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知らない時間

54:外に出たくない人々

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「ねぇ、トゥットは王宮ここから出て行きたい?」
「突然なにを…まさか、僕はクビなんでしょうか!?」

私の質問にトゥットが顔を青くして狼狽えていると、コラーロも慌てて声を出した。

「皇女様?!トゥットが何か粗相でもしましたか?でもトゥットがいなくなってしまうと、王宮で働く方々との調整役がいなくなってしまいます…。私やアガタはあまりこの国での人付き合いが巧くないようでして…」
「違うわよ。そうではなくて、トゥットは本来シュケレシュのメンバーなんだから、王宮に閉じこもっているのは退屈じゃないのかしら?と思ったの。勿論、私としてもトゥットがいなくなってしまうのは寂しいし、辛いけど、トゥットの自由の方が大事でしょう」
「そう言うことですか。良かった、僕はてっきり何か失敗してしまったとばかり思いましたよ。出て行きたいなんて思ったことないですよ!王宮は知らなかったことばかりで勉強になりますし、図書室の司書さんからこの国の本を色々貸していただけることで、商会でも役立つことを学べています」
するとアガタが呆れたような視線で、積み上げられた本の山を私に示す。本当のアガタとすれば、読書はあまり好きではないから不本意でしょうね。

「なら良かった。でね、この質問はもう一つ意味があったのよ」
「もうひとつのいみ、ですか」
「ええ。なんて言ったらいいのかしら…生まれ育った場所から出て行くのを想像していない人に外に出てもらおうとしたいのだけど」
「生まれ育った場所…?皇女様、それはペルラから出て行きたがらないペルラ貴族の話ですか?」
「アガタ…お姉様方は特殊だったけどもたしかに私含めペルラの人々はあまり外部に行きたがらないわね…。うーんそうではなくて…」
「僕らの祖国であるリビュアの国では、金持ち貴族の次男とか三男でなまじ賢かったりすると実家から出たがらないで両親が困っている話はたまに耳にしますね」

フルクトスの場合は元々幽閉されていて外に出ることが想像もつかないだけでしょうけど、今の彼なら本気で脱獄したいのなら出来るはず。それにもかかわらず、フルクトスはあの塔にいることに不自由さを感じない、むしろ居心地の良さすらあるのかもしれない。そう考えれば、リビュアでの状況と近い気がする。

「皇女様!ある意味アケロン様も同じではないですか?今でこそこうして外に出て来ていただいてますが、私が初めに皇女様の手紙を持って行った時に『30年以上この館に閉じこもっているからもうこのままが楽』って言われましたよ」
「それ、本当?だから誰も直接見たことがなかったのかしら…コラーロは良く会ってもらえたね」
「だってアガタ、皇女様のお使いよ?皇帝やらお父様やらの力を片っ端から借りましたよ」

確かにアケロンも似た状態だったわ。
アケロンは今回は私の状況に興味を持ってくれたから、久々に出て来てくれたのよね。過去では、何に興味をもってこの国に来たのかは分からないけど、何かしら出るに値する関心事が会ったに違いない。

「アケロンもそうかもしれないけど、彼は特殊ね。どちらかと言うとリビュアの状況の方が近いと思うわ。トゥット、その貴族のお家ではどうしているのかしら?」
「どうって、うーん。多いのは官職に就職させてしまったり、良い家柄の娘さんの所へ婿養子に出しちゃうってとこですかねぇ」
「そうなのね…。自立させるようなものかしらねぇ…」
「あっ、良く知ってそうな人を思いつきました!」
「シュケレシュに詳しい人がいるの?是非お話を聞かせて欲しいわ」
「皇女様も会ったことがありますよ!えっと、アガタ、コラーロ、今から僕抜けても大丈夫かな?」
「「大丈夫」よ~」

2人の返事を聞いたトゥットはニッコリ笑ってクローゼットの奥に駆け込んで行ってしまった。
私も会ったことがあるシュケレシュの人?シドンかしら…そういえばシドンに会うのは少し久々な気がするわ。無茶をするなと釘を刺されたけど、最近の行動も怒られてしまうのかしら?
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