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魔界奮闘

時の満ち欠け

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衝撃的な事実から、ようやく立ち直ったアルソネは、熱い炭豆茶をすすると、一言。
「ワシは青茶の方が好きじゃな・・・」

そんなわがままは無視して、俺は本題を切り出した。
「それより学者アルソネ、例の神の石化を解く話を・・・」

「うむ・・そうじゃったな、結論から言うと、神の石化は、一級神の力でも借りなければ解呪するのは不可能じゃ」

それって・・さっきの話からすると、三級神以上の神は、この世界に存在できないって話だから、実質、それも不可能ってことじゃないか・・
「なっ! いや、それじゃ困ります。なんとかなりませんか」
そう俺が言うと、アルソネが、少しもったいぶって間を作ると、こう話してきた。
「そこでだ、発想の転換じゃ、ワシはやはり頭が良い」
「はい。それはすごく理解しましたので結論をお願いします」

「その、石化した者の時を戻すのじゃ」
「時を・・・」
「そうじゃ、石化する前の時まで戻せば良いのじゃ」
「そんなことできるんですか!」
「できる。この世界のどこかに、『時の満ち欠け』という神器が存在する。それを使えば、可能のはずだ」
「時の満ち欠け・・・それでその神器はどこにあるんですか」
「そんなのは知らぬぞ。どんな物かもわからぬ」

「・・・・・それじゃ、どうやって探せば良いですか」
「そうじゃの、地道に情報を集めるのじゃな」

アルソネの情報はここで打ち止めのようである。だけど、希望は見えた。さっきまで、可能性が全くなかった状態から考えたら、これは大きな進展である。

「学者アルソネ、ありがとうございます。俺は『時の満ち欠け』を絶対に探してみせます」
それを聞いたアルソネは、ニコニコと微笑むと、ジラルダをここに呼んだ。
「紋次郎、このジラルダを一緒に連れて行くがよい。ジラルダは古の神器の知識では、このワシを上回る知識を持っておる。必ず役に立つだろう」

「え、それじゃ、アルソネが困るんじゃないの、それにジラルダさんの意思もあるだろうし」
「私は全然構わないですよ。紋次郎さんに手取り足取り・・色々教えればいいんですよね・・あら・・ちょっと興奮してきました」

なんか別の意味で心配になってきた・・

「ワシは弟子の一人や二人いなくなっても困りゃせんよ。また一人で地道に調べ物をするだけじゃ」

学者アルソネはそう言ってくれる。確かに、古の神器の知識のある人がいると、大変助かると思われた。俺はその提案をありがたく受けることにした。
「そこまで言ってもらえるのなら、遠慮せずに、ジラルダさんをお借りします」
「うん、うん。色んなことを教えてもらうがよいぞ」

それがどういう意味かはわからないけど、頼りになる存在なのは間違いなかった。

俺たちは、その後、すぐにそのダンジョンから脱出する。途中、何度かモンスターと戦闘になったけど、ケルベロスのダッシュに瞬殺されたり、ヴィジュラに切り刻まれたりして、特に問題なく、外に出ることができた。

「さて、紋次郎、これからどうしますの」
アスターシアのその言葉に同意するように、リリスも言葉を続ける。
「そうじゃ、紋次郎。リンスたちと合流するにも、ここからリンネカルガは遠いぞ。どうやって移動する気じゃ」

確かに困った。俺とスフィルドだけなら、スフィルドの高速飛行でひとっ飛びだけど、今はヴィジュラとかダッシュとかジラルダさんもいる。こんな時に、天馬艇があれば楽なんだけど・・・

「やはり獣車で地道に向かうしかないかな・・」
俺がそう言うと、アスターシアとリリスが青い顔をしている。獣車が嫌だと無言の圧力でそう言ってくる。そんな圧力に屈した俺は、他の方法を考えるしかなかった。

「え・・と、そろそろ、リンスたちの修行も終わる頃だよね。あれだったら向かいに来てくれないかな・・・」
「それだですわ!」
「そうじゃな、天馬艇で向かいに来てもらおう。それが一番じゃ」
「ですが、どうやって連絡すれば良いかしら・・」

「私が連絡を入れましょう。アズラヴィルに伝えれば良いですか?」
そう気の利いたことを言ってきたのはスフィルドであった。
「そんなことできるの? アズラヴィルに伝えれば大丈夫だけど・・」
「私は目がいいですけど、声も大きいのですよ。同族で大きな力を持っている彼女になら、私の声が聞こえるでしょう」
そう言って、目を閉じた。

しばらくすると、スフィルドが目を開いてこう言ってきた。
「話は終わりました。アズラヴィルが迎えにきてくれるそうです」
「ナイスじゃぞスフィルド。これで獣車に乗らんですむ」

リリスとアスターシアは心底嬉しそうである。しかし、迎えに来るのは明日になるそうなので、今日はまたしてもここでキャンプをすることになった。
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