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Anniversary 1st Season
『体育祭権謀術数模様 -Happy Days!-』【5.後半戦】 [1]
しおりを挟む『体育祭権謀術数模様 ~Anniversary -Happy Days!-』
【5.後半戦】
「なにはともあれっ……!! ――部費を手に入れるためには、何をさておき、まずは“打倒・生徒会チーム”だ!! 気合入れていくぞ!?」
そんな俺の言葉に、ニッコリ「おうっ!」とノリもよろしく返してくれたのは……案の定、三樹本ただ一人だけだし。
碓氷センセーに至っては、もともと機嫌はよろしくなかったとはいえ、先刻の放送部員の不要な発言により“寝た子を起こされた”所為でか、誰一人として近寄れもしないくらい、更によろしくないご機嫌となってしまっているし。…てゆーか、これはもう、むしろ“悪化”といっても差し障りは無いくらい、ものすごっく凶悪なオーラを発してらっしゃる。――まあ逆に、その不機嫌な凶悪さが、これから始まる競技に…また敢えて加えるならば、そのレースを主催して下さってるチームにも向いてくれるのならば、とりたてて何も言うことは無いんだけどな。…むしろ万々歳ってモノか? …あの放送部員の不用意な危険発言に感謝しちゃうよ?
そして俺も俺で、やっぱり先刻の放送部員による入場門でのインタビュー――という名を借りた謂われも無い“曝し”行為――には、ハラワタが煮えくり返るくらい…とはいかないもまでも、ナニゲに腹も立っていることだし。…オマケに由良の発言に至っては、その立腹度合いが、ほぼウラミの領域にまで達している。ともに俺の闘争心が掻き立てられるには充分な仕打ちだったぞアレは。
つーワケで、そんな俺と、たぶん碓氷センセーには、『アイツら殺す!!』くらいの気合は充分! そこまでいかずとも、気合の在る無しにおいては、付き合いの良い三樹本も、まあ問題は無く。
――だから何が“問題”って……ウチの一年坊主どもだよモンダイは……!!
俺が何を言っても、黙ってゲンナリと疲れ果てている、その姿は。――なんでそんなにノリが悪いんだキサマら……?
イヤ、別に競技に“ノリ”は必要ないけれども。それにしたって、仮にも“チーム戦”であるからには、適度に気合は入れてもらわないと。しかもコレの勝敗には、“部費”の獲得が懸かっているのだ。
「…ったく、何を始まる前から疲れ果ててるんだオマエらは」
言ってやった途端、即座に「そんなこと言われても…」という三声ユニゾン。――ホント、こういう時だけ“ナイスコンビ”だよなウチの一年どもは。
「でも部長……なんてゆーかコレ、見てるだけで『疲れ果てて』きませんか……?」
そりゃそーだ。なにせ、この競技は“そういうもの”だからな。
一年部員の面々が見ている先には、既に始まった《部活動対抗障害物リレー》の競技模様。
現在、俺たちはグラウンドの中央で、その順番待ちをしていたトコロだった。周囲にも同様に走る順番を待っている部の走者メンバーがたむろっている。
走る順番については、予めクジで決まっていた。俺たち天文部チームは何の因果か最終レース。しかも、一緒に走る五チームの中には、チャッカリ生徒会チームも含まれている。…絶対、クジに何か細工されていたとしか思えん。
でも、まあ……そういう全てをひっくるめても、この競技は“そういうもの”であるのだ。
ゲンナリ告げた早乙女に、ニベも無く俺は「もう慣れた」と返してやる。
「サスガに、“人間がバトン”っつーのは初めてだけどな。でも、毎年こんなモンだぞ? この競技は」
何を隠そう、この《部活動対抗障害物リレー》は、ウチの高校に代々伝わる伝統的な“元祖・イロモノ競技”なのである。
だから、主催者である生徒会のトップに立つのが、たとえ由良だろーが《三連山》の面々だろーが他の誰だろーが、この競技だけは毎年さして変わらずにキッチリと“イロモノ”っぷりを貫いてくれているのだ。それはもう、梨田サンの言葉を借りれば、『生徒会の威信にかけて』な。
