135 / 200
塔の戦い
もう一体の聖獣
しおりを挟む
「バロンがもう一体・・・・」
ファミュは絶望の声をあげる。いくら強敵でも、相手が一体ならなんとかなるとそう考えていたのだが、この状況にはさすがに焦りを隠せない。
静観していた紋次郎だが、さすがに仲間が次々殺られていくこの状況にいてもたってもいられなくなった。すぐに剣を構えてバロンへ走り寄る。それを見たファミュは大きな声でそれを制止した。
「紋次郎! こっちに来てはダメです! あなたが来てもただ死ぬだけです」
だが、紋次郎はファミュのその制止を聞かず、バロンに近づく。ファミュは、そんな紋次郎を見捨てることができずに、加速してバロンとの間合いを詰めていく。
バロンは、接近する紋次郎を葬るために、口を大きく開けて、あの強力な咆哮をあびせようとした。そこへファミュが躍り出て、バロンの頬に強力な回し蹴りを食らわす。
蹴りを食らわしたファミュは、違和感を感じていた。それは最初の一体目を攻撃した時との違いである。重い・・感触が重くて硬い・・それは同じバロンであっても、後から現れたこちらの方がはるかに強いことを意味していた。
ファミュのその感覚はすぐに証明された。蹴りで少しバランスを崩していたが、すぐに態勢を立て直したバロンは、その鋭い爪でファミュを切りつける。胸に熱い痛みが走り、血が噴き出す。そのまま攻撃の衝撃で数十メートルほど吹き飛ばされた。
ファミュに油断はあった。一体目のバロンと同じ強さとの認識で動いていて、想定外の反撃を受けてしまった。胸から血を吹き出しながらヨロヨロと立ち上がる。そんなファミュの前に、大きな口を開けてバロンの牙が目の前に迫っていた。
もうダメか・・そう死を覚悟した瞬間、バロンの動きが止まる。そして少しずつ、その止まったバロンの顔が下へ落ちていく。バロンの頭は体から切り離されていた。そしてその頭が完全に地面に落ちると、残った体から鮮血が吹き出した。その横には剣を振り切った紋次郎がいる。彼の剣が、バロンの首を一撃で切り落としたようであった。だが、ファミュは少しの時間、何が起こったのか理解できなかった。
「ファミュ、大丈夫?」
レベル82の冒険者が、伝説級冒険者が手を焼いていた敵の頭を一撃で切り落とした。とてもじゃないけどそんなことが起こるとは夢にも思っていなかった。
「紋次郎・・・あなたは一体・・・」
その瞬間、ものすごい轟音が響き渡る。あの巨体のゴン太が吹き飛ばされてきた。紋次郎はゴン太に近づいて声をかける。
「ゴン太、ありがとう。あとは任せて」
紋次郎はこれまでの数々の戦いで、相手の力量が少しは測れるようになっていた。あのバロンという敵は、自分の力で十分倒せる相手だと判断した。
紋次郎は、バロンに向かってゆっくり歩き出す。そんな紋次郎に、傷つきフラフラのファミュもついてこようとする。それを紋次郎は手をファミュの前に出して、満面の笑みで制止する。
「紋次郎、しかしあの敵は・・」
「大丈夫、任せて、俺が倒してくるから」
そんなことを言われたのは何年ぶりだろうか・・まだ、下級冒険者だった頃に、自分に色々なことを教えてくれた先輩冒険者に、同じようなことを言われたのを思い出す。その後、その先輩冒険者は、無謀にも天然ダンジョンの攻略に挑み、帰らぬ人となった。
ファミュが、そんな昔のことを思い出していると、紋次郎が走り出す。レベル82とは思えないスピードで、バロンに近づいていったのだが、ここでさらに信じられないようなスピードに加速する。それは伝説級冒険者の自分を遥かに上回る、ファミュが今まで見た誰よりも早い動きであった。
バロンに近づいた紋次郎は、人間離れした剣速でバロンに剣を叩き込む。その攻撃速度に驚かされるが、さらに驚きなのは、その剣の攻撃力であった。あの硬い体が、熟した果物のように簡単に切り刻まれていく。そして、バロンはあっという間に肉片と変えられた。
衝撃であった。伝説級冒険者のファミュは、他のどの冒険者よりあらゆる経験を積んでいる。色々な敵を見てきたし、色々な味方を見てきた。今、自分の見ている一人の男は、そんな自分のどんな経験にもない想定外の人物であった。
バロンを倒した紋次郎は、何事もなかったように剣を鞘に収めながらこちらに歩いてくる。一歩一歩近づいてくるその姿に、ファミュは目が離せなくなっていた。何やら胸が熱くなってくる。自らの心臓の音が、耳元で大音量で鳴っている。それは紋次郎が近づけば近づくほど大きくなっていき、目の前に来た時には、頭が真っ白になり、意識が遠のいていった。
