わず睨みつけると彼は肩を竦めてアガタ達がいる奥の部屋へと引っ込んで行ってしまった。
残された私は、私の膝に顔を埋めて悲しげにしているセールビエンスをどう慰めれば良いのか分からず、とりあえず頭を撫でてみたりした。
「ごめんなさいね。多分、ペルラと気候が違いすぎて疲れが出たのだと思うのよ。大げさにしたくなくて外の誰にも言っていないわ」
「ですが、ドゥ伯爵は御存知でしたわ!私、初めにドゥ伯爵から伺ったのです」
「・・・セールビエンス様はドゥ伯爵と親交があるのですか?」
「お父様の学生時代からの友人で、私も子供の頃から可愛がっていただいてますから。私こそ、ルサルカ様がドゥ伯爵とそんなに親しいなんて存じませんでした!」
いえ、親しくはないけど…
どうしようかしらね。いろいろ誤解が混じっている気がするわ。それにドゥ伯爵がノーメン・ネスキオだってセールビエンスが知っているとも限らないからこの間のことを伝えるのは良くないだろうし…
あ、こうしましょう!
国への貢献、人々への献身として、この国では代々名だたる貴族令嬢が舞や歌、楽器の演奏や詩の朗読など、我々庶民が普段知らないような華やかな世界を垣間見せてくれるのが恒例だ。そしてそれは、演目はもちろんのこと彼女達の人間関係を我々に見せてくれるのだから、『本誌』読者には堪らない時間であろう。
昨今の若年令嬢達のカーストは『さる地位ある方』の幼なじみである令嬢が筆頭となっているグループが特に目立っている様子で、それ以外の家門の方々は大分大人しいのが筆者としては寂しい限りであった。
しかし、今年はその勢力図にも動きがでるのではと期待している。
何と言っても皇女という存在が海の向こうからいらしたのだから。
筆者はその人脈を辿りにたどって、皇女様について聞き込みをした。するとどうだろう。皇女様はカーストの頂点にある令嬢達の集まりを蹴っていると、とある宮廷で働く皇女に近しい人間から話を聞くことが出来た。
なんと素晴らしい判断なのだろう!
私は皇女のその判断に拍手を送ろうと思う。
上品(ぶっている?)な存在である貴族令嬢は、微笑みながら粛々と準備を進めながらも内心穏やかではないに違いない。
◆◆◆◆◆◆
「大枠は事実に沿いつつ、細かい所は想像と想定で書いている所がゴシップ紙らしいと言った感じね」
持って来てくれたシドンに感想を述べると、微笑んだまま質問をされる。
「書かれていることはどこまで本当なのです?」
「救民祭でサラ達のグループには確かに属さないわ」
「おや、それは書かれているように『さる地位ある方』の幼なじみである令嬢と対立をする為ですか?」
「違いますよ。誘っていただけなかっただけです。まぁ、気が楽ですからこのまま一人でやろうと思います」
「そうですか。私ども外国から来ている人間からしたら、この国の決まりは分かりませんがおひとりでも良いのですか?」
シドンの問いかけを聞き、過去を振返ってみれば、独りで何かをしている令嬢はいなかった。カエオレウムに居た10年間で9回救民祭に参加したけど、いつも一番目立って一番褒められることはサラのグループがやっていたっけ。救民祭の由来となった劇ではサラがヒロインで私が魔女役だったわね。
踊りでは誰かに裾を踏まれて盛大に転んで、サラが手を差し伸べてくれるというパフォーマンスがあったわね。
あ、来てから4回目くらいの時にサラ達じゃないグループが祭りの期間だけだったけど、無償の治療院を作って皆に喜ばれていたわねーーでも祭りが終わってすぐにその子の家自体が取り潰しになったっけ。
「・・・1人では難しそうね」
「我々がお手伝いをしましょうか?」
「奉仕の精神の意味だから無償でやらなきゃいけないのよ。商会が無償は無理でしょう」
「それはそうですねぇ…。エッセ侯爵令嬢はどうされるんでしょうね」
「あ!確かにそうね。声をかけてみようかしら」
「そう仰ると思って、もうお声掛けをさせていただいてますよ」
と、シドンがホールクロックの扉を指差したのとほとんど同時にセールビエンスがそこから出て来たのである。
いつも穏やかな笑みを浮かべている彼女らしくなく、珍しく不機嫌そうに頬を膨らましているではないか。そして真っすぐに私が座っている場所までくると、キツイ目線で私を見つめた。
「ルサルカ様!体調が悪いことをなぜ教えて下さらなかったのですか!!」
「えっ!?」
「トゥットさんから伺いましたよ!貧血で倒れられたと!どうしてすぐに教えて下さらないのです!私からの見舞いなんて不要と言うことですか!!」
座っている私の前に跪くようにして、私の膝に手を置いて一気に言うと今度は今にも泣き出しそうな表情を見せていた。
