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進境編

第34話 目覚め

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 心地よい朝日の光を感じる。

 そして、さわやかな朝を演出する小鳥たちの囀りが、ほのかに聞こえる。

 薄っすらと目を開けると、見慣れた天蓋付きのベッドのレースの天幕が見えた。
 そのベッド脇には、いつもの定位置といった風にルインが座っていて、私の目覚めを待っている。

 とてもスッキリとした気持ちの良い朝だけど、目を覚ますにつれ、ぼんやりと気を失う前の出来事と、やらかしたアレやコレやを思い出し、私は二度寝をする事に決めた。

「お目覚めになられましたか、姫様……?」

「…………。スヤァ……」

 さすがのルインも、この幼児特有の可愛い寝顔には勝てなかったらしい。

 彼女は、私の前髪をサラサラと優しく撫でると、そのまま頭を掴み、段々と力を入れてきて――

「……お目覚めですよね、姫様?」

「Zzz……あ゛い゛だ だ だだだだだだだだだッ!?」

 ――アイアンクローをかけてきたッ!?


「おはようございます、姫様。目は覚めましたか?」

「……おはよう、ルイン。もう少し優しく起こしてくれても良かったのよ?」

 頭が潰れるかと思ったわ!

 手を離すと同時に回復魔法をかけられ、直ぐに痛みは引いたけど、子供に対する扱いにしては酷いと思う。

「申し訳ございませんが、姫様には本日は朝から予定が詰まっておりますので、のんびりと惰眠を貪っていただく時間はございません」

「予定が詰まってる……? 説教とかではなく?」

 昨日の事でお叱りがあるとは思ってたけど、どうにも、それだけでは無さそうな雰囲気だ。

「とりあえず、お叱りは後ほど。昨日の東門での事は、まだ事態が収拾したとは言い切れない状態ですので。それらを済ませてからにしましょう」

「ほえ? まだ収拾してないの?」

 もしかして、まだ魔物との戦闘が続いてたりするのだろうか?

「ええ……東門に残された物が原因で、今現在、都市機能がマヒ状態ですので」

「残され……? あぁ……」

 もしかして、初代さんの巨大ゴーレム……
 たしか、ベディは、アイゼンクーゲルとか言ってたっけ?

 あれが残ったままなのか……

「……えーっと、なんで、あれの所為で都市機能まで止まってるのよ?」

「まだ街道が塞がっているだけなら問題なかったのですが、塞いでる物が物です。この国には初代国王様の物語を知らぬ者はおりません。その建国の英雄が実際に使役していた巨大ゴーレムが出現したのです。それを一目見ようと、一般の王都民のみならず騎士団や王侯貴族まで東門に押し寄せており、行政から治安維持に至るまで、現状、全てが止まっております」

 お、おおぅ……

 フィリピンやフランスで、いきなり本物の超電気Vやグレートダイザーが現れた様な物か……
 そりゃたしかに、都市機能がマヒしてもおかしくないかも……

 てか、王侯貴族までって、パパン達まで見に行ってるんかい。

「でも、何故、あのゴーレムが初代様の使ってた物だとバレてるの? 大昔の話で、絵とかも残ってないって聞いた気がするけど?」

「ええ……、まあ、それは関しては、奥の院の者……えー、私の親類でもあるのですが、人の種族の中には、とても長命な者達がおりまして……。初代様のゴーレムを実際に見た事がある者が、東門の様子を見に行った時に、ポロっと喋ってしまったらしく……申し訳ございません」

 ルインにしては珍しく、しどろもどろな話し方だけど、なるほど。
 あのエルフさん達か……

 思ったよりもミーハーな人達なんだろうか?

