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Anniversary 1st Season

『体育祭権謀術数模様 -Happy Days!-』【2.序盤戦】 [2]

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《WANTED! ~ミッション・イズ・『ウォーリーを探せ!』トライアル☆(“借り”競走)》とは。
 ――まあ、ヒトコトで言うなれば、一般的な“借り物競走”と同様の競技種目である。
 何が違うのかと云うと……世間一般で云う“借り物競走”とやらの“借り物”は、あくまでも“物品”であるのに対し、この場合、それが“人間”であるというだけのことだ。
 かといって、文字通りに人間を“借りて”くるということでは無く。
 ようするに“探して”くるのだ。
 それが、つまり走者に与えられる『任務ミッション』、というワケである。
 ルールも世間一般の“借り物競走”と、ほぼ同じ。
 スタートの合図と同時に走っていって、“指令”の書かれた紙を取る。そこに指定された通りの条件の人物を会場内から探し出し、その人物を連れて最も早くゴールまで辿り着いた者が勝者となる。
 加えて、当競技オリジナルのルールとして。――捜索の制限時間は三分間。間に合わなければ即失格。時間内に探し出してゴールまで連れてきても“指令”により指定された条件と合わなければ、その場で失格。選んだ“指令”の条件により点数は異なり、その点数が一位は三倍、二位は二倍、三位は等倍、となって加算される。四位以下には、点数の加算は認められない。…等がある。
 ――ザッと大まかに説明すれば、こんなトコロだ。


(ただ単にそれだけのこと、なんだが……その“それだけ”がクセモノなんだよなあ……)


 言わずもがな……モチロンこの競技においても、企画考案の“元凶”は、ヤツら《生徒会三連山》の面々だ。プラス、山田やら体育祭実行委員会上層部。
 皆してフフフフフ…とブキミな笑い声を立てつつ3-Cの教室でアタマを寄せ合い、あーでもないこーでもないと、よりにもよって俺のすぐ近くで、ヒソヒソと話し合いをしていたことは……まだ記憶に新しい。
 その様子をハタから漏れ聞いていて……絶対にこの競技にだけは関わりたくはないぞと、心の底から力強く思ってみたものだった。


『やっぱさー、ただ単純に“借り人”ってだけじゃー、盛り上がりに欠けると思うんだよなー? どうせなら探す人間の“条件”に、凝ってみたくね?』


 …キッカケは坂本の、この言葉。
 そして、あれよあれよという間に、案が出され、策は練られ、とっととは決定されてしまった。


《WANTED! ~ミッション・イズ・『ウォーリーを探せ!』トライアル☆》、――ウラの名を、《無作為にWANTED! ~ミッション・イズ・「秘密を暴くぜドコまでも!」トライアル★》。


 ぶっちゃけ、『なんってエゲツナイ…!』と、横で聞いててシミジミ感じ入ったものである。
 しかし、聞いているだけでも、確かにオモシロイものであるには違いないのだ。――それが、あくまでも“他人事”であるならば。
 じゃあ何がクセモノ、って……ヤツらの口から次々と発せられる、その走者に与えられる“指令”になるであろう内容が、そもそものクセモノなのだ。
 それを予め明かさないでおくどころか、単なる《“借り人”競走》というヒトコト説明でお茶を濁し、全校生徒はおろか生徒会までも謀ってペテンにかけ企画を押し通しては、自分たちだけ影でコッソリと楽しもうとしているコイツらの性格そのものが、まず、そもそもとして、エゲツナイ。


「――お願い平良くん!! この事態、何とかしてっっ!!」


 そんなエゲツナイ代表三人組は、どうやらアタマを寄せ合って〈文殊の知恵〉をヒネり出すことにも限界が来たらしく。
 今度は、一人黙々と小泉の置いていった黄色いビニールテープと格闘していた俺に泣き付く、という方法に切り替えてきたらしい。
 …が、対する俺は振り向きもせずに、それを切って捨ててやる。
「――オマエら、〈自業自得〉って言葉、知ってるか?」
「俺たちの辞書に、そんな四文字熟語なぞ無い!!」
「………じゃあ勝手にすれば?」
「うわあああごごごごごごめん平良くん!! 俺たちが悪かったー!!」
「だからお願い、見捨てないで!!」
「あのなあ……」
 そうやって、自分らの都合のいい時ばかり“くん”付けされて頼られて泣き付かれても、さあ……ゲンナリした俺は、作りかけの黄色いポンポンを机の上に放り投げ、フーッと改めてタメ息を吐いた。
 そして改めて、クルリと椅子ごと背後を振り返る。


