56 / 111
知らない時間
55:人の恋バナは面白い
しおりを挟む
走って何処かへ行ったトゥットを待ちながら、私は久々にアガタとコラーロと3人だけになった。これはちょうど良い機会なのだろう。
「アガタ、コラーロ、ちょっと話があるの。良いかしら?」
「当然でございます」
「勿論です!」
そう言った2人は窓の方へ行くと手早くカーテンを閉めて、扉の前でそれぞれが呪文を唱えてから私のすぐ近くに戻ってくる。まったく察しの良い侍女だ。
カエオレウムに来る時にもあまりちゃんと話をしたことがなかったのに、それを問いただすこともなく私の言うことを聞き、時には意見もくれる。こんな私にはもったいない2人だ。幼い頃から一緒にいるこの2人なら、私が何を言おうと信じてくれる。
それにも関わらず今まで黙っていたのはあまりにも突拍子もない計画だったから。
巧く行かなかった時に巻き込みたくなかったから。
でも今はーー
「2人とも驚かずに聞いて欲しいんだけど、私は結婚をせずにペルラに帰ろうと思っているの」
「「はい。そうなのですね」」
「・・・え?もう少し驚かないの?」
「驚きもしたいのですが、カエオレウムに来てからの皇女様の対応はとてもオケアノス殿下を慕っているようには見えませんし…、ねぇ、コラーロにはどう見えている?」
「そうですね~、憎々しげ一歩手前と言う視線ですね。まぁ私から見てもオケアノス殿下は最悪ですので、さっさと帰れるモノでしたらペルラに帰りたいですけども。殿下とご結婚されるのでしたらシドン氏をおススメしたい程です」
「ああ、分かるわ。頼りになりますもの!ーーでもシドン氏はリビュア人ですし難しいでしょうね…殿下はあまり物事を深くお考えにならないのだと思います。思慮深ければ皇女様が嫁がれた意味を考えてもっと動くでしょうに…。気遣いといった点でしたらニックス氏も素晴らしいと思いますよ!皇女様はご不在なことが多いですが、お部屋にこもられている際にも気遣いの物や、城で働く面々への周知も彼がして下さいました」
「さすがに露骨過ぎたかしら…」
「いえいえ、このアガタめの意見で恐縮ですが、初めにカエオレウムでの挨拶からオケアノス殿下は皇女様をライバル視しているように見受けました」
私以外の目から見ても同じように見えているのね。それなら過去云々の話はしないでも、ここから先の話はできそうね。
「そう言ってくれると助かるわ。でもこのまま婚姻しないでペルラに帰ることは、恐らく陛下がお認めにならないでしょう?ですから、オケアノス殿下から婚姻を拒絶いただく手を考えたいのよ」
「皇女様が馬鹿殿下に拒絶される?!そんなの許しがたいです!」
「では他にどんな手があるというの?シュケレシュとの貿易でペルラは以前よりは豊かになってはいるけど、国民の特性上カエオレウムと戦になったら勝ち目はないもの」
「でしたらこんな手はーー」
「ただ今戻りました!!」
コラーロが話しかけたのと同時に、クローゼットの方から明るい声が聞こえて来た。トゥットが戻って来たのだろう。日中にも拘らずカーテンを閉めている不穏な雰囲気を隠すため、アガタとコラーロは急いでカーテンを開いた。
「おかえりなさい。良く知ってそうな人はいたの?」
「ええ!丁度いました!アルテム早く早く!」
「えっ、トゥット!?突然目の前に貴婦人のドレスが沢山あるんだけど!?エッセ侯爵令嬢、足下にお気をつけ下さい」
「はい。あら、このドレス見覚えがございます」
んんっ?エッセ侯爵令嬢ってことはセールビエンスも来ているの?
