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辺境の王

騎士将軍VS赤い戦女

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ザガ草原の真ん中で、辺境に名を馳せる二人の将軍が睨み合っていた。二人は初対面であったが、最初に剣が触れ合った時、お互いの力を、その剣に感じていた。

最初に動いたのは、やはり、堪え性のないアズキの方であった。激しく踏み込むと、その剣を力一杯アリューゼにぶつける。並の者なら、防御しても、それごと粉砕される威力のその攻撃を、騎士将軍は、受け切った。

激しく剣を合わせて、力のぶつけ合いの体制になる。拮抗したその光景を見る限り、力は互角に見えた。アースレインにこれ程の者がいるとは・・正直、アリューゼは驚いていた。自分とまともに剣を交えることができるのは、辺境ではロギマスの赤い戦女くらいかと思っていたのだが・・アリューゼはそう考えながら、目の前にいる強敵の、赤い鎧を見て、まさかと思い問いた。
「お前はもしかしてアズキ・ルィボスか!」

いきなりそう問われて、驚いたアズキはとっさに嘘をついてしまう。
「違うぞ」
「そ・・・そうか・・」
アリューゼが勢いよく聞いたのに、違うと言われて変な空気になる。微妙なその雰囲気に耐えられなくなったアズキは、言い直した。
「いや・・ごめん。本当はアズキだ」

それを聞いて、一瞬動きを止めたアリューゼは、気をとりなおすと、渾身の力を込めて、アズキに剣をぶつけた。
「なぜ! 嘘を! つく!」

アリューゼの渾身の三度の攻撃に、アズキはバランスを崩す。そこへアリューゼの必殺の一撃が繰り出された。ノーモーションの突き技で、的確に敵の急所を貫く剣が、アズキに襲いかかる。野生の感で危険を感じたアズキは、避けるのを諦め、前に踏み込むことで、剣の狙いをずらした。

辛うじて急所は外れたが、アリューゼの剣は、アズキの体を貫き、深く体に食い込んだ。しかし、これでアリューゼは剣を使えなくなった・・アズキは無防備になったアリューゼの首を、その剣で切り飛ばそうとした。アリューゼは死を感じた。頭の中では、弟妹たちの笑顔が思い浮かぶ。

「そこまでだアズキ!」

裕太は、アズキが敵将の首を取るのを止めた。それは、単純に、殺すには勿体無いと感じてしまったからである。アズキと互角に戦う者なんて、おそらくそれほど多くは無いはずだ。

「なんで止めるんだよ、エイメル」

アズキの抗議はもっともだが、ここはちょっと我慢してもらう。アリューゼは、アズキに突き刺した剣から手を離すと、その場に膝をついた。もはや抵抗の意思は無いようである。

「ロントの将軍よ。もう勝敗は決したと思うけどどうかな」
「・・・私たちの負けだ。逃げた兵たちを見逃してくれるのなら、私は黙って拘束されよう」

「それは約束するよ、だけど、君を拘束もしない」
「それはどういうことだ? 敵将を、殺さず、捕まえもしないとは何を考えている」

「うん・・それで提案なんだけど、アースレインに従属する気はないか?」
思わぬ言葉であった。確かにロント王のルジャ5世より、酷い王など想像もできない・・このままアースレインに従属した方が、自分にとって幸せなことなのは間違いないと思った。だが、先祖代々から仕えるロント王国を裏切ることは、アリューゼにとって、受け入れることはできなかった。

「申し訳ないが、その提案を受け入れることはできない。私の家は、代々ロント王家に仕えている。それを私の代で変えるつもりはない」
「そうか・・残念だな・・」
「わかったら、煮るなり焼くなり好きにするがいい」

覚悟を決めたアリューゼは、裕太にそう言った。だが、
「君は解放する、味方の兵を率いて国に戻ればいいよ。でも、すぐに俺たちはロント王国に侵攻するつもりだから、すぐにまた戦うことになるかもしれないけどね」

「それなのに私を逃すのか?」
「そうだよ。それほど君の力を評価している。もし、次も俺たちが勝利して、ロント王を討つことができて、君が生き残っていたら、その時は従属を考えて欲しいな」

まさかの言葉に、アリューゼは唖然とする。これから攻め入る国の将を、生きて帰すメリットなどないだろうに、だが、今、目の前にいるこの男は、それをやろうとしている。

「あなたの名を聞いて良いだろうか・・・」
気がつけば、アリューゼはそう聞いていた。
「俺はエイメル。エイメル・アースレイン。アースレインの王だ」

それはアリューゼにとって、衝撃的なことであった。王、自ら前線に出ている・・ロント王国では考えられないことであった。
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