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迷宮主誕生

激戦の前夜

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ミュラーナの治療で、すべてのポーションを使い切ってしまった。これでこの後、怪我しても治療ができない。ミュラーナの怪我は回復したけど、色々あったこともあり、俺たちの疲労はピークに達していた。これではベリヒトとやらの討伐どころではない。とりあえず、リュヴァと出会ったオアシスに戻って、そこで休むことにした。

火を起こして、泉から汲んだ水をその火にかける。お湯を沸かして、それを炭豆茶の粉末を入れたコップに入れた。さすがにリュヴァには苦くて飲めないだろうから、ミュラーナと自分の二人分を作った。だけどすごく飲みたそうな顔で俺を見つめるので、仕方なく少し飲ませてあげたのだが、予想どおり、顔をしわくちゃにして悲しい顔で俺に何かを訴える。
「だから苦いって言ったろう」

「紋次郎・・甘いのがいい」
「う~ん、ちょっと待ってな」
そう言って俺はカバンから甘味玉を二つ取り出す。これはすごく甘い果実を乾燥させて粉末にしたものを丸く固めた携帯食であった。それをコップに入れてお湯を注ぐ。それをリュヴァに手渡した。
「熱いからゆっくり飲むんだよ」

リュヴァはフーフーと息を吹きかけながら、ゆっくりそれを飲む。可愛い笑顔を惜しみなく見せてくれた天使は、吐息をついて、喜びの声を発する。
「美味しい~」
「そうか、よかった」

そんな光景を微笑ましく見ていたミュラーナは、紋次郎に話しかける。
「紋次郎、本当にすまないね、二度も助けられて、しかも、妙なことに巻き込んでしまった」
「いや、そんなのは気にしなくていいよ。ミュラーナがいなかったら、俺はとっくに死んでると思うし、逆に礼を言いたいよ」

「いや・・紋次郎には何か礼をしないとな・・あのさ・・よかったら何だけどあたいの・・・」
そう言ってミュラーナは俺の手の上にそっと自分の手を添えてきた。そして妖美な瞳で見つめてくる。俺は一気に顔が真っ赤になる。何も言えずにオドオドしていると、俺のお腹にリュヴァが抱きついてきた。そして俺に訴える。
「紋次郎、眠い・・・」

「あっ・・そうか、それじゃあ、そろそろ寝よう」
そう言うと、リュヴァはクリクリした瞳で見つめながらこう言ってきた。
「一緒に寝る」
「しょうがないな、じゃあ、一緒に寝ようか」

ミュラーナは、勇気を振り絞ってアプローチしたものを、小さなライバルに邪魔をされて複雑な気持ちになっていた。今まで感じたことのないこの感情を、どう発散すればいいのかもわからず、悶々とした気持ちで床につく。

リュヴァが寝たのを確認すると、紋次郎はミュラーナに話しかけた。
「ミュラーナ、起きてる?」
「ああ、起きてるよ」
「ちょっと聞いていいかな、ベリヒトって人は何者なの?」
「英雄級の冒険者だよ。強力な魔法を使う魔導士だ」
「うわ・・強そうなんだね」
「まぁ、強いよ。だけど一対一ならあたいは負けないよ。でも、厄介なことに、あいつの仲間には他に英雄級が二人もいやがる」
「そうか・・それじゃ~やっぱり戦うんだったら、俺の仲間と合流した後の方がいいね、きっとみんな協力してくれるから」
「紋次郎、ありがとう・・お前は優しいな・・何があってもお前はあたいが守ってやる、それは約束するよ」

「でもミュラーナ、俺の為に危ないことはしなくていいから、何となく俺は悪運が強いみたいだから何とかなると思うんだよね」
「何ともならなかったら、どーすんだよ馬鹿野郎・・」
「ははっ・・・」
俺は苦笑いするしかなかった。

そのまま俺たちは就寝して、疲れを癒した。こんなダンジョン内で全員寝て大丈夫かなと思ったけど、ミュラーナの話だと問題無いらしい・・彼女のスキルで、睡眠結界というのがあるらしく、寝ている時に、周りに危険が迫ると分かるそうだ。しかも意識の2割は起きているそうで、すぐに対応もできるみたい。すごいな・・そんなスキルも持ってるんだ。俺は素直に感心する。
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