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遡った時間
1:騙された皇女
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広場では市民達がざわつきながら正面にいる私を、処刑人の前に首を差し出している元王妃ルサルカを見ている。
嘲るような、一部では哀れむような、生まれて初めて向けられる視線。
なんでこんな事になってしまったのだろう。
お父様、お姉様達…。ごめんなさい。私、ちっとも幸せになれなかった。
「お父さん、あのおばさんはなんで処刑されるの?」
「なんでも新しいお妃様に焼きもちを焼いて、暗殺しようとしたり毒を飲ませたりしたそうだ」
「えーっ毒?!なら悪いおばさんなんだね!」
「それだけじゃないらしいぞ。なんでも、元々オケアノス王とサラ王妃は思い合っていたのに、あの悪女ルサルカが2人の仲を引き裂いてオケアノス王子と結婚するように祖国の皇帝に頼み込んだんだとさ」
「結婚してすぐにサラ王妃を嫌がらせでドレスを破いたりして結婚披露宴に出られなくしたり、サラ王妃の家柄である子爵の領地に皇国の軍隊やならずモンを送ったりっていう陰険な嫌がらせもしてたそうよ」
「でもっ!オケアノス王は純粋なるサラ王妃への愛は絶やさずに、悪女ルサルカには一度だって愛を向けなかったらしい」
最後に耳に入ってくるのがこんな話なんて。
この国は最後まで私に嫌な思いしかさせないのね。
一つも本当の事がないじゃない。誰がこんな嘘をばらまいたのかしら。
「皇女様…」
あら、今この国で私をそう読んでくれる人もいるのね。
声の距離的にこの処刑人かしら。
「あなた、ペルラの関係者かしら?」
「へぇ。祖母がペルラ出身で…なのに俺が皇女様の首を切らんといけないなんて」
「いいのよ貴方のせいじゃないわ。もう済んだ事だもの。ああ、悪いと思うのなら絶対に失敗しないで欲しいわね。一回で終わりにして」
「勿論ですーーと言いたいですが…無理だ」
「あら?そんなに腕が悪いのかしら」
「違うんすよ。先ほどサラ王妃が来てあっしの商売道具を見て悲鳴を上げながら言ったんす。『こんな鋭い刃でルサルカを切ると言うの!?だれか、もっと歯が弱そうな斧をっ』って。鋭くなっきゃ、何度振り下ろそうが切れないって、スパンと切れなきゃ血が出終わるまでノコギリのようにひかなっきゃならねぇ。それなのに王も周囲も『サラ王妃はお優しい。悪女の処刑に対しても慈悲を持つなんて』って言うんだよ。切れ味の悪い斧で首を切るなんてのは優しさではねぇのに。それにあれは俺の大事な商売道具だったんだ」
本当にサラは優しいのね。いえ、違うわね…優しく見せるのが上手いのね。
私が少し目線を上げて、向かいのホテルのバルコニーを見ると、オケアノスとサラが並んで私を見下ろしていた。そしてサラは左の唇だけを歪に大きく上に挙げて、私を嘲笑っていた。
その表情を見た時に全てを察した。
ああ、この国に来てから起きた私への嫌がらせは全部彼女が仕組んだんだ、と。
周り中が敵だと思っていて、その中で唯一心を許せるのがサラだと思っていた私がバカだったのだ。
私は後ろで縛られていた手で、少しだけ動かせた右手の人差し指を八の字に回した。
すると、処刑人が持っていた斧の刃が瞬く間に新品になった。
「なっ」
「これで上手く切れるかしら?」
「あ、あんたは本当に皇女様なんだな。ばあちゃんが言ってた通りだ。ペルラの皇族は嫁に来る時に魔女から魔法を貰ってくるって」
「意味なかったけどね…。さ、あんまり時間をかけると怪しまれるわよ。一思いにお願いするわ」
「皇女様、すまねぇ。俺のようなもんじゃ碌な墓は作ってやれネェが、必ずーー」
刃物が風を切る音がしたと思うと、処刑人の声が途切れた。
本当に腕の良い処刑人だったのだろう。
と、その瞬間
『もう一回』
聞いた事のない声がした。
◆◆◆◆◆◆◆
「ルサルカ様ーー準備はよろしいですかい?」
懐かしい声で我に返る私の目の前に居たのは、乳母であった、魔女のストレガだ。
「ストレガ!?…あれっ?」
「どうしたんですかい?先ほどの話を聞いてなかったのですか、まったく。明日というかあと半日でルサルカ様はお嫁に行かれるのですからしっかりなさいませ。私からの最後の贈り物の説明中ですよ」
ストレガからの贈り物。それは皇女が他国に嫁ぐ時に与えられる魔法の事だ。
皇女達は魔女ではないから、常に使える魔法を貰える訳ではない。
1回だったり、限定的な物だったりする。
例えば、1番上の姉は3回だけ未来が見える魔法を貰ったらしい。2番目の姉はどれだけ飲んでも酔わない魔法、3番目の姉は1人だけ記憶を消せる魔法、4番目の姉は・・・なんだったかしら。とにかく微妙に微妙な魔法を貰うのだ。
私が貰ったのはーー
「仕方がありませんね、もう一度説明しますよ」
「いいえ、大丈夫よ。古いものを新しくする事が出来る魔法よね。でもストレガ、それよりも私違う魔法が欲しいんだけど…出来るかしら?」
王国に嫁ぐのは半日後。
今から騒いでもどうしようもない。
最後に広場で言われていた『結婚を私が望んだ』というのは完全に嘘で、私は一切望んじゃいない結婚だった。
この結婚は私の祖国を守る為の交換条件、つまり政略結婚なのだ。
つまり、逃げる事も出来ない。
それならやるっきゃない。
どうせもう一回あの生活を過ごすなら、今度は結婚してもさっさと離婚するか逃げるかして生き延びるてやるし、ついでにあの人達に復讐をしてやろうじゃないの。
嘲るような、一部では哀れむような、生まれて初めて向けられる視線。
なんでこんな事になってしまったのだろう。
お父様、お姉様達…。ごめんなさい。私、ちっとも幸せになれなかった。
「お父さん、あのおばさんはなんで処刑されるの?」
「なんでも新しいお妃様に焼きもちを焼いて、暗殺しようとしたり毒を飲ませたりしたそうだ」
「えーっ毒?!なら悪いおばさんなんだね!」
「それだけじゃないらしいぞ。なんでも、元々オケアノス王とサラ王妃は思い合っていたのに、あの悪女ルサルカが2人の仲を引き裂いてオケアノス王子と結婚するように祖国の皇帝に頼み込んだんだとさ」
「結婚してすぐにサラ王妃を嫌がらせでドレスを破いたりして結婚披露宴に出られなくしたり、サラ王妃の家柄である子爵の領地に皇国の軍隊やならずモンを送ったりっていう陰険な嫌がらせもしてたそうよ」
「でもっ!オケアノス王は純粋なるサラ王妃への愛は絶やさずに、悪女ルサルカには一度だって愛を向けなかったらしい」
最後に耳に入ってくるのがこんな話なんて。
この国は最後まで私に嫌な思いしかさせないのね。
一つも本当の事がないじゃない。誰がこんな嘘をばらまいたのかしら。
「皇女様…」
あら、今この国で私をそう読んでくれる人もいるのね。
声の距離的にこの処刑人かしら。
「あなた、ペルラの関係者かしら?」
「へぇ。祖母がペルラ出身で…なのに俺が皇女様の首を切らんといけないなんて」
「いいのよ貴方のせいじゃないわ。もう済んだ事だもの。ああ、悪いと思うのなら絶対に失敗しないで欲しいわね。一回で終わりにして」
「勿論ですーーと言いたいですが…無理だ」
「あら?そんなに腕が悪いのかしら」
「違うんすよ。先ほどサラ王妃が来てあっしの商売道具を見て悲鳴を上げながら言ったんす。『こんな鋭い刃でルサルカを切ると言うの!?だれか、もっと歯が弱そうな斧をっ』って。鋭くなっきゃ、何度振り下ろそうが切れないって、スパンと切れなきゃ血が出終わるまでノコギリのようにひかなっきゃならねぇ。それなのに王も周囲も『サラ王妃はお優しい。悪女の処刑に対しても慈悲を持つなんて』って言うんだよ。切れ味の悪い斧で首を切るなんてのは優しさではねぇのに。それにあれは俺の大事な商売道具だったんだ」
本当にサラは優しいのね。いえ、違うわね…優しく見せるのが上手いのね。
私が少し目線を上げて、向かいのホテルのバルコニーを見ると、オケアノスとサラが並んで私を見下ろしていた。そしてサラは左の唇だけを歪に大きく上に挙げて、私を嘲笑っていた。
その表情を見た時に全てを察した。
ああ、この国に来てから起きた私への嫌がらせは全部彼女が仕組んだんだ、と。
周り中が敵だと思っていて、その中で唯一心を許せるのがサラだと思っていた私がバカだったのだ。
私は後ろで縛られていた手で、少しだけ動かせた右手の人差し指を八の字に回した。
すると、処刑人が持っていた斧の刃が瞬く間に新品になった。
「なっ」
「これで上手く切れるかしら?」
「あ、あんたは本当に皇女様なんだな。ばあちゃんが言ってた通りだ。ペルラの皇族は嫁に来る時に魔女から魔法を貰ってくるって」
「意味なかったけどね…。さ、あんまり時間をかけると怪しまれるわよ。一思いにお願いするわ」
「皇女様、すまねぇ。俺のようなもんじゃ碌な墓は作ってやれネェが、必ずーー」
刃物が風を切る音がしたと思うと、処刑人の声が途切れた。
本当に腕の良い処刑人だったのだろう。
と、その瞬間
『もう一回』
聞いた事のない声がした。
◆◆◆◆◆◆◆
「ルサルカ様ーー準備はよろしいですかい?」
懐かしい声で我に返る私の目の前に居たのは、乳母であった、魔女のストレガだ。
「ストレガ!?…あれっ?」
「どうしたんですかい?先ほどの話を聞いてなかったのですか、まったく。明日というかあと半日でルサルカ様はお嫁に行かれるのですからしっかりなさいませ。私からの最後の贈り物の説明中ですよ」
ストレガからの贈り物。それは皇女が他国に嫁ぐ時に与えられる魔法の事だ。
皇女達は魔女ではないから、常に使える魔法を貰える訳ではない。
1回だったり、限定的な物だったりする。
例えば、1番上の姉は3回だけ未来が見える魔法を貰ったらしい。2番目の姉はどれだけ飲んでも酔わない魔法、3番目の姉は1人だけ記憶を消せる魔法、4番目の姉は・・・なんだったかしら。とにかく微妙に微妙な魔法を貰うのだ。
私が貰ったのはーー
「仕方がありませんね、もう一度説明しますよ」
「いいえ、大丈夫よ。古いものを新しくする事が出来る魔法よね。でもストレガ、それよりも私違う魔法が欲しいんだけど…出来るかしら?」
王国に嫁ぐのは半日後。
今から騒いでもどうしようもない。
最後に広場で言われていた『結婚を私が望んだ』というのは完全に嘘で、私は一切望んじゃいない結婚だった。
この結婚は私の祖国を守る為の交換条件、つまり政略結婚なのだ。
つまり、逃げる事も出来ない。
それならやるっきゃない。
どうせもう一回あの生活を過ごすなら、今度は結婚してもさっさと離婚するか逃げるかして生き延びるてやるし、ついでにあの人達に復讐をしてやろうじゃないの。
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