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僕と令嬢といつものふたり

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それは僕が自分の部屋で1人、魔法薬の販売方法だとか売り先、ビジネスプランを考えていた時のことだった。
エノームが作った魔法薬の効果は折り紙付きだし、仕入れ先は信頼出来るし、ターゲット層も明確だし、と悩むまでもないビジネスだ。でもどうせやるなら一番効果的なやり方をしたいから色んなやり方を考えている。
会員制紹介制、サロン販売、オークションは目立ちすぎる。
一度に生産出来るのは20本くらいで、隔週くらいでなら作れそうって言ってたっけ?

「まぁぁぁ?!ガスピアージェ様!?」

ん?メイドの声だ。ガスピアージェってことはエノームだろうけど、なんでそんなに驚いてるんだろ?エノームがくるのなんていつものことなのに。
「エノームいらっしゃー……、あれ?ベグマン様もご一緒なの?」
僕の声にも気がつかず、2人は言い争いをしている。
「一体今のはなんなのですか?!せめて一言断ってからすべきでしょう!?!」
「転移魔法です。ほらプランのところに着きましたよ」
「そうではなくてっ!!先ほども申し上げましたけどもっ、私は女性なのですよ!!もうっ!!ありえない!!!」
そう叫んだと思うとベグマン様は泣き出してしまった。

「ええ~?何この修羅場」
「修羅場と言えなくもないですが、感情が制御出来ていないのはベグマン様だけですので、やはり違うと思います」

目の前で女の人が泣いているのに、エノームは冷めた緑色の目を呆れたと言わんばかりに細めていた。
エノームは昔から誰にでも親切だし口調が丁寧だから『優しい』と言われていたりするけど、それはマナーとしての親切さで、基本はシニフェ様以外に対して悩んだり焦ったりしない。
勿論昔から一緒に居るのだから僕だって仲は良い。だけど、多分、僕が泣いても焦ったりはせずに冷静に対応してくれるだろう。

「…まぁ、ベグマン様も相手が悪かったと思ってお茶でも飲んで落ち着いてください。僕が今気に入っているお茶とお菓子はおすすめですよ~」
「グラン様!ありがとうございます。この方、ガスピアージェ様は私の事がお嫌いなんですか?」
「いえ?嫌いでございませんよ。興味がないだけです」
「きぃぃっ!」
「またそうやって火に油を注ぐような事を言う~。大丈夫ですよベグマン様、エノームはシニフェ様の事しか見えていないだけです」

ハンカチを噛みそうになっているベグマン様を宥める為に、僕は応接室へ連れて行くことにした。
廊下を歩きながらふと左下、ベグマン様の右後ろ頭をみると、以前僕が渡した髪飾りが着いていた。
「その髪飾り使ってくれているんですね~。使い心地はどうですか?」
「あの折はありがとうございました。とても素晴らしいです。私は毛の量が多いので、普通のバレッタではどうしても髪の毛が治まりきらなかったのですけど、これなら上手く留っていてくれます」
「へぇ~、そういう利点もあるんですね。やっぱり使ってみないと分からないもんですねぇ~。良い感想を聞けました」
「でも本当にいただいてしまって良かったのですか?」
「今のコメントだけでも十分ですよぉ。ベグマン様のような悩みは他の方もあるでしょうし、ウチの母は毛が柔らかいから?使えないらしくて~」
「確かにこれは髪の毛が柔らかい方では逆に落ちてしまいそうですわね。あ、でもここの棒の部分を、こう、コーム状にしたら留るかもしれませんわ」
「!?ベグマン様、今度、今話していた形を絵に描いていただけませんか?お手透きの際にで構いませんので!!」
やっぱり普段使っている女性でないと分からない点があるんだな。
これからも何でもまずはサンプルは作って確認するようにしよっと。
あれ、しまった。
癖でベグマン様の手を掴んじゃってる。

「ごめんなさい~。癖で握っちゃいました。拭くもの用意させますから」
「ーーいえ」
「あ、ここが応接室です~。すぐ手を拭く物とそれとお茶とお菓子を用意させるので、くつろいでいて下さいね~。それにしてもエノーム遅いなぁ」


◆◆◆◆◆◆

そしてお茶とお菓子を楽しんでいると、話を聞きつけたシニフェ様がいらっしゃった。
ベグマン様がすこし怒っているような言い方をすると、エノームと2人で顔を見合わせて小声で話をし始めていた。
そんな通常運転の2人を眺めながらお茶を飲んでいると、隣に座っていたベグマン様がカップを置いた。
「あのおふたりはいつもあんな感じなんでしょうか」
「そうですね~、大体あんなです。普段は僕も一緒にいますけどね~」
「ガスピアージェ様は先ほどはあんなに能面のように表情が変わらなかったのに、グランメション様とご一緒だと微笑まれるのね」
「エノーム無表情ですかね?僕らといるときは普通に爆笑とかしますよ。でもまぁ、あんな風に笑うのはシニフェ様に対してだけですね」
「グランメション様も普段よりも気を抜いているように見えます。おふたりともああされていると年相応にみえますわね」

ベグマン様は再びカップを持ってお茶を飲まれた。
シニフェ様達を眺めながら話をしていたので、僕もベグマン様もお互いの顔は見れていないから、どんな表情でそう言ったのかはわからない。
でもそれは昔から僕が思っていることと同じことだった。
僕はその珍しい表情をしている2人を見ているのが好きで、同じ点に気がついてくれた人が居ることが妙に嬉しかった。
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