上 下
37 / 39

第4−5話 アド・ルード

しおりを挟む
 扉を潜ると、その先は洞窟の中だった。
 ゴツゴツとした岩肌に突き刺された松明が内部を照らす。どうやら、洞窟はアリの巣状に広がっているようだ。
 地に足を付けた僕に、助けてくれた男は笑顔を向ける。

「良かった~、間に合って。村人を避難させてたら遅くなっちった。ごめんね~」

「……いえ、こちらこそありがとうございます」

 相手はクレスさんを連行した監守、警戒をしなければいけないのだろうが、この洞窟には僕達だけじゃなく、デネボラ村に住んでいた人々がいた。
 扉の力を使い、村からこの場所の避難させてくれたのだろう。
 ほとんどの村人が傷を負っており、少しでも動ける者は介抱に追われていた。

「礼を言われるほどのことじゃないよ~。困ったときはお互い様っしょ!」

 馴れ馴れしく話しかける男。
 しかし、僕の視線はある人を探すために動き続けていた。
 いない……。
 フルムさんがこの場にいないのだ。

 大群に襲われどうなったのか。助けに戻らねばと男に詰めかけた時、全身を包帯で巻かれた人を見つけた。包帯だけでは止血できないのか、白い帯を血液が赤く染めている。
 顔も怪我をしているのか、包帯で顔の全ては見えないが――、

「マルコさん!!」

 怪我をしていたのはマルコさんだった。
 僕の声に目を開いて上体を起こした。

「アウラか……。悪いな、折角、怪我を治して貰ったのに、また傷だらけになっちまって」

 擦れた声で冗談めかして笑う。
 だが、話すだけでも怪我は痛むのだろう。腹部を抑えて呻いた。

「今は話さないで、ゆっくり休んでください」

「そういう訳にいくか。あいつらは――」

 マルコさんが怪我の痛みに耐えて、僕たちに何か伝えようとした
 だが、その間に両手を広げて派手髪の男が間に入った。

「ちょっと待った~!ここからは俺が説明するから、あんたは寝てなよ」

 マルコさんの肩を付き飛ばし、強引に寝かせた。
 怪我人に対して乱雑な扱いだった。

「よし!」

「……何が「よし」なのよ。怪我人は大事にしなさいな。そして、一番あんたが邪魔よ」

「フルムさん!? 良かった無事だったんですか?」

 僕の背後からフルムさんが現れる。
 大きな怪我もしていないようだ。

「ええ。ちょっと、傷の酷い人達の治療を行っていてね。次はマルコさんよ。……にしても、私がこんな男に命を救われるなんて、人生の汚点ね」

「くぅ~相変わらずキツい性格だねぇ。そう言えばさ、助けに来た俺、どうだった? かっこ良かったっしょ?」

 先ほど見せた乱雑さは何処に消えたのか。
 優しく、ふわりとフルムさんの腰に手をまわした。どこから取り出したのか、薔薇の花束を差し出して言う。

「そう言えば、自己紹介まだだったね。俺はアド・ルード。好きな女の子はタイプは、言っちゃおうかな~。今はフルムちゃん。よろしくね」

 薔薇をフルムさんの胸元に差し込み、頬と頬が触れ合う距離まで顔を近付ける。

「……【火《ファイア》・渦《ボルテクス》】」

 炎の渦を生み出し、近付くアドさんを吹き飛ばした。

「うわ、熱っ! もしかして、この熱が俺への思いってことか?」

 燃える衣服を叩きながらも、ポジティブな思考を続けるアドさん。
 フルムさんは視界から完全にアドさんを外すとマルコさんに近付き、【陽】属性での回復を始める。
 辺りにはマルコさん意外にも怪我をしている人達が多数だ。
 無駄な時間はないと背中が語っていた。

「ちぇー。折角ピンチになるまで待ってたのに、意味ないじゃんね。でも、そんな優しいフルムちゃんも好きだよ~!!」

 アドさんは何故か僕に笑いかけて言う。
 ……あれ?
 さっき、村人を助けてたから遅れたって言ってませんでした?
 そっちが本当のことですよね?

