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Anniversary 1st Season

『体育祭権謀術数模様 -Happy Days!-』【4.ハーフタイム】 [1]

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『体育祭権謀術数模様 ~Anniversary -Happy Days!-』

【4.ハーフタイム】



「もぉーう、すっっっ…ごい! カッコ良かったですぅううううッッ……!!」


 直前まで慌しくドタバタと準備に追われていたワリには無事に応援合戦の演技披露を終えることが出来、その後の後片付けも滞りなく済ませた、俺たちC組連合応援団員だったが……しかし予想に違わず、天文部の《部活動対抗障害物リレー》参加メンバーである俺と三樹本みきもと早乙女さおとめ高階たかしなの四人は、応援合戦の終了後まもなく行われるそれを控えて、着替えをしているまでの時間も無く、その足で学ラン姿のまま、またもや慌しく集合場所でもある入場門へと向かうこととなった。
 そんな俺たち四人を、入場門に到着するなり、迎えてくれたのは。――体操着にブルマ姿で待ち構えていたように走り寄ってきた小泉こいずみの『きゃああああっっ!!』という絶叫に等しいかん高い叫び声と、続く絶賛の言葉。
「ホントに感動しました!! ちょーステキでした! 学ラン着てる応援団員という部類のヒトを、こんなにもカッコイイと思ったのなんて初めてですぅうううっっ!!」
 言いながら、それでも何か言い足りないのか、手足をジタバタさせては「まぢスゴイですー!!」とキャーキャー喚く。
「応援席も、すっごい盛り上がってたんですよーっ!! もう皆ノリノリで、特にオンナノコたちは黄色い声で絶叫しながらポンポン振ってましたし!! そのくらい、部長たちってば、すっごい迫力満点でカッコ良かったですーっっ!!」
 褒めてくれるのは嬉しいのだが……そう素直に臆面もなく面と向かって絶賛されると、なんだか照れくさくてコソバユイ。
 何と返事を返していいものやら分からないままに、とりあえず笑って「ありがとう」とだけ、返しておく。
「コッチからも応援席、見えてたで? 皆ちゃーんとコッチの指示通りにポンポン振ってくれて助かったわ。こっちこそアリガトなー?」
 小泉のアタマを軽くぽふぽふ叩きながらニコニコ笑顔でそんな返答を返せる三樹本が……さすがカレシだけあって、扱い慣れてるというか褒められ慣れてるというか……なんだかスゲエと思ってしまう。――『ありがとう』しか返せない俺より全然オトナでやんの。
 確かに三樹本の言う通り。そもそも俺たち応援団員は、“C組を代表して応援合戦に出場するメンバー”というだけであって、“応援”そのものは、やっぱり“C組連合”というチームぐるみで皆が一丸となってやらなければいけないものである、と考えているから。
 よって俺たちC組応援団の応援合戦の演出の中には、応援席からの参加も含まれていた。
 …とはいえ、声を出してもらうことと応援道具でもある黄色いポンポンを振ってもらうこと、くらいのササヤカなものでしかないが。
 それでもタイミングを合わせてもらわないことには“参加”と呼べるイミは無く、タイミングを合わせてもらって初めて“演出”と呼べるべきものにもなる、というものでもあり。
 しかしその点については、三樹本の言葉通り、事前に俺が説明して軽く打ち合わせただけにしてはバッチリな出来栄えを、それこそC組生徒一丸となって、披露してくれたんじゃないかと思う。
 振りを合わせながら応援席の様子が見え、ここまでキレイに揃うと壮観だよな、と……本番中、動きながら内心“これで一位は貰った!”と一人ニンマリしていたような記憶もある。
