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Anniversary 1st Season

『体育祭権謀術数模様 -Happy Days!-』【4.ハーフタイム】 [2]

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「は? 『セイトカイチョー』って……?」
「はーい! 生徒会長してまーっす、二年C組、吉原よしはら由良ゆらでーっす! よっろしくーっ♪」
「――はいっ……!?」
 俺の身体ごしにピョコンと顔を出してニッコリそう挨拶した由良の姿をポカンと眺めて……そう小泉が絶句してまで驚くのもムリは無い。
 なぜなら、この由良ほど“生徒会長”という役職に相応しくないだろう人間も、そうは居ないからな。
 俺の腰のあたりにしがみついたまま、小泉に向かいニコニコと手を振ってみせる、そんな由良の身長は、驚くなかれ一四三㎝。小泉よりも更に低い。しかも、ややヤセ型という所為でもあるのか、引っ込んでるトコは引っ込んでいるものの出るトコが出てないという、典型的なオコチャマ体型。さらに、小泉に輪をかけて、めっちゃくちゃ童顔でもあり。おまけに髪型は、ほぼ常にツインテール。今日に限っては、体育祭ということもあり、邪魔にならないよう普段は流してるだけのツインテールを頭の両脇で団子にして纏めてはいるが。それにしたって、ドコからどう見ても“小学生”以外のナニモノにも見えない外見である。おまけに声だって子供特有の高い声だし。しかも独特のアニメ声。
 …これで“正真正銘の一七歳”って、世も末だよな。


 ――よってコイツこそ、ウチの学校の生徒会が“イロモノ”と呼ばれている最大の所以ゆえんである。


「でも…え、じゃあ、なに……? 『吉原』って……部長と同じ苗字……」
 …ようやくソコに気付いてくれたか。…あまりにも遅くて涙が出てくるホド嬉しいぞ小泉。
「だからコイツは、俺の“妹”」
「――え、えええええっっ……!?」
 だって似てないっ…!! と叫びかけてからハッとして彼女は口を噤むも……遅いからソレ。シッカリ聞こえてるし。――正直な感想ドウモアリガトウっ。
 まあ、確かに……父親似の俺と母親似の由良とでは顔もあまり似てはいないし、それに片や身長一九〇㎝片や身長一四三㎝じゃあ、俺たちに血縁関係があると思ってくれるヤツの方がとてつもなく少ないのは、事実だけどな。
 ――てゆーか、そもそもウチの高校に通ってて、《三連山》はおろか、この“現会長”である由良すら全く知らずに避けて通ってきていたなんて……だからオマエ、人生ドコをどうやって歩んでいるんだ小泉……!!
 …という俺の心の叫びは、さておいて。
 驚いたあまりか近くの高階と早乙女に「二人とも知ってた!?」と訊いてはスゲなく「当然」と返されてショックを受ける小泉から視線を外し……そこでようやく、「なにはともあれ…」と、改めて俺は由良へと向き直った。
「それで、何の用だ由良?」
「えー、べっつにー? ただ平ちゃん見かけたから話しかけてみただけー?」
「………とっとと消えろ」
「いやーん平ちゃん、冷た~いっ!」
「ウルセエよ! こっちは大事なレースを控えて忙しいんだ! ジャマすんじゃねえよ!」
「そんなの由良だって同じだもんっ! だからココに来てるんだし?」
「――は……?」
 その瞬間、ウンザリしていた表情のまま、ハタ…と俺は固まった。
 なんだか今……モノスゴク重大なコトを、聞いてしまったような……気が、する……?
「ちょっと待て……!!」
 反射的に、思わず俺は問いかけていた。
「じゃあオマエも、ひょっとして次のレース、出るのかっっ……!?」


「ふははははははははっ! ――ウチの可愛いバトン嬢に何か用かね? 平良たいらくん!」


 そして同時に……突如として真横から響いてきた、不愉快な含み笑いと、その言葉。
 もはや振り返るのも面倒くさい。
「…出たな、三バカ」
 そんな俺の予想に違わず……振り返ったそこに並んでいたのは、例によって《三連山》の坂本さかもと葛城かつらぎ田所たどころの面々。
「よお平良! 応援合戦、ご苦労だったな! お疲れさーんっ!」
「俺たちもC組の一員として鼻が高い。素晴らしい応援っぷりだったよ。サスガだ平良!」
「しかし! …とはいえ運命の女神は皮肉にも、チームメイトで、かつ友人でもある、深い絆で結ばれている同朋の俺たちを引き離し、よりにもよって敵対する宿命を与えてしまったのである!」
「ぅああ、なんということだろうか! たとえ運命とはいえ……恨まないでおくれ、これもまた俺たちに与えられた、いわば試練っ……!」
「――だから何が言いたいキサマら……」
 そこでナゼ芝居調になって言う必要があるのか、そのことからして全くもって意味不明なのだが……俺がウンザリして口を挟んだ途端、三人揃ってビシッとポーズを決めたかと思うと、「つまり結論!」と、キッパリはっきり、言い切ってくれやがった。