ーートゥットの方をみれば、私から顔をそらしている。
毒を飲んだとは言わないでいてくれたとはいえ、セールビエンスに伝えるなんて…きっとエッセ侯爵にも伝わっているんだわ。
「身から出た錆ですよ」
困っている私にシドンはボソッとそう言うので、思わず睨みつけると彼は肩を竦めてアガタ達がいる奥の部屋へと引っ込んで行ってしまった。
残された私は、私の膝に顔を埋めて悲しげにしているセールビエンスをどう慰めれば良いのか分からず、とりあえず頭を撫でてみたりした。
「ごめんなさいね。多分、ペルラと気候が違いすぎて疲れが出たのだと思うのよ。大げさにしたくなくて外の誰にも言っていないわ」
「ですが、ドゥ伯爵は御存知でしたわ!私、初めにドゥ伯爵から伺ったのです」
「・・・セールビエンス様はドゥ伯爵と親交があるのですか?」
「お父様の学生時代からの友人で、私も子供の頃から可愛がっていただいてますから。私こそ、ルサルカ様がドゥ伯爵とそんなに親しいなんて存じませんでした!」
いえ、親しくはないけど…
どうしようかしらね。いろいろ誤解が混じっている気がするわ。それにドゥ伯爵がノーメン・ネスキオだってセールビエンスが知っているとも限らないからこの間のことを伝えるのは良くないだろうし…
あ、こうしましょう!
0
お気に入りに追加
116
あなたにおすすめの小説
完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。
音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。
だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。
そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。
そこには匿われていた美少年が棲んでいて……
殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。
真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。
そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが…
7万文字くらいのお話です。
よろしくお願いいたしますm(__)m
四回目の人生は、お飾りの妃。でも冷酷な夫(予定)の様子が変わってきてます。
千堂みくま
恋愛
「あぁああーっ!?」婚約者の肖像画を見た瞬間、すべての記憶がよみがえった。私、前回の人生でこの男に殺されたんだわ! ララシーナ姫の人生は今世で四回目。今まで三回も死んだ原因は、すべて大国エンヴィードの皇子フェリオスのせいだった。婚約を突っぱねて死んだのなら、今世は彼に嫁いでみよう。死にたくないし!――安直な理由でフェリオスと婚約したララシーナだったが、初対面から夫(予定)は冷酷だった。「政略結婚だ」ときっぱり言い放ち、妃(予定)を高い塔に監禁し、見張りに騎士までつける。「このままじゃ人質のまま人生が終わる!」ブチ切れたララシーナは前世での経験をいかし、塔から脱走したり皇子の秘密を探ったりする、のだが……。あれ? 冷酷だと思った皇子だけど、意外とそうでもない? なぜかフェリオスの様子が変わり始め――。
○初対面からすれ違う二人が、少しずつ距離を縮めるお話○最初はコメディですが、後半は少しシリアス(予定)○書き溜め→予約投稿を繰り返しながら連載します。
亡くなった王太子妃
沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。
侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。
王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。
なぜなら彼女は死んでしまったのだから。
番を辞めますさようなら
京佳
恋愛
番である婚約者に冷遇され続けた私は彼の裏切りを目撃した。心が壊れた私は彼の番で居続ける事を放棄した。私ではなく別の人と幸せになって下さい。さようなら…
愛されなかった番
すれ違いエンド
ざまぁ
ゆるゆる設定
今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました
四折 柊
恋愛
子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる