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迷宮主誕生

とある村の事件簿

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俺たちは、村長の依頼を受け、村人の変死事件の捜査をすることになった。早速調査をする為に、村人に聞き込みをすることにした。と言ってもメタラギとメイルは面倒くさがって部屋に残っているけど。

「ちょっと話いいかな?」
そう言って声をかけたのは村の娘であった。少しオドオドとしているが質問には答えてくれる。
「最近変わったことがなかったかい?」
「最近ですか・・そうですね・・気温でしょうか・・最近妙に暑くなるんです。去年の今頃はもう少し涼しく過ごしていたんですけど・・」
その話の内容をリンスは几帳面にメモしている。
「何か変なものを見たとか、声を聞いたとか、そういうのはないかな?」
「あ・・そういえば、近所の子が変な金色の光ものを見たって言っていました」
「おっ、それはどこの子?」
「あそこの木があるところに、家が見えると思うんですけど、あそこの子で名前をチェニっていいます」
「そうか、ありがとう」

そう言って、俺たちは教えてもらった家へと向かった。扉を叩くと、家のものが出てきた。おそらくチェニの母親だろう。その母親にチェニを呼んでもらった。家の奥から出てきたのは10歳くらいの女の子だった。
「君がチェニかい?」
「うん。そうだよ」
「ちょっと聞きたいんだけど、君は金色の光のようなのを見たって聞いたんだ、それの話を少し聞かせてくれるかい?」
「金色の見たよ! すごい綺麗だったんだ。だから追いかけてよく見ようとしたんだけど、途中で見失っちゃったんだ」
「どれくらいの大きさだった?」
「え~とね、これくらい」
チェニは手でその大きさを表現する。だいたいサッカーボールくらいかな。
「それでその時、何か音はしていなかった?」
リンスは何か思い当たることがあるのか、具体的に質問する。
「あっ、そういえば、キーキーって何か鳴いてるような音がしてたよ」
「やっぱり・・・」
「リンス。何か思い当たることがあるの?」
「いえ・・まだはっきりとは・・でもおそらくそうではないかと思うことが・・」

そんな話をしている時に、村長の使いという、若い男が紋次郎の元に走りこんできた。
「たっ・・・大変です冒険者様! すぐに来てください・・また人が死んじまった!」
どうやら8人目の犠牲者が出てしまったようだ。俺たちは、その男の案内で、村のはずれの、竹やぶにやってきた。そこには男の死体が横たわっていた。死体はミイラのように干からびていて、かろうじて性別がわかる感じである。リンスはすぐにその死体に近づき、何やら調べ始めた。そして何やら確信したようで、頷きながら立ち上がる。それを見たアルティも何かに気づいたようだ。
「牙の跡は無いのね?」
リンスはその問いに頷いて答える。アルティはそのまま状況を説明する。
「このように生気を吸い取るモンスターのほとんどは、牙や爪で対象を傷つけるのだけど、この死体には一切そんな痕跡が無い。そうなると対象は限られてくる・・考えられるのは生気を吸い取るアンデット系のモンスターだけど、こんな陽のあるうちに行動するものはいないから。そうなると・・・」

「フェアリーヴァイオレント・・・間違い無いでしょうね」
「それって・・何?」
「妖精の狂変化・・理性を失った妖精の成れの果てよ。狂った妖精は手当たり次第に生命力を奪いまくる怪物になるの」
「妖精って可愛いイメージがあるけど・・・そんなのになるんだ・・でもあれだね、俺って妖精語ができるから、話をして説得できないかな」
「無理です。狂変化した妖精は理性を失っているので話は通じません」
「そうなんだ・・やっぱり役に立たないんだな・・」

「それより早く倒さないとさらに犠牲者が出てしまいます・・この死体は、襲われて時間がまだ経ってないから、痕跡を追えるかもしれません」
「そうだ、メイルを呼んでこよう。この人生きかえらしてもらわないと・・そうすれば話も聞けるし」
「紋次郎様・・それはできません」
「え? どうして?」
「蘇生は、冒険者の加護を受けてないとできないんですよ・・この人は普通の村人です」
「そ・・そうなんだ・・」
人が死んだらそれまで・・普通のことなのに、なぜかそう思うことができなかった。普段ダンジョンで死んだ人間を当たり前のように生き返らせているので、そんな普通の感覚が鈍ってしまっているようだ。

