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迷宮主誕生

ダークエルフの憂鬱

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無駄なく、急所を的確にガードするライトブレストを身につけた、ニュター狐人の男が、キュウレイ・ダンジョン群に向かっていた。彼はカシムという名の魔法剣士で、この日、仲間5人と行きつけのダンジョンに向かっているところであった。
しかしカシムはその道中、致命的な準備不足に気がつく。
「しまった・・・今日はランダがいないから回復が不安だったんだ・・」
ランダとはいつもパーティーを組んでいるヒーラーなのだが、今日は宗教上の理由でダンジョン攻略に参加していなかった。その為、ポーションを多めに持ってこようと思っていたのだが、それを忘れてしまっていた。
アルマームへ戻ろうかどうか悩んでいると、視界に木でできた大きな看板が目にはいった。そこにはこう書かれていた。
『ポーション各種・触媒各種販売中」

「こんなところで商店があるのか?」
そう思ったがよく考えたら今は日も昇らないような早朝である。もし商店があったとしてもまだ営業はしていないだろう・・そう思って素通りしようと思った。しかし・・まー一応見てみるかと思い直したカシムは、その場所へと入ってみた。

「なんだこの四角い箱は・・・?」
入った中には商店など無く、変な四角い箱がいくつか置かれているだけだった。よく見ると、四角い箱の中にはポーションが飾られていて、その下には透明な突起物がある。箱の横の説明を読んでいた仲間が少し驚いたように声をかけてきた。
「カシム!これポーションが買えるみたいだぞ」
「何!そうなのか?」
「ここにゴルドを入れて・・・で、そこの欲しい物の下にある突起物を押すみたいだ」
カシムは説明の通りにゴルドを箱にある隙間に入れて、ポーションの下の突起物を押してみた。ガタンゴトンと何かが落ちてくる音がした。箱の下部にある穴から聞こえたのでそこを覗き込んでみる。驚くことにそこにはポーションが一個吐き出されていたのである。カシム達は驚きでしばらくその場を動くことができなかった。


「もうポーションの在庫が無いぞ!メイルは何やってんだ!」
「ポーズさん。メイルは今一生懸命作ってますから・・リンスさんとデナトスさんも手伝ってるんで生産スピードは確実に上がってます」
「売り切れで機械を止めとくのは勿体無いんだよ。主!ちょっと行って急かしてこいよ」
「嫌ですよ。そんなこと言うならポーズさん行ってくださいよ」
「馬鹿野郎!俺がそんなこと言ったらリンスとデナトスに折檻されるだろうが!」
「じゃーそんなこと言わないでくださいよ」
「くそ・・じゃーソォード!お前行って来い!」
「私は女性を不快にさせるようなことは言えません」
「チッ。どいつもこいつも・・たくっ」

そこへ大量のポーションを抱えたメタラギが奥の部屋から現れた。
「グワドン、ポーズ、ソォード!ポーションの補充に行くぞ手伝え!」

自動販売機は大当たりしていた。24時間いつでも購入できる便利さもあるが、この世界の人々は、見たこともないその自動販売機に強烈な興味を惹かれているようだ。毎日、行列ができるほどの大盛況を見せていた。

「ふ~疲れたの・・もう動けんぞ」
「ソォード!飯はまだか飯は!」
「今できます。少々お待ちください」

慌ただしい忙しさが過ぎ去り、一同は一息ついて落ち着いていた。ポーションの補充もめいいっぱい機械に入れてきたのでしばらくは大丈夫であろう。

「今日はみんなお疲れさんです。え~と成功のお祝いと言ってはなんですがちょっと奮発して良いお酒を買ってきました」

紋次郎がそう言うと、後ろからリンスが一本の酒を持って現れた。
「おい!それはメンジャマの古酒じゃねーか・・・・一本10万はするぞ!」
「こちらのお酒の事は知らないので、リンスさんに選んでもらったんです。今日はドンドン飲んでください」
「主さんは話がわかるのぉ~旨い料理と旨い酒があればどんな疲れもぶっ飛ぶというもんじゃ」
「お兄ちゃん。メイルはお酒が飲めないよ」
「大丈夫だよ。一番頑張ってるメイルにはこれを買ってきたんだ」
そう言って紋次郎が取り出したのは、大きなバスケットに山盛りに盛られた果実だった。
「メイルは果実が好きだろうと思って」
「うわ~♥これはたまんないよ~でもまた太っちゃうかな~♪」