「ですので、姫様には、早急に、あれの回収をしていただく必要がございます」

 ルインは「早急に」の所を強調して、今度は有無を言わさぬ雰囲気でそう言った。

「なるほどね……事情はわかったわ。でも、あれを出したのって私じゃなくてベディだし、回収するだけなら、なにも私を待たなくても……」

「私の思考領域が復旧したのも、つい先ほどだったのでな」

「あー……そういえば、あんたも魔力切れ起こしてたんだっけ……」

 ベッド脇のテーブルに置かれたベディが私の疑問に答えて気が付いた。

「というか、あの後どうなったの?」

「とりあえず、その辺りのご説明も後ほど。先ずは着替えていただきますので、早くベッドから出てください」

 本当に急いでるらしく、私は部屋付きのメイドさん達総出で身だしなみを整えられると、直ぐに部屋を出て、ルインに抱っこされて足早に城の外へと連れ出された。

 そのまま、あれよあれよと城の外に止めてあった馬車へと詰め込まれ。
 馬車は私達を乗せると、馬に跨った数騎の騎士の先導の元、東門へと向けて走り出した。

 前世でも現世でも馬車に乗るのは初めての体験だけど、そんなに乗り心地は悪くはない。

 車内の広さも数人の大人がくつろげるスペースがあり、ソファーみたいな座席を挟みテーブルまである。
 外から伝わる音も静かで、揺れも少なく、テーブルの上に置かれたグラスの中身が少しゆらゆらと波打つ程度で、変な自動車なんかよりも快適な気がする。

 昨日、街中でも何台か見たけど、普通の人が使う馬車とは色々と性能が違うみたいだ。
 さすが王族が使うだけの事はある。

 そんな快適馬車空間で、私は朝食を取りつつ、昨日の事情聴取的な事と、この後の段取りを聞かされる事となった。

「――て感じで、ベディが一撃で真っ黒な竜をやんないと被害が出るって言うから、あのゴーレムで倒したのよ」

「ひとつ確認いたしますが。あの巨大なゴーレムを出現なさったのは、どちらなんですか?」

「アイゼンクーゲルを出したのは私だ。武器として使った剣はティアルが生成した物を使った」

「それらの回収は可能なんですね?」

「可能だ」

「そうですか……」

 と、一通りの説明を私とベディから聞いたルインは、少し安堵した様子だった。
 だけど、少し考え込む様に黙ってから再度口を開く。

「……その回収に際して、一つ問題がありまして。今朝方まで行われた会議でも話し合われたのですが、回収をするにしても、どの様に行うのかが、まだ決まっておらず……」

「どゆこと?」

「回収するにしても、姫様の立場が面倒になる恐れがありまして……。もう既に、一部の者からは、姫様が初代国王様と同様のお力を持ち、聖樹までの道を切り開く救世主なのではないか?などといった言が上がっております」

 なんか巫女よりも面倒そうな疑惑がかかってるぅー!?

「え!? ちょ!? まってまって! どうしてよ!?」

「昨日の出来事は多数の者が目撃しており、まるで王都を守るかのように初代様が使役されていた巨大ゴーレムが召喚されたとの話が広まっております。そして、あの時、王族の中で王都に残っていたのは姫様だけ、という事も国務に携わる大半の者が知っておりました」

 Oh……
 そりゃ、私に疑惑の目が集中するわ……

 国宝の魔道具を使ったとか言い訳をしたくても、宝物庫へのアクセスも王族が居ないと出来ないっぽいし、容疑者が私しかいないじゃん……

「一応の確認なのですが、姫様は、あの初代様のゴーレムを使役可能ですか?」

「え? うーん……無理だと思う」

 現状は、という言葉が付くけど。

 というか、ルインも私の事を疑ってるん?

 まあ、それは仕方ないとしても、あの質量と大きさともなると、軽く見積もってもルークスを稼働させる量の100倍は魔力が必要になると思う。

 あの時も、ルークスで遊び過ぎたのと、巨大な剣の生成だけで魔力を使い果たして気絶しちゃったし。
 万全な状態だったとしても、動かすのは10分前後が限界な気がする。

「動かせたとしても、少し動かしただけで昨日みたいに気絶しちゃうんじゃ、使えるとは言えないかなぁ……そういえば、昨日、私が意識を失った原因て、魔力が枯渇した所為なのよね?」

「恐らくはそうかと。他の者達の事情聴取でも、その様に聞いております」

「ふーん……やっぱり、あれがそうなのね」

 魔力を使い切るとああなるのか……
 はしゃいで使いすぎない様に気を付けなきゃ。

「話を戻しますが、初代様のゴーレムを回収するにしても、姫様の力ではなく、ベディさんの、言うなれば王国の国宝魔道具の力で行っていると見せつけなければ、姫様へ過大な評価が集まってしまうという事が懸念されております」

「ええっと……つまりは、私が目立つ方法じゃダメって事よね?」

「はい。ベディさんの話も聞けましたし、回収も可能との事ですので一安心ではあるのですが、その点を考慮しなければなりません」

 要は、何某かの演出が欲しいって事か。

「それなら、私に良い考えがあるわ!」
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