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遡った時間
15:皇女と生き字引
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「「皇女様!」」
部屋に戻った私をアガタ、トゥット、そしてコラーロが駆け寄って心配そうな顔で出迎えてくれる。
コラーロに関しては、先ほどここに到着したと考えると自分の方が疲れているだろうに、そんな事はおくびにも出さず私の心配をしてくれるのが嬉しかった。
「コラーロ、いらっしゃい!道中大変だったでしょうにこんなに早くよく来てくれたわ」
「当然でございます!!ーーそんなことよりも、私が来るタイミングが悪かったせいで殿下の元へお一人で行かせてしまい申し訳ございません」
「コラーロのせいではないわ。あの男がわざわざ『私1人で来るように』って指定したせいだから気にしないで」
そう言って笑うと、アガタが続けた。
「それで、くそ男はなんと?」
「サラの負担になるなですって」
「はぁぁ!??サラが非常識なのでしょう!?なぜ皇女様が注意をされなければならないのですーーもうさっさとペルラに戻りましょう?くそ男の方が他の女を好んでいるのですから、皇女様が涙を飲む必要はございません。皇帝もこの事を知ったら激怒するでしょうし、ペルラ皇国民もこの話を聞けば一矢報いる覚悟になりますよ」
アガタの険しい顔を横で見ていたトゥットも付け加える。
「皇女様、俺はカエオレウムの人間でもペルラの人間でもないですが、王子が言っていることはおかしいって思うよ。なんなら会頭に頼んでシュケレシュでオケアノス殿下の評判を他国や民衆に流しましょうか?」
「いいですね、トゥットさん!是非そうして下さいな!!」
トゥットの申し出にコラーロが目を輝かせているけど、それはまだやる段階ではない。
今の段階でやってもオケアノスもサラにも、そしてこの国にもなんの効果もないじゃない。
復讐は、オケアノスとサラ、テンペスタス子爵にこの国の大使、国王みんなに平等に、大打撃を与えなくては意味がない。全員を過去の私と同じようにしてあげたいのよ。
「トゥットありがとう。でもそれはまだ不要よ」
「まだ?」
「ええ。どうせなら関係者全員にギャフンと言わせてから、私はペルラに帰ってやるわ!!」
私の決意表明を聞いたアガタとコラーロは拍手をしてくれるなか、トゥットは引き攣ったような微妙な表情を見えている。
「ええ…なんか皇女様のイメージがドンドン変わっていくなぁ」
トゥットの言葉には聞こえないフリをしておく。
「それはそうと皇女様、アケロンという男に手紙を渡しましたら、返事を頂いて参りました」
コラーロはそう言って灰色の封筒を手渡した。
珊瑚とそれに巻き付く海藻の印で封蝋がされてあるそれは、過去に見たアケロンの家の紋章で間違いない。私が出立するタイミングにまだペルラにいるかは賭けだったけど、運が良かったようだ。
封を切って中の便せんを開けば、几帳面な文字が並んでいた。
『皇女様に置かれましては国の為に犠牲になるとされた行動に、我々民は胸を痛める日々にございます。どうぞ御身を第一にご判断くださりませ。私のようなしがない者でお役に立てる事があれば何なりとお声がけください』
最後に書かれた文章を読み、便せんを抱きしめる。
アケロンが協力してくれるのだ。
「しかし皇女様は彼になんと指示を出されたのですか?」
コラーロは首を傾げて、言葉を続ける。
「皇女様の書かれた手紙を渡しまして、すぐに返事を頂きたかったのでその場で待たせてもらったのですが、アケロンは突然笑い出しまして、私に『皇女はどんな人なのか?』と仕切りに聞いて来たのです」
「へぇ~。ちなみにアケロンはどんな人なの?」
「それがねアガタ。こーんなに分厚い眼鏡をかけていて、長い髪の毛を一つに結っている背が高くって細ーい男の人なのよ」
「若いの?」
「若くは見えたけど…話し方はおじいちゃんみたいだったわ」
コラーロ達の説明を横で聞いていると補足したくなる。
今の説明は間違ってはいないけど、それではただの変な人だわ。
「そりゃあそうでしょう。彼は250歳ですからね」
「「「250歳!?」」」
「ペルラ人ってそんなに長生きなの!?」
「そんなことないわよ。彼が特別なだけ。アガタ達のような魔術で長生きらしいわ。生き字引なのよ」
「はぁ…会頭にまた報告しなきゃな。ペルラは不思議がいっぱいだって」
トゥットの感嘆のため息に微笑んでいるとアガタが話を戻した。
「それで、その生き字引に皇女様は何を頼んだんです?」
「こっちに来てくれないかって」
「カエオレウムにですか。何の為にです?」
「ある人の教育係になって欲しいのよ。その人は事情があって、今は満足に教育を受けさせてもらえていないけど、きちんとすれば絶対素晴らしい為政者になれるわ」
「まさか、くそ男を再教育してやるおつもりで?」
