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ダンジョンウォー

飛翔王馬

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ポーズたちの救援に向かうリリスであったが、強大な気配が自分に迫っているのを察知する。それが救援に向かっているポーズたちの方角にいる気配の一つであることから、手間が省けて良いと考えた彼女はそこで相手を迎えることにした。

それは稲光と閃光のオーラを纏った大きな馬であった。リリスにとってそれは初見ではあったが、知識として、その存在が何なのかは認知していた。

「飛翔王馬とは、ちと面倒じゃな・・・」

強力な稲妻を操り、天を駆ける上級聖獣は、エミロの四天の一つであった。強力な力を持つこの敵を相手にしても、格と言う点ではリリスの方が上であった。しかし、相性が最悪である。飛翔王馬はリリスの得意とする魔属性、闇属性の耐性が高く、リリスの苦手とする雷属性の攻撃を得意としていた。

飛翔天馬が嘶く、それが戦いの開始の合図であった。

無数の雷撃がリリスを頭上から襲う。リリスは両手を上げて赤い衝撃波を放つ。すべての雷撃が衝撃波にぶつかり消滅する。だが、その攻撃は飛翔天馬の陽動攻撃であった。無防備になったリリスの体に、加速した飛翔天馬の体が体当たりする。

ストーンゴーレムをも粉砕するその体当たりを、まともに受けたリリスは後方へ吹き飛ばされる。雷撃を警戒するあまり、不意を突かれ、無視できないダメージを受けてしまった。

痛みに耐えて、リリスはすぐに反撃に出る。唱えるのは闇属性の魔法であった。飛翔王馬の周りに黒い触手が無数に現れる。それは黒触手縛《ダークネビラハンド》と呼ばれる拘束魔法であった。黒い触手は飛翔王馬に絡みつき、その動きを封じる。暴れる飛翔王馬であったが、その黒い触手から逃れることができない。

リリスは次の魔法を用意していた。それは風の攻撃魔法で、無数の風の刃が激しく回転して、敵に襲いかかる、エア・レジーストリームと呼ばれる魔法であった。通常は広範囲の敵を攻撃する魔法であったが、リリスは少しアレンジを加えていた。広く吹き付けるその範囲を絞り込み、人の胴体くらいの太さに圧縮して放った。

「エア・レジージェットストリーム!!」

拘束されている為に、飛翔王馬はその攻撃を避けることができなかった。数万の風の刃が飛翔王馬の体を切り裂く。数え切れない数の傷をつけられ、悲鳴のような鳴き声を発する。

これだけの攻撃を受けたが、飛翔王馬はまだ倒れてはいなかった。リリスはトドメを刺すべく、次の攻撃に移ろうとした。しかし・・飛翔王馬の様子がおかしくなる。先ほどのダメージが効いてきたのか、ものすごく苦しみ始め、悲痛な叫び声をあげながら震えるように暴れる。

本格的な変化が訪れたのは、飛翔王馬の動きが止まり、その目が白く変化した後であった。ムクムクとその体が膨張始める。黒触手縛《ダークネビラハンド》の触手を引きちぎり、最初の大きさの三倍ほどに膨れ上がっていた。稲光と閃光のオーラはどす黒く変色していき、禍々しいその姿には聖獣の面影がなくなっていた。

リリスにはその変貌に心当たりがあった。凶悪強化《アトロシャスブースト》。そう呼ばれる邪法である。その生命力を犠牲にして、自らの能力を大幅に強化する。しかしその代償は大きく、邪法の効果が切れると、蘇生できない死が待っている。しかし腑に落ちない・・飛翔王馬にはそれを自ら発動した感じには見えなかった。どちらかというと呪いのようなものに見えた。

凶悪な飛翔王馬は嘶く。リリスの周りに稲妻の塊が無数に出現する。それは全方位からの雷撃での攻撃であった。とても避けられないと判断したリリスは、小さく丸くなり防御体制をとる。そこへ無慈悲な雷の光が次々と襲いかかる。

防御体制により、そのダメージを最大限に軽減したが、苦手な雷属性の攻撃は確実にリリスの体にダメージを蓄積させる。

飛翔王馬は強力にパワーアップした自分の力に酔っていた。目の前にいるこの小さな敵など簡単に吹き飛ばせると感じていた。渦巻く禍々しいオーラを収束させる。飛翔王馬は、最後にして最強の攻撃を放つ準備をしていた。それを感じ取ったリリスは、初めて焦りを感じていた。
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