ソォードの料理も揃い始め、一同はすでに宴会モード全開で準備にとりかかっていた。しかしそのメンバーの中に、褐色の美玉の姿が見えないことに紋次郎は気づいた。
「そういえばデナトスさんを見ませんね」
「デナトスおねーちゃんならさっき滝の方に行ってるのを見たよ」
「私が呼びに行ってきますよ」
「あっいいです。俺が行ってきますよ。リンスさんは飲み会の用意をお願いします」

そう言って俺は事務所を出て、近くの森に入っていた。森は深い闇に包まれ、滝までの道筋に一定の間隔で設置している魔法のトーチがなければ、何も見えないだろう。生活用の水はこの先にある滝から持ってきているので、皆ここの森を通る。その為に魔法のトーチは明かりの役割の他に、魔物除けの魔法もかけられており、見た目よりはこの道は安全との話だ。

森をしばらく進むと、水が滝壺に落ちる音が響いてきた。それほど大きな滝では無いので、その音は部屋の中から聞く雨音のようなささやかな雑音であった。森の道も終わりが見えてきた。森の道は木々を押し開くように広がりを見せ、その先からは淡い青色の光が差し込んできていた。

森を抜けるとすぐそこに滝はあった。そしてその滝の下にデナトスさんもいた・・そう彼女は全裸で滝で水浴びをしていたのだ。目が合ったまま俺はフリーズしてしまう。見る見る顔が赤くなる。しかし駄目とは思いつつも男のサガかどうしても彼女の胸元に目がいってしまった。そこには豊満な乳房が・・・・していた・・・・硬く無機質なその胸は、冷たく命を感じられない。

「まー主様。一緒に水浴びします?それとも別のことでも・・」
「あ・・・いえ・・」
「まーこんな体ではそんな気も起こりませんわね」
そう言ってデナトスさんは曇った笑顔を見せる。俺は何も言えなかった・・

「ちょっと昔話をしましょうか」
デナトスさんは服を着ながらそう言って話を始めた。
「昔、一人のダークエルフの女がいました。その女は自分の美貌に絶対の自信を持っており、どんな男も自分に必ず夢中になるとそう思っていたの・・年頃になりその女は一人のヒューマンに恋をした・・しかしなぜかその男はその女を好きになることは無かった・・女はその原因が自分の容姿にあると思い込み、自分の見た目を変えたいと考えたの、そして美の女神ルーディアにも勝るような美貌を手に入れようとした。決して触れてはいけない禁呪を使って・・・案の定その禁呪は失敗するの・・それは恐ろしい呪いとなってその女に返ってきた」
デナトスは自分の胸を見ながら呟くように紋次郎に語る。
「この石化は少しづつ広がってるわ・・やがて私は石になって死んでしまうでしょう・・でも私の死などそれほど悲しくはないの・・自業自得だから・・でもその禁呪の呪いは私だけではなく、私の想い人にも呪いを振りまいた・・・彼は呪いによって灰になってしまったの・・・私が彼を殺した」

デナトスさんは滝に向かって小刻みに震えていた。俺に見られないように泣いているのだろう・・嫌なことを思い出させてしまった。

「デナトスさん・・俺・・なんて言っていいか・・」
「それ!それは止めて!」
「え?」
「さんっての!デナトスって呼んでほしいわ」
そう言った彼女の顔には少しの笑顔が見えた。吹っ切れたわけではないだろう。でも彼女は何かを変えようとしているんだと思う。
「デナトス。宴会が始まるよ。早く行こう!」
俺も微力ながら彼女の変わる手助けをしたいと思った。
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