上 下
19 / 38
胎動編

第19話 魔力相転移

しおりを挟む
 搭乗型ゴーレムの作成を始めて二日目の午後。

「うーん……」

「どうした? 作る手が止まっているが」

 全体像が見え始めた頃、ちょっとした問題に気が付き、作業を止め悩んでいると、先程まで静かに見守っていたベディが話しかけて来た。

「えーっとね……ちょっと、要所要所の強度が足りない気がするのよね」

「強度が?」

「主に脚部のね。中にゴーレムを充填して動かす関係上、あまりフレーム部の可動軸に容量を取られる訳にはいかないのよ。そうしないと強度は保ててもパワーが出なくなるわ。実際に満足に動かせそうなくらいの空間を持たせた構造で作ってみたけど、少し立たせただけなのに、もう既に可動部が歪み始めているのよね」

「なるほど。なら弱い部分を全体的に太く頑丈にすれば良いのではないか?」

「そうすると足の幅が広くなるし。それに合わせて脚部全体が太くなっちゃうわ。そうなると腰部から胴体にかけても変更しなくちゃいけなくなるし、そうなったら、ほぼ全部が作り直しになるだけじゃなく、さらに重くなって悪循環に陥るかもしれないから悩んでたのよ……」

 前に、格闘訓練の際、ルインが「足は全ての基礎です」みたいな事を言ってた気がするけど、こんな所でそれを痛感する事になるとは……

「ねぇ、ベディ? 初代様って、こういう問題ってどうしてたの?」

「彼は、ほぼ力技だったな。構造的には君の作っている物と似た方向性ではあったが、作りはもっとシンプルだった」

「力技って、どんな風によ?」

「常に装甲と内部のゴーレムを魔力で固く強化し、無理やり壊れない様にしていた」

 うーん……
 なんとも、力こそパワーな方法ね。

 ロボット作品の中でも、何かのエネルギーを物質の固さに変えるといった方法は比較的ポピュラーな物だし。
 それはそれで嫌いではないけど、そうした物は使えるエネルギーが豊富であるという前提な事が多い。

「ほぼって事は、他には何をしたの?」

「あとは、月並みな方法だが、素材を頑丈な物に変える事だな」

 やっぱ、そうよね。
 私も、残りは、それくらいしか思いつかない。

「素材を変えるにしても、鋼鉄以上の物ねぇ……」

 チタンとかタングステンの合金とか?
 そういった物も頑丈ではあるけど、丈夫さの質が違ったりして、万能とは言い切れないのが難しいとこなのよね。

「ミスリルやアダマンタイトが使えれば、問題は解決したのだがな」

「あれは失敗したしね……」

 前に、宝物庫から持って来た武具の素材を丹念に調べて、同じ物を作れないかと試したのだけれど、結局はダメだった。
 この世界に来るまで見た事も触った事もない金属な為か、生成をしようとしても何かが足りない感じがして、上手く作れなかったのだ。

 ミスリルを真似て作ろうとするとアルミみたいな物が生まれたり、アダマンタイトであれば銅だったりと。
 重さは似た様な物だけど、色も性質も全然別の物が出来上がるという謎現象が起き、頓挫してしまった。

 まあ、あの時は、いつもは無表情に近いルインのガッカリ顔が見れたので、それだけが収穫だったわね。

「ふぅ……」

「一旦、休憩にしてはどうだ? あまり根を詰めすぎるのも良くないだろう?」

「そうですよ姫様。昨日から寝る時間まで削って作ってるじゃないですか。少し休んで、おやつにしませんか?」

 私の様子を見兼ねたミアもベディの意見に賛同する。

「……そうね。そうしようかな」

「それじゃ、直ぐにお茶とお菓子を用意しますね! わたしも何を食べよっかなー♪」

 ミアはそう言うと、青髪をなびかせ、ルンルンな様子で部屋から出て行った。

 昨日から監督役のルインが居ない所為か、かなり自由奔放な振る舞いが多い気がするけど、あれが彼女の素なのかしら?
 まあ、見ていて和むからいいんだけど。

 そんな事を思いながら、私はベディを置いてあったテーブルに突っ伏した。

 それにしても、脚部はどうしたものか……

「やっぱり、魔力で強度を上げる方向しかないかなぁ……」

「そのサイズのゴーレムであれば、それでも良いかもしれないが。後々、大きな物を作るのであれば、現状ではお勧めしないな。私の維持にも君の魔力が必要なので、多少は余裕をもって運用できる物を作ってほしい」