「…つーか、元はと云えばオマエらが撒いた種なんだぞ? 私利私欲のためにしてきた、テメエらが悪い!」


 言い方は悪いが……つまり、そういうことなのである。
 マジメに三樹本は、いわゆる“美形”と呼ばれる類の人種である。間違っても“女顔”では決してないが、それでもオンナノコ好みのイケメン、と云えるかもしれない。おまけに、そのチャラい関西弁の所為でか、誰に対しても人当たりの良い人気者。しかも、間違いなく年上のオンナから可愛がられるタイプでもある。――ようするに、入部した早々から、そこを狙われてしまったワケだな。ウチの極道三人組に。
 入部してきてからコッチ、ホトンドていのいい“客寄せパンダ”だったもんなー三樹本は。
 より多くの部費を獲得するための“エサ”として、人並み以上にカオと愛想と要領の良い三樹本を、サンザン可愛がってはコキ使って引きずり回してきたコイツら三人の所業には……“利用”と云う言葉以外の何で言い表せるとでも言うのか。


「だから『利用してきた』とか言うなって、人聞きの悪い!」
「俺たちは純粋に部のためを思って、良かれと思ってやってきたのに……」
「それにしたって……“箝口令”は行き過ぎだろ?」
「ちょっと待て平良! それに対してはオマエだって何にも言わなかったじゃないか! それを今サラ……!」
「――あのなあ? 俺はあくまでも『和をし』とする人間なんだよ名前の通り。丸く収まってるウチは別に何も言わないさ。だからといって、旗色が悪くなってきた時にそれを責められなきゃならん謂われなんざ、間違ってもサラサラ無い!」
「くっそう……!! “日和見主義”の犬かキサマ……!!」
「所詮、俺は平穏を愛する日本人だ。何が悪い?」
「ちくしょう……賢しらに日本人の伝統的悪癖まで逆手さかてに取って振りかざしやがって……!!」
「オマエだって、何も言わなかったわりに、便乗してシッカリ甘い汁を吸ってきたのは事実じゃねーかよ……!!」
 …うん、まあね。そこらへんは否定しないけど。


 三樹本に対し、コイツら三人から敷かれた“箝口令”とは。――小泉桃花についての全て。
 五月の観測会の時のように、部活動単位で学校行事等に参加をする際、三樹本をダシにして女性客を集客するためには。
 ぶっちゃけ、ヤツに“カノジョ”なんて存在が居てはいけなかったからである。
 つまり、『オマエにカノジョが居るってだけで集客できる人間が減るから、今後一切カノジョのことは他言するな!』と……入部早々、下されてしまったワケだな。これが。
 まさか当の“カノジョ”が翌年入部してこようとは、つゆほども考えていなかったが……その時も、ヤツら三人で『部費が減るー!!』と多少は焦っていたようだったが……しかし小泉のあまりな“オコチャマ”的リアクションが判ってくるにつれ、次第に何も言わなくなった。――というのも、れっきとした“カレシ”“カノジョ”の関係の二人であるにも関わらず、ハタから見たら、小泉が一方的に三樹本にジャレついてるよーにしか見えなかったから……なんだよなー……。
 正直、小泉はかなり可愛い。男が五人いたら五人ともが『可愛い』と口を揃えて言うんじゃないか、ってくらい、力説するけどマジで可愛い。でも、それはあくまでも“美人”とか“綺麗”といった類のものではなく、あくまでもどこまでも“可愛い”、のである。むしろ“愛らしい”とでも言った方が正しいだろうか。おまけに身長一五〇㎝も無いんじゃないかってほどの小柄で、その所為かリアクションはムダに大きいし、くるくると良く動き回っては良く喋る、まさにジッとしている時は無い、という典型的“オコチャマ”な行動パターン。――ようするに、ホトンド見た目“小学生”。
 三樹本は三樹本で、ヘタに要領が良く普段から落ち着いている所為もあるからなのか、小泉を構ってやる様子がまるで“妹を可愛がる兄”のようで。
 …そりゃあ、ハタから見る人間には、とてもじゃないけど“恋人同士”だなんて思われないってバこの二人。――ということを口にした途端、小泉が激怒するだろうことが目に見えて分かるため、あえて誰も何も言わないというだけのことで。
 しかし俺たちみたいに“同じ部活”なんて近い距離に居る人間には、内実あいつらが“兄と妹”では無く一応はちゃんと“恋人同士”なんだ、ってことは、シッカリと見えているワケだけれども。
 それでも、誰が見たって、見たトコから考えることは同じだと思う。
 それをいいことに……いまだヤツら三人から三樹本限定で敷かれた“箝口令”は、解かれてはいない。


