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遡った時間

48:助け舟

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「オケアノス殿下にサラ様、それにニックス様に皆様まで…お揃いで一体どうしたのでしょうか?」
コラートが扉を開けると、険悪な表情をしているオケアノス達が立っているので、わざとらしい程に大げさに驚いてみせれば、オケアノスは苛立ちを露にした。
だって?君は本当に性根が曲がっているんじゃないのか?何故私たちがここに来ているのか聞くまでもないだろう!!」
「ルサルカ様、私のことがお嫌いなのですね。ーーそれは悲しいけれど仕方がないことです。しかし、あのカメオについては私の宝物なのですっ!どうか、どうか返して下さい」

怒りにまかせたまま叫ぶオケアノスと、それにしがみついているサラが未弥陀を流しながら叫ぶのを、ため息をださないで最後まで聞いたことを褒めて欲しいほどだ。私が取ったと言う確固たる証拠もないのに、何故この方々はこんな物言いが出来るのでしょう。
一応、今の私はまだペルラの皇女であり、王国の第一王子と一介の子爵令嬢に過ぎない2人にこのように糾弾される謂れはない。それに他国の皇女にこのような扱いをすることが他国に聞こえでもする方が国際問題になると何故考えが及ばないのだろう。
過去の私はこんな2人にやられてたと思うと、自分のことながら嫌気がさしてしまう。

「一体なんの話でしょうか…?」
「しらばっくれるのは止めろっ!サラの、お婆様のカメオを盗んだのだろう!!?」
「カメオ…?存じませんが…」
「そんなはずはございませんわ。先日、私が着けているのをご覧になって『それはどこで購入されたの?』と仰ったじゃないですか」
「このようなことを言うのは恐縮ですけども…、サラ様とそのようなお話をした記憶はございません。それに、先日というのはいつのことでしょうか。私は先月の陛下のお誕生日以降でサラ様とお会いしていませんし…。あのようなことがございましたでしょう?お顔向け出来ないと、部屋に引きこもっておりましたので私が持っていると言うのは無理があるのではないでしょうか」

冷静にそう言ってしまえば、周囲の人々も『確かに』『陛下のお誕生日なら1ヶ月以上前だしなぁ』と、サラの主張をおかしいと言い始めた。すると、焦ったサラはだめ押しのように言い訳をし始めた。

「しかしっ、ルサルカ様のお部屋にございます机の上にあるのを見たと言うメイドが居りますのっ。失礼は承知で申し上げますけど、一度確認させていただけないでしょうか?私では身分上、入れないと言うのであれば、オケアノス様が…」
「サラ、何を言う。この宮殿内でサラが入ってはいけない場所なんてない」
「オケアノス様、お優しいお心遣いありがとうございます…っ♡」
とか言い始めて2人の世界を作っていますが、他国の皇女わたしの部屋ですからね。勝手に入って良い悪いは私か、せいぜい国王陛下と王妃殿下しか決められませんよ?非常識にも程がありますね。
それに、サラの主張にはそもそもおかしい点しかないのに、それに気がつかないオケアノスの盲目っぷりに頭痛がする。
なんて言おうかなぁ…今この場で刺激するようなことを伝えるのはあまり良くなさそうよね。逆上されるのも怖いし。過去にはこんな事件はなかったから対応が考えつかない。取り急ぎ、カメオは持って出てもらったからここにはないし、見てもらった方が早いかしら。

「あらあら、いつからカエオレウム王宮は『皇女』様のお部屋に勝手に入れるようになったのかしら」
「ドゥ伯爵夫人」
「皇女様、お久しぶりです。王宮にお邪魔していたのでご挨拶にお伺いしてみたら、カエオレウムは随分と無作法になっているようですね」

突然現れた私にプラスとなる発言をしてくれたのはなんとドゥ伯爵夫人だった。
誰も口を出せなくなっているこの場に現れた第三者に、周囲の視線が釘付けになっていると、オケアノスが苛立たしげにドゥ伯爵夫人を睨みつけた。

「伯爵夫人、今は取り込み中だ。下がれ」
「いいえ、さがりませんわ。これは見逃せるレベルを超えている完全に無作法です。そもそも、体調が悪い皇女様へ皆で押し掛けること自体が非常識ですし、なによりもテンペスタス子爵令嬢の言葉は聞き逃せません」
「ドゥ伯爵夫人はサラの何がマナー違反というのですかっ」
「テンペスタス子爵令嬢、貴方がこのようなマネをされるのは少々驚きです。先ほど皇女様の『お部屋について見た』というメイドがいるとおっしゃいましたね」
「ええ」
「噂話なら、まぁ、有り得ますが、その噂話程度のことを殿下に申し上げ、そして確認もなく皇女様の元へおしかけるなど、カエオレウム貴族令嬢としてあってはなりません」
「でっ、ですが、私もなんどもルサルカ様にお会い出来るようにお伺いしたのです!しかし『体調不良』とのことでドアを開けていただけないので仕方がなく…」
「正式に訪問の依頼を出されていなければ、そうなるでしょう。それに、今回のお話ではもう一点疑問がございますよ」
「疑問?伯爵夫人、どういうことだ。サラの言うことに疑問を持つなど」
「オケアノス殿下、恐れながら、いくら信頼に値する人物が相手とはいえ言われたことをまま受け取るのは王としてはよろしくありませんよ。ーー疑問とは、皇女様のお部屋に入れるメイドは現在の所、そちらのアガタ嬢のみのはずです」
「「「あ」」」

ドゥ伯爵夫人の指摘に、オケアノス達に着いて来ていた取り巻き達は声を揃えていた。
そうなのだ。私は自身の部屋に不特定多数が入ることを拒否し、アガタアガタ・コラート・トゥット以外のメイドや侍女は部屋に入らないように国王陛下に依頼をしているのだ。
少し調べれば分かることなのに、それすらもしていないオケアノスとサラについては底が浅い言えない。それを私が言った所で言い訳と取られるしかないと思って、どうしようかと思っていたけれど、第三者であるドゥ伯爵夫人からの指摘となれば周囲も納得するだろう。

さて、2人はどうするのかしら。
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