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迷宮主誕生

龍の巣の戦い

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紋次郎とミュラーナは謎の子供を連れて、龍の巣へと進んで行っていた。その子供は、なぜか紋次郎の足にしがみついて離れない。すごく歩きにくいので、なんとかおんぶに変更したいのだが、ぎゅっと捕まり、全然離れようとしなかった。

「方角はこっちであってるのかい?」
「・・・・うん」
「そかそか、そういえば、名前を聞いてなかったね。君の名前を聞いていいかい?」
「・・・・リュヴァ・・・」
「リュヴァか、いい名前だね」
そう言ってもらったリュヴァは満面の笑顔になり、紋次郎の足に顔を埋める。そんな愛くるし姿を見ても、ミュラーナの懸念は消えてはいなかった。常に不測の事態に備えていた。

突然、周りの空気が変わった・・それは殺意の気配であり、死の予兆であった。周りの多数の場所から、致命的な攻撃魔法の気配を感じる。

「紋次郎! 敵だ下がれ!」
ミュラーナの警告を聞いた紋次郎は、リュヴァを抱えて、後ろに下がった。ミュラーナは高速詠唱に入る、それは彼女が使える数少ない魔法である、アンチ・マジック・シェル。パーティーすべてに、魔法耐性を付加する防御魔法。弱点である魔法に対抗する為の手段であり、これがある為にミュラーナは無敵の強さを発揮する。

四方から決して油断の出来ない威力の魔法が降り注ぐ。その時にはすでにアンチ・マジック・シェルの効果が、ミュラーナたちに付加されていた。

ミュラーナは魔波動の気を集中する。そして敵の全ての攻撃魔法をその身で受けた。ものすごい轟音と、爆風がミュラーナの姿をかき消す。砂煙が晴れた時、その場所では何事もなく、双剣を構えて、攻撃態勢に入っているミュラーナが立っていた。

「ミュラーナ! 大丈夫か?」
そんな紋次郎の声に、言葉少なく答える。
「問題ねえよ」

確かに、何の問題もなさそうであった。あれだけの攻撃を受けて平然としているなんて、やっぱりミュラーナは強い・・そう紋次郎は思っていた。

「さすがに魔波動ミュラーナを、こんな攻撃では倒せないようだな」
そう言いなが、ぞろぞろと襲撃者達が姿を表す。

「それだけか? ちょっとあたいとやるには少ないんじゃねえの? 英雄級もいないし」
敵は10人ほどいる、決して少ないとは思わないんだけど・・・

「ふっ・・なめるなよ! ここにいるのは全員最上級冒険者だ! さすがに10対1では勝負になるまい」
え・・と、どうやら敵さんにも俺たちは数に入ってないようである。まあ、正解ではあるんだけどね。

「紋次郎、お前は常にあたいを盾にして、後ろに控えていろ。余裕がある時は、離れた場所からその武器で攻撃するんだ。間違っても接近戦はするなよ! 瞬殺されるぞ」

「わかったよミュラーナ」
ミュラーナの言っていることは間違ってないと思う、それにリュヴァを守るという役目もあるので、ここは出しゃばらず、後ろから援護することにした。

ミュラーナが動いた。紋次郎にはその動きの全てを把握することができないほどの速さであった。一瞬で戦士風の男に接近して、双剣を躍らす。それは常人では残像すら見えない連続攻撃であった。しかし、相手は最上級冒険者の戦士である、その攻撃の全てを見切ることはできなかったが、致命傷を避け、幾つかの攻撃を、その剣と盾で防ぎ、後ろに引いた。ミュラーナはそれ以上の追撃はしなかった。それは紋次郎たちとの距離が離れすぎてしまうからである。そこへ間髪入れずに敵の矢が打ち込まれる。それを双剣で撃ち落とし、魔波動の奥義の一つを発動する。

「飛天牙王残波《ひてんがおうざんぱ》!」

双剣をクロスさせて振り抜く、すると三日月の形をした衝撃波が離れた場所にいた、弓を構えた冒険者に襲いかかる。離れていたので油断したのか、不意の攻撃に、避けることもできずにまともに直撃する。見た目では想像のできないほどの殺傷能力がその衝撃波には存在した。攻撃を受けた冒険者は、見るも無残にバラバラに切り刻まれる。それを見た他の襲撃者達は顔色が変わる。一撃で最上級冒険者を倒せる遠距離攻撃を持っている戦士に、素直に戦慄を覚えたのだ。

敵の一人が作戦を変える。双剣を構える怪物の後ろに、その仲間だと思われる者が子供を抱えて突っ立ていた。それはどうひいき目に見ても弱者に見える。その男は、周りにいた二人に声をかけ、あれを人質にする提案をする。二人はそれを了承して、すぐに行動に移った。ミュラーナを回り込み、後ろの紋次郎に向かって走り抜ける。その3人の行動を見た他の襲撃者達は、その意図を読み取り、ミュラーナを牽制する。

ミュラーナも敵のその行動を読み取ったのだが、一斉に動き出した敵に対して、すべての対応を一度にするのは無理だと判断した。そこで一つの賭けに出る。それは紋次郎の持つ強力な武器を当てにすることであった。ミュラーナは紋次郎に向かっていく3人の敵に対して間合いを詰める。その行動を避ける為に、バラバラに動いていた3人は、お互いの距離を詰めさせられ、一塊になる。それを見たミュラーナは次の行動に出た。自分を牽制していた敵に対して、魔波動を発動して、一気に間合いを詰める。その驚異的なスピードに、全くついていけず、二人の敵が、双剣の美しい軌跡の前に、肉片へと変えられる。

一塊となって3人の敵が紋次郎に接近してきた。寸前の所で、ミュラーナが声をかける。

「紋次郎! 今だ、武器を振り抜け!!」
おそらく一度しかチャンスはなかった。最上級冒険者が相手では、その武器の威力や特性を知られてしまうと、対応される可能性が高かった。なので一度で3人の敵を討たなければいけなかった。それを読んでいたミュラーナは、紋次郎の武器の攻撃範囲に、3人を固める必要があったのだ。それで間合いを詰めることによって、その距離を調整していた。それはミュラーナの狙い通りであった。紋次郎は閃光丸改を、接近してきた3人に向けて振り抜いた。光の閃光が、一塊になっていた敵に、襲いかかる。弱者の攻撃だと油断していた。彼らの装備には、光魔法耐性が付与されていたが、それも意味をなさなかった。閃光丸改には、魔法防御貫通、物理防御貫通の、ある意味反則的な効果が付いていたのだ。それはニャン太の神力で付けられたエンチャントであった。

強烈な熱の破壊によって、紋次郎に迫ってきた3人はその一撃で倒れた。一瞬で5人の仲間を失った敵は、戦意を失う。誰が言うまでもなく、その場を退いて行った。

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