「この勝負に関して!」
「俺たちは“生徒会代表”として!」
「決して負けるワケにはいかないのだ!!」


 ――つまり“宣戦布告”、と……だったら最初からそう言えよ回りくどい。


「ごめんねえ、平ちゃぁん。…つまり、そういうことなのよーっ」
 再びナナメ下めちゃくちゃ低い位置から投げ掛けられる、そんな由良のすまなさそーな声。…ウソクサさ満点。
「平ちゃんとは、出来ることなら争いたくはなかったんだけど……」
「…じゃあテメエら揃って今スグ棄権しろ」
「ああん、それだけはダメなのよぉおおおっ!!」
「許せ平良! これでも同じ天文部員だ、部のためにも協力してやりたいのはヤマヤマなのだが……!!」
「そればっかりはどうしても協力できかねる、マリアナ海溝よりも狭くて深~い事情があって……!!」
「曲がりなりにも俺たちだって生徒会組織の一員、やはり易々とドコぞの部に部費をホイホイくれてやるワケにもいかず……!!」
「………よーするに平たく言えば、梨田なしだサンが怖い、と?」
「「「――オマエに彼女の何が分かるっっ!!」」」
 そう声を揃えて言われましても、ねえ……? ――エエ分かりませんとも、ちーっとも。
「あのなあ…」と呆れてウンザリ声を投げ掛けようとした途端、今度はナナメ下から響いてくる、「平ちゃん…?」と俺を呼んだ珍しく低いローテンションな由良の声。
「あのね…まぢ本当ーにっ! ――梨田リンダちゃんは、怖いのよ……?」
 そう呼ばれることをイヤがっている梨田女史に真っ向から臆面もなく『リンダちゃん♪』と呼びかけられる人間は、全校ドコを探しても由良しか居ない。居るとしたらば他には三樹本くらいなモンだろう。…と、それくらい由良と梨田は、昨年から同じクラスだということもあってか、一応は“仲の良い親友同士”であるハズなのだが。
 その“仮にも親友”である由良の口から、こうシミジミと、これほどまでに言われてしまうとは。
 ――梨田サン……アナタ一体、どんな手を使ってコイツら脅し付けたんですか……。
「だから平ちゃん? 本当に本当に、私たちの身の安全を考えてくれるなら、このレース……平ちゃんたちこそ、棄権してっ?」
「却下! そんなもん、俺らの知ったこっちゃねえしっ!」
「いやーん、平ちゃんのヒトデナシーっっ!! 可愛い妹がどうなってもいいってゆーのーっっ!!」
「それくらいじゃどうもならねえだろ。…頑張ってコラえて勝手にどーぞ生き延びてくれ」
「平ちゃんは、リンダちゃんのオソロシサを知らないから、そんな悠長なことが言えるのよぉーっ!! ――これでもし仮に、優勝できない、なんてことになったら……どんなオソロシイ目に合わされることか……アタシ、確実に地獄行き……!!」


『――聞こえてるわよ、由良!』


 …とソコで、ふいに大音量でスピーカーから響いてきた、その声に。
 途端、ウラミツラミをツラツラと言いかけていた由良が、出しかけていた言葉も出せないままに、そこでパッキリと固まった。
『ヒトの悪口を言うのなら、当人には聞こえないトコロで言いなさいね』
「な…なんで……?」
 硬直したまま背筋に冷や汗ダバダバ流しているだろう、そんな状態で呆然と呟く由良の横に。
 フと気が付けば、ヒッソリと一本のマイクが向けられている。
『――ハイ! …というワケで、これからいよいよ始まります《部活動対抗障害物リレー》!! 各部チーム、選手の皆様が続々と集まってきては早くも白熱しております入場門の様子を、まず真っ先に中継させていただきました! この競技は生徒会主催ということもあり、コチラ放送席には、主催者でございます生徒会会計の梨田さんを解説にお招きしております! どうぞよろしくお願いします!』
『こちらこそ』
『そして実況は、ワタクシ滝本たきもとコウイチと……』
『中継に榎本えのもとツヨシで……』
『お馴染みワタクシども「放送部の《Kinki Kids》」が、二人がかりで競技の模様を逐一、詳しく分かりやすく、皆様にお伝えしてまいりまーす!!』
 そこで客席全体から湧き上がる拍手と喚声。――そのアナウンスから察するに、俺らの会話は、何だか知らんがいつの間にか全校生徒に中継されていたということか……? つーか、スピーカーから声が流れてただろうに、そのことにすら全く気付かなかった自分が不覚。
 そして、いつの間にこんな近くに来ていたのか……あまりに突然のことで絶句するしか出来ない俺たちの横で、放送係の腕章を付けた、おそらく中継リポーターの放送部員・榎本ツヨシと思しき男子生徒が一人、俺たちの横でマイクに向かいニコヤカに喋りまくる。
『こちら入場門です。いましがたの会話は、優勝候補であります生徒会チームと、有力対抗馬として名を上げてます天文部によるものです! やはりコチラも皆様ご周知、生徒会長と天文部部長の兄妹対決ということもあり、これは好カード! のっけから面白くなりそうですねー! ――どうですか吉原生徒会長? そこのところのご心境は?』
 そうやってマイクを向けられても……あまりのオソロシサのためいまだ冷や汗タラタラ流しているであろう由良に、気の利いた返答など出来る余裕は、間違ったってカケラも無い。
 しかし、そんな由良に追い討ちをかけるかの如く、再びスピーカーから響いてきた心地よい穏やかなアルトの声。…ただし迫力満点。
『――由良…? 今サラ「棄権する」なんて、言わないでしょう……?』
 途端、ハジかれたように差し出されたマイクを引っ掴んで由良が叫ぶ。
「せせせ、せーいっぱい頑張らせていただきますっっ!! たとえ相手が兄だからといって、容赦はコレッポッチも致しませんっっ!!」
 ――だから梨田……オマエ一体、どんな手段を使ってコイツらを説得したんだ……?


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