宿屋に一旦戻り、メタラギとメイルを連れて、痕跡を辿り追跡することになった。死体のあった場所で、リンスが何やら呪文を唱える。
エギナソス・ベイナアイ追跡眼
それは追跡の魔法。ハンターやスカウトが得意としている魔法で、些細な痕跡を見ることができる。これでリンスは狂変化した妖精を追う。

何かの痕跡を見つけたのか、リンスはそれを追って歩き始めた。かなりの集中力が必要なようで、追っている最中は何もしゃべらない。どんどん森の奥へと進む、しかし、しばらくその痕跡を追っていたが、とある場所でその足が止まった。
「ダメだわ・・痕跡がなくなった」

そこは大きな滝の流れる場所で、大きな音と水が打ち付けられる時に出る衝撃で、追っていた痕跡が打ち消されているようだ。

「どうするリンス?」
「仕方ないです。とっておきを出しましょう」
そう言ってまた何やら呪文を唱える。
「ビュラーズア・エイフラーズア・ガルフラーズア・・・」
「リンスさん・・すごい・・それは絶対探索の魔法じゃないですか」
「絶対探索じゃと! リンス・・お前一体レベルはいくつなんじゃ?」
「これが使えるのなら、最低でもスカウトレベル90以上ですね・・・」
「汝の手が届く場所より妖精の場所を、我に示せ! アブソルートリーサーチ絶対探索!」

呪文の発動と同時にリンスの体か淡い青色に輝く。そして何かを見つけたのか、小さく呟く。
「南西 1キロ先・・・」

そう言ってすぐに動きだす。ものすごい勢いで探索した場所へと移動し始めた。その動きはいつものリンスよりかなり俊敏である。走力が大幅にアップする、飛脚を装備していなかったら、俺はとてもついていけなかったと思う。それにしても意外なのはメイルとメタラギである、普段の感じからは想像できないくらいの動きで、リンスの後をついていけている。さすが元冒険者ってとこだろうか。

「いた!!」
そこには金色に輝く光が、空中を彷徨っていた。その光の周りを囲むように、メタラギ、メイル、アルティ、リンスが戦闘態勢に入る。俺は遅れてその輪の外でドキドキしていた。

「何なの、あなたたち?」
金色に輝く妖精は、そう言って状況が分からないようである。しかしリンス達は問答無用で攻撃を開始する。え・・いや・・ちょっと待てよ・・確か狂変化した妖精は話ができないんじゃなかったっけ?今、話したぞ?

「ちょっ・・ちょっと待って・・・」
「クリムゾン・フレア!」
「九段魔人斬!」
「アゾルティ・レーザー!」
「エンターライズ・オーダイム!」

みんな、そんな本気そうな攻撃で・・しかし、妖精も黙って攻撃を受ける気は無いようで、何かしらの防御魔法を唱える。
「パーフェクト・フィールド!!」

強力な連続攻撃を、出現した虹色の防御壁で全て防ぐ。ぶつかり合った力は激しい稲光と爆音を産んだ。その周りの視界を完全に奪い、俺も気を失うような衝撃を受ける。これは装備チートしていなかったら俺、死んでたんじゃ・・・・
「妖精の分際で完全防御とは、なんて生意気なの!」
「リンスさん。相手は油断できない相手です。これは私も本気を出さないといけないかも・・」
伝説の大賢者の本気って・・ちょっとマジで怖いぞ。
そんな中、またしても妖精が話しかけてきた。
「この妖精王に喧嘩売るなんて・・命知らずね」
妖精王って言ってるんですけど・・王って・・ちょっとあれなんじゃ・・みんな聞いてよ。
「ちょっと待って・・」
しかし、妖精もみんなも待つわけはなく。激しくぶつかり合う。激しい応酬はしばらく続いたが、さすがの妖精王も高レベルの冒険者4人を相手に、分が悪いと思ったのか、逃走を始めた。

「逃がさない! 追いますよ!」
「いや・・ちょっと待ってよリンス!」
リンス達は俺の話を聞かずにそのまま妖精王の追跡に入る。仕方なくそれについていく。妖精王はものすごい速さで逃走し、しかしリンス達もそのスピードに引けを取らない速さで後を追う。しばらく森の中を逃げていた妖精王は、近くにあった洞窟に逃げ込んだ。俺は少し遅れてその洞窟に到着した。

「うわ・・ここは入るのヤダな・・」
ジメジメとしたいかにもといった感じの洞窟。その中では激しい戦闘の音が響いている。

ここにいても仕方ないので、勇気を振り絞って中に入る。たぶん何か間違いがあると思うんだよな・・たぶんあの妖精は狂変化なんかしていない。早く戦闘を止めないと。
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