トゥット、どういうことかしら…
「ルサルカ様!!」
「セールビエンス様!?」
「お久しぶりでございます。アルテム様に新しい化粧のご紹介をしていただいていた所に、トゥットさんがいらしてルサルカ様にお会い出来ると仰っているのを聞いていても立ってもいられず…。突然押し掛けるなんてご無礼をしてしまい…」
「いいえ!とんでもない!私こそ長らく不義理をしてしまって…。さぁ立ち話もなんですからこちらにお座りになってください。そして、アルテムも突然呼びつけてごめんなさいね」
「問題ございませんよ。皇女様のお願いなら真っ先に対応しろと会頭に言われていますので」
「ーートゥット、アルテムを連れて来たと言うことは」
「そう!アルテムは元々はリビュアの中でも指折りの名家の三男坊なんだよ。で、なまじっか、家にお金があるからいい歳まで働かないで家に閉じこもったんだって!」
意外過ぎる。どちらかと言えばパーティや社交界などに毎夜通っていそうな外見なのに。
「トゥット…その話は皇女様や侯爵令嬢の前では…」
「いいえアルテム!私はそのお話を聞きたいのです!!」
思わず立ち上がって声を張り上げると、アルテムが二三歩後ろに後ずさりする。
嫌だ、私ったら思わず大声を出してしまったのね。
「そのお話…?閉じこもっていた私の話ですか?」
「それも大変興味深いですが、今お聞きしたいのは『何故外に出ようと思ったか』ですわね」
「外に出ようと思った理由ですか。簡単です。シュケレシュを見て面白そうって思ったからです」
「シュケレシュに興味をもったから、だけ?」
「アルテム~?嘘はダメだよ??皇女様、アルテムはシュケレシュにも興味はあったけど、一番はシュケレシュで働いていた女の子に恋しちゃったのがここで働くきっかけって会頭から教えてもらいました!」
「えっ、ちょっ、なんでそれ知ってるの!?ーーもう、そうです。ずーっと家で絵画とか彫刻とか眺めていたアルテム少年は、絵画に見まごうばかりの女性を見かけて、彼女について調べてもらったらシュケレシュって商会で働いてるって聞いて、急いで会頭に雇ってくれるようにお願いしたんです」
「それで、シドンが雇ってくれたの?」
「面白そうだから良いよって。結果は報告させられましたけど」
困ったように眉を八の字にして後ろ頭を掻いている雰囲気で、結果が良くなかったのが分かる。
聞かない方が良いかしら。
「アルテム様、結果をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
セールビエンス!?結構突っ込むのね。
いや、アルテムとそれだけ打ち解けているってことかしら。
アルテム、嫌なら断っても良いのよ?言葉にはできないけど視線でそうテレパシーを伝えられるかしら。
「もうキズも癒えているので大丈夫ですよ。彼女はダガーの奥さんになりました」
キッツい。
想定外の登場人物の名前に反応が出来なくなった。
「アガタ、コラーロ、ちょっと話があるの。良いかしら?」
「当然でございます」
「勿論です!」
そう言った2人は窓の方へ行くと手早くカーテンを閉めて、扉の前でそれぞれが呪文を唱えてから私のすぐ近くに戻ってくる。まったく察しの良い侍女だ。
カエオレウムに来る時にもあまりちゃんと話をしたことがなかったのに、それを問いただすこともなく私の言うことを聞き、時には意見もくれる。こんな私にはもったいない2人だ。幼い頃から一緒にいるこの2人なら、私が何を言おうと信じてくれる。
それにも関わらず今まで黙っていたのはあまりにも突拍子もない計画だったから。
巧く行かなかった時に巻き込みたくなかったから。
でも今はーー
「2人とも驚かずに聞いて欲しいんだけど、私は結婚をせずにペルラに帰ろうと思っているの」
「「はい。そうなのですね」」
「・・・え?もう少し驚かないの?」
「驚きもしたいのですが、カエオレウムに来てからの皇女様の対応はとてもオケアノス殿下を慕っているようには見えませんし…、ねぇ、コラーロにはどう見えている?」
「そうですね~、憎々しげ一歩手前と言う視線ですね。まぁ私から見てもオケアノス殿下は最悪ですので、さっさと帰れるモノでしたらペルラに帰りたいですけども。殿下とご結婚されるのでしたらシドン氏をおススメしたい程です」
「ああ、分かるわ。頼りになりますもの!ーーでもシドン氏はリビュア人ですし難しいでしょうね…殿下はあまり物事を深くお考えにならないのだと思います。思慮深ければ皇女様が嫁がれた意味を考えてもっと動くでしょうに…。気遣いといった点でしたらニックス氏も素晴らしいと思いますよ!皇女様はご不在なことが多いですが、お部屋にこもられている際にも気遣いの物や、城で働く面々への周知も彼がして下さいました」
「さすがに露骨過ぎたかしら…」
「いえいえ、このアガタめの意見で恐縮ですが、初めにカエオレウムでの挨拶からオケアノス殿下は皇女様をライバル視しているように見受けました」
私以外の目から見ても同じように見えているのね。それなら過去云々の話はしないでも、ここから先の話はできそうね。
「そう言ってくれると助かるわ。でもこのまま婚姻しないでペルラに帰ることは、恐らく陛下がお認めにならないでしょう?ですから、オケアノス殿下から婚姻を拒絶いただく手を考えたいのよ」
「皇女様が馬鹿殿下に拒絶される?!そんなの許しがたいです!」
「では他にどんな手があるというの?シュケレシュとの貿易でペルラは以前よりは豊かになってはいるけど、国民の特性上カエオレウムと戦になったら勝ち目はないもの」
「でしたらこんな手はーー」
「ただ今戻りました!!」
コラーロが話しかけたのと同時に、クローゼットの方から明るい声が聞こえて来た。トゥットが戻って来たのだろう。日中にも拘らずカーテンを閉めている不穏な雰囲気を隠すため、アガタとコラーロは急いでカーテンを開いた。
「おかえりなさい。良く知ってそうな人はいたの?」
「ええ!丁度いました!アルテム早く早く!」
「えっ、トゥット!?突然目の前に貴婦人のドレスが沢山あるんだけど!?エッセ侯爵令嬢、足下にお気をつけ下さい」
「はい。あら、このドレス見覚えがございます」
んんっ?エッセ侯爵令嬢ってことはセールビエンスも来ているの?
