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第3−11話 姿を見せぬ監守
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「……こないわね」
「ええ。来ませんね」
【獣人】を倒してから三日が経過していた。
前回同様、倒した直後にあの2人組が来るかと思ったが、一向に姿が見えない。僕たちの背後には、手足を手錠で拘束し、その上から鎖を巻き付けられた【獣人】が。口も聞けぬように口輪まで装備させられていた。
僕はここまでしなくてもいいのではと思ったが、フルムさんがノリノリで用意したので、僕は何も言うまいと口出ししなかったのだけど。
「う~、う~!!」
僕たちの背後で、何かを訴えようと必死に声を出す【獣人】。
「うるさいわね。あんたは只の餌なんだから、喋りかけないで貰える? 臭いのが移るじゃない」
短い鼻を片手で掴み脅すフルムさん。
拘束された相手と一緒にいることが、映える人って中々いないよね……。フルムさん、生き生きモードだ。
「うう、うう……」
「自分の欲望に負けて、獣以下に成り下がったあなたには、この姿がお似合いなの。まるで、こうなるために生まれてきたみたいじゃない」
フルムさんは掴んでいた手を離すと、今度は顎を掴んで持ち上げる。
「殺されないだけ感謝なさい」
「……っ」
【火《ファイア》・剣《ソード》】の切っ先を喉元に軽く当てて、弦楽器でも弾《ひ》くかのように、「スーッ」と静かに動かした。
触れた毛と肉が焼けて、焦げた匂いが満ちた。
『やっほ~。獣人倒したみたいだね』
監守達を待っていた僕達だったが、先に現れたのは赤ん坊だった。
「……今、あなたに用はないわ。私たちに話しかける時間があるのだったら、早く彼女達を呼んで貰えるかしら? 話はその後よ」
『そう。その話だ』
赤ん坊が指を鳴らして言った。
『僕は【獣人】の監守をしろなんてミッションは彼女達に与えていないんだ。君たちと同じく倒すことを僕はミッションとして告げている』
「って、ことは……!?」
彼女達は【獣人】を自らの意思で、捕えて監視しているということか。
一体、何のために?
強力な【獣人】を集めておくのは危険だと、僕は思うのだけど。
相手にどんな考えがあるにせよ、まずは会うことだとフルムさん。
「だったら、早くこの場所を彼らに教えなさい。【獣人】の場所はあなたが伝えないと分からないんでしょ?」
『まあ、そういうことになるね~』
「え、でもちょっと、待ってください。だったら、なんでクレスさんの時は直ぐにあの二人は現れたんですか?」
場所を知る方法が赤ん坊しかないのだったら、何故、あの時姿を現わしたのか。
説明が付かない。
説明を求める僕にフルムさんは言った。
「あなたねぇ……。そこは簡単でしょう。場所を教えたそれだけよ」
フルムさんが下らないことに時間を使うなと首を振った。
『こないだは、初めての相手だし、僕も襲われていたから、助けにと思って呼んだんだ』
「……なるほど」
初めての戦い。
サポートとして呼んでくれていたわけだ。
それは……ありがとうございます。余計な確執が生まれた結果になったのだけど。
『まあ、今回は二回目だし、力にも慣れただろうから助けはいらないだろうな~と思って呼んでないんだよ』
「じゃあ、この男はどうすればいいのかしら? あなたが引き受けてくれるの?」
『うーん。害獣だから、サクっと駆除しちゃえば良いと私は思うんだけど、どうだろう?』
「どうだろうって」
駆除。
言い方は変えているけど、つまり、殺してしまえというのか。
赤ん坊の冷酷な言葉に、フルムさんも嫌悪を現わしていた。
「……駆除なんてするわけないでしょう。本気で言ってたら、私は怒るわよ?」
『既にちょっと怒ってるくせに、よく言うよ。全てを終えれば君は過去に戻る。だから、なにしてもいいじゃない』