ファミュは絶望の声をあげる。いくら強敵でも、相手が一体ならなんとかなるとそう考えていたのだが、この状況にはさすがに焦りを隠せない。
静観していた紋次郎だが、さすがに仲間が次々殺られていくこの状況にいてもたってもいられなくなった。すぐに剣を構えてバロンへ走り寄る。それを見たファミュは大きな声でそれを制止した。
「紋次郎! こっちに来てはダメです! あなたが来てもただ死ぬだけです」
だが、紋次郎はファミュのその制止を聞かず、バロンに近づく。ファミュは、そんな紋次郎を見捨てることができずに、加速してバロンとの間合いを詰めていく。
バロンは、接近する紋次郎を葬るために、口を大きく開けて、あの強力な咆哮をあびせようとした。そこへファミュが躍り出て、バロンの頬に強力な回し蹴りを食らわす。
蹴りを食らわしたファミュは、違和感を感じていた。それは最初の一体目を攻撃した時との違いである。重い・・感触が重くて硬い・・それは同じバロンであっても、後から現れたこちらの方がはるかに強いことを意味していた。
ファミュのその感覚はすぐに証明された。蹴りで少しバランスを崩していたが、すぐに態勢を立て直したバロンは、その鋭い爪でファミュを切りつける。胸に熱い痛みが走り、血が噴き出す。そのまま攻撃の衝撃で数十メートルほど吹き飛ばされた。
ファミュに油断はあった。一体目のバロンと同じ強さとの認識で動いていて、想定外の反撃を受けてしまった。胸から血を吹き出しながらヨロヨロと立ち上がる。そんなファミュの前に、大きな口を開けてバロンの牙が目の前に迫っていた。
もうダメか・・そう死を覚悟した瞬間、バロンの動きが止まる。そして少しずつ、その止まったバロンの顔が下へ落ちていく。バロンの頭は体から切り離されていた。そしてその頭が完全に地面に落ちると、残った体から鮮血が吹き出した。その横には剣を振り切った紋次郎がいる。彼の剣が、バロンの首を一撃で切り落としたようであった。だが、ファミュは少しの時間、何が起こったのか理解できなかった。
「ファミュ、大丈夫?」
レベル82の冒険者が、伝説級冒険者が手を焼いていた敵の頭を一撃で切り落とした。とてもじゃないけどそんなことが起こるとは夢にも思っていなかった。
「紋次郎・・・あなたは一体・・・」
その瞬間、ものすごい轟音が響き渡る。あの巨体のゴン太が吹き飛ばされてきた。紋次郎はゴン太に近づいて声をかける。
「ゴン太、ありがとう。あとは任せて」
紋次郎はこれまでの数々の戦いで、相手の力量が少しは測れるようになっていた。あのバロンという敵は、自分の力で十分倒せる相手だと判断した。
紋次郎は、バロンに向かってゆっくり歩き出す。そんな紋次郎に、傷つきフラフラのファミュもついてこようとする。それを紋次郎は手をファミュの前に出して、満面の笑みで制止する。
「紋次郎、しかしあの敵は・・」
「大丈夫、任せて、俺が倒してくるから」
そんなことを言われたのは何年ぶりだろうか・・まだ、下級冒険者だった頃に、自分に色々なことを教えてくれた先輩冒険者に、同じようなことを言われたのを思い出す。その後、その先輩冒険者は、無謀にも天然ダンジョンの攻略に挑み、帰らぬ人となった。
ファミュが、そんな昔のことを思い出していると、紋次郎が走り出す。レベル82とは思えないスピードで、バロンに近づいていったのだが、ここでさらに信じられないようなスピードに加速する。それは伝説級冒険者の自分を遥かに上回る、ファミュが今まで見た誰よりも早い動きであった。
バロンに近づいた紋次郎は、人間離れした剣速でバロンに剣を叩き込む。その攻撃速度に驚かされるが、さらに驚きなのは、その剣の攻撃力であった。あの硬い体が、熟した果物のように簡単に切り刻まれていく。そして、バロンはあっという間に肉片と変えられた。
衝撃であった。伝説級冒険者のファミュは、他のどの冒険者よりあらゆる経験を積んでいる。色々な敵を見てきたし、色々な味方を見てきた。今、自分の見ている一人の男は、そんな自分のどんな経験にもない想定外の人物であった。
バロンを倒した紋次郎は、何事もなかったように剣を鞘に収めながらこちらに歩いてくる。一歩一歩近づいてくるその姿に、ファミュは目が離せなくなっていた。何やら胸が熱くなってくる。自らの心臓の音が、耳元で大音量で鳴っている。それは紋次郎が近づけば近づくほど大きくなっていき、目の前に来た時には、頭が真っ白になり、意識が遠のいていった。
0
お気に入りに追加
179
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる