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ダンジョンウォー

起死回生

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地面に血だらけで倒れたグワドンを見て、リュヴァは声をあげる。リュヴァには回復の魔法が使えなかった。このままでは自分を守ってくれたこの巨人を死なせてしまうかもしれない。敵に囲まれ、絶望的なその状況の中でも、彼女はそう考えていた。

非情にも、敵からの攻撃は弱まることはなかった。リュヴァは倒れたグワドンをかばいながら、ブレスを吐いてそれに抵抗する。

小さなドラゴンの思わぬ抵抗に、ルイーナは眉を細める。ルチャダの無差別攻撃により、仲間にも甚大な被害を出していた為に、最後の一息に、少し力不足を感じていた。その場にいる者で、無傷なのはルイーナとルチャダくらいで、あとは満身創痍の状態である。

ルイーナは傷だらけで倒れる仲間の姿を見つめ、笑みを浮かべる。聡明な彼女には、ルチャダの攻撃で、このような状態になることは容易に想像できていた。ならばなぜそのような暴挙に出たのか、それはこの状況が、彼女にとって、何の問題のない小さなことだったからである。

ルイーナは長い詠唱に入る。それは最高クラスの回復魔法であった。戦闘中に回復魔法を使用するには、回復量より回復スピードが重要になってくる。回復に五分も十分もかかるようでは戦闘では使い物にならないからである。かなりの使い手のヒーラーでも、その戦闘用の回復魔法の精度は、十秒の回復スピードで10%ほどの回復量が良いところであった。しかし、ルイーナの回復魔法は次元が違った。五秒で100%・・しかもそれは範囲内にいる、すべての仲間を回復するものであった。

「ハイエスト・ヒーリング・レイン!」
虹色の光のシャワーが降り注ぐ。それは完全なる癒しの雨であった。腹に大きな穴を開けて呻いていた戦士がむくりと立ち上がり。腕がちぎれ、痛みで気を失いそうになっていたハンターの腕が再生され、弓を手に取る。さすがに死亡している者の蘇生はされないが、瀕死の者はすべて完全復活した。

目の前の状況に、リュヴァは焦りの色を隠せない。ボロボロの状態の敵の攻撃でも、ギリギリでその対応していたのである。万全の状態の敵の攻撃にどれくらい耐えれるか・・・

「あのドラゴン、震えてやがるぜ」
アゾルテのその言葉に一同は各々笑い声をあげる。そこへルイーナは無表情で非情な命令を下す。
「元気になったのなら、あれを早く片付けなさい」

それを聞いた一同は、一斉に攻撃を始める。戦士たちは剣や槍で、後衛の冒険者は弓や魔法でその小さなドラゴンに向けて刃を放った。

リュヴァはありったけの力を振り絞りブレスを放つ、それは強力な威力の攻撃ではあるが、突撃してきた戦士の一部を屠るのがやっとで、すべての攻撃には対応できない。リュヴァの身にその攻撃が届きそうになったその時、倒れていた巨人がむくりと起き上がる。そしてまさに仁王立となり、すべての攻撃を受け止めた。

グワドンの腕が吹き飛び、顔の半分が溶ける。体には幾つもの刃が突き刺さり、滝のように血がながれ落ちる。即死であった・・しかしグワドンの体は倒れることなく、死んでもその小さなその存在を守ろうとしていた。

「あ・・・あ・・・」
リュヴァは声が出なかった。最後の力を使って自分を守る巨人の姿に、その言葉を失う。グワドンは文字通り命をかけて紋次郎の命を全うした。それに比べ自分は何なんだろうか、守られてばかりで何もできてはいないではないか・・リュヴァは自分の無力さを痛感していた。

リュヴァはドラゴンの姿から、少女へと姿を変える。

今、自分にできることを考えた。リュヴァは無力である。目の前に敵に対抗する力が今のリュヴァに無い。でも、それでもリュヴァは敵を倒さなければいけなかった。それは自分を守りきった巨人の為であり、自分を信じてくれた紋次郎の為であった。

「おいおい、そんな少女の姿になれば、俺たちが攻撃できないとでも思ったのか、逆効果だ、喜んでなぶり殺しにしてやるよ」

そんな卑劣な声は、リュヴァには届いていなかった。彼女は考えた。今の自分の力で目の前の敵を倒す方法を・・・リュヴァは不意に両手を目の前に伸ばした。伸ばした両手に光の筋が現れる。その光はすぐに物質化して一本の杖へと変化する。リュヴァはそれを握りしめて、くるくると頭上で回転させる。それを右腕の脇に挟み持ち、敵に威嚇の気を放つ。

「おお、怖い怖い。そんなもの出してどうするんだいお嬢ちゃん」
アゾルテを始めとして、その場にいたすべての者が、杖を持ったその少女に対して侮りを見せていた。ルイーナさえも、さすがにその行動に恐れを感じず、静観していた。

リュヴァは杖を頭上に掲げると、呪文を唱え始めた。それは攻撃魔法でも、防御魔法でもなかった。しかし、リュヴァは敵を倒すのはこの魔法しかないと思っていた。それは彼女にとってはすごく簡単な魔法であるが、とてつもない破壊力を持っていた。

「サモン・ドラゴン!」
リュヴァの力強い言葉と同時に巨大な魔法陣が空中に浮かび上がる。その魔法陣をゲートに、その者は現れた。周りの空気を震わし、バチバチと唸りを上げる稲光が周りに恐怖を振りまく。

「龍王のおじちゃん・・・あの者たちを倒して・・」

そのリュヴァの言葉に答えるように、龍王は大きく息を吸い込み、最大出力の雷の咆哮ライトニングブレスを放つ。

ルイーナは自分の誤りがなんであったかを考えていた。おそらくそれは最後の詰めの甘さであろうと結論付けた。最後に、あの少女の行動をすぐに阻止していればこんなことになっていなかったであろう。しかし、時すでに遅し、もう破滅の雷は放たれていたのだから。

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