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遡った時間

8:皇女、最低男と再び会う

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アガタの魔法のおかげで王宮へ着く頃には私の馬車の両脇で多くの人々から祝福の声で迎えられた。
「皇女様、おめでとうございます!」
「ペルラ皇国の加護をカエオレウムにも!」
「美しい皇女様の慈悲を」
そんな声があちこちから上がっていた。
私は過去にもこんなに大きな歓声をこの国カエオレウムで貰った事はない。婚姻の際にも国民の前には出してもらえなかったし、お祭りのパレードや王家の行事でも私がバルコニーに立ち国民の前で何かをさせてもらえる事はなかった。
お飾りにすらさせまいと裏からあらゆる手を打たれていた。

「さて、皇女様。最後の締めくくりと致しましょう。ここはコラーロの方が適していると思いますが、私の幻術も捨てた物ではございませんよ」
ニコッとアガタが笑って手を叩くと、外では更に大きな歓声が響いている。
「今度は何を見せているの?」
「空からキラキラした物を降らせて天使にラッパを吹かせております」
「そう。美しいでしょうね」
見たくないといえば嘘になる。しかしアガタを知らないでこの場に居ることは有り得ないので、見えなくて良かったのだ。
私は側に合ったアガタの手をぎゅっと握りしめる。
「アガタ、ここから先、私が貴方を側から暇を出す、貴方を不要だと言う、そんな事を私以外の誰かから言われても決して信じないで。貴方が私の側を離れるのは私か貴方が死ぬ時だけ」
「当然です。何をおかしな事を」
「この国はおかしいのよ。私を亡き者にするためにこれからあらゆる事が起きるわ」
「皇女様・・・魔女から予知されたのですか?」
「いいえーーでも知っているの。ーーさぁ、10秒後に開けられるこの扉の先は私たちーーいいえ、ペルラの地獄よ」


ガチャリといささか乱暴に開けられた扉から、外の空気が入り込んでくる。
目の前には赤い絨毯がひかれており、その先にはカエオレウム国王とーーオケアノス、憎い憎いあの男が立っていた。

「ルサルカ姫、ようこそ我が王国カエオレウムへ」
「ペルラ皇国ランチャ10世が末娘、ルサルカ・トリトーネと申します。オケアノス殿下よりどうぞ僅かばかりの慈悲を頂けますようお願い致します」
ゆっくりとお辞儀をすると、王は目を見開いていた。
それはそうだろう。
王は自身が成り上がりの家柄である事を重々知っているのだ。そしてそれを他の国々で揶揄されていることも。
「なんとっ!これから夫婦になると言うのに、いささか他人行儀過ぎやしないか。我が息子のオケアノスはそのように堅苦しいのは…」
「いいえ、偉大なる王様。私のような些末な者に正妃などはとてもとても勤まりません。どうぞ、まずは側妃で試していただくので結構でございます」
というか、結婚もできれば避けたいのよ。さっさとサラと結婚しなさいな。私は喜んでペルラに帰りますから。

オケアノスは……ああ、私が頭を下げている事にただ優越感に浸ってるだけのようね。
前の時は気がつかなかったけど、この時点でも分かるくらい大変な小物だわ。こうして遠路はるばるやって来ている、若い姫、それも自分の妻になろうとする女性に対してもっと気を配っても良いのではないかしら。
更に適当にサラにも声をかければ、彼女もすぐに私にマウントをとってくるじゃない。
あなた方本当にお似合いね。

「して、ルサルカ皇女、そこに居るのは誰であるか?」
王の言葉はシドン達を指していた。シドンが跪こうとするのをそっと制し、私からシドンに対して微笑みかけた。
「この者達が、私と供のアガタをここまで送って下さったのです。ペルラ皇国我が国から出国する際、の不手際で乗り込む船を間違えてしまったのですが、誤って乗り込んでしまった私どもを親切にも歓待してくれ、更にはカエオレウムには恩があるからとここまで丁重な扱いで連れて来てくだすったのです」
「なんと!?我が国からの使節団がペルラ皇国側へ言ったはずであるが…」
王は驚き、そう言ったので、私は大げさに言ってやる。
「我が国は長らく他国を迎えなかったので、手配を誤ったのでしょう。しかし、王やカエオレウム国民の人徳でリビュア人であるシュケレシュの方々が助けてくださいました。このような国に来る事が出来、光栄ですわ」
だめ押して、上目遣いで微笑んでやれば、王もオケアノスも頬を赤らめた。
とても気持ちが悪いと思うけど、ぐっとこらえてシドンの方へ目配せをした。
するとシドンも私と同じ気持ちだったようで、肩を竦めてみせてから、跪いて申し開きをし始める。

「シュレケシュというしがない商団をしているシドンと申します。恐れながら、でペルラへ行っていたのですが、そこで手違いが合ったようです。皇女様には大変なご不便をさせてしまいましたが、寛大な心でお許しいただけました」
「別件?ペルラが商団とやり取りをしているのか?」
王がそう疑問をぶつけたところでテンペスタス子爵が割って入る。
「私が彼にフォローを頼んだのです。ペルラは外部の船、それも大型の船には特に警戒心が強いとの噂を耳にしていたので」
「はい。テンペスタス子爵様の#お申し付け_・__#で私どもシュレケシュは動いておりました」
「なるほど。ーーテンペスタス子爵はさすがに読みが深い!お陰でルサルカ皇女に何事もなかったこと、大儀である」

なんて言って豪快に笑う王に私も追従して頷いてみせたけど、目が合ったテンペスタス子爵の苦々しい視線には笑いをこらえるのが大変だった。
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