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遡った時間
40:魔女と皇女
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過去に帰って来た丁度その時、私は魔女ストレガの目の前にいた。
しかしこれは戻って来たときの話ではなく、1度目の対面での出来事なのだ。
魔女のストレガは代々私たち、ペルラ皇女が嫁入りする際に不思議な、そして微妙な魔法をくれる不思議な人であると子供の頃から聞かされていた。
「皇女樣方はどんな魔法を頂くのでしょうね」
楽しみですね、と侍女達が言うのを聞いていた。
私たちは魔女ではないから、それほど対した事は出来ないらしいけれど、ストレガがくれるのは皇女達の人生に役立つ物らしい。姉達からも色々聞いていた私は自分にはどんな魔法を貰えるのか期待だけがドンドン膨らんでいた。
しかし、そんな私の期待をよそに1度目に初めて対面したストレガは私の顔を見るなり困ったような顔をみせた。
「皇女様、大変申し上げにくいのですが、皇女様には魔法を授けられません」
「どういうこと?」
「皇女様には皇帝やお姉様方と違い魔力が全くございません。こんなことは歴代の皇女様の中で初めてです」
「そんなっ…」
「そして魔力がないせいでしょうか、分かりませんが、皇女様に必要な魔法も私には全く分かりません。こんなことも初めてです」
「そんな、そんなっ、あんまりよ!私はこれから、敵国に嫁ぐのですよ?せめて何か役立つような魔法でもないと怖くて怖くて、死んでしまいます」
「ごもっともです。私としましても、不肖ながら代々の皇女様への嫁入り道具をお渡ししている身となりませば、皇女様にだけ身一つで嫁げとは申し上げられません」
「でもどうやって?」
「対価を頂いて魔法を授けましょう」
そこで取られる対価は私、いいえ、ストレガさえも選べなかった。与える魔法に吐き出されるように私の何かがなくなると言うのだ。
そうして『古い物を新しくする』という今もってどこで使えば良かったのか分からない魔法の代わりに私から失われたのは『涙』だった。魔法を貰った時、私は目に見える物、足も声も目も髪も五感も記憶も残っていたことで、私は浅はかにも安堵をしていた。それらがあれば問題ないと思ったのだ。
涙が出ないことの問題に気がついたのは、お父様と別れる時だった。
カエオレウムでの生活で涙が出ない事に困ったりはなかったし、むしろ処刑場で泣くことがなくて良かったとすら思うけど、お父様との別れで泣けなかったのは生涯忘れられなかった。
続いて、2度目のストレガとの対面では丁度その時に記憶が戻ったこともあり私は魔法を貰う事を止めた。
「ストレガ、それよりも私違う魔法が欲しいんだけど…出来るかしら?」
「違う?」
「ああ、魔法じゃないわ。物が良いの。対価に見合った物で良いから」
「対価は何をお出しいただくのですか?」
「そうね…この髪の毛はどうかしら?」
「その長い銀髪は皇女様のご自慢なのではないですか?それに、カエオレウムで花嫁になるのにあえて切ってしまうなんて」
「自慢に思っていて、カエオレウムの花嫁になる時の髪の毛であれば、結構良い物と交換出来そうと思って」
「それはそうですね…」
「ね。じゃあ切るわね。ああ、このナイフを借りて良いかしら」
その時に手にした短剣がそのまま私の輿入れ道具となったのだ。意外なことにこの短剣は魔法道具らしい。
それにしても私があんまりにも躊躇いもなく切ってしまうので、ストレガが唖然とした表情をしたのが面白かったわ。多分皇女の中でストレガにあんな顔をさせたのって私だけだと思うとおかしくなってしまう。
思い出し笑いをしながらアケロンと帰り道を歩いていると、珍しくアケロンが窘めてくる。
「皇女様、あんな風に自分の弱みを見せてはよくない」
「そう?」
「あなたは皇女なのだから、何が弱みになるのか分からないんだ」
「いいのよ別に。一度死んでるんだから、弱みもないわ。それにーー」
「それに?」
「フルクトスならきっと言わないと思うの」
「まぁ、言う相手がいないだろうからね」
「そういう意味ではないんだけど…なんとなくそう思うの」
「貴方自身がそう思うのであれば小生はこれ以上は言わない。でも、さっきの話をする相手は選んだ方が良い。少なくとも」
「ええ。まだシュケレシュの方々には言わないわ」
「そうした方が良い」
深妙な表情で頷くアケロンに会わせて微笑んでみせれば、アケロンは困ったように頭を掻いた。
「ストレガは元気だった?」
「ええ。何歳なのか全く分からなかったけど」
「彼女は小生の3倍以上生きてるはずだよ」
「冗談でしょう?」
