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迷宮主誕生

新たな試み

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事務所である掘建小屋の軒先に、暇を持て余したポーズが休憩用の椅子を作って置いてあった。椅子はゆったりと寝転んで座れ、デナトスがよくここで日向ぼっこしているのだが、今日は紋次郎が何やら考え事をしながら、寝転んでいる。

「どうしたもんかね~」
先日全滅した冒険者のパーティーは、中級冒険者だったこともあり、かなりの収入が入った。しかしそれが不幸の始まりかそれ以降、全く冒険者が現れなくなってしまった。確かに初心者用のダンジョンで、中級冒険者をボコボコにするようなボスがいるような場所へは誰も来てはくれないよな・・

そんな悩んでいる俺の姿を少し離れた場所から、自分の責任とでも思ってしまっているのか、グワドンが悲しそうに見ていた。
「グワドン。気にしなくていいよ。お前が悪いんじゃないんだから」
「オレ・・・手抜くの・・・苦手・・・ごめん・・・主さま・・」

本当にこいつはいい奴だよな・・・モンスターにしておくのは勿体無い。

「どうですか。何かいい考え浮かびましたか」
そう言ってリンスが飲み物を二つ持ってやってきた。一つを俺の横に置いて、もう一つを飲みながら、隣の椅子に座る。俺は礼を言って飲み物に口をつける。柑橘系の炭酸水のような飲み物で、ほんのり甘く美味しい。

「全然ダメですね・・何も思いつきません」
そう言って俺は飲み物をもう一口飲む。それにしてもこれは美味しい。普通に元の世界で売っていても不思議じゃないくらいに良く出来ている。まさかこの世界でも商店でペットボトルか何かで売ってたりしないよね。どうでもいいことだが、変に気になったのでリンスさんに聞いてみた。
「リンスさん。この飲み物ってどうしたんですか?街で売ってたりするんですかね」
「お口に合いませんでしたか?」
「いえ。すごく美味しいです。こういった物も普通に売ってるのか気になりまして」
「これは僭越ながら私が今朝作ったジュースです。ポルムという果実の汁に、空気石で刺激を加えた水を使用して作りました」
「へ~そうなんですね~俺のいた世界にもこれに似た飲み物があってよく飲んでたので」
「こういう飲み物はどこの世界にもあるんですね。元の世界ではその飲み物は主様がご自分で作っていたのですか?」
「いえいえ。俺のいた世界ではそういう飲み物は容器に入れられて普通に売っているんですよ」
「そうなんですか~でもそれだとお店が閉まっている時に飲みたくなったら困りますね」
「あ~それは大丈夫です。コンビニって店があって、そこは1日中開いていますし、自動販売機って機械があっていつでも買えるんですよ」
「それはすごく便利ですね。こちらにもそんな便利な物があると冒険者は大変助かるでしょうね。回復ポーションや魔法の触媒を1日中いつでも買えるなんて夢見たいなものですよ」
昔から当たり前のようにあったから気がつかなかったけど、実は自動販売機ってすごく画期的な発明なのかもしれないな・・・ちょっと待てよ・・冒険者が大変助かるってことは・・大変儲かるってことじゃないか・・ダンジョンの扉を24時間開放して・・自動で販売できる機械を置いとけば・・じゃんじゃん売れてウハウハじゃないのか・・・これだ!

「リンスさん。いい案を思いつきました!ちょっとみんなを集めてください!」
これは試すしかない。そう思って早速行動に移した。


「まず。メタラギさんにはこれくらいの大きさの鉄の箱を作ってもらいたいです。中は仕掛けが入りますので空洞にして、なるべく丈夫なのをお願いします」
メタラギはこんな物何するんじゃっと言いながらも頷いている。
「ポーズさん。その鉄の箱の中にこんな仕掛けを作って欲しいです」
簡単に書いた図面をポーズに見せて紋次郎は説明する。ポーズは図面を引ったくるとわかったわかったと了解する。
「デナトスさんにはお金を識別する魔導器を作ってもらいたいんですができますかね?」
「お金を識別するの?」
「はい。それが本物かどうかと、金額の識別です」
「まーそれくらいならできそうだけど」
「それをポーズさんの仕掛けに組み込みたいんです」
「了解。作ってみるわ」
「それでメイルには回復ポーションを大量に作ってもらいたいんだ」
「生命力の回復?それとも精神力?後グレードはどうすればいいのお兄ちゃん」
「あっその両方が欲しいな。グレードってのはなんだい?」
「ノーマル、ハイ、グレート、マスターってあって、ノーマルが一番安くて効果が薄いの、マスターが一番高くて、効果も高いんだよ」
「値段的にはどんな感じなんだい?」
「マスターだと材料費だけで一個50万くらいかかるよ」
「うわ・・それはやめとこ・・・ノーマルとハイだけでいいかな・・それだとそんなに高くないよね?」
「ノーマルは100ゴルドくらい、ハイだと1000ゴルドくらいかな」
「じゃ~グレードはその二つで行こう。」
「わかったよお兄ちゃん」

「オレ・・どうする・主さま・・」
「あーグワドンは後で機械の搬入を手伝ってもらうから」
「わかった・・・オレ・・役に立つ・・・」
「ありがとうグワドン」
「我が主よ。私にも何かできることはないですか」
「えーとソォードはみんなに美味しい食事を用意してくれればいいよ」
「かしこまりました」

話を終えると、皆、俺の指示に従い動き始めた。


「よし!できたぞ。魔法式自動販売機試作1号!」

紋次郎はゴルドを袋から取り出すと、自動販売機に投入する。投入されたゴルドはチャリンチャリンと機械の中に吸い込まれていく。何やら機械のボディが薄く光ると、ディスプレイされた商品の下のランプが点灯する。そのランプはボタンになっていて、それを押すとリリリリ・・・と鋭い音が響き渡る、すると機械の下部にある受け口にガタンゴトンと何かが落ちる音が聞こえる。紋次郎は手を入れて、それを取り出した。
「成功だ。自動でポーションを購入できたぞ!」

それを見ていた一同は歓声をあげる。
「すごいもんじゃのぉー」
「中身はほとんど俺の作ったものだからな。俺のおかげたよな。さすが俺だぜ」
「やりましたね主様。こんな物見たことがありません。成功間違いなしです」
「主様・・私も自動で購入してほしいわ」
「お兄ちゃん。メイルも頑張ったよ~」
「すごいものですね~この機械で私の作った特製スープも売りに出しませんか?」
「オレも・・何か・・主さまの・・役に立つ・・・」

「みんなありがとう!でも自動販売機は何台か必要なんだ。この調子で頑張って生産しよう」
一同は掛け声をあげて紋次郎のその言葉に答えた。

紋次郎たちは五日ほどで自動販売機を10台用意した。これをダンジョンに設置して、入り口を24時間開放した。ここは大陸屈指のダンジョン密集地帯とキュウレイ・ダンジョン群の近くである。冒険者なんてそれこそ街中のように頻繁に通る。買い忘れたポーションの購入や、街に買いに戻る手間を省いて、ここで購入してくれるなど利用してくれるはずである。この時はそれくらいの気持ちで新しいダンジョンの営業を再開したが、この後、思いがけないほどの反応と反響が巻き起こるのだった・・・
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