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迷宮主誕生

帰還

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ダルマ山脈からの帰路は、特に問題もなく順調な旅路であった。そのまま我が家へと帰るつもりであったが、冒険者狩りの件の報告を、ダンジョンギルドにしないといけないので、旅疲のあるその足でアルマームの街へとやってきていた。

「マミュラ洞窟に冒険者狩りですか、それは大変でしたね」
本当にそう思ってくれてるのか、担当の男は無表情でそう言ってくれる。
「それではこちらの書類に記入をお願いします」
お役所仕事だな・・書類はリンスに書いてもらい、すぐに提出したのだけど、またもや意味不明の待ち時間を強いられていた。

「君!」
誰かが誰かを呼んでいる。
「君だよ君!」
全く・・どこの君だ、早く返事してやれよ。
「私の声が聞こえないのか君!」
「あっ俺か」
そこにいたのは以前、同じようなシーンに登場した。貴族風の男であった。
「また君か!」
「あー前に会ってますよね、覚えてます覚えてます」
「おほん! ちょっと足元を見てみたまえ」
見ると、以前と同じように、俺の左足が、この男の服を踏んでいる。しかし、なぜこんな踏まれやすい服を着ているんだこの男は。
「あっまたまた、すみません~」
俺はそう言って足をどける。

「ふん、これだから下賤の者は・・まー良い、今日は私は機嫌が良いのでな、見逃してしんぜよう。何かいいことがあったのかって? ははははっ、それを聞いてくるかい。これを見たまえ! クワーブル平原に生息する珍獣、ボルフンだ。今日から私のペットになるのさ~こんな珍しいペットは初めて見たろう! そうだろう、そうだろう~はははっ」

そこへ、その辺をウロウロしていたニャン太が戻ってきて、俺の横にちょこんと座る。
「はははっ! それが君のペットかい? 可愛いじゃないか~ボルフンには負けるけどね」
そう言うと、周りの取り巻きの一人がボソボソと男に耳打ちする。
「え? ひいき目に見てもあっちの方が可愛いって? いや・・今の私の台詞聞いてた? 後からそんなの言われても困るじゃん。どーすんのよ、すごいなんかドヤ顔で言ったよ私? いや・・訂正できないって・・そんなの」
「ごほんっ。ちょっと我が子の可愛さがあって間違ったみたいだね、すこ~~~しだけ君のペットの方が可愛いようだ。しかし! ボルフンはかなりの珍獣だからね~珍しさでは君のペツトなど足元にも及ばないだろう! ははははっ」
そこでまたもや取り巻きの一人が、男に耳打ちする。
「え? あれすげー珍しいの? 神獣・・なにそれすごいの? 私そんなの知らないよ~早く言ってよ~。いやいや・・あんな感じで言って訂正するの無理でしょう・・どーすんのよ~」
男はさっとこっちに向き直ってこう言ってきた。
「ごほんっ! まー私は用事を思い出したよ。それではまた会おう~さらばだ」
そう言い残すとすごい勢いで去っていた。本当になんなんだろうあの男は。

手続きも終わり、これからどうするか話していると、リンスが祝福を受けるのを勧めてくれた。それは冒険者の加護のレベルアップで、積んだ経験によって新たな力を受けることができる。普通は何度か冒険を経験して、祝福を受けに行くのだけど、俺の場合はレベル1とは思えないような経験をしているので、今回だけの経験で相当レベルが上がるんじゃないかとの話である。

祝福は、冒険者の加護を受けたのと同じ手順で、簡単に終わった。感覚的には何も変わった感じはしないけど・・どうなんだろう。それでリンスが加護見の呪文で確認してくれた。

「想像以上です。すべてのジョブのレベルが30オーバーになってます」
「嘘じゃろう。一回の冒険でそれは出来すぎじゃ。やっぱり宝石魔神を倒したのが大きいのかいのう」
「お兄ちゃんすごいよ~私なんてレベル30になるのに二年もかかったんだよ」
「二年でも早い方ですけどね」
「あと、スキルが5つ発動しています。これはすごいですよ」
「おっ! なになに俺の新しいスキル」
みんなそれには興味あるようで、リンスの話を待っている。
「一つはゴブリン語・・」
これまた残念な感じの雰囲気が漂う。
「そんなゴミみたいなスキル、忘れてしまえばいいわ」
後で聞いたんだけど、アスターシアの厳しい言葉には意味があるようだ、どうも妖精はゴブリンをものすごく毛嫌いしているそうで、思わずそんな言い方をしてしまうらしい。

「もう一つはヒューグ語・・」
「・・・・・・何それ?」
「ヒューグはエスピア山の山奥にいる、強力な戦闘能力を持つ魔神です。しかし・・もう何十年も目撃されておらず、現在では幻の魔神と呼ばれています」
「え・・幻なの・・じゃ~意味ないよね」
「まーヒューグの生き残りがいないとも言えないですし・・・」

「え~と、次のスキルはなんだろう」
「あっ、そうですね、次は初級ドラゴンテイムです。これは使えるスキルです」
そんな言い方をすると、これまでのは使えないスキルだったと言っているようなもんだ。
「これで下級のドラゴンを従えることができるようになりましたね」
「おーーそうなんだ、なんかそう聞くとすごいような気がする」

「リンス、あと二つは何なんじゃ」
「あ、そうですね、残りの二つは初級デーモンテイムとデーモンサモナーです」
「おぉ~~~」
それを聞いた一同が驚きの声を上げる。それほど有力なスキルのようであった。
「紋次郎様喜んでください、悪魔召喚が使えるようになりました」
「悪魔召喚・・」
「そうです。召喚魔法で魔族や悪魔族を呼び出すことができるようになったんです。これはダンジョンにモンスターを配置するうえで経済的、かつ難易度の調整にすごく便利なんですよ」
「ほほう~それは良さそうだね。でも・・少し疑問なんだけど・・悪魔召喚を使えるようになったって言われても・・全くその実感が無いんだ、実際どーやって使えばいいんだろう」
「スキルの使用方法は心の中に刻まれているんです。紋次郎様はまだそれを見るコツがわかってないだけですね」
「そうなの?」
「はい。よく感じてください・・心の中にそれは必ずあります。紋次郎様はそれを知っている・・」
俺はリンスに言われたように、心を感じるために、目を閉じた。確かにそう言われれば俺はそれを知っているような気がしてくる。それは記憶として昔からあるように、自然と知識が溢れてくる。魔法の詠唱やそれに必要な触媒などの情報が次々と頭の中に入力されていく。

「本当だ・・悪魔召喚ができるような気がしてきた」
それは不思議な感覚であった。長年の修練の結果で取得した技能のように、それは俺の中で確かな力として存在していた。

新しい力を得た俺は、ようやく我が家への帰路につく。今回の旅は色々とあった。アスターシアと出会い、ニャン太と出会い・・冒険者狩りと戦い・・そう考えると、一気に疲労がこみ上げてくる・・・よし、帰ったら温泉入ろう。
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