 僕の冷ややかな視線も笑顔で受け取るアドさん。
 根負けした僕は話題を変えた。

「あの、それより、アドさん。なんで、あんなに【獣人】がデネボラ村に……?」

「俺も詳しくはないけど、あの【獣人】達は、ネディア王国を縄張りにしてるギルドらしいんだ」

「ネディア王国のギルド……」

 ギルド。
 それは金銭と引き換えに様々な業務をこなす集まりのこと。
 主に獣の討伐や未知の遺跡の発掘など、内容は様々だ。

「そ。ギルドって言っても闇ギルドだけどね」

 本来、ギルドが人を襲うことはご法度。
 だから、今回の一件は正式な届けをしていない闇ギルドが関わっているとアドさん。

「なんて、全部、ウィンちゃんの受け売りなんだけどね~。1人の女の子を狙ってるって」

「女の子……」

 その言葉に僕は1人の少女が洞窟にいないか探す。
 同じ年頃の少女は数名いるが、僕が探している顔はなかった。
 まさか……、狙っている少女って――。

「アドさん。その女の子というのは、ユエさんですか?」

「正解! ユエ・ホーリィって可愛い女の子だよ。あの子、将来、絶対美人になるよね~」

 今の内から目を付けておこうかなと、暢気に話すアドさんに詰め寄った僕は、ユエさんの安否を聞く。

「ユエさんは! ユエさんは今どこにいるんですか!? 無事なんですよね!?」

「落ち着きなさい。もし、連れて行かれたのだとしたら、【獣人】が村に残っていた説明が付かないわ。恐らく、彼女は無事よ」

「フルムさん……」

 僕の問いかけに答えたのはフルムさんだった。
 マルコさんの治療を終え、立ち上がると隣に居た怪我人を治し始めた。

「く~。冷静なところも堪らないね~。そ、彼女は今、ウィンちゃんと一緒にいるよ~。あっちで2人きりで話してるんだ」

 アドさんは洞穴の奥にある、分岐した穴の一つを指差した。
 どうやらそこにユエさんはいるらしい。

「アウラくん。……あなたは先に1人で行っていなさい」

「え?」

「私は皆の怪我を治すことを優先するわ」

 回復させる手は緩めないままにアドさんを睨む。
 そうだ。
 助けて貰ったとはいえ、この二人はクレスさんを監禁していることに違いない。治療に専念すると言うが、そのことについてフルムさんも話があるのだろう。

「わ、分かりました」

 僕は頷き2人が話している穴に向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰しのための奮闘が賞賛される流れに~

果 一
ファンタジー
リクスには、最強の姉がいる。  王国最強と唄われる勇者で、英雄学校の生徒会長。  類い希なる才能と美貌を持つ姉の威光を笠に着て、リクスはとある野望を遂行していた。 『ビバ☆姉さんのスネをかじって生きよう計画!』    何を隠そうリクスは、引きこもりのタダ飯喰らいを人生の目標とする、極めて怠惰な少年だったのだ。  そんな弟に嫌気がさした姉エルザは、ある日リクスに告げる。 「私の通う英雄学校の編入試験、リクスちゃんの名前で登録しておいたからぁ」  その時を境に、リクスの人生は大きく変化する。  英雄学校で様々な事件に巻き込まれ、誰もが舌を巻くほどの強さが露わになって――?  これは、怠惰でろくでなしで、でもちょっぴり心優しい少年が、姉を越える英雄へと駆け上がっていく物語。  ※本作はカクヨムでも公開しています。カクヨムでのタイトルは『姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰し生活のための奮闘が、なぜか賞賛される流れになった件~』となります。