「あなたって大気のマナとかも吸収できるんでしょ? わざわざ私から吸わなくても良いんじゃない?」

「出来るが。それをすると、この国の執っている戦略を阻害しかねない。緊急時でもなければ、それは止めておいた方が良いだろう」

 あー……あれか。
 王都自体を囮にしてるっていう。

「てか、あなたの維持って、1日どれくらいの魔力が必要なのよ?」

「そうだな……魔力の具体的な数値化は難しいのだが……たしか、君の魔法生成物の中に金があったな? あれが5kgもあれば、1日程度は今の状態を維持できるはずだ」

「1日に金5kg!? ちょっと、燃費悪すぎでしょ……」

「常駐させている魔法が無くなれば、減らせない事もないが。だが、資産価値で見ればそうかもしれないが、君の使用した魔力量で見た場合はどうなのだ?」

「あー……言われてみれば、5kg程度なら、そんなんでもないかも?」

 異次元収納に仕舞ってあったコレクションの内、修繕不可能と判断した物は、泣く泣くではあるけどベディに食わせた。
 それもあって、今は収納の維持に必要な魔力量は、1日に生み出す魔力の1割にも満たないし。
 現状であれば、日に金を100kgくらいなら生産可能な魔力が余っている。

「なんか、改めて考えてみると、私って、かなり魔力を無駄に余らせてる気がしてきたわ」

「昔も、王族や高位貴族の一部に、君と同じく魔力を無駄にしていると考える者達が居たな……」

「おまたせしましたー!」

 ベディと他愛もない話をしてると、お菓子を満載したカートを押してミアが戻ってきた。

「なんか、随分と持って来たわね……」

「疲れてる時は甘い物ですよ姫様! お飲み物は何にします?」

「ミルクティーのミルク多めで」

 子供の体になった所為か、なんか、苦い物とかが少し苦手になったのよね。
 転生前はコーヒーとか普通に飲んでたのに。

「はい、どうぞ。ケーキはどれにします?」

「ありがとう。ケーキとかは勝手に取るから、適当に並べてくれる?」

「わかりました! わたしは何にしようかなー♪」

 ウキウキでケーキを選ぶミアを見てると、なんだか、どっちが子供か分からないわね。

 いや、精神年齢的には私の方が大人なのか。

 さてと、私はどれにしようか。

 甘い物は好きだけど、まだ体が小さい分、食べられる容量も少ないから、1個くらいが限界だ。
 なので、いくつも提示されると悩んでしまう……

「うーん、これにしよ」

 吟味を重ね、ジュレとムースとスポンジ生地が三層になったのが美味しそうだったので、それに決めて、お皿を取った。

 うん、思った通り美味しい。
 透き通ったベリー系のジュレが赤い宝石の様に奇麗で、味も酸味が主張しすぎず甘みを引き立たせている。
 ムース部分も負けず劣らず、ジュレとは違う味と食感を演出し、スポンジ生地もきめが濃くなめらかだ。
 飾りつけも申し分ない。

 普段の食事もだけど、こっちの食文化って、さして向こうと遜色ないのよねぇ。

 たまに、こういう部分で、文化面でのアンバランスさを感じる。
 おそらく、過去に転生人が変な知識とかを色々と持ち込んでる影響なんでしょうけど。

「どうです姫様? そのケーキもおいしいですか?」

「ええ、美味しいわ。見た目もキレイで、味も悪くないし。ミアのはどう?」

 彼女は、後にすると溶けてしまうからとの理由で、最初にアイスケーキらしき物を選んでパクパクと食べていた。
 
「おいしいです! さすがは王城の職人さんです! 外じゃ、氷魔法が使えるデザート職人さんを抱えてるお店なんて、そうそう無いですから」

「氷魔法? それ氷魔法で作られてるの?」

「そうですよ。姫様のにもゼリーとかムースの部分を冷やして固めるのにも使われてるんじゃないですか? 氷属性の人は魔法で温度調整するのが得意ですから」

「へー」

 魔法を料理にも使ってるんだ。面白い。
 たしかに、ジュレ部分もムース部分も、ある程度は冷えてないと柔らかくなり過ぎて形を保てないものね。

 熱で固さを変えるねぇ……
 なんだか、ベディが言ってた魔法で固くするって話とも似てるけど。
 こっちは熱を操ってるだけで、物理現象を利用している分、効率が良いかもしれないわね。

「これを応用できないもんかしら……」

「応用……ですか? ケーキをゴーレムさんに?」

「ケーキじゃなくて、熱で固さが変えられる事をよ。水だって冷やして凍らせれば固くなるじゃない?」

「あはは、それなら魔力で強化したほうが早いですよ」

「それはそうなんだけど」

 水と氷、温度だけで、こうも形を変えられるのは便利よね。
 なんて言ったっけ、こう言う現象は……

 たしか、相転移だったかな?

 熱や圧力、電荷の移動とかでも起きるけど、魔力で物の固さを変えられるのも一種の相転移なのかしれないわね。

 あれ……?

 だとするなら――

「――もしかして?」

 私は、アルミを生成しながら、それに籠める魔力を多めに注ぎ込む。

 生成する量は変えず、使用する魔力の量を多くするイメージをして。

「……できたわ」

 生成できたのは、薄っすらと青や緑の光沢を波紋の様に揺らめかせる金属だった。

「どうしたんです姫様?」

「それはミスリルか?」

「たぶんね」

 これで、素材の強度問題はクリアできるかもしれない!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ

トール
恋愛
会社帰り、駅までの道程を歩いていたはずの北野 雅(36)は、いつの間にか森の中に佇んでいた。困惑して家に帰りたいと願った雅の前に現れたのはなんと実家を模した家で!? 自身が願った事が現実になる能力を手に入れた雅が望んだのは冒険ではなく、“森に引きこもって生きる! ”だった。 果たして雅は独りで生きていけるのか!? 実は神様になっていたズボラ女と、それに巻き込まれる人々(神々)とのドタバタラブ? コメディ。 ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

鍵の王~才能を奪うスキルを持って生まれた僕は才能を与える王族の王子だったので、裏から国を支配しようと思います~

真心糸
ファンタジー
【あらすじ】  ジュナリュシア・キーブレスは、キーブレス王国の第十七王子として生を受けた。  キーブレス王国は、スキル至上主義を掲げており、高ランクのスキルを持つ者が権力を持ち、低ランクの者はゴミのように虐げられる国だった。そして、ジュナの一族であるキーブレス王家は、魔法などのスキルを他人に授与することができる特殊能力者の一族で、ジュナも同様の能力が発現することが期待された。  しかし、スキル鑑定式の日、ジュナが鑑定士に言い渡された能力は《スキル無し》。これと同じ日に第五王女ピアーチェスに言い渡された能力は《Eランクのギフトキー》。  つまり、スキル至上主義のキーブレス王国では、死刑宣告にも等しい鑑定結果であった。他の王子たちは、Cランク以上のギフトキーを所持していることもあり、ジュナとピアーチェスはひどい差別を受けることになる。  お互いに近い境遇ということもあり、身を寄せ合うようになる2人。すぐに仲良くなった2人だったが、ある日、別の兄弟から命を狙われる事件が起き、窮地に立たされたジュナは、隠された能力《他人からスキルを奪う能力》が覚醒する。  この事件をきっかけに、ジュナは考えを改めた。この国で自分と姉が生きていくには、クズな王族たちからスキルを奪って裏から国を支配するしかない、と。  これは、スキル至上主義の王国で、自分たちが生き延びるために闇組織を結成し、裏から王国を支配していく物語。 【他サイトでの掲載状況】 本作は、カクヨム様、小説家になろう様、ノベルアップ+様でも掲載しています。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

処理中です...