上 下
40 / 200
迷宮主誕生

塔の秘密

しおりを挟む
次の日の調査は、豪勢な朝食をいただいた後に開始した。昨日は最上階しか調べなかったが、今日は全ての階層を念入りに調べていった。しかし、どの階層からも、特に変わったものは見つけることができなかった。

午後になり、リズーさんから、お昼の誘いがあり、お言葉にあまえていただくことになった。リズーさんは俺らにすごく気を使ってくれている。食事の用意もそうだけど、困ったことはないかと度々声をかけてくれる。その好意に対して、ポーズは何やら引っかかることがあるようだ。

「どうも胡散臭いな~」
「何がだよ?」
「リズーのやつだよ、おかしくねーか、クエストを受注しただけの冒険者に対して、気を使いすぎなんだよ」
「それはリズーさんがいい人で、そうしてるだけじゃないのかな」
「何か後ろめたいことがあるとか・・・」

「デナトスまでそんなこと言って~」
「紋次郎様、私も二人に同意見です。彼女は何かを知ってるんじゃないでしょうか」
「あんな美しい女性に、そんな裏があるようなことはないと思いますけどね~」
ソォードの意見は無いに等しいと思われているのか、見事にスルーされる。しかしみんなの共通した意見として、リズーさんは何かを知っているがこちらに伝えてないことがあるんじゃないかと考えているようだ。

「俺、ちょっと聞いてくるよ」
そう言って、リズーさんの部屋へと向かおうとする。
「アホか主! そんなの素直に話すわけねーだろう」
「何の為に隠してるか考えたほうがいいわよ紋次郎」
「そうですね・・さすがに話してくれるとは思いません」

まー話してくれなくても、反応が何かのヒントになるかもしれないと、ダメ元で直接聞いてみることになった。しかし期待していた以上の効果があった。リズーさんは意外にあっさり秘密を教えてくれたのだ。

「申し訳ありません・・・隠すつもりはなかったのですが・・実は声の主には心当たりがあるんです・・」
「と、言いますと」
「あの塔の声はおそらく父の声です」
「そうなんですか?」
「はい・・間違い無いと思います・・」
「どうしてそう思うんだよ~」
ポーズは無粋にそう聞く。

「私は娘です。声を聞けば父の声はわかります、それと・・父が死ぬ前に気になることを言っていまして・・・」
「気になること? それはどういう内容ですか」
「父はこう言いました。私が死んだらきっと塔に捉えられるだろうと・・」

そう話すリズーさんは悲しそうな表情をしている。おそらく思い出したく無い話なんだと思う。

「あなたのお父上はなぜそんなことを言ったんですか、もしかしてそれも心当たりがあるんじゃありませんか」
リンスのその質問に、リズーさんは心を決めたのか、静かに話し始めた。それは悲しい話であった。

実は5年前に、リズーさんの母親が黒獣病を発症してしまったそうだ。高名な魔法医師やヒーラーに相談したそうだけど、治る見込みはないと突き放されてしまった。日に日に理性を失っていく母親を、リズーさんと父親は必死に看病する。しかし、いつしか二人のことを認識することもできなくなっていた。食事を運んできたリズーさんに暴力を振るったり、暴れまくるようになる。そこでリズーさんの父親はご先祖がそうしたように、あの塔へ幽閉することを決めた。

「そう・・幽閉された母には会うこともできなくなった。母がどのように変貌しているかはわからなかったけど、やがて塔からはうめき声が聞こえるようになり、その声は人のものから獣の声へと変わっていた。そしてその獣の声すら聞こえてこなくなり。私は母の死を知ることになります」

その話に、俺らは無言の反応をする。言葉を失うとはこういうことなんだろう。かける言葉が見つからない。

「その後、父に異変が起こります。体調を崩し、妙な夢を見るようになりました」
「夢?」
「はい。それは塔にいる獣霊になった母に、苦しめられる夢です。それを毎晩見ることになり、衰弱した父はそのまま亡くなってしまったんです」

「お父さんが亡くなってから、あの声が聞こえるようになったんですね」
「そうです・・やはり父は死んでからあの塔に捉われているんだと思います。おそらくそれをおこなっているのは母じゃないかと・・・」

これがリズーさんが俺たちに後ろめたさを感じている理由であった。彼女は声の正体を知ってて、あんなクエストを発注していたのである。苦しむ父と母を解放して欲しいというのが彼女の本当の願いなんだろう。

「声の正体とかより、今はあの塔の謎を解かないと先に進まねーな」
「あれだけ調べて何もないのなら、おそらくには何もないのが正解だと思うわ」
「デナトス、それはどういう意味?」
「リズーさん。お父上がお母さんを塔に幽閉するとき、何か変わったことをしていませんでした? 例えば何か道具を使っていたとか」
「あ・・それなら理由はわかりませんが家宝の鏡を持って行っていました」
「それだ!」
「それですね・・・」

リンスやポーズたちはそれを聞いて謎が解けたようだ。俺にはちんぷんかんぷんだけどね。

家宝の鏡を借りた俺たちは再び塔へとやってきた。ポーズは塔の前に鏡を置いた。そしてその鏡を覗き込むと、そこには目の前にある塔とは少し違った別の塔が映ってるではないか。

「鏡に映ってるこの塔に声の原因があるはずです」
「それって・・」
「この塔は二重の構築構造になっているのよ。同じ場所に二つの塔を建造していて、一つは通常の空間に、もう一つは裏の空間に存在しているのよ」
「だから表の塔を調べたって何も出てこなかったなのね」

「よし! 調べようぜ裏の塔を」
「でも鏡の中だよ、どうやって調べるんだ?」
「こうやんだよ」
そう言ってポーズは鏡の中に足を踏み入れた。普通に通路のように、鏡を通って、もう一つの塔へと移動できた。

「そのまんまだ!」
こうして、俺たちは裏の塔に入り、中を調べることになった。ただ、全員で中に入って、問題が起こった時に困るかもしれないと、一人外に残ることになった。ここは一人でも一番臨機応変で動けるとの理由でリンスが残ることになった。

「じゃーリンス、何かあったらよろしく」
「紋次郎様、気をつけてください」

裏の塔の扉を開き、俺たちは中へと足を踏み入れた。そこは表の塔とは全く別で、なかなかハードな世界が広がっていた。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...