「でもー……これでまた、みっきー先輩のファンが増えちゃうなー、と思うとー……ちょっぴりフクザツー、ってゆーかぁ……」
 そして、三樹本の前で今度はクネクネとオトメゴコロで葛藤し出した小泉を、少し離れたトコロから白い目で見つめつつ早乙女が小さく「けっ、バカじゃねーの」と呟くと……同時、それを耳ざとく聞き止めた小泉がキッとした視線を上げてヤツの方に向き直るや否や、即座にニヤリとした笑みを浮かべて、
「ああ、そういえばアンタを『カッコイイ』って言ってるモノズキなオンナノコも居たわね! やっぱ応援合戦の効果ってスゴイわねー? こんなアンタでも、そーやって学ラン着てるだけで『早乙女くんって、あんなにカッコ良かったっけ!?』なーんて、それなりに良く見えちゃうんだからーっ!」
 ――強烈なイヤミ攻撃、炸裂☆
「ファンが増えて良かったわねー?」と、相変わらずのニヤニヤ笑顔で三樹本の身体ごしに言ってのける小泉を、仮にも先輩の陰に隠れられている手前、殴るにも殴れず、握り締めたこぶしをフルフル震わせつつ、「いらねえよ、そんなもん!!」と怒鳴るしか出来ない早乙女。――やや哀れ。
「ミカコは、どう思ったー? 副団長としての早乙女っちのこと!」
 そして、やっぱりイヤミ攻撃の延長なのか、早乙女の気持ちを知っているからこそのイヤガラセもどきに続けられた小泉の言葉で、…対して、そんな意図とは全く気付くことも無く相変わらず普段通りのニコニコした笑みでそれまでのナリユキを見守っていた高階は、しかしイキナリ話を振られたというのに鉄壁の笑顔を崩すことも無く、「そうねえ…」と、やっぱり普段通りのおっとりした声音で、返答を返す。――そんな高階も、今は俺たち同様やっぱり黒い学ラン姿。それが妙に似合っていて、しかも身体の線にピッタリとフィットしてる学ランのラインが妙に色っぽくて、加えて普段は感じられない凛々しさまでも雰囲気から感じられたりしてて。そんな彼女を一目見るなり凝視して硬直した早乙女が、その後、鼻血でも噴き出しそうになったかミョーな動きで鼻のアタマを押さえつつクルリと百八十度方向転換していたのを、シッカリ俺は目撃している。
「もちろん、カッコ良かったと思うわ。さすが空手の上手な人は違うわよね」
 私みたいな付け焼刃な動きとは全然違うもの。続けられた高階の言葉に被さるようにして、やや頬を染めて首をブンブン振りながら、即座に「そんなことない! 高階こそ、初心者にしてはマジで良かったし動き!」と、よりにもよって高階の両手をガッと掴んで握り込み、それを力説する早乙女。
「コラコラ、ミカコ~? お世辞も言い過ぎると、この単純バカ、付け上がっちゃうわよー?」
「ううん、お世辞だなんて…そんなことないわよ? 本当に、先輩たちに負けず劣らず、早乙女くんも副団長としてスゴク活躍していたと思うし」
「ありがとう高階っ!! そこのバカチビと違って、俺のことを本当に解ってくれるのは君だけだ!!」
「…イエそんな大袈裟な。誰が見ても当然のことを言っただけだもの」
 ――高階、君は何て罪作り。…と思うのは、きっと俺だけでは無いだろう。
 そこで案の定、「なによ『バカチビ』って!? アタシのことッ!?」と即座に食ってかかって噛み付こうとした小泉の言葉は、アッサリと三樹本により、口を「もがっ…!?」という言葉にもならない呻きと共に塞がれて、阻止されてしまう。
「まあまあ、ここは早乙女っちに花を持たせてやりーや桃花ももか。せっかくC組を代表して身体を張ってまで頑張ってくれたんやから」
 …サスガ三樹本、よーく分かっていらっしゃる。
(だって、もうそろそろ、このへんで来るハズ、なんだもんなー……?)
 ここで三樹本いわく『花を持たせて』でもあげとかないと……マジでホントに冗談では無く、そろそろ“いつものパターン”に差し掛かる頃合だし。
 こうやって早乙女と高階が、何だかんだとイイ雰囲気になっているトコロで必ず……、


