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 翌日。
 イムさんに呼び出された俺は、朝早くから銀の群衆《クラスタ》の拠点にやってきていた。ジェンガのような建物はいつの間にリセットされたのか。
 今日は只の煉瓦造りのビルのようだ。
 俺は試しに煉瓦を押す。「ズッ」と音を立てて動いた。

「あれ、これ、本当にジェンガしてたの?」

 動く煉瓦に崩れないかと心配になる。このまま帰ろうかとも思ったが、心臓を握られている以上は、イムさんの命令に逆らえない。
 ただですら、呼び出されてから一日経過しているのだ。

「行きたくないけど行くか」

 俺はため息と共に、仕方なく中に入り最上階を目指す。
 相変わらず雰囲気だけは王族のような高貴さを持つ内装だ。重苦しい扉を開けてイムさんが待つ王の間へ入る。
 すると、

「さ~て、来週の公式戦は?」

 ノリノリで。
 テレビのリモコンを持ったイムさんがいた。

「……そんな、次回予告するみたいに、『公式戦』を報告しないで貰っていいですか?」

 俺でも知ってる国民的アニメの次回予告を真似するイムさん。
 何があっても最後までやり切りたいのか、俺の言葉を無視する。

「赤の群衆《クラスタ》、青の群衆《クラスタ》、黒の群衆《クラスタ》の三本です。来週もまた、見てくださいね。ジャンケン『パン!』」

「うおっ!!」

 完全に、国民的アニメの次回予告じゃないかと、呆れていた俺に最後の最後で銃弾を飛ばす。
 流れる動作で放たれる弾丸。時間を加速させると目の前に銃弾があった。
 あ、あぶねぇ……。
 弾丸の軌道から立ち退き、加速を解く。

「いや~、このアニメが分かる人がいて嬉しいよ。ほら、ここには映像が届かないじゃない?」

 ニコニコと。
 あと一歩で俺が死んでいたにも関わらず笑う。今となっては一々怒る気力も沸かない。

「国民的アニメとはいえ、そんな楽しみにするほどでは……って、いうか、今もまだやってるんですか?」

 年を取らない彼らが、50年後、どんな生活を送っているのか……気にはなる!!
 俺の食いつきに感づいたのか。
 玉座の上で足を組みなおすと、とんでもない事実を口にした。

「やってるよ。時代は22世紀になったからね。先週、遂に猫型ロボットが遂にやってきたんだ!!」

「時代が追い付いたから混ざってる!?」

「と、まあ、冗談はさて置き」

「どこまでが冗談だったんですか……?」

 滅茶苦茶気になりますよ?
 国民的アニメの共演。
 まあ、50年経っても時代は22世紀には到達しないから嘘だと気付いてはいたけども。

「公式戦が決まったから。赤の群衆《クラスタ》との勝負ね。因みに青と黒は嘘だよ」

「そこから冗談だった!?」

 思いがけないスタート地点に、俺は驚きの声を上げてしまった。

 駄目だ冷静になれ。
 俺は自分に言い聞かせて次の対戦相手に付いて考える。

 相手は赤の群衆《クラスタ》。となれば、俺は出ない方がいいかもしれないな。
 生里がいるかもしれないし……。
 やはり、一刻も早く鸞《らん》を探しに行くべきだ。

「と、ちゃんと伝えたからねぇ~」

 バイバイと手を振るイムさん。
 最初に俺がご褒美に求めた公式戦に全部出るという約束を守るために、毎回、呼び出し開催日を教えてくれるのだ。

「さてと、じゃあ、このことを皆に報告しに行きますか」

 俺は下の階に降りる。
 そこでは銀の群衆《クラスタ》のメンバーが集まる活動拠点として使っていた。扉を開いて中を覗くとそこに居たのは少女一人だけだった。
 俺が昔から良く知る先輩の面影。

「あ、今日はアカネだけなんだ」

「なんで、そんな残念そうなのよ。さては――公式戦ね!」

「……」

 アカネの言葉、俺は表情を殺して外へ出る。
 本日は曇り空。
 だが、温度は暖かく湿気もそこまで高くない。日の光を浴びて眠る昼寝も気持ちいいが、昼なのに暗いどっちつかずの天気で眠るのも悪くない。
 今日はどこで昼寝をしようか。
 ……。
 そんなことを考えている俺の後を、ぴったりとアカネが付いてきていた。パートナーを連れて歩くタイプの育成RPGか。

「なんで、私を無視するんだよ。やるときは私もやるんだよ?」

「いや、うん。それは知ってるけどさ。アカネにはいざという時の切り札だからさ」

 とはいうモノの、アカネの【魔能力】を知る俺としては、あまり頼りたくはないのだ。傷を引き受ける必要がある能力は、アカネの身体に負担を掛ける。
 俺の言葉をそのまま受け入れる少女。

「まあ、そうだよな~。私がいれば一発逆転も夢じゃないもんね」

 切り札という言葉が気に入ったのか、「私は切り札~」と、歌いながら歩く。
 陽気に歩く俺達を、一人の男が待ち構えていた。
 また、俺達に文句を言いに来た人間かと、頭を抱えるが近づくにつれて違うことが分かる。
 遠目では俺達と似たような制服を着ていたが――色が違った。制服の一部が怒りのように真っ赤に染まる。
 赤の群衆《クラスタ》――生里だった。
 先送りにしていたツケを、支払う時が来たようだ。
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