「良くないわよ。例え、全てが無かったことになっても、自分のやりたくないことに手を染めたら、二度と戻れなくなる。私はそうなりたくないのよ」
「フルムさん……!!」
胸を張り言い切るフルムさん。
過去に戻れるからと、人を殺したら自分が元に戻れない。
『君は本当我儘だな~。しょうがない。あの二人に伝えておこう』
何を言ってもフルムさんの意思は変わらないと思ったのか、赤ん坊は監守達に連絡すると約束をしてくれた。
勿論、タダといかないのか、新たなるミッションを僕たちに告げた。
『その代わり、あの二人に依頼しようと思ってたミッションを君たちに与えようかな』
「ま、いいでしょうね。こっちとしても気分悪くなるくらいなら、その方がいいわ」
人を殺すよりもマシだとフルムさん。
僕もそれは同感だった。
『じゃあ、次はネディア王国に行って貰おう。君たちが王国に着いたら彼らに連絡をする』
「……今すぐに呼んではくれないのね」
『当たり前だよ。我儘ばかり聞いてあげれないのさ。私の仲間はそう多くない。対する【獣人】は数を増やしているからね。仲間内で消耗するのは避けたいに決まってるじゃない』
「……私はあの二人を仲間だって思ってないわよ」
『私は思っている。彼女達にも話を聞いて会ってもいいと許可が出れば、ネディア王国に向かって貰うよ。そのためにも――頑張ってね』
赤ん坊はそう言って声を閉じた。
今回の話はこれで終わりということらしい。
消えた声にフルムさんは言った。
「あの赤ん坊は一々条件だして面倒くさいわね。まあ、ムカつくけど、なんでも無条件で応じてくれるよりは、信用はできるわね」
フルムさんは立ち上がって言った。
「さてと。じゃあ、次のミッションに挑もうかしら」
◇
「ユエさん、マルコさん!!」
僕は宿屋【マルコ&エース】を修復している2人に声を掛けた。
更地となったスペースに設計図を広げて顔を突き合わせていた。
「おお! アウラ! フルム姉さまは一緒じゃないのか?」
ユエが僕の顔を見るなり、フルムさんの存在を探した。
監守達が姿を見せるのを待っている間、時間のあった僕たちは瓦礫となった宿屋の処理を手伝っていた。
いや、手伝って言えば語弊が生まれるな。
処理を見守っていたと言うべきか。
フルムさん一人で全て片付けてしまった。
木造の宿を【火】の魔法で灰にし、【風】で全て吹き飛ばした後に、【土】で地盤を整地した。
隣接した宿を燃やすことも汚すこともなく、3つの【魔法】を組み合わせて作業を行った。
3つの属性を自在に操るフルムさんを見ようと、村の人たちが観察しにくるほど。
瞬く間にフルムさんは人気者となっていた。
ユエさんはフルムさんのことを姉のように慕うまでに。
……。
今まで気にはしていなかったんだけど、僕、ユエさんより年上なのに敬語使われたことないな……。
「なんだ~。フルム姉さまいないのか~」
あからさまに肩を落として、とことこと作業に戻っていく。
彼女と入れ替わるようにしてマルコさんがやってきた。
「あいつはあんな態度を取っているが、アウラにも感謝しているんだ。許してやってくれ」
「僕は全然、大丈夫ですけど……。マルコさんは大丈夫ですか? その――エースさんとの宿が壊れてしまって」
2人で借金を抱えてまで作った宿は、もうどこにも存在しない。
売り上げを全て渡してでも守りたかった場所なのにだ。
「ああ。むしろ吹っ切れたよ。あいつとの思い出は大事だけど、思いに留まって停滞することが、思い出じゃないって――エースなら笑うさ」
「2人に愛されているエースさんに会ってみたかったですね」
「はっはっは。やめとけ。あいつは勢いだけの馬鹿だ。会っても得るもんは何もないさ」
「そんなことないと思いますけど」
「それよりもアウラ。【獣人】とやらとこれからも戦うんだろう? 彼女を、フルムちゃんを失わないようにするんだ。そっちの方がよっぽど重要だ」
「……はい」
僕とマルコさんが話していると、フルムさんがやってきた。