「――なーに手ェ取り合って見つめ合ってやがるんだ、テメエら?」


(こーやってジャマが入ることになってんだよねー碓氷うすいセンセーの……)
 しかも毎回毎回、出てくるタイミングをキッチリ計ったように現れて下さるし。――これは降って湧く登場の仕方を既にチャッカリ心得ているとしか思えない。どこぞの忍者ですかアナタは?
 そーやって、ふいに背後から響いてきた低くオドロオドロしい声にビックリしたのか、反射的に二人がバッと握り合っていた手を離す。…ホントに束の間の幸せだったなー早乙女。可哀想に。
 しかも碓氷センセー、今日は〈体育祭〉という場所柄ゆえに全くもって煙草が吸えない、という状況にある所為なのか……はたまた、さきほどの“午前の部”最後の競技で食らった例の“吊るし上げられ”が尾を引いているのか……普段にも増して、あからさまに機嫌が悪いし。
 そんな不機嫌さMAXな重低音の声で何の前触れも無くイキナリ言葉を投げつけられたら……そら、早乙女でなくともビックリするわな。
「あ、先生っ! さっき私が応援合戦に出てたの、ちゃんと見ててくれました? 学ランもどう? 似合う?」
 しかも高階、センセーの顔を見るなり、すっげえ嬉しそうな表情になったかと思うと、そんなことまでニッコリ可愛く言ってくれちゃって。…早乙女、さらに哀れ。
 そこで、「はいはい、見てた見てた。ゴクロウサマ」と軽くあしらう碓氷センセーが、あしらいつつも、片手で高階のアタマをナデナデしてあげちゃったりなんか、して……むしろ、さっきの早乙女との雰囲気よりも“イイ雰囲気”醸し出していたりなんか、しちゃってて……それを目の当たりにしてしまう早乙女が、ドコまでも哀れ。そして不憫。
「学ランも、なかなかに似合うじゃねーか。なんっか普段とは別人みたいだぞ?」
「ホントに!? 別人だった!? 先生がそう言ってくれるなら、頑張った甲斐があったなあっ♪」
「確かに、言うだけのことはあったよな。よく頑張った。お疲れさん」
「うわーい、先生に褒められちゃった~!」
 ――このほんわりした会話をジャマするのは、非っ常ーっっに! 気が引けるのだが。…てゆーか、ナゼにこんなにも普段以上にラブラブしてやがるんだコイツら? やっぱ、さっきの《“借り人”競走》の影響か? …と考えたら、その和やかな会話と笑顔のウラに何かそれぞれの含みがありそうで、そこはかとなくオソロシイが。
「てゆーか、あのー……そろそろ時間も差し迫ってきてますので、打ち合わせに入りたいんですが、よろしいでしょうか……?」
 カクゴを決めて俺が何とか踏み切って、その言葉を言ってみた途端……、


 ――どすっ……!!


 イキナリ背後から、まるで飛んできたかのような勢いでもってブチ当たってきた物体により、思わず「おあっ…!?」という呻きを洩らし、よろけて前につんのめった。
 かろうじて転ぶこともなく踏ん張ってコラえることが出来たのだが……俺が振り向いてナニゴトかと言葉を発するよりも早く、腰に手を回されて抱き付かれると同時、ナナメ下あまりにも低い位置から聞こえてきた、ヤタラと高いアニメ声。


「はっろーん、たいちゃんっ♪ 応援合戦、お疲れサマーんっ☆」


 聞こえた途端、振り返るまでも無く、声でソイツの正体が判った。――そもそもこんなことしてくるヤツなど、俺の知る限り、一人しか居ないのだが。
「――ぁあああッッ……!!」
 呻きながら、俺は自分の腰に回された細い腕を引っぺがし、心底イヤそーな表情を作って、改めて振り返ってやった。
 振り返った俺の、見下ろした視線の先には……めちゃくちゃ小柄な、やっぱり体操着とブルマー姿の、一人の女子生徒の姿。
「おまえなあっ……何の予告も無くイキナリ飛び付いてくるなと、いつも言うとろーがっっ!!」
「じゃー、予告すれば飛び付いていいの?」
「やかましい!! やたらめったら飛び付いてくるなと言ってるんだ俺は!!」
「えー、だって平ちゃんてばデッカイから、飛び付かないと気付いてくれないんじゃないかと思ってー……」
 そうして口許で両手を組み合わせた挙句ウルルンとした上目遣いの瞳でコチラを見上げ「怒っちゃヤー」とかまで言われてしまうと……外見上、俺がオマエをイジメたりとかしてるみてーじゃねえかハタから見たら。
 ぜってー、そんなことをチャッカリ理解している上でやってやがるんだからコイツは、タチが悪い。…悪すぎる!
 コイツに何を言っても効き目は無い、ということを充分に理解している俺が、もはや何を言うのも諦めてタメ息吐きつつ、「由良…」と疲れた声で口を開きかけた、――とソコで。


「ひょっとして……部長のカノジョ?」


 そんな好奇心マンマンにコッソリ三樹本に囁いた小泉の声が、シッカリと俺の耳にまで聞こえてきてしまって。
 なんだそりゃ…とガックリしたあまり、そのまま疲れた声を継続さして「おい…!」と振り返ると、問われた三樹本に先んじて、俺は呆れたように小泉を見やるや否や、心の底からイヤそーな声で告げてやった。
「小泉……オマエは、自分の通ってる学校で“生徒会長”やってる人間の顔も知らないのか……?」


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