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迷宮主誕生

職人の流儀

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闇夜に紛れ、何かから隠れるように二つの影が、人通りの無い、今はもう使われなくなった教会の中にあった。そこはウルボォール教という、カルト教の教会で、一時はそこそこの信者を有していたが、その思想の中に、大陸で最も多くの人が信仰する、リルランジェ神教に反する内容があった為に、弾圧され、今はもう廃れ果てていた。

「どうだ。見つかったか」
影の一つがもう一つの影にそう話しかける。
「ダメだ。ブフの結晶石とマグル紙片が見つからない」
であるマグル紙片はわかるが、ブフの結晶石がこれほど探すのに苦労するとは思わなかったな」
「昔はある程度流通していたよだがな、生産地であるクバラ洞窟が崩壊してからは商品としての流通は全くなくなったようだ。現状どれほど使われないで残っているか・・」
「それでも俺たちは、それを見つけなければいけないんだ」
「わかっている。必ず見つけ、リルランジェ神教の奴らに目に物を見せてやる」
そう言って拳を握りしめた男の片方の目は眼帯で覆われている。一つしかないその瞳には怒りの感情が読み取れ、その思いは決して小さいものではないと語っていた。


メタラギの眼は真剣だった。購入したエイデルタイトは一つの装備を作る分しかない、失敗は許されないのだ。慎重にその貴重な素材に火を入れる。炎はその金属を黄金の色で染め、新たな命を吹き込む。十分金属が熱さられると、今度はそれを不思議な液体に漬けた。ジュジュジュっと熱が冷めていく音とともに、黄金色に輝いていたそれは青白く輝きだした。メタラギはその変化を見極め、素早く液体から引き上げると、愛用のハンマーでそれを叩き出した。瞬く叩くと、それをまた火に入れる・・それを何度も繰り返していた。

「できたぞ・・」
メタラギがそう笑顔で言ったのは、最初に火を入れてから丸一日が経っていた。彼が作ったのはライトアーマーと呼ばれる装備であった。
「かっ・・軽いねメタラギ」
俺はその完成した鎧をちょっと持ってみたのだが、その軽さに驚いた。見た目は明らかに金属でできているはずなのだが、持った感じはプラスチックのおまちゃのような軽さであった。
「その重量で、トロールの一撃に耐えれるくらいの耐久力があるぞ」
トロールの一撃がどれくらいのものかはわからないけど、とにかくすごいんだろうな・・
「メタラギ、すごいの作ったわね。これは私も頑張らないといけないわね」
そう言ってデナトスはそのライトアーマーを受け取った。そして早速その装備にエンチャントを行う。

デナトスは床に、以前エンチャントした時に書いたものより大きな魔法陣を書いた。そして魔法陣の真ん中に購入したピンクのトルマリンを置く。ライトアーマーをその隣に置いてダイヤモンドの破片をふりかける。その行為を見てリンスが驚く。
「二重宝石強化!」
「なんですかそれは?」
「強化に使う宝石を二種類使用するエンチャントです。通常のエンチャントより、大きな効果を得られるのですが、その分、難易度も格段に上がる難しい方法です」
「アール・メリュル・ナキュレスノリス・ハルベルト・・ダルブダロネス・・」
デナトスの呪文の詠唱が始まる。なんかこの前よりだいぶ長い感じがする。
「この鎧に大いなる魔法の加護を与え給え」
デナトスのそういい終えると、呪文が発動する。赤や青の無数の光が大気に現れる、それらの光は渦を巻いて魔法陣の周りを高速で回転する。そしてやがやそれは何かに惹きつけられるようにライトアーマーに集まってきて、次々と吸収されていく。すべての光が吸収されると、そこには淡いオレンジの光に包まれたライトアーマーが神々しく存在した。
「うまくいったわ、これは会心の出来よ」
デナトスは満足そうにそう言った。
リンスは完成した鎧に近づき、そのライトアーマーを手に取って感心したように頷く。そして何やら呪文を唱えた。
ソピアー・ノズアイ鑑識眼
リンスの唱えた魔法は、一般的な鑑定魔法だった。それほど難しい魔法ではなく、しかも装備の効果を知ることができるという、すごく実用性が高い能力もあって、多くの冒険者が使えるポピュラーな魔法であった。

「す・・・すごい・・これは全スキルアップに全ステータスアップ・・八種類の耐性アップに雷撃吸収。そして基本能力上昇・・メタラギ、デナトス、すごい装備を作ったわね。このライトアーマーはレーヴェン級の一級品です」
「うぉーーーー!!」
それを聞いた一同は歓声をあげる。レーヴェン級って確か魔法装備の階級で相当上のランクだったよな。
「おい。さすがにそれはダンジョン報酬にはしないよな? 絶対売ったほうがいいぜ」
「確かに武器商人に叩き売っても、1000万の値はつくでしょうね。売ってもいいかもしれませんが、それを決めるのは紋次郎様です」
そう言われて俺は少し考えた。確かに1000万はでかい。売りたい気持ちもあるけどメタラギとデナトスが一生懸命に作った力作を、そんなに簡単に手放したくないな・・
「これはとりあえず大事に取っておこうか。報酬にするには確かに高価すぎるし、売るのはなんかもったいない」
「なんだと主! 金が一番に決まってるだろうが、金があればなんでも買えるんだぜ! 売っちまったほうがいいに決まってる!」
「うるさいわよポーズ。紋次郎が決めたんだ。それでいいでしょう」
「ぐっ・・・」
デナトスにそう言われ、ポーズはおし黙る。
「それよりそのライトアーマーに名をつけませんか? 良い装備には名があるもんです」
アルティの提案に皆、賛同する。そして思い思いに発言し始めた。
「そうじゃのう。金剛鎧とかどうじゃ力強そうじゃろう」
「ライトアーマーぽくないわその名前、ユニコーンアーマーとかどうかしら?」
「そもそもユニコーンってどこから出てきたんだよ! それならペガサスアーマーの方がいいと思わねーか」
「ペガサスも関係ないじゃないの」
「メイルね。かわいい名前がいいの。くまさんの腹の肉ってどうかな? 可愛くない?」
「可愛くねーよ!」
「僭越ながら・・名をつけるのならこの私・・名ずけのソーちゃんと呼ばれたソォードにお任せを! ゴールデン・デリシャス・スペシャル・ワンダホーアーマーなど如何でしょう」
「ダッセーーしなげーーーよ!」
「オレ・・・なんでもいい・・・」
「普通にライトニングアーマーとかでいいんじゃないですか?」
「普通すぎてつまらん!」
「紋次郎様はどうですか? 何か良い名前はありませんか」
う~ん俺もそれほどセンスがある人間じゃないからな・・やはり名前をつけるにはその特徴を捉えるのがいいよな・・雷撃吸収ってのがやはりポイントだよな・・雷・・雷神・・雷神って確か鳴神とも呼ばれたよな・・
「鳴神ってどうかな? 俺の元の世界の雷の神の呼び名なんだけど・・・」
「おぉ~~」
一同がそれを聞いて何やら納得したようだ。
「それでいい。それで決まりじゃ」
「そうですね。シンプルで良い名です」
「お兄ちゃん。それかわいいと思うよ!」

こうして、レーヴェン級のライトアーマーの名が決まった。その名も鳴神。これは大事に宝物庫にしまっておこう。しかしそーなると別にダンジョン報酬を用意しないといけなくなったな・・・それをメタラギに伝えると、早速新しい装備を作り始めた。
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