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ダンジョンウォー

屋敷の住人

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風呂場で見かけたメイド服の少女を探しに、服を着てすぐに外に出たつもりだけど、見渡しても彼女を見つけることはできない。やはり幽霊なので神出鬼没なのかな。とりあえず俺は、リュヴァとアスターシアを誘って屋敷内を探索することにした。

一階の食堂、調理場、エントランスなどを軽く回り、二階の客室などを探索する。ここまで特に変わったこともなく、メイドの少女を見つけることもできなかった。そのまま、まだ一度も行っていない三階に行ってみることにした。三階への階段を上がっていると、すぅーっと人影が通るのが見える。あのメイドの少女かなと急ぎ足で上に向かった。

俺たちが三階に到着すると、人影は奥の方へと向かっていた。薄暗いその廊下を、その影を追って奥へと進んでいく。しばらく進むと、廊下は1つのドアを終着点として終わりを迎えていた。そこには影の姿はなく、ドアを開け閉めする音も聞こえなかった。唐突に消えたその影に、少しの恐怖心が湧いてくる。

「紋次郎・・・怖いですわよ・・」
そう言ってアスターシアは俺の首元に入ってくる。リュヴァは俺の手をぎゅっと握る。

「とにかくこの部屋に入ってみようか」
「本気ですか紋次郎・・」
俺はドアノブを回し、ゆっくり静かに開けていく。少し開いたその扉の隙間を覗く。薄暗い室内はよく見えず、仕方ないのでドアを開けて中に入った。アスターシアが短い呪文を唱える。強い光が天井に浮遊してその部屋を照らす。アスターシアの使った魔法はライトと呼ばれる初級魔法で、一般的に広く使われている明かりの日常魔法である。しかしこの魔法侮れないくらいに明るい。元の世界にある蛍光灯より明るいんじゃないだろうか。

俺は明るくなった部屋を見渡す。ここは何かの研究施設のような部屋でった。幾つもの書物が並べられ、数多くのフラスコや薬品などの実験道具や、機械の部品のようなものまで置かれている。この部屋を見てアスターシアが口を開く。

「これはどうも、アルケミスト錬金術士の部屋のようですわ・・」
「アルケミスト?」

「錬金術士のことですわ、四大元素と三十三の小元素を使ってあらゆるものを生み出す創造者ですの、彼らの多くは優秀な魔導士であり、学者であり、職人であり、そして例に漏れず変人ですわ」

この部屋の荒れようと言うか、なんとも変人なのは納得できるような気がする。

「変人とは酷い言われようじゃの・・」
その声は俺の後ろから聞こえた、すぐに後ろを振り向く。そこには、古びた楕円形の帽子を深くかぶり、白いひげを威厳よく生やした、高齢の老人が立って・・・いや・浮いていた。

「わああああぁ! 出た!」
「出ましわ、紋次郎どうにかするです!」
「どうにかってどうすればいいんだ!」
俺とアスターシアがあたふたしてると、一人冷静なリュヴァが俺の前に出て、両手を広げこう言いはなつ。
「紋次郎、リュヴァが守る」
なんていい子なんだ、俺は後ろからリュヴァを抱きしめてしまった。

「ほほほほっ、何を怖がっておるんじゃ、わしはお主らに何もせぬぞ」
「でも・・あなた幽霊ですよね・・?」
「いかにも、わしは幽霊じゃ、ほほほほっ、しかし幽霊が悪さするとは限らんじゃろうに、まあ、立ち話も何じゃ、ちょっとゆっくり座って話を聞いてくれぬか」

幽霊とゆっくり話をすると言うのはちょっと考えていなかった。でも、この老人、決して悪い人には見えない。もしかしたら、話を聞けばそのまま成仏とかしてくれるんじゃないだろうか、淡い期待でその話を聞くことにした。

俺が部屋の隅にあるテーブルにある椅子に座ると、その老人は誰かを呼んだ。
「おい、ちょっとお茶を持ってきてくれるかい、カップはそう4つあれば良いぞ」

しばらくすると、お茶を入れたポットをトレイに乗せて、先ほど風呂場であったメイドの少女、確かカリスと言ったかな、その彼女が現れた。

「まあ、お客様、先ほどはぁ失礼しましただぁあ、美味しいお茶を入れたんで勘弁してくんろう」

そう言って彼女はカップを並べ、お茶を入れ始めた。お茶の清々しい香りと、暖かい湯気が立ち上る。芳醇にてキレのあるその香りを嗅ぐだけで、このお茶が美味しいのがわかる。

「それでおじいさん、お話とはどういったものですか?」
「ほほほっ、そうじゃのう、本題からいきなり話すが、この子・・カリスと言うのじゃが、この子を貰ってやってくれんかのう」

それは予想もしなかった話であった。幽霊のおじさんからメイドの少女を貰ってくれと頼まれ・・・さてどうしたらいいのだろうか。そもそも貰うとはどう言う意味であろうか・・まさか嫁にってことじゃないよね・・謎は深まるばかりである。
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