 ヤツら三人が恐れているのは……小泉の口から、その“真実”が暴露されてしまうかもしれない、ということに対してだ。


「…まあ、とりあえず聞け。そこの三バカども」
 とりあえず目の前のコイツらをグウの音しか出ないくらいにまで黙らせた後、おもむろに俺は、口を開いた。
「オマエらの策略のお陰で…つーか、ぶっちゃけホトンド三樹本のお陰だけど。…ともあれ、そんな昨年からの活躍が実を結んで、今年度の予算額は例年に比べて何となくupしている。しかし、いくら俺たち三年は今学期限りで引退するとはいえ、ココへきて俺たちが頑張りを放棄したことにより、せっかく増額された部費が再び減額となるのは、後に残す後輩のことを考えても、それは忍びない」
 どうせコイツらのことだ、こんな引退間際になってまで来期の部費云々の心配をするのも、とりたてて残してゆく後輩のためなんかでは無いだろう決して。
“二学期一杯で引退”というカタチを取ってみたところで、その後もアタリマエのように、コイツらが部員として居座り続けていく気なのだろうことは間違い無いし。その時の居心地を今後の部費云々で左右されてたまるか、というトコロが、おそらく本音なのだろう。
 …まあ部費という点においては、今年度の“部長”として、確かに俺も多少は甘い汁を分けてもらったよーなワケだからな。それは事実だし。
 そこらへんの礼儀くらいは、たとえコイツらにとはいえ、尽くさねばなるまい。
「つーワケで、俺から一つ、策を授けてやろう」
 言った途端、即座に三声ユニゾンで「マジでっ!?」と食いついてくる、俺の目の前に並ぶ、かつての《生徒会三連山》。――その威光は、微塵も無し。
「――てゆーか、さあ……?」
 まず考えてもみろよ? と、その姿に呆れつつ俺は、淡々と言葉を繋ぐ。


「そもそも、オマエらが山田あたりに先回りして根回しするなり圧力かけるなりしとけば、それで済む話じゃねーの? たかが小泉の出場種目云々なんて」


「…………」


 タップリ五秒の沈黙の後。――三人が三人とも、揃ってポンッと手を打って。
「あああ、その手があったか!! そうだよ俺たち、生徒会権力とか、まだ持ってるじゃんっ!!」
「うわ、すっかり俺、自分が生徒会からズッパリ引退した気になってたよ!!」
「さすが平良、ナイスアイディア!! とてつもなくシンプルかつベストだ、それは!!」
 そして、声を揃えて「さっすが悪代官!!」と拍手喝采で褒められても……それ絶対に褒められてないし。――ケンカ売ってんのかテメエら?
「イヤだなあ……もう俺たちってば先走ちゃって。ややこしく考え過ぎていたヨ」
「案は幾つも出てくるものの、いくら何でも犯罪行為まではヤバイよなあって……」
「イマイチ実行に踏み切るのを躊躇っちゃう案ばっかりだったもんなー?」
「――って、何を考えてたんだキサマら……?」
 でもって、そのデカい図体で恥じらうなキモチワリィ。…てゆーかソコ、恥ずかしがるトコロじゃないから間違っても!
(少しは一般常識的な罪悪観念というものを持て、テメエら……!)
 …まったく、どっちが“悪代官”なんだか分かりゃしねえし。そんなコイツらに比べたら、俺の浅くてささやかな悪知恵なんて可愛いモンだ。せいぜい、いいとこ“越後屋”あたりで終わるのが関の山だしな。
 そこで俺が即座に深々とタメ息を吐いてしまったのを合図にしたように、「んじゃ早速!」と、揃って三人が立ち上がる。
「じゃ、平良!」
「行ってくるから!」
「後はヨロシク!」
 そうしてヤツらが去り際の笑顔もサワヤカにガラッと部室の引き扉を引き開けた、――まさにその場に立っていらっしゃったのは。


「――ココでなァにをしてたのかしらァ、あなたたちィ……?」


 一瞬にして、その場の空気がピッキリと凍り付く。
 言わずと知れた……そこにジャージ姿で両手を腰に屹立していたのは、――生徒会唯一にして最後の良識、会計の梨田女史。
「や…やあ梨田サンっ……!」
「ごごご、ご機嫌よう梨田クンっ……!」
「リレーの練習は、どうだった……?」
「…………」
 たどたどしくソコで挨拶を投げかけた面々を、ふいに無言のままニーッコリとした笑みで、睨み付けて。
 そしてスゥと、おもむろに息を吸い込む。


 ――即行、俺が耳を塞いで蹲ったことは……言うまでもない。



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