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46:質疑応答
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「2、3質問をさせていただいてもよろしいかしら?」
セルブスの話は衝撃的で過去に私がされたことよりも酷い。
一族みな処刑なんて、どうやったらそんな惨いことができるのかしら。過去では私だけーーいや違うかもしれない。私が知らないだけで、もしかすれば私がいなくなった後でペルラまで手が及んでいたのかも…?
「勿論です!セルブス、なんでも皇女様の質問に答えて良い」
「御意。しかし、私もフルクトス様と同じ歳ですので母から聞いたことしか存じません」
「分かる範囲で結構よ。ひとつめは、魔法についてなんです」
私がカエオレウムにやって来た際、アガタが盛大に魔法を使ってくれた。道行くカエオレウム国民はそれを見ていたけれど、誰1人恐怖で叫び出すことも、私たちに石を投げることもなかった。むしろ魔法を喜んでいるようにさえ感じたのに、フルクトスが生まれる時、ほんの18年程前まで魔法を忌むべき物としていたとは信じられない。
「魔法は特に忌み嫌われてはいません」
「では何故、ネレウス家は…」
「それは小生が答えようか。おそらくだけど、一般大衆にとっちゃ魔法だろうが呪術だろうがどちらでも良かったじゃないかな。得体の知れない事件への恐怖心を煽るのに『魔法』という言葉が使われただけで、本来は恐ろしいという認識じゃなかったんだろう。もともとさ、カエオレウムがあるこの場にだって、国が成立する前までは魔法使いもいたし土着風土としては魔法はあったんだ」
「つまりネレウス家を潰したかった貴族、特にポリプス公爵一派に利用されたと言う訳ね」
「そゆこと」
「ふたつめの質問良いかしら?」
「どうぞ。一つ目も私は答えたとは言いがたいですが」
「そうかしら?周りの状況を教えて下さるだけでも十分ですよ。ナッリ、あなたのお母様はどういった経緯で乳母になったのですか?」
「ああ、それは簡単です。元々母はカエオレウムに来てからのレドビラ様付き侍女でした。けれど、男に騙されて私を身ごもったのです。そうして行く当てがなく途方に暮れていた所に、レドビラ様が声をかけて下さり、乳母となりました」
「レドビラ様の近くにいたのに事件には巻き込まれなかったの?」
「母は生粋のカエオレウム人です。下級とはいえ、貴族の端くれなのもありこの塔でフルクトス様の面倒を見ると言う条件で処刑を逃れました」
セルブスのその言葉にフルクトスは項垂れた。
「すまない。私と母のせいで…」
「とんでもない。おそらくレドビラ様がいらっしゃらなければ、私は生まれていないでしょう」
と言ったセルブスはフルクトスに深々と頭を下げて感謝を述べている。それについては私もセルブスと同意見だ。
カエオレウム貴族で未婚の母というのは有り得ないだろうから、レドビラがどうにかしていなければナッリは今この世にいないだろう。
「最後の質問しても?」
「失礼しました。皇女様、どうぞ」
「フルクトス様はセルブス様と入れ替わって外に出たりしていると言っていましたわよね?それに、今まで私もアケロンも、ここに出入りしていたけど、ナッリ様ともセルブス様ともお会いしたことがありませんでした。普段はどちらにいらっしゃるの?」
「それは私が回答させていただきましょう」
手を挙げたフルクトスはそう言って立ち上がった。
「セルブスは私より少し先に生まれています。ですので母の判決が出る前に里子に出されました。そしてナッリについても、私に乳が不要になってからはここを出ていかされています。ーーここに私を閉じ込めた者は私を1人にしたかったのでしょうね」
「ではどうやって入って来ていらっしゃるの?」
「実は私はアケロンに教えていただく前から、一つだけ魔法が出来たのです。壁を通り抜けるという魔法です」
「でしたら、何故ご自分が逃げなかったのですか?」
「もし私が逃げてしまったら、ここの門番やナッリ達に迷惑がかかるでしょう」
私の質問にフルクトスは理解出来ないという顔でそう答えた。
つまり、彼は自分が囚われている不便さよりも周囲に迷惑がかからない、周りの者が危険に晒されないことを優先したってことか。
凄い出来た人…
「それにここも慣れれば快適ですよ」
前言撤回。
ちょっと変な感性なのかもしれない。牢屋よ?快適なはずがないでしょうに。私もそこで少しお世話になったから良く知ってるわ。
「よく分かりませんが、フルクトス様が問題ないのでしたら、結構です。ですがここを出たいと思った際にはお手伝いさせて下さいね」
「ええ。先ほどはああ申し上げましたが、今は一通りの学習を終えてここから出て、一日も早く皇女様のお役に立ちたいと思っております」
「私の…?」
どうして、と続けようとしたところで、アケロンが勢い良く立ち上がると、私の手を引っ張った。
「どうしたの!?」
「アガタ達が呼んでるようだよ」
「えっ!?」
「王宮の君の部屋に何かが起きてるようだ。急いで戻った方が良い」
セルブスの話は衝撃的で過去に私がされたことよりも酷い。
一族みな処刑なんて、どうやったらそんな惨いことができるのかしら。過去では私だけーーいや違うかもしれない。私が知らないだけで、もしかすれば私がいなくなった後でペルラまで手が及んでいたのかも…?
