上 下
12 / 111
遡った時間

11:皇女と侯爵令嬢はやり直せるかもしれない

しおりを挟む
お茶をしましょうとサラに連れられていくと、王族用の専用サロンへと連れて行かれた。
「サラ様ここは王族専用ではないでしょうか?」
私がそう言うと、サラは不思議そうに首を傾げた。
「だめかしら?」
「だめとかだめではないではなく、今、私たちの3人の中には王族が居ないのであれば使うべきではないのではないかしら」
「んー?でもルサルカ様はオケアノス様の奥様になるんだし、それに私は子供の頃からここを使っているし問題ないと思いますけど…」
「そんな恐れ多い!まだ決まった訳ではないですし、私にはそのような権利はございません。それともサラ様が仰っていたご友人が王族の方なのでしょうか?」
私はサラが連れてくる人間が誰なのかを知っていてそう言えば、サラ芝居がかったように人差し指を顎に当て、いかにも悩んでいるというようなポーズをした。

「違いますね。では、ルサルカ様のお部屋でもよろしいでしょうか?」
そう言われたので私とドゥ伯爵夫人は2人で先ほどまで歩いていた道を戻っていった。ドゥ伯爵夫人と2人になったのは、サラが友人を連れてくると言っていなくなったからだ。
行ったり来たりをさせてしまった事を誤ると、ドゥ伯爵夫人は愉快そうにコロコロと笑い声を立てていた。

「いえいえ、お気になさらないでくださいませ。王族専用サロンに連れて行かれたときは目玉が飛び出るかと思いましたわ」
「良かったです。別に気にする程の事ではないのかとも思いましたが、まだここに来て日も浅いのでそんな大層な事をしては行けないと過敏になりすぎていたかもと、帰り道に思っていたんです」
「気にし過ぎではございませんわ。ペルラについては存じませんが、この国の王族は貴族とは別格のようにしなければいけないのです。ですから先ほど皇女様が仰った点は気にしてしかるべき事だと思いますよ」

「お待たせしました~。さあ、セールビエンス様こちらへどうぞ~」

そう言ってサラが連れて来たのは、やはり過去に私が会った人と同じ女性、セールビエンス・パウペリス・エッセ侯爵令嬢であった。
セールビエンスはエッセ侯爵家というカエオレウムの宰相を代々担っている家柄の一人娘であり、今の宰相である侯爵は彼女をこの世の何よりも大切にしている。宰相は娘を目に入れても痛くない程可愛がっており、娘の為ならばどんな無茶でも通してしまう程で、ある意味この国で最も権力がある女性の1人であった。
しかし、そんな権力者の娘である彼女はというと、いわゆるひきこもりであり、社交界等にはほとんど出てこないことで有名だった。
その理由は彼女の容姿にある。
率直に言ってしまえば、良くないのだ。

こうして再び会っても変わっていないその外見は、樽と表現しても足りない程に太っており、顔には幾つものニキビが隙間なく肌を埋め尽くしており、お風呂にはいつ入ったの?と聞きたくなる体臭をまき散らしている。またその巨体を彩る洋服も目を見張るセンスで、カーテンを引きちぎって巻き付けたのか、それとも山賊に身ぐるみはがされたのかと気の毒になってしまうものだ。
更にニキビの多くが潰れて膿が垂れており、過去の私は、人生で初めて出会う種類であった彼女の風貌に驚き、反射的に挨拶をすることが出来なかった。
おそらく多くの人がそうなるでしょう。
しかし、私がそうした事に侯爵令嬢は大きなショックを受け、そのまま泣きながら家に帰って、再び自室に閉じこもってしまったのである。
娘を愛して止まなかった宰相は私が仕出かした事に対して憎しみを募らせ、逆に彼女を慰める為に何度も訪問したサラに対しては好感を抱く結果となったのである。


そんな関係であった私とセールビエンス侯爵令嬢は再びこうして顔を合わせることとなった。
その迫力のある風貌は相変わらずだけれども、さすがに2度目であることや二度目の人生で精神的に大人になったこともあり、私は普段通りに接する事が出来た。

「初めまして、ルサルカ・トリトーネと申します。どうぞルサルカとお呼びください」
ゆっくりとお辞儀をして手を差し出すと、セールビエンスは私の顔をしばらく黙って見入ったと思うと、ハッとして慌てて自分も頭を下げた。
「エッセ侯爵家のセールビエンス・パウペリス・エッセと申します!皇女様からご挨拶をさせてしまい申し訳ございません」
「とんでもないです。セールビエンス様とお呼びしても?」
「も、勿論です!!」
「ありがとうございます。セールビエンス様。こちらは私のカエオレウム語の先生をしていただいているドゥ伯爵夫人です」
そう話をふれば、さすが海千山千であるドゥ伯爵夫人である。表情一つ買えずに模範的な微笑みを浮かべて優雅なお辞儀をし始めた。
「お初にお目にかかります。エッセ侯爵令嬢。ジェーン・ドゥと申します。宰相様には夫がいつもお世話になっております」
そんな風に和やかにお茶会がスタートしたのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

亡くなった王太子妃

沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。 侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。 王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。 なぜなら彼女は死んでしまったのだから。

番を辞めますさようなら

京佳
恋愛
番である婚約者に冷遇され続けた私は彼の裏切りを目撃した。心が壊れた私は彼の番で居続ける事を放棄した。私ではなく別の人と幸せになって下さい。さようなら… 愛されなかった番 すれ違いエンド ざまぁ ゆるゆる設定

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

【完結】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか?

曽根原ツタ
恋愛
「クラウス様、あなたのことがお嫌いなんですって」 エルヴィアナと婚約者クラウスの仲はうまくいっていない。 最近、王女が一緒にいるのをよく見かけるようになったと思えば、とあるパーティーで王女から婚約者の本音を告げ口され、別れを決意する。更に、彼女とクラウスは想い合っているとか。 (王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは身を引くとしましょう。クラウス様) しかし。破局寸前で想定外の事件が起き、エルヴィアナのことが嫌いなはずの彼の態度が豹変して……? 小説家になろう様でも更新中

浮気くらいで騒ぐなとおっしゃるなら、そのとおり従ってあげましょう。

Hibah
恋愛
私の夫エルキュールは、王位継承権がある王子ではないものの、その勇敢さと知性で知られた高貴な男性でした。貴族社会では珍しいことに、私たちは婚約の段階で互いに恋に落ち、幸せな結婚生活へと進みました。しかし、ある日を境に、夫は私以外の女性を部屋に連れ込むようになります。そして「男なら誰でもやっている」と、浮気を肯定し、開き直ってしまいます。私は夫のその態度に心から苦しみました。夫を愛していないわけではなく、愛し続けているからこそ、辛いのです。しかし、夫は変わってしまいました。もうどうしようもないので、私も変わることにします。

処理中です...