「そんなわけないわよ。アケロンがもったいないじゃない。私が教育を受けさせたいのはオケアノスの弟、フルクトス様よ」
部屋に戻った私をアガタ、トゥット、そしてコラーロが駆け寄って心配そうな顔で出迎えてくれる。
コラーロに関しては、先ほどここに到着したと考えると自分の方が疲れているだろうに、そんな事はおくびにも出さず私の心配をしてくれるのが嬉しかった。
「コラーロ、いらっしゃい!道中大変だったでしょうにこんなに早くよく来てくれたわ」
「当然でございます!!ーーそんなことよりも、私が来るタイミングが悪かったせいで殿下の元へお一人で行かせてしまい申し訳ございません」
「コラーロのせいではないわ。あの男がわざわざ『私1人で来るように』って指定したせいだから気にしないで」
そう言って笑うと、アガタが続けた。
「それで、くそ男はなんと?」
「サラの負担になるなですって」
「はぁぁ!??サラが非常識なのでしょう!?なぜ皇女様が注意をされなければならないのですーーもうさっさとペルラに戻りましょう?くそ男の方が他の女を好んでいるのですから、皇女様が涙を飲む必要はございません。皇帝もこの事を知ったら激怒するでしょうし、ペルラ皇国民もこの話を聞けば一矢報いる覚悟になりますよ」
アガタの険しい顔を横で見ていたトゥットも付け加える。
「皇女様、俺はカエオレウムの人間でもペルラの人間でもないですが、王子が言っていることはおかしいって思うよ。なんなら会頭に頼んでシュケレシュでオケアノス殿下の評判を他国や民衆に流しましょうか?」
「いいですね、トゥットさん!是非そうして下さいな!!」
トゥットの申し出にコラーロが目を輝かせているけど、それはまだやる段階ではない。
今の段階でやってもオケアノスもサラにも、そしてこの国にもなんの効果もないじゃない。
復讐は、オケアノスとサラ、テンペスタス子爵にこの国の大使、国王みんなに平等に、大打撃を与えなくては意味がない。全員を過去の私と同じようにしてあげたいのよ。
「トゥットありがとう。でもそれはまだ不要よ」
「まだ?」
「ええ。どうせなら関係者全員にギャフンと言わせてから、私はペルラに帰ってやるわ!!」
私の決意表明を聞いたアガタとコラーロは拍手をしてくれるなか、トゥットは引き攣ったような微妙な表情を見えている。
「ええ…なんか皇女様のイメージがドンドン変わっていくなぁ」
トゥットの言葉には聞こえないフリをしておく。
「それはそうと皇女様、アケロンという男に手紙を渡しましたら、返事を頂いて参りました」
コラーロはそう言って灰色の封筒を手渡した。
珊瑚とそれに巻き付く海藻の印で封蝋がされてあるそれは、過去に見たアケロンの家の紋章で間違いない。私が出立するタイミングにまだペルラにいるかは賭けだったけど、運が良かったようだ。
封を切って中の便せんを開けば、几帳面な文字が並んでいた。
『皇女様に置かれましては国の為に犠牲になるとされた行動に、我々民は胸を痛める日々にございます。どうぞ御身を第一にご判断くださりませ。私のようなしがない者でお役に立てる事があれば何なりとお声がけください』
最後に書かれた文章を読み、便せんを抱きしめる。
アケロンが協力してくれるのだ。
「しかし皇女様は彼になんと指示を出されたのですか?」
コラーロは首を傾げて、言葉を続ける。
「皇女様の書かれた手紙を渡しまして、すぐに返事を頂きたかったのでその場で待たせてもらったのですが、アケロンは突然笑い出しまして、私に『皇女はどんな人なのか?』と仕切りに聞いて来たのです」
「へぇ~。ちなみにアケロンはどんな人なの?」
「それがねアガタ。こーんなに分厚い眼鏡をかけていて、長い髪の毛を一つに結っている背が高くって細ーい男の人なのよ」
「若いの?」
「若くは見えたけど…話し方はおじいちゃんみたいだったわ」
コラーロ達の説明を横で聞いていると補足したくなる。
今の説明は間違ってはいないけど、それではただの変な人だわ。
「そりゃあそうでしょう。彼は250歳ですからね」
「「「250歳!?」」」
「ペルラ人ってそんなに長生きなの!?」
「そんなことないわよ。彼が特別なだけ。アガタ達のような魔術で長生きらしいわ。生き字引なのよ」
「はぁ…会頭にまた報告しなきゃな。ペルラは不思議がいっぱいだって」
トゥットの感嘆のため息に微笑んでいるとアガタが話を戻した。
「それで、その生き字引に皇女様は何を頼んだんです?」
「こっちに来てくれないかって」
「カエオレウムにですか。何の為にです?」
「ある人の教育係になって欲しいのよ。その人は事情があって、今は満足に教育を受けさせてもらえていないけど、きちんとすれば絶対素晴らしい為政者になれるわ」
「まさか、くそ男を再教育してやるおつもりで?」
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