そう言った私の言葉にアケロンは何の反応もしてくれなかった。それから、私を部屋に送ってくれると自分は寄る所があると言って何処かに戻って行ったのだった。
しかしこれは戻って来たときの話ではなく、1度目の対面での出来事なのだ。
魔女のストレガは代々私たち、ペルラ皇女が嫁入りする際に不思議な、そして微妙な魔法をくれる不思議な人であると子供の頃から聞かされていた。
「皇女樣方はどんな魔法を頂くのでしょうね」
楽しみですね、と侍女達が言うのを聞いていた。
私たちは魔女ではないから、それほど対した事は出来ないらしいけれど、ストレガがくれるのは皇女達の人生に役立つ物らしい。姉達からも色々聞いていた私は自分にはどんな魔法を貰えるのか期待だけがドンドン膨らんでいた。
しかし、そんな私の期待をよそに1度目に初めて対面したストレガは私の顔を見るなり困ったような顔をみせた。
「皇女様、大変申し上げにくいのですが、皇女様には魔法を授けられません」
「どういうこと?」
「皇女様には皇帝やお姉様方と違い魔力が全くございません。こんなことは歴代の皇女様の中で初めてです」
「そんなっ…」
「そして魔力がないせいでしょうか、分かりませんが、皇女様に必要な魔法も私には全く分かりません。こんなことも初めてです」
「そんな、そんなっ、あんまりよ!私はこれから、敵国に嫁ぐのですよ?せめて何か役立つような魔法でもないと怖くて怖くて、死んでしまいます」
「ごもっともです。私としましても、不肖ながら代々の皇女様への嫁入り道具をお渡ししている身となりませば、皇女様にだけ身一つで嫁げとは申し上げられません」
「でもどうやって?」
「対価を頂いて魔法を授けましょう」
そこで取られる対価は私、いいえ、ストレガさえも選べなかった。与える魔法に吐き出されるように私の何かがなくなると言うのだ。
そうして『古い物を新しくする』という今もってどこで使えば良かったのか分からない魔法の代わりに私から失われたのは『涙』だった。魔法を貰った時、私は目に見える物、足も声も目も髪も五感も記憶も残っていたことで、私は浅はかにも安堵をしていた。それらがあれば問題ないと思ったのだ。
涙が出ないことの問題に気がついたのは、お父様と別れる時だった。
カエオレウムでの生活で涙が出ない事に困ったりはなかったし、むしろ処刑場で泣くことがなくて良かったとすら思うけど、お父様との別れで泣けなかったのは生涯忘れられなかった。
続いて、2度目のストレガとの対面では丁度その時に記憶が戻ったこともあり私は魔法を貰う事を止めた。
「ストレガ、それよりも私違う魔法が欲しいんだけど…出来るかしら?」
「違う?」
「ああ、魔法じゃないわ。物が良いの。対価に見合った物で良いから」
「対価は何をお出しいただくのですか?」
「そうね…この髪の毛はどうかしら?」
「その長い銀髪は皇女様のご自慢なのではないですか?それに、カエオレウムで花嫁になるのにあえて切ってしまうなんて」
「自慢に思っていて、カエオレウムの花嫁になる時の髪の毛であれば、結構良い物と交換出来そうと思って」
「それはそうですね…」
「ね。じゃあ切るわね。ああ、このナイフを借りて良いかしら」
その時に手にした短剣がそのまま私の輿入れ道具となったのだ。意外なことにこの短剣は魔法道具らしい。
それにしても私があんまりにも躊躇いもなく切ってしまうので、ストレガが唖然とした表情をしたのが面白かったわ。多分皇女の中でストレガにあんな顔をさせたのって私だけだと思うとおかしくなってしまう。
思い出し笑いをしながらアケロンと帰り道を歩いていると、珍しくアケロンが窘めてくる。
「皇女様、あんな風に自分の弱みを見せてはよくない」
「そう?」
「あなたは皇女なのだから、何が弱みになるのか分からないんだ」
「いいのよ別に。一度死んでるんだから、弱みもないわ。それにーー」
「それに?」
「フルクトスならきっと言わないと思うの」
「まぁ、言う相手がいないだろうからね」
「そういう意味ではないんだけど…なんとなくそう思うの」
「貴方自身がそう思うのであれば小生はこれ以上は言わない。でも、さっきの話をする相手は選んだ方が良い。少なくとも」
「ええ。まだシュケレシュの方々には言わないわ」
「そうした方が良い」
深妙な表情で頷くアケロンに会わせて微笑んでみせれば、アケロンは困ったように頭を掻いた。
「ストレガは元気だった?」
「ええ。何歳なのか全く分からなかったけど」
「彼女は小生の3倍以上生きてるはずだよ」
「冗談でしょう?」
そう言った私の言葉にアケロンは何の反応もしてくれなかった。それから、私を部屋に送ってくれると自分は寄る所があると言って何処かに戻って行ったのだった。
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