その手には鎖が握られており、先には【獣人】が繋がれていた。自分が使っていた鎖で拘束されるとは……【獣人】も思っていなかっただろうな。
「ちょっと、私の話してたでしょう? 私のいないところで私の話をするなんて、万死に値するわ」
名前を出して会話をしただけで罪が重すぎるよ……。
「いや、そこまでは値しませんよ」
「はぁ、分かったわよ。百歩譲ってあげるわ」
「あ、ありがとうございます」
「9900回、死ね」
「本当に100歩しか譲ってないじゃないですか!!」
律儀に引いてくれたのか……。
要らない気づかいだった。
不満を口にする僕に、フルムさんは舌打ち交じりに言った。
「じゃあ、死ね」
「シンプルが一番酷く聞こえますね……」
僕たちの会話が聞こえていたのか、ユエさんもマルコさんも笑っていた。
「ええ。来ませんね」
【獣人】を倒してから三日が経過していた。
前回同様、倒した直後にあの2人組が来るかと思ったが、一向に姿が見えない。僕たちの背後には、手足を手錠で拘束し、その上から鎖を巻き付けられた【獣人】が。口も聞けぬように口輪まで装備させられていた。
僕はここまでしなくてもいいのではと思ったが、フルムさんがノリノリで用意したので、僕は何も言うまいと口出ししなかったのだけど。
「う~、う~!!」
僕たちの背後で、何かを訴えようと必死に声を出す【獣人】。
「うるさいわね。あんたは只の餌なんだから、喋りかけないで貰える? 臭いのが移るじゃない」
短い鼻を片手で掴み脅すフルムさん。
拘束された相手と一緒にいることが、映える人って中々いないよね……。フルムさん、生き生きモードだ。
「うう、うう……」
「自分の欲望に負けて、獣以下に成り下がったあなたには、この姿がお似合いなの。まるで、こうなるために生まれてきたみたいじゃない」
フルムさんは掴んでいた手を離すと、今度は顎を掴んで持ち上げる。
「殺されないだけ感謝なさい」
「……っ」
【火《ファイア》・剣《ソード》】の切っ先を喉元に軽く当てて、弦楽器でも弾《ひ》くかのように、「スーッ」と静かに動かした。
触れた毛と肉が焼けて、焦げた匂いが満ちた。
『やっほ~。獣人倒したみたいだね』
監守達を待っていた僕達だったが、先に現れたのは赤ん坊だった。
「……今、あなたに用はないわ。私たちに話しかける時間があるのだったら、早く彼女達を呼んで貰えるかしら? 話はその後よ」
『そう。その話だ』
赤ん坊が指を鳴らして言った。
『僕は【獣人】の監守をしろなんてミッションは彼女達に与えていないんだ。君たちと同じく倒すことを僕はミッションとして告げている』
「って、ことは……!?」
彼女達は【獣人】を自らの意思で、捕えて監視しているということか。
一体、何のために?
強力な【獣人】を集めておくのは危険だと、僕は思うのだけど。
相手にどんな考えがあるにせよ、まずは会うことだとフルムさん。
「だったら、早くこの場所を彼らに教えなさい。【獣人】の場所はあなたが伝えないと分からないんでしょ?」
『まあ、そういうことになるね~』
「え、でもちょっと、待ってください。だったら、なんでクレスさんの時は直ぐにあの二人は現れたんですか?」
場所を知る方法が赤ん坊しかないのだったら、何故、あの時姿を現わしたのか。
説明が付かない。
説明を求める僕にフルムさんは言った。
「あなたねぇ……。そこは簡単でしょう。場所を教えたそれだけよ」
フルムさんが下らないことに時間を使うなと首を振った。
『こないだは、初めての相手だし、僕も襲われていたから、助けにと思って呼んだんだ』
「……なるほど」
初めての戦い。
サポートとして呼んでくれていたわけだ。
それは……ありがとうございます。余計な確執が生まれた結果になったのだけど。
『まあ、今回は二回目だし、力にも慣れただろうから助けはいらないだろうな~と思って呼んでないんだよ』
「じゃあ、この男はどうすればいいのかしら? あなたが引き受けてくれるの?」
『うーん。害獣だから、サクっと駆除しちゃえば良いと私は思うんだけど、どうだろう?』
