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知らない時間
66:悪い考え
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サラの母親が魔力を持つ魔女かもしれない。
それはサラにも魔力がある可能性を意味する。
エッセ侯爵家からの帰路、それをずっと考えていた。
サラが魔力を持っているのだとすれば、どの程度の魔力であろうと、持たざる者である私がどれだけあがこうと勝ち目がない。それほどに魔力は強大だ。
過去で私は自分の魔力がないことに負い目を感じていた。だから魔女には大きな対価を払って自分に適さない魔法を貰ったのに、使いどころが分からず命を落とすことになった。そんな結果、自分には魔力が合わないと思った。
でもこうして相手が魔力があると分かった瞬間、崖から突き落とされたような恐怖が首に纏わり付いて締め付けてくる感覚を味わっている。
既に過去が変わってしまっている今、私のアドバンテージはあってないようなもの。
私はまた負けるのかしら。
行きには気にならなかった悪路による馬車がガタガタと揺れる音が耳障りで、考えがまとまらなくなる。フルクトスの仮面を取った所で、彼が外に出たがらなければ、外に出た所で王位を求めてくれなければ私が出来る手はなくなる。そもそもの計画が他力本願過ぎたのよ。
「ーー様、皇女様!!」
「ア、アガタ…どうしたの?もう王宮についたの?」
アガタの声でハッとして窓を見ると、まだ王宮まで半分くらい残っている。
外では私の馬車を見つけた手を降る人々が視界に入り慌てて笑顔を振りまいてみせると、アガタがそのまま話し始めた。
「やっと気がついていただけましたね。侯爵家を出てからずっと私が話しかけても上の空でしたので」
「ずっと?」
「ええ、ずーーーっと、話しかけておりましたよ。『セールビエンス様の知識は素晴らしいですね』ですとか、『エッセ侯爵は冒険者になりたいそうですが、手始めにペルラに来ていただくのはいかがでしょう』ですとか。それに対してまーーーーったく反応もしていただけなくて寂しかったです」
「そんなに?ごめんなさいね?」
アガタの言い方に思わず吹き出してしまうと、アガタは真面目な顔に戻った。
「フルクトス様?とか仰る方の話や仮面の件など聞きたいことは山ほどございますが、まずはこの件をお伝えした方が良いでしょうね。少なくとも私もコラーロもサラ様から魔力を感じたことはございません」
「お見通しってことね」
「何年ご一緒しているとお思いですか?」
「魔力を隠すことは・・・?」
「出来ないと思います。アケロン様ですらできないのですよ?それに魔力があるのでしたら、私の魔力に気がついているはずでしょうし、気がついて黙っているタイプとも思えません」
確かに気がついていたら真っ先にオケアノスに言っているでしょうね。カエオレウムを騙そうとしている、とかなんとか悪い理由も込みで。オケアノスにしても、その話を聞いて動かない訳が無い。あいつはどう考えてもそんな思慮深い行動が出来るとは思えない。
「気がついているのに黙っている可能性を考え出したら…」
「それを考えてしまえば堂々巡りではないでしょうか?まぁ、何にせよ皇女様には私どもに話していただく必要があることが沢山ございますよ?ーー丁度王宮に到着しましたし、まずは私とコラーロ、それにトゥットに口止めをしてから詳細を話していただきましょうか?」
話を進めて行くうちに馬車が止まった所でアガタは低い声を出しながらフードを被った。
過去では最期まで、今回もで王宮の前に到着すると気が重かったけど、今日は別の意味で緊張する。
ここまで黙っていたのは、信じてもらえないと思ったからでもあるけど皆を巻き込みたくないからだわ。それに変な心配をかけたくもなかったから。
そんなことを考えて、馬車から出られなくなっている私を先に降りたアガタが見上げていた。
御者はそんな私とアガタを不思議そうに眺めて、オロオロとアガタに聞いていた。
「皇女様はいかがされたのでしょう?まさか馬車の乗り心地が悪かったのでしょうか」
「いいえ、恐らく、これからのことを考えてらっしゃるのでしょう」
それはサラにも魔力がある可能性を意味する。
エッセ侯爵家からの帰路、それをずっと考えていた。
サラが魔力を持っているのだとすれば、どの程度の魔力であろうと、持たざる者である私がどれだけあがこうと勝ち目がない。それほどに魔力は強大だ。
過去で私は自分の魔力がないことに負い目を感じていた。だから魔女には大きな対価を払って自分に適さない魔法を貰ったのに、使いどころが分からず命を落とすことになった。そんな結果、自分には魔力が合わないと思った。
でもこうして相手が魔力があると分かった瞬間、崖から突き落とされたような恐怖が首に纏わり付いて締め付けてくる感覚を味わっている。
既に過去が変わってしまっている今、私のアドバンテージはあってないようなもの。
私はまた負けるのかしら。
行きには気にならなかった悪路による馬車がガタガタと揺れる音が耳障りで、考えがまとまらなくなる。フルクトスの仮面を取った所で、彼が外に出たがらなければ、外に出た所で王位を求めてくれなければ私が出来る手はなくなる。そもそもの計画が他力本願過ぎたのよ。
「ーー様、皇女様!!」
「ア、アガタ…どうしたの?もう王宮についたの?」
アガタの声でハッとして窓を見ると、まだ王宮まで半分くらい残っている。
外では私の馬車を見つけた手を降る人々が視界に入り慌てて笑顔を振りまいてみせると、アガタがそのまま話し始めた。
「やっと気がついていただけましたね。侯爵家を出てからずっと私が話しかけても上の空でしたので」
「ずっと?」
「ええ、ずーーーっと、話しかけておりましたよ。『セールビエンス様の知識は素晴らしいですね』ですとか、『エッセ侯爵は冒険者になりたいそうですが、手始めにペルラに来ていただくのはいかがでしょう』ですとか。それに対してまーーーーったく反応もしていただけなくて寂しかったです」
「そんなに?ごめんなさいね?」
アガタの言い方に思わず吹き出してしまうと、アガタは真面目な顔に戻った。
「フルクトス様?とか仰る方の話や仮面の件など聞きたいことは山ほどございますが、まずはこの件をお伝えした方が良いでしょうね。少なくとも私もコラーロもサラ様から魔力を感じたことはございません」
「お見通しってことね」
「何年ご一緒しているとお思いですか?」
「魔力を隠すことは・・・?」
「出来ないと思います。アケロン様ですらできないのですよ?それに魔力があるのでしたら、私の魔力に気がついているはずでしょうし、気がついて黙っているタイプとも思えません」
確かに気がついていたら真っ先にオケアノスに言っているでしょうね。カエオレウムを騙そうとしている、とかなんとか悪い理由も込みで。オケアノスにしても、その話を聞いて動かない訳が無い。あいつはどう考えてもそんな思慮深い行動が出来るとは思えない。
「気がついているのに黙っている可能性を考え出したら…」
「それを考えてしまえば堂々巡りではないでしょうか?まぁ、何にせよ皇女様には私どもに話していただく必要があることが沢山ございますよ?ーー丁度王宮に到着しましたし、まずは私とコラーロ、それにトゥットに口止めをしてから詳細を話していただきましょうか?」
話を進めて行くうちに馬車が止まった所でアガタは低い声を出しながらフードを被った。
過去では最期まで、今回もで王宮の前に到着すると気が重かったけど、今日は別の意味で緊張する。
ここまで黙っていたのは、信じてもらえないと思ったからでもあるけど皆を巻き込みたくないからだわ。それに変な心配をかけたくもなかったから。
そんなことを考えて、馬車から出られなくなっている私を先に降りたアガタが見上げていた。
御者はそんな私とアガタを不思議そうに眺めて、オロオロとアガタに聞いていた。
「皇女様はいかがされたのでしょう?まさか馬車の乗り心地が悪かったのでしょうか」
「いいえ、恐らく、これからのことを考えてらっしゃるのでしょう」
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