異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん
ファンタジー
※ようやく修正終わりました!加筆&纏めたため、26~50までは欠番とします(笑)これ以降の番号振り直すなんて無理! ごめんなさい、変な番号降ってますが、内容は繋がってますから許してください!!!※ ファンタジー小説大賞結果発表!!! \9位/ ٩( 'ω' )و \奨励賞/ (嬉しかったので自慢します) 書籍化は考えていま…いな…してみたく…したいな…(ゲフンゲフン) 変わらず応援して頂ければと思います。よろしくお願いします! (誰かイラスト化してくれる人いませんか?)←他力本願 ※誤字脱字報告につきましては、返信等一切しませんのでご了承ください。しかるべき時期に手直しいたします。      * * * やってきました、異世界。 学生の頃は楽しく読みました、ラノベ。 いえ、今でも懐かしく読んでます。 好きですよ?異世界転移&転生モノ。 だからといって自分もそうなるなんて考えませんよね? 『ラッキー』と思うか『アンラッキー』と思うか。 実際来てみれば、乙女ゲームもかくやと思う世界。 でもね、誰もがヒロインになる訳じゃないんですよ、ホント。 モブキャラの方が楽しみは多いかもしれないよ? 帰る方法を探して四苦八苦? はてさて帰る事ができるかな… アラフォー女のドタバタ劇…?かな…? *********************** 基本、ノリと勢いで書いてます。 どこかで見たような展開かも知れません。 暇つぶしに書いている作品なので、多くは望まないでくださると嬉しいです。

乙女ゲーム(同人版)の悪役令嬢に転生した私は、ついてる主人公に付き纏われる

華翔誠
ファンタジー
私は、どうやら転生したようだ。 前世の名前は、憶えていない。 なんだろう、このくだりに覚えが?猫?夏?枕?まあ、そんな事はどうでもいい。 私の今の名前は、アウエリア・レン・フォールド、8歳。フォールド家の一人娘であり、伯爵令嬢だ。 前世では、多分、バンビーだったと思う。 よく思い出せぬ。 しかし、アウエリア・レン・フォールドの名前は憶えている。 乙女ゲーム「黄昏のソネア」の登場人物だ。 まさか、乙女ゲームの世界に転生するなんて・・・、いや某駄目ろうでは、ありきたりだけど。 駄目ろうとは、小説家になろうというサイトで、通称が駄目ろう。駄目人間になろうっていう揶揄らしいのだが。 有名な面接系の本には、趣味に読書はいいけど、決して小説家になろうの名前は出さない事と書かれている。 まあ、仕事中に読んだり、家で読み過ぎて寝不足になったりと社会的には、害のあるサイトとして認定されつつあるからね。 それはどうでもいいんだけど。 アウエリア・レン・フォールドは、悪役令嬢である。 それも殆どのルートで処刑されるという製作スタッフに恨まれているとしか思えないような設定だ。 でもね、悪役令嬢とはいえ、伯爵令嬢だよ?普通は処刑なんてされないよね? アウエリア・レン・フォールドさん、つまり私だけど、私が処刑されるのは、貴族学院卒業前に家が取り潰しになったからだ。何の後ろ盾もない悪役令嬢なら、処刑されても仕方がない。 という事で、私は、ゲームが始まる前、つまり貴族学院に入学する前に、実家を潰す事にした。 よく言うでしょ? ゲームはスタートする前から始まってるってね。

可愛くない私に価値はない、でしたよね。なのに今さらなんですか?

りんりん
恋愛
公爵令嬢のオリビアは婚約者の王太子ヒョイから、突然婚約破棄を告げられる。 オリビアの妹マリーが身ごもったので、婚約者をいれかえるためにだ。 前代未聞の非常識な出来事なのに妹の肩をもつ両親にあきれて、オリビアは愛犬のシロと共に邸をでてゆく。 「勝手にしろ! 可愛くないオマエにはなんの価値もないからな」 「頼まれても引きとめるもんですか!」 両親の酷い言葉を背中に浴びながら。  行くあてもなく町をさまようオリビアは異国の王子と遭遇する。  王子に誘われ邸へいくと、そこには神秘的な美少女ルネがいてオリビアを歓迎してくれた。  話を聞けばルネは学園でマリーに虐められているという。  それを知ったオリビアは「ミスキャンパスコンテスト」で優勝候補のマリーでなく、ルネを優勝さそうと 奮闘する。      

処理中です...