「勿論です!セルブス、なんでも皇女様の質問に答えて良い」
「御意。しかし、私もフルクトス様と同じ歳ですので母から聞いたことしか存じません」
「分かる範囲で結構よ。ひとつめは、魔法についてなんです」
私がカエオレウムにやって来た際、アガタが盛大に魔法を使ってくれた。道行くカエオレウム国民はそれを見ていたけれど、誰1人恐怖で叫び出すことも、私たちに石を投げることもなかった。むしろ魔法を喜んでいるようにさえ感じたのに、フルクトスが生まれる時、ほんの18年程前まで魔法を忌むべき物としていたとは信じられない。
「魔法は特に忌み嫌われてはいません」
「では何故、ネレウス家は…」
「それは小生が答えようか。おそらくだけど、一般大衆にとっちゃ魔法だろうが呪術だろうがどちらでも良かったじゃないかな。得体の知れない事件への恐怖心を煽るのに『魔法』という言葉が使われただけで、本来は恐ろしいという認識じゃなかったんだろう。もともとさ、カエオレウムがあるこの場にだって、国が成立する前までは魔法使いもいたし土着風土としては魔法はあったんだ」
「つまりネレウス家を潰したかった貴族、特にポリプス公爵一派に利用されたと言う訳ね」
「そゆこと」
「ふたつめの質問良いかしら?」
「どうぞ。一つ目も私は答えたとは言いがたいですが」
「そうかしら?周りの状況を教えて下さるだけでも十分ですよ。ナッリ、あなたのお母様はどういった経緯で乳母になったのですか?」
「ああ、それは簡単です。元々母はカエオレウムに来てからのレドビラ様付き侍女でした。けれど、男に騙されて私を身ごもったのです。そうして行く当てがなく途方に暮れていた所に、レドビラ様が声をかけて下さり、乳母となりました」
「レドビラ様の近くにいたのに事件には巻き込まれなかったの?」
「母は生粋のカエオレウム人です。下級とはいえ、貴族の端くれなのもありこの塔でフルクトス様の面倒を見ると言う条件で処刑を逃れました」
セルブスのその言葉にフルクトスは項垂れた。
「すまない。私と母のせいで…」
「とんでもない。おそらくレドビラ様がいらっしゃらなければ、私は生まれていないでしょう」
と言ったセルブスはフルクトスに深々と頭を下げて感謝を述べている。それについては私もセルブスと同意見だ。
カエオレウム貴族で未婚の母というのは有り得ないだろうから、レドビラがどうにかしていなければナッリは今この世にいないだろう。
「最後の質問しても?」
「失礼しました。皇女様、どうぞ」
「フルクトス様はセルブス様と入れ替わって外に出たりしていると言っていましたわよね?それに、今まで私もアケロンも、ここに出入りしていたけど、ナッリ様ともセルブス様ともお会いしたことがありませんでした。普段はどちらにいらっしゃるの?」
「それは私が回答させていただきましょう」
手を挙げたフルクトスはそう言って立ち上がった。
「セルブスは私より少し先に生まれています。ですので母の判決が出る前に里子に出されました。そしてナッリについても、私に乳が不要になってからはここを出ていかされています。ーーここに私を閉じ込めた者は私を1人にしたかったのでしょうね」
「ではどうやって入って来ていらっしゃるの?」
「実は私はアケロンに教えていただく前から、一つだけ魔法が出来たのです。壁を通り抜けるという魔法です」
「でしたら、何故ご自分が逃げなかったのですか?」
「もし私が逃げてしまったら、ここの門番やナッリ達に迷惑がかかるでしょう」
私の質問にフルクトスは理解出来ないという顔でそう答えた。
つまり、彼は自分が囚われている不便さよりも周囲に迷惑がかからない、周りの者が危険に晒されないことを優先したってことか。
凄い出来た人…
「それにここも慣れれば快適ですよ」
前言撤回。
ちょっと変な感性なのかもしれない。牢屋よ?快適なはずがないでしょうに。私もそこで少しお世話になったから良く知ってるわ。
「よく分かりませんが、フルクトス様が問題ないのでしたら、結構です。ですがここを出たいと思った際にはお手伝いさせて下さいね」
「ええ。先ほどはああ申し上げましたが、今は一通りの学習を終えてここから出て、一日も早く皇女様のお役に立ちたいと思っております」
「私の…?」
どうして、と続けようとしたところで、アケロンが勢い良く立ち上がると、私の手を引っ張った。
「どうしたの!?」
「アガタ達が呼んでるようだよ」
「えっ!?」
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