鬼伝・鈴姫夜行抄

文字の大きさ
上 下
12 / 19
本編

11

しおりを挟む
 
 





「ごめんなさいね、巻き込んでしまって―――」
 全てを終えてから、彼女は、そう光映に頭を下げた。
 それに軽く首を振り微笑みを返すと、改まったように光映は、そんな彼女へと向かい問い掛ける。
「君は、これからどこに行くの……?」
「わからないわ」
 当然のように、彼女が答える。
「私たちには、行くあてなんてどこにも無いのよ。私の“願い”が叶えられるまで……私たちは、彷徨さまよい歩き続けるだけなの」
「君の“願い”って……?」
「捜しているの。人を」
「大事な人…なんだ……?」
「そう。私の半身とも云える、大切な―――」
「そう…か……」
 そこで光映は言葉を切った。
 黙って、彼女の顔を見つめる。


(――君は……君は本当は、あの時の……!)


 尋ねたかった。
 尋ねようとして、何度口を開いたか分からない。
 だが、言葉が出なかった。
 その都度、出そうとした言葉を飲み込んでしまっていた。


「それじゃ。――私たち、これで行くね」
 そして彼女が踵を返す。
 だが、その腕を、咄嗟に光映は掴んでいた。
「君は……! 君、はッ……!!」
 しかし、何と言ったらよいのだろうか―――。
 訊きたくて訊きたくて堪らないはずなのに……その気持ちとは裏腹に、尋ねて、それを認められてしまうのが怖いような気もした。
 躊躇いのあまり再び言葉を飲み込み、唇を噛む。
 だが彼女は、そんな光映を見上げ、柔らかく優しく、微笑んだ。


「桜が、綺麗だったよね―――」


 ――“答え”は、それで充分だった。


「君の、名前は……?」
「『すずき』。――阿僧祗あそうぎ鈴姫すずきよ」


 その名前、一つだけを残して。
 全てを、その微笑みの中に包み込んで。
 そして彼らは、また“旅”を続けるのだろう。時間ときの狭間を彷徨いながら。


 いつか願いの叶う、その日まで―――。



しおりを挟む

処理中です...