こればっかりは、毎年“時間とりすぎ!”ってくらいに手を抜かずテマヒマかけて、更に言うなら手を変え品を変え、観ている者にとっては飽きのこない趣向を凝らしてくれている。…走る人間にとっては別だがな。“趣向”も何もあったもんじゃねえし。
――というコトを、そりゃー一年坊主じゃ知らなかったんだろうけどさ……。
「でも去年の方が、“障害”だけなら、もっとスゴイことやらされてたんやで? 今年は“バトンが人間”って分、障害は少々甘くなってるかもしれんわ」
んでもって三樹本がダメ押し。
「だから、あんま深く考えんと。普通に走ってるだけで楽勝やって」
普段と変わらない調子でそう軽く皆を励ます、そんな三樹本のニッコリ笑顔を見上げて……三人三様にウチの一年どもは、そこでハーッと深々とタメ息を吐いた。まるでアキラメの境地に至ったみたいに。
そこをすかさず、俺は告げる。
「つーワケだ! だから、そんな甘っちょろい障害なんかに手間取ってるヒマなんて無い! このレースはタイム戦だからな、とにかく速さで勝負なんだ! 仮に一位で走ってても絶対に気を抜くな! 何が何でも全力で走り抜け! いいな!?」
そして再び、一年生三人がタメ息を吐き出したトコロで……「最終レースに出場の皆さん、そろそろスタンバイお願いしまーす」と、係の生徒の呼びに来た声が聞こえてきた。
*
『さーて、この《部活動対抗障害物リレー》も大詰め、いよいよ最終レースとなりました! ココでようやく、当競技きっての好カード、優勝候補の双角であります生徒会チームVS天文部チームの戦いの火蓋が、切って落とされようとしているワケでございます!』
相変わらず好き勝手なこと言ってやがるぜ…と、そのアナウンスでワアッと盛り上がりを見せた会場の空気の中で、少々ゲンナリとしつつ俺はボヤく。
ホント相も変わらず、“自称・『放送部の《Kinki Kids》』”とやらのヤツらの喋りっぷりは健在で、なんとなく腹が立つ。…つーか、競技が始まってからコッチ、ずっとあの調子のアナウンスを聞かされていれば、最終レースを迎える頃にもなれば少々食傷気味にもなるってマジで。
ゲンナリついでにスタート地点を眺めれば、各部それぞれのユニフォームの中に紛れて、黒一点、スッと立つ高階の学ラン姿が良く目立つ。
――ちなみに、この競技に参加するに当たって、各部ユニフォーム着用は必須! である。俺たち天文部のように“ユニフォーム”というものを持たない文化部や同好会なら学校指定の体操着かジャージでの参加で済むが、運動部のように、練習用・試合用問わず、何かしら揃いのユニフォームを持ってる部がホトンドだからな。…たとえば剣道部なんて、防具一式シッカリ身に着けて走らなくてはならないから災難だ。ああ可哀想に。
そういった点でも、この競技は観ている目にしてみれば、とてもニギヤカだし楽しめる。
その中にあって特に目立つのが、真っ黒い学ラン姿。
やっぱり“黒”というのは、良かれ悪しかれ、とても目立つものなのかもしれない。
そういえば先のレースで既に走り終わった応援部チームの面々も、ユニフォームとして黒い学ラン着用で走っていたが、一緒に走っていた他のチームの彩りも豊かなユニフォームや白い体操着に比べて、すげえ目立っていたような気もする。…イヤただ単に、走者メンバーがムサくてゴツイ男ばかりだったから、っつーのもあったからかもしれないが。
ともあれ、ただ単に“黒!”という点では、スタート地点の高階も、遠目から見てもかなり目立っている。しかも応援部連中と違って、そんな学ランを纏っているのが華奢で可愛らしいオンナノコだからな。これは絶対マニアが居そうだ。
『――続きまして第三コース! お待たせしました、ようやく優勝候補のご登場です! 黄色いハチマキに黒い学ランは天文部チームっっ!!』
チーム紹介のアナウンスがスピーカーから響き渡り、歓声や鳴り物と共にドッと会場が湧き。如才なく高階が、そんな客席に向かって手を振って応えつつニッコリした極上の笑みを振り撒く。――いくら予め俺が『紹介されたら愛想よく応えて部活紹介インタビューでシッカリとウチ部アピールしといて』って言っておいたからとはいえ……後で碓氷センセーが怖いので、そこらへんで止まっといてくれませんか高階サン……?
(今日のコレで“マニア”という名のファンを増やしたトコロで……君にはもう、あのジコチュー教師が居るじゃんか……)
この様子を第二走者としてスタンバって見てるだろう当の“ジコチュー教師”の決して穏やかではいられないだろう心中を慮り、俺は軽くタメ息を吐く。――同様に、やっぱり心中穏やかではいられないだろう第三走者としてスタンバっている早乙女に対しても。
見た目の“可愛らしさ”という点では、一緒にいる小泉に負けるとはいえ……しかしナニゲにモテるからな高階は。一見すると大人しげで性格温厚、常にニコニコおっとりとした雰囲気で、でも目立たないようでいて実はさりげなく美人だし、おまけに誰からも頼られるシッカリ者、そして適度に優等生でスポーツ万能。――つまり、そんな彼女のおっとりスマイルに影ながら惑わされてる男は、決して早乙女一人だけじゃない、ってことだ。
『そのバトン役を務めますのが、一年C組、小泉選手!』
チーム紹介のついでにバトン役も紹介される、との説明は、前もって言ってあったハズなのだが……紹介された当の小泉は、高階の背中に張り付いたまま引き攣り笑顔を見せつつペコリと軽く一礼のみ。――頼むから可愛らしく手ぐらい振ってやれよっつの。
小泉も小泉で、わりと影ではモテている。やっぱ見た目は可愛いし性格も天真爛漫だしな。…が、いかんせん当の本人が『みっきー先輩ダイスキ!』をあからさまに公言して体現して憚らないモンだから、誰もあからさまに何も言えない上にアクションすら起こせない、っつーだけのことで。…しかも本人、極端にニブいしな呆れるくらい。…だって考えてもみろって、彼女は現に自分の学校の生徒会長すら知らなかったよーな、そういう度の外れた大ボケなんだぞ?
(それにしても、いくら不本意とはいえ……こういう時くらいファンサービスしてやったって、バチは当たらんぞ小泉……?)
――まあ…そうしたらそうしたで、今度は当のカレシの方が黙ってないんだろうけどさ。
“当のカレシ”――つまり三樹本だが。
ヤツはきっとヘーゼンとナニゴトでも無いよーなカオで、第五走者…つまりアンカーとしてスタンバっているに違いない。
見なくても分かる、そんなのは。
それでも……今日は一日、さっきの競技でも活躍したことだし、なにかと小泉に全校生徒の注目が集まっていて、絶対に内心ではヘーゼンとしてられていないに違いない。こうやって彼女が“バトン”として紹介されることすら、ヤツにとっちゃ気が気ではないんだろう本心では。
一応これでも同じ天文部員として約二年の付き合いだ。三樹本が場違いなくらいにナニゴトでも無いよーな表情をする時ほど、その内側でテンパってるってことを、俺はキッチリ知ってるからな。
小泉が入部してきてからコッチ、ヤツら三人からのお達しを守り、周囲に対して一見“別にカノジョじゃーアリマセン”って風なフリを見せつつ、――でもチャッカリ、不必要なくらいにキワドイすっげえラブラブっぷりまでも見せ付けては、それを小泉狙いの男どもへの牽制にしてたりもして。
『まだ高校生のクセして……あんなにも屈折した独占欲を持てるヤツなんて、初めて見たぞ俺は』
いつか言ってた碓氷センセーのシミジミしたタメ息まじりの言葉に、俺も同感。
きっと三樹本は、たとえウチの部の三人に件の“箝口令”を敷かれなかったところで……それでも、やっぱり同じように何食わぬカオをして、小泉には絶対に知られないような、でもハタから見れば判り易い独占的愛情表現でもって、彼女は自分だけのものだ、っていう事実を周囲に対して“これでもか!”ってくらいに見せ付けては牽制してくれてただろう。
現に、小泉が“自分がモテている”ってコトに気付いてないのも、本人がニブい以上に、そんな三樹本の影ながらの牽制が効いているのだと思われる。
…ホント、冷たいんだか熱いんだか、よく分からない食えないヤツ。
フと逆の方向を振り返ってみると、レーンの中、三樹本が隣に並んだ坂本と笑顔で談笑してる姿が目に入る。
改めて俺は、思い出したようにタメ息を吐いた。コメカミに浮かんできた血管を押さえながら。
(――よりにもよって“隣”だし、こんちくしょうっ……!!)
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