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塔の戦い

究極蘇生

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小さな村に、その小さな世界に似合った英雄がいた。彼はダンジョンなどを探索する冒険者であった。冒険から帰ってくると、村の子供たちに、外で経験した冒険の話してくれた。それは狭い世界しか知らない子供たちには新鮮で刺激的な話であった。

当たり前のように、子供達は冒険者という存在に憧れ、自分もいつか未知の場所へ,
己の力を信じて冒険の旅へと出たいと考えるようになっていた。そんな子供達の中でも、実際に冒険者になったのは少数であった。ファミュはその中の一人であった。

親はかなり反対したが、彼女の決心は固いものであった。家出同然で村を出て、冒険者としての一歩を踏み出した。

初めてモンスターを倒した時、初めてレベルアップした時、初めてダンジョンを攻略した時、初めて死んでしまった時、そんな無数の冒険の思い出が、すごい速さで駆け巡っていく。そんな思い出を巡る先に、大きく、眩しい光が見えた。それはファミュにとって最も新しい記憶・・その暖かい光に包まれた彼女は、すごく満たされた気持ちで、その思い出の旅から抜け出していく。

ファミュの目の前に、心配そうに見つめる紋次郎の顔があった。彼女は一気に顔が赤くなり、何かに気がつかれてはダメだと目を背ける。

「ファミュ、胸の傷は治しておいたけど、他にどこか痛いところとか無い?」

傷・・ファミュは胸に手を当てて傷口を確かめる。確かに傷がなくなり、痛みも無くなっていた。だが、そんなことより、切れた服の間から、ファミュの、とても自慢できない小さな胸が丸見えになっているのに気がついた。顔から火が出るくらいの恥ずかしさがこみ上げる。すぐに胸に手を当ててそれを隠す。
「あ・・ごめん少し見ちゃったけど、なるべく見ないように治療したから・・」

少し見ちゃった・・なぜそこで正直にそんな話をするんだ・・そこは嘘でもいいから見てないと言うべきであろうに・・ファミュは今まで経験したことないような恥ずかしい気持ちでそこに蹲《うずくま》る。その姿を見て勘違いした紋次郎は心配する。
「ファミュ、やっぱり他に痛いところあるのかい? ちょっと見せてみて」
そう言って紋次郎は何を思ったか、小さな胸を隠している手をどかした。

「きゃっ」
「あっ、ごめん・・」
「ちょっと着替えますから、向こうを向いていてもらえますか・・・」
「あ・・そうだね・・わかった」

ファミュは荷物から新しい服を取り出すと、それに着替え始めた。彼女の持っている衣服は、どれも軽装で着替えやすいものばかりなので、着替えはすぐに終わった。
「もう・・大丈夫です・・」
そう言うファミュの顔はまだ赤い。

「さて、みんなを生き返らせようか」
紋次郎のその言葉にファミュは心底驚く。
「生き返らせるって・・紋次郎、あなたは蘇生ができるのですか?」
「まだやったことないけど多分できると思うよ」

やったことないけど多分できるって・・そんな不思議なことがあるんだろうか・・本当にこの人は底が見えないというか・・

「アルティメット・リザレクション!」
紋次郎の使った魔法は、究極蘇生の魔法であった。触媒無しで、速攻蘇生する最強の蘇生魔法で、灰になった遺体からも蘇生できる強力な魔法であった。しかし、膨大な魔力を消費する為に、使用できる者は限られていた。

ファミュは驚きで呆然としていた。あの究極蘇生を連発できる人間がいるなんて想像もしていなかった。紋次郎は死んだ仲間10人を休憩もしないで全員蘇生したのだ。

「おい、状況がわからないんだが、どうなった?」
生き返ったギュネムがファミュにそう聞いてきた。

「バロンは紋次郎が倒しました。そして死んだ全員を蘇生してくれた」
「なんだと! レベル82の奴にどうしてそんなことができるんだ!」
「わかりません・・・」

本当にわからなかった、どうしてそんなことができるのか・・
「よし、本人に聞いてみよう」
ギュネムはそう言って紋次郎に直接聞きに行く。ファミュはそれを止めようとしたけど、やはりその秘密がきになるのか、結局一緒に紋次郎の元へやってきていた。

そしてどうしてレベルに見合わないことを、いとも簡単にできるか聞いてみると、紋次郎は軽く教えてくれる。

「ええと、この剣のおかげかな・・実はこれはゴット級の剣で、すごい能力があるんだよ」

「何ゴット級の剣だと! ちょ・・ちょっと見せてくれ!」
ギュネムは紋次郎から剣を受け取ると、嬉しそうにそれを見やる」
「すげ・・・ゴット級の武器なんて初めて見たよ・・」

しかし、ファミュは、その紋次郎の警戒心のないその行動に注意を促す。
「紋次郎、そんな情報をおいそれと話してはいけないですよ。私たちがすごい悪人で、その貴重な剣を奪おうとしたらどうするんですか」
「え、だって仲間だし、悪人じゃないだろう」

ファミュはそんな素直な紋次郎に、さらに好感を持ってしまう。紋次郎の存在が、少しずつ彼女の中で大きくなっていくのを本人も気がついていた。
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