上 下
68 / 111
知らない時間

67:手袋は自分で叩き付けたい

しおりを挟む
どう説明したものかしらね。誰に問いかけるでもなく、後ろを歩くアガタに意識を向ける。
もうすぐ私の部屋に辿り着くし、言い出し方でも考えておくべき?なんて諦めながら自室の扉を開けてもらった。
そして中へ入り、しっかりと外に繋がる扉を閉めてもらったのを確認してから内扉を開く。中には私の秘密の侍女があとふたりいるから。

「「皇女様おかえりなさいませ」」

コラーロとトゥットが声を揃えて出迎えてくれる。
この2人は本当に姉弟のように気が合うらしく、2人で楽しそうに私のアクセサリーの手入れをしてくれていた。

「ただいま」
「あら?アガタ、随分とご機嫌が悪いみたいじゃない?」
「ほんとだ。またサラ様にでも会ったのか?」
私の後ろで難しい表情をしているアガタに気がついた2人は不思議そうに私とアガタを見比べている。
「いいえ、少し私が勝手をしすぎたのよ…コラーロお茶を入れてくれる?4人分」
「かしこまりました」
ペルラにいた時も私がアガタに注意を受けたことが何度かあったので、コラーロはあえて私たちの状況にこれ以上深入りしようとせず、言われるままにお茶の用意をする為に奥へ入っていく。その後ろ姿に続くようにトゥットも気まずさから逃げて行った。
残された私とアガタは無言でテーブルまで向かっていく。
先ほどまで耳にしていた町中の喧騒とは打って変わって静かな風が木々を揺らす音しか聞こえないこの部屋の中で、アガタは私が話し出すのを待っているのだろう。

「アガタもおかけなさい」
「かしこまりました」

カラカラとワゴンを押してくる音が聞こえ、さて2人にも座ってもらおうと音の方を振返ったところで意表をついた物が目についた。

「コラーロ、トゥット、そのワゴンの上に乗っている物は?」
「こちらは皇女様が頼まれたものなのではないのですか?」
「僕もそう思ってたんですが…違うのですか?先日僕にリビュアのについてご質問されたので、てっきり皇女様が手配されたのだと思っていたのですが」
「手配?」
「はい。皇女様が外出された後どなたかがこの部屋の前に置いていかれたようなのですが、このようなメモがついておりましたので…」
そう言ったコラーロはメモを見せてくれる。

『ご所望のお茶がご用意出来ました』
「ふふふ」
「「「ーー皇女様?」」」

ご所望、と言われて用意されていたのは目下アケロン達が調べている緑の壷以外の何物でもない。
呆れて笑うしかない。毒と分かっていて、皆が私から引き離そうとしているのに、毒の方から私に近寄って来たってことか。
置いたのはサラか、マリか、それとも別の誰かなのか。むき出しの敵意にあえて真っ向から立ち向かいたくなる。

「…3人は私の気に言っている白い磁器に入った紅茶を飲みなさい。緑の壷これは私だけに向けられた物だから」
「ーーかしこまり、ました」
「私は自分で入れるから。だからコラーロもトゥットも気にしないでね」
そんな風に何でもないように皆に良いながら蓋を開けると、以前嗅いだ匂いがする。たしかにこれは私がサラに上げたのと同じだわ。だからこれを飲めばあの時のサラが何を飲んだのか分かるでしょう。
アケロンもさっき「一杯飲んだくらいじゃ死なない」と言っていたし、どうせなら送り主の期待に沿いましょう。

「どういう意味ですか?」
「・・・多分これを飲んだら私は倒れるわ」
「「「えっ?!まさか、皇女様これはっ」」」
「毒だと思う」
「お止めください、わざわざ飲む必要がどこにあるのです?先ほどの私の話をもう忘れてしまわれたんですか?!」
アガタが焦りながら私がポットに茶葉を入れるのを撥ね除けようとするので、ワザと威圧的にそれを止める。
「だから飲むのよ。飲んだらきっと誰が敵なのか分かるでしょ?」
「では私が飲みます!!」
「いいえ、アガタが飲んじゃダメ。王宮に本来いないはずの私が飲みます!」
「コラーロもダメだよ!2人とも魔法使いなんだから!!僕なら何かあっても替えがきくから、僕が飲むよ!!」

3人は代わる代わる私が注ぐお茶を取ろうとするけれど、私はそのままカップを手に持って全員に動かないように掌を見せた。
「だめよ。これは私が貰った決闘よ?ーーアガタ、ごめんなさいね。意識が戻ったら話をすることにさせて。それと私が倒れた後で誰かが見舞いや様子を確認に来たら覚えておいて。トゥット、アケロンに会うことがあったら当分来るなと言っておいて。シドンにもね。コラーロは1週間経っても私が起きなかったら頬を叩いて起こして。起きなかったら姉樣方に連絡をとって」

止める3人を無視して指示を出している内に、茶葉はどす黒くなる程に色を出している。
これは中々に濃い味がしそう。さて、一気にいきましょうか。
味も感じないようにマナー悪く一気に飲み干しながら、これで死んだらまた過去に戻ったりするのかしら?なんて暢気に考える。
せめてもの作法としてソーサーにカップを戻した所で目の前が真っ白になっていった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

悪妃の愛娘

りーさん
恋愛
 私の名前はリリー。五歳のかわいい盛りの王女である。私は、前世の記憶を持っていて、父子家庭で育ったからか、母親には特別な思いがあった。  その心残りからか、転生を果たした私は、母親の王妃にそれはもう可愛がられている。  そんなある日、そんな母が父である国王に怒鳴られていて、泣いているのを見たときに、私は誓った。私がお母さまを幸せにして見せると!  いろいろ調べてみると、母親が悪妃と呼ばれていたり、腹違いの弟妹がひどい扱いを受けていたりと、お城は問題だらけ!  こうなったら、私が全部解決してみせるといろいろやっていたら、なんでか父親に構われだした。  あんたなんてどうでもいいからほっといてくれ!

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈 
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

処理中です...