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遡った時間

14:皇女は2人の世界に邪魔をするつもりはない

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「王国の輝ける君、オケアノス殿下。本日はお声がけ頂けましたこと誠に光栄の至りです」
「君か。ーー座りなさい」

君か?貴方が呼んだんでしょうに、なにその言い草?来ない方が良かったのかしら。
でも過去にはこんな呼び出しはなかったし、今回直接2人きりで会話をするのはこれが初めてだから我慢しときましょう。
それにしても、ここは確か殿下の執務室よね。
きちんと見た事はなかったけどーーあまり仕事してる感じはしないわね。
侍従のたしかニックスって名前だったかしら、ニックスがオケアノスの言い方にギョッとした顔をしてから、私の顔を見て深々と頭を下げている。

「ありがとうございます。失礼致します」
「ふっ」
嘲笑したわらった
「ーーなにかおかしなことをしてしまいましたか?」
「いや?聞いた通り、本当に無知な子が来たのだと思ってな」
「無知…ですか。何か失礼な事をしてしまったのであれば申し訳ございません」
「口では殊勝な事を言ってもマナーもなっていないとなると、今後困る事になる。それは僕の評価を下げる事にも繋がる。サラも大変だな」
「サラ様ですか…?」
「サラは毎日、君のフォローをする為に奔走しているよ。君は知らないだろうけども、彼女は僕の乳母の姪であり幼なじみだ。王家とかなり近い意識を持っているのだから彼女の振る舞いを真似るべきだな。ーーそうそう、最初だから教えてやるが、サラが使いたいと言えば王宮ここでは何でも使えるんだよ」

なんとなく、読めて来たわ。
ようはこの間の王族専用サロンの件や、お茶会での振る舞いの件をサラから私の振る舞いに文句を言いたいだけなのね。
まったく、やり方は変わっても行き着くところは同じなのね。ーーもうニックスがずっと青い顔で私に頭を下げてるんだけどオケアノスは全く気がついてないじゃない。
大丈夫よ、ニックスは悪くないわ。

「それは存じませんでした。浅はかな事をサラ様にお伝えしてしまって恥ずかしい限りですわ。マナーに関しては、そうですね、改めるように努力を致します」
「ま、無駄だと思うけど。頑張って」
「ありがとうございます。ーーそれでは失礼致します」

この為だけに呼んだの?
喉まで出懸かった言葉を飲み込んで、さっさと部屋を出ようとすれば、ニックスが急いで駆け寄って私の為に扉を開いてくれ、私が部屋に戻るのに一緒に来てくれるではないか。
それにしても、オケアノスも呼びつけるならもう少し中身のある話をすべきと思うけどーー一一方サラの言い分だけを聞いて、他国の皇女を諌めるなんてオケアノスの頭は大分マズイ。
ニックスの事を思うと不憫極まりないけど…
あ、まずい。ニックスを見てたら視線に気がつかれたみたい。

「皇女様には大変失礼を致しました。オケアノス殿下は少々、あの、サラを妹のように思っているフシがありまして…」
たしか彼もオケアノスと子供の頃からの付き合いって聞いた事がある。サラも含めて3人で幼なじみってことなのね。周りを見ない2人に振り回されて不憫だわ…。
「いいえ。私が王国のマナーを学ぶ前に来てしまったのが問題ですので」
「そんなことはございませんよ!オケアノス殿下の基準は全てサラなのです」
オケアノス…
そんなに視野が狭くて大丈夫なのかしら…。
「まぁぁ、サラ様のように出来なければなんて難しいですわね。でもニックス様も大変ですわね」
「おや?私は皇女様に名乗ったことがございましたか?」
しまった。
今生では今、初めて会ったのよね。
過去での事を考えていたらうっかり…
「……いいえ。少しでも早く馴染めるように、殿下の周りの方々のお名前をまず覚えようと思っており、皆さんにお話をきいておりましたの。でも、名乗っていただいていないのにお名前で呼んでしまうのは失礼でしたわね」
「とんでもございません。私め如きの名前をご存知頂けたなんて光栄です」
そう言うと、ニックスは私に微笑む。
過去ではあまり会話をした事がない人だったけど、こんな顔をする人なのね。

そんな会話をしながら、私たちは無事に部屋の前に辿り着いた。
すると扉を開けながらニックスは最後にこう言った。
「オケアノス殿下とサラは、私でも理解出来ないような考え方をされます。しかし、皇女様の努力はきっと伝わりますよ」
別に伝わらなくていいし、2人だけの世界で存分に生きていて欲しいわ。
私をスパイスに盛り上がるくらいならこちらからお断りするので、私を巻き込まないでちょうだい。本人同士は望んでいないのに一体誰がこんな婚姻を望んでいると言うの?

しまっていく扉を見ながらぼんやりとそう思った。
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