トゥット、どういうことかしら…
「ルサルカ様!!」
「セールビエンス様!?」
「お久しぶりでございます。アルテム様に新しい化粧のご紹介をしていただいていた所に、トゥットさんがいらしてルサルカ様にお会い出来ると仰っているのを聞いていても立ってもいられず…。突然押し掛けるなんてご無礼をしてしまい…」
「いいえ!とんでもない!私こそ長らく不義理をしてしまって…。さぁ立ち話もなんですからこちらにお座りになってください。そして、アルテムも突然呼びつけてごめんなさいね」
「問題ございませんよ。皇女様のお願いなら真っ先に対応しろと会頭に言われていますので」
「ーートゥット、アルテムを連れて来たと言うことは」
「そう!アルテムは元々はリビュアの中でも指折りの名家の三男坊なんだよ。で、なまじっか、家にお金があるからいい歳まで働かないで家に閉じこもったんだって!」
意外過ぎる。どちらかと言えばパーティや社交界などに毎夜通っていそうな外見なのに。
「トゥット…その話は皇女様や侯爵令嬢の前では…」
「いいえアルテム!私はそのお話を聞きたいのです!!」
思わず立ち上がって声を張り上げると、アルテムが二三歩後ろに後ずさりする。
嫌だ、私ったら思わず大声を出してしまったのね。
「そのお話…?閉じこもっていた私の話ですか?」
「それも大変興味深いですが、今お聞きしたいのは『何故外に出ようと思ったか』ですわね」
「外に出ようと思った理由ですか。簡単です。シュケレシュを見て面白そうって思ったからです」
「シュケレシュに興味をもったから、だけ?」
「アルテム~?嘘はダメだよ??皇女様、アルテムはシュケレシュにも興味はあったけど、一番はシュケレシュで働いていた女の子に恋しちゃったのがここで働くきっかけって会頭から教えてもらいました!」
「えっ、ちょっ、なんでそれ知ってるの!?ーーもう、そうです。ずーっと家で絵画とか彫刻とか眺めていたアルテム少年は、絵画に見まごうばかりの女性を見かけて、彼女について調べてもらったらシュケレシュって商会で働いてるって聞いて、急いで会頭に雇ってくれるようにお願いしたんです」
「それで、シドンが雇ってくれたの?」
「面白そうだから良いよって。結果は報告させられましたけど」
困ったように眉を八の字にして後ろ頭を掻いている雰囲気で、結果が良くなかったのが分かる。
聞かない方が良いかしら。
「アルテム様、結果をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
セールビエンス!?結構突っ込むのね。
いや、アルテムとそれだけ打ち解けているってことかしら。
アルテム、嫌なら断っても良いのよ?言葉にはできないけど視線でそうテレパシーを伝えられるかしら。
「もうキズも癒えているので大丈夫ですよ。彼女はダガーの奥さんになりました」
キッツい。
想定外の登場人物の名前に反応が出来なくなった。
0
お気に入りに追加
116
あなたにおすすめの小説
えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?
真理亜
恋愛
「アリン! 貴様! サーシャを階段から突き落としたと言うのは本当か!?」王太子である婚約者のカインからそう詰問された公爵令嬢のアリンは「えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?」とサラッと答えた。その答えにカインは呆然とするが、やがてカインの取り巻き連中の婚約者達も揃ってサーシャを糾弾し始めたことにより、サーシャの本性が暴かれるのだった。
亡くなった王太子妃
沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。
侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。
王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。
なぜなら彼女は死んでしまったのだから。
番を辞めますさようなら
京佳
恋愛
番である婚約者に冷遇され続けた私は彼の裏切りを目撃した。心が壊れた私は彼の番で居続ける事を放棄した。私ではなく別の人と幸せになって下さい。さようなら…
愛されなかった番
すれ違いエンド
ざまぁ
ゆるゆる設定
愛せないと言われたから、私も愛することをやめました
天宮有
恋愛
「他の人を好きになったから、君のことは愛せない」
そんなことを言われて、私サフィラは婚約者のヴァン王子に愛人を紹介される。
その後はヴァンは、私が様々な悪事を働いているとパーティ会場で言い出す。
捏造した罪によって、ヴァンは私との婚約を破棄しようと目論んでいた。
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。
心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。
木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。
そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。
ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。
そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。
こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる