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遡った時間

12:お茶会の話題に思案する皇女

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失礼だけど、こうして会話をしてみるとセールビエンス様は外見とは裏腹に驚く程にしっかりとした考えをお持ちの方だと分かった。
「ルサルカ様のお話を聞いておりますとペルラとは非常に興味深い国なのですね」
「そうでしょうか?」
「ええ。皇帝が納める皇国でありながら議会制を取っており、権力が分散している。我が国は王政ですが王に権力がーーいいえ。これは聞かなかった事にしてください。ともかく、皇帝が独断で動ける状態でないというのは非常勉強となります」
「ですねぇ」
ドゥ伯爵夫人も同意している。彼女の知識は夫が政治に近い事をにやっていることから得ているようで、難しい内容についてそつのない答えを返していた。
「どうなのでしょうね。ーー良いのか悪いのか私としては一概には言えませんが、視点が多い事で公平にはなると思いますわ」
私が濁して言うと2人は意味を汲み取ってくれ、苦笑いを見せてくれた。

そんな感じで盛り上がる私たちに、サラは困ったように眉を八の字にしてみせ、苦言を呈し始めた。
「お三方、あまり女性がそういった話をなさるのは良くないのでは?女性はそんな政治の話よりも、もっと華やかな話をすべきと思います」
つまり、あんたは興味がないということね。
まーたしかに、昔からこの手の話に関してはニコニコ相づちを打って、オケアノスに「すごいですわ~」「さすがオケアノス様♡」「私知りませんでした」しか言わなかったものね。
オケアノスもオケアノスで私が政治的な事を少しでも言うと「女が政治の話をするなんて、ペルラは随分歪な国なんだね」とか言ってたし。それがこの国の普通なのかと考えて、それ以降絶対に口を出さないようにした。

「でしょうか?エッセ侯爵私の父は『これからは女性も国について考えるべきだ』と言ってますし、私はこのような話がドレスの流行の話をするよりも好きです」
「私もです。ドゥ伯爵とは政治や芸術のサロンで知り合ったくらいですし…」

サラよりも上位貴族であるセールビエンス侯爵令嬢とドゥ伯爵夫人、別にそれほどタブーじゃなさそう。つまり、あればオケアノスの趣味ってことか。
本当にちっさい男だわ。
そして、セールビエンス侯爵令嬢とドゥ伯爵夫人の意見に聞く耳を持たないサラも似た者夫婦ね。
そんな凄く不満そうな顔を浮かべているサラが声を出した。

「セールビエンス様、先日私がお送りした『お茶』は飲んでいただけましたか?」
「あ、あれはありがとうございます。両親とも私に友人からのプレゼントが届いたととても喜んでいました…でも申し訳ございませんが、何度か試したのですが口に合わず…」
「まぁ!あの苦みが肌に効くのですよ!!是非お続けになってくださいね!!」

お茶…なんか聞き覚えがある単語ね。
私が過去にサラから何度も進められた変なお茶だったらどうしましょう。あれ、凄くマズイし臭いのよね.たとえ寿命が延びるって言われても飲みたくない。

「そうは言われましても…苦みも酷いですし、匂いも…。それにアレを飲んでからニキビが全部膿んでしまったような気がするんです」
「ーー侯爵令嬢、老婆心で申し上げますがこれは酷い状態だと思います。早めに主治医に見せるべきかと…」
やんわりとドゥ伯爵夫人がする提案に、セールビエンス侯爵令嬢も同意している。
けれどもそんな2人に、サラは首を振って強く言い放った。
「それは毒素を出している状態なのですよ。全部膿が出たら本当に綺麗になるのです!私の肌を見て下さい、あのお茶を飲み続けて1年程経ちましたら、最初はセールビエンス様が言ったようになりましたが、徐々に収まって来まして、今ではこんなに強い肌になりましたのよ」
そう言って毛穴もない真っ白な肌を見せ付ければ、ドゥ伯爵夫人は身を乗り出して眺めていた。
「本当に綺麗な肌ですね。テンペスタス子爵令嬢、よろしければ私にそのお茶を販売している商会を教えて下さいませんか?」
「ーー申し訳ございませんがそれはお教え出来ないのです。他ならぬセールビエンス様ですからお分けしましたのに……。是非とも飲んでいただきたいのに」
そう言って目を潤ませていると、セールビエンス侯爵令嬢は申し訳なさそうに視線を泳がせてしまっている。
このサラとのやり取りは過去に私に飲ませようとした時と、まんま同じである。
何故そこまでしてそのお茶を飲ませたいのだろう。

「サラ様」
「なんでしょう?ルサルカ様も飲んでみたいのですか?ご用意しましょうか?」
今さっきドゥ伯爵夫人には断っておいて、良く平気で私には分けようって言えるわね。
ある意味尊敬に値する空気の読まなささだわ。
「いいえ、そうではなく、私も皆様に贈り物を用意しましたの。トゥットアガタ、アレを持って来てくれないかしら」
「贈り物?」
そう。贈り物。

「ええ。私の祖国で最近流行っている軟膏で私もお気に入りなんですの」
といってもペルラ産ではなく、シドンに用意してもらった外国で作っている非常に良く効く顔に塗れる医薬品よ。
過去にあった事がまた繰り返すだろうと踏んで、念のため貰っておいて良かった。
これを使って今度こそセールビエンス侯爵令嬢と仲良くなれれば、と思っていたけど、改めて彼女の状況をみてしまうとそんな事はどうでも良くなるくらい痛そうで、なんとか改善出来ればと思ってのことだ。
気に入れば今後はエッセ侯爵家からシュケレシュに注文してもらえば良いし、一度試して効果がなければ止めれば良い。プレゼントとして渡すのだから使うのも使わないのも個人の自由だ。

私に言われたトゥットは貝殻の形の容器に入った3つの軟膏を御盆に乗せて恭しく私たちのテーブルに置いた。
この入れ物はペルラっぽい感じにするために私が別途用意していた物だ。シドンが用意した物には特に容器もなく壷に入った物であったので、これでは女性は喜ばないと思ったのだ。

手渡された容器を最初に開けたのはドゥ伯爵夫人であった。
中に入っている軟膏に鼻を近づけ、クンクンと匂いを嗅いでいる。
「花束のような良い香りですね」
「はい。私もそこが気に入っているのです。軟膏としてではなく、こうして耳の後ろに付けても練り香水のように楽しめますよ」
セールビエンス侯爵令嬢も同じように香りを聞くと、好みの香りだと嬉しそうに笑顔を浮かべた。




後日、セールビエンス侯爵令嬢から美しい便せんに流麗な文字で書かれた礼状が届いた。
『例のお茶を止めて、いただいた軟膏を塗ったところ、酷かったニキビがかなり改善しました。今度お時間がある際にお礼にお伺いさせていただければと存じます』
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