上 下
72 / 174
辺境大戦

ジュルディア方面北防衛戦

しおりを挟む
すでに戦いが始まって、二日が経っていた。ジュルディア方面の北側を防衛している、ルソ師団と突撃大隊は、予想を上回る戦いを繰り広げている。

ジュルディア方面の北側には、ドバヌを守る要塞と、北側にある山に作られた砦で構成されていた。山の砦にはルソ師団から2,000の兵と、突撃大隊3,000が駐留していた。要塞は、ルソ師団10,000が防衛しており、硬い防御を誇っていた。

攻めるはジュルディアの友好国による連合軍、その数、78,000・・この圧倒的多数に攻められても、この要塞は微動だにしていなかった。この二日で、被害が出ているのは連合軍の方だけで、アースレイン軍は、軽微な被害と、危なげない防衛戦を繰り広げている。

「何をしておるんじゃ。こっちの方が兵は多いのじゃろ、どうしてあんな城壁突破できんのじゃ」
小太りで、ハゲ頭の男が、この状況を理解していないのか、格下だと思われる男たちにそう言う。この男は、フボー国のタータリ王であり、この連合軍の総大将を引き受けていた。総大将と言っても、政治的な意味合いが強く、軍事的知識は皆無に近い。

「はい・・確かに兵の数ではこちらが圧倒していますが・・あの城壁は強固で、しかもアースレイン軍は想像以上に精強でありまして・・」
「言い訳は良いわ・・他の同盟国の軍が不甲斐ないからじゃないのか、しかも何も考えずに攻撃して、工夫をせんのか工夫を・・」
その工夫を考えるべく大将がこれでは、城壁を破るなど夢のような事に思える。

その日も、連合軍の単調な攻撃は続いていた。そんな不甲斐ない攻撃に、一番業を煮やしたのはタータリ王ではなく、山の砦に駐留していた、突撃大隊の大隊長であった。

「さすがにイライラが限界だ。俺はちょっと出撃するぞ」
ガゼン兄弟の弟、ウェルダはそう言うと、自らが指揮する、突撃大隊に集合をかけた。

突撃大隊は、敵の隙を見て、正門から外に出撃した。まさか敵が出てくるとは想像もしていなかった連合軍は、ろくな反撃も出来ずに、次々に斬り伏せられていく。
「おい。あそこを見ろ! 敵が出てきたぞ。あれは攻撃する好機ではないのか!」
戦術に無知識なタータリ王でもわかるほど、砦から出てくることが、どれほど不利な状況であるかは誰にでもわかることであった。すぐに連合軍は、出撃してきた突撃大隊に殺到する。

あっという間に敵に囲まれが、ウェルダは笑いながらその状況を楽しんでいた。
「どんどんかかってこい!」
アースレインの兵の方が個々の能力も上で、戦い慣れしている突撃大隊に対して、数だけの連合軍は、包囲しても決定打を与えることができない。集まった兵の分だけ、犠牲を増やしていた。

だが、数の優位が生きてくるのは、戦いが長く続き、疲れが蓄積されていくことによる、疲弊が大きいであろう。最初は圧倒的な強さを誇っていた突撃大隊も、やがてその勢いが弱まってくる。要塞の城壁上から、その状況を見て、ルソはつぶやく。

「何を馬鹿なことをしてるんだ・・だが、捨ててもおけんか・・」
そう言って、ルソは、配下の熊の獣人である、ベルア族の部隊に救出の指示をした。

ベルア族は、巨大な熊の獣人で、強固で力強い肉体を持ち、個々の力では、亜人の中でも1、2を争う強さを持つ強力な兵であった。それが集団となって、突撃してくる姿は、まさに恐怖でしかない。

500人ほどのベルア族の部隊は、突撃大隊を包囲する連合軍に突撃する。その最初の一撃で、千の敵兵が五体をバラバラにされ吹き飛ばされる。その戦慄の状況を見ていた敵軍は、反撃するどころか、一斉に逃げ始めた。

逃げ惑う敵兵を、ベルア族は強力な一撃で屠り、なぶり殺していく。さらに突撃大隊もその殺戮に加わり、連合軍は甚大な被害を出していた。

「ウェルダ殿、ルソ将軍が、さっさと撤退せよと言っています。あまり無茶をすると、怒られますぞ」
ベルア族の部隊長である、ゲナンゲーが、ウェルダにそう伝える。バツの悪い顔をすると、ウェルダはこう返事をした。
「わかった。俺も怒られたくないので、この辺で撤退するとしよう」
そう言うと、大隊を率いて砦へと戻り始める。それを見ると、ゲナンゲーもベルア族の部隊を、要塞へと退却させ始めた。

「なんだあの熊は! どうして戦場にいるのだ!」
「タータリ王。あれは熊ではありません。熊の亜人であるベルア族です」
「その熊の亜人がなぜ、我が軍を襲ってくるのだ! 卑怯ではないか!」
「アースレインは亜人を味方につけているのです・・」
そんな基本的な情報も把握していなかった総大将は、すでに二割ほどの兵を失っていた。そんな状況でも、熊に怯えるだけで、具体的な戦術を考えることはなかった。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

スクールカースト最底辺の俺、勇者召喚された異世界でクラスの女子どもを見返す

九頭七尾
ファンタジー
名門校として知られる私立天蘭学園。 女子高から共学化したばかりのこの学校に、悠木勇人は「女の子にモテたい!」という不純な動機で合格する。 夢のような学園生活を思い浮かべていた……が、待っていたのは生徒会主導の「男子排除運動」。 酷い差別に耐えかねて次々と男子が辞めていき、気づけば勇人だけになっていた。 そんなある日のこと。突然、勇人は勇者として異世界に召喚されてしまう。…クラスの女子たちがそれに巻き込まれる形で。 スクールカースト最底辺だった彼の逆転劇が、異世界で始まるのだった。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

異世界で婿養子は万能職でした

小狐丸
ファンタジー
 幼馴染の皐月と結婚した修二は、次男という事もあり、婿養子となる。  色々と特殊な家柄の皐月の実家を継ぐ為に、修二は努力を積み重ねる。  結婚して一人娘も生まれ、順風満帆かと思えた修二の人生に試練が訪れる。  家族の乗る車で帰宅途中、突然の地震から地割れに呑み込まれる。  呑み込まれた先は、ゲームの様な剣と魔法の存在する世界。  その世界で、強過ぎる義父と動じない義母、マイペースな妻の皐月と天真爛漫の娘の佐那。  ファンタジー世界でも婿養子は懸命に頑張る。  修二は、異世界版、大草原の小さな家を目指す。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

処理中です...