「どうだろうって」
駆除。
言い方は変えているけど、つまり、殺してしまえというのか。
赤ん坊の冷酷な言葉に、フルムさんも嫌悪を現わしていた。
「……駆除なんてするわけないでしょう。本気で言ってたら、私は怒るわよ?」
『既にちょっと怒ってるくせに、よく言うよ。全てを終えれば君は過去に戻る。だから、なにしてもいいじゃない』
「良くないわよ。例え、全てが無かったことになっても、自分のやりたくないことに手を染めたら、二度と戻れなくなる。私はそうなりたくないのよ」
「フルムさん……!!」
胸を張り言い切るフルムさん。
過去に戻れるからと、人を殺したら自分が元に戻れない。
『君は本当我儘だな~。しょうがない。あの二人に伝えておこう』
何を言ってもフルムさんの意思は変わらないと思ったのか、赤ん坊は監守達に連絡すると約束をしてくれた。
勿論、タダといかないのか、新たなるミッションを僕たちに告げた。
『その代わり、あの二人に依頼しようと思ってたミッションを君たちに与えようかな』
「ま、いいでしょうね。こっちとしても気分悪くなるくらいなら、その方がいいわ」
人を殺すよりもマシだとフルムさん。
僕もそれは同感だった。
『じゃあ、次はネディア王国に行って貰おう。君たちが王国に着いたら彼らに連絡をする』
「……今すぐに呼んではくれないのね」
『当たり前だよ。我儘ばかり聞いてあげれないのさ。私の仲間はそう多くない。対する【獣人】は数を増やしているからね。仲間内で消耗するのは避けたいに決まってるじゃない』
「……私はあの二人を仲間だって思ってないわよ」
『私は思っている。彼女達にも話を聞いて会ってもいいと許可が出れば、ネディア王国に向かって貰うよ。そのためにも――頑張ってね』
赤ん坊はそう言って声を閉じた。
今回の話はこれで終わりということらしい。
消えた声にフルムさんは言った。
「あの赤ん坊は一々条件だして面倒くさいわね。まあ、ムカつくけど、なんでも無条件で応じてくれるよりは、信用はできるわね」
フルムさんは立ち上がって言った。
「さてと。じゃあ、次のミッションに挑もうかしら」
◇
「ユエさん、マルコさん!!」
僕は宿屋【マルコ&エース】を修復している2人に声を掛けた。
更地となったスペースに設計図を広げて顔を突き合わせていた。
「おお! アウラ! フルム姉さまは一緒じゃないのか?」
ユエが僕の顔を見るなり、フルムさんの存在を探した。
監守達が姿を見せるのを待っている間、時間のあった僕たちは瓦礫となった宿屋の処理を手伝っていた。
いや、手伝って言えば語弊が生まれるな。
処理を見守っていたと言うべきか。
フルムさん一人で全て片付けてしまった。
木造の宿を【火】の魔法で灰にし、【風】で全て吹き飛ばした後に、【土】で地盤を整地した。
隣接した宿を燃やすことも汚すこともなく、3つの【魔法】を組み合わせて作業を行った。
3つの属性を自在に操るフルムさんを見ようと、村の人たちが観察しにくるほど。
瞬く間にフルムさんは人気者となっていた。
ユエさんはフルムさんのことを姉のように慕うまでに。
……。
今まで気にはしていなかったんだけど、僕、ユエさんより年上なのに敬語使われたことないな……。
「なんだ~。フルム姉さまいないのか~」
あからさまに肩を落として、とことこと作業に戻っていく。
彼女と入れ替わるようにしてマルコさんがやってきた。
「あいつはあんな態度を取っているが、アウラにも感謝しているんだ。許してやってくれ」
「僕は全然、大丈夫ですけど……。マルコさんは大丈夫ですか? その――エースさんとの宿が壊れてしまって」
2人で借金を抱えてまで作った宿は、もうどこにも存在しない。
売り上げを全て渡してでも守りたかった場所なのにだ。
「ああ。むしろ吹っ切れたよ。あいつとの思い出は大事だけど、思いに留まって停滞することが、思い出じゃないって――エースなら笑うさ」
「2人に愛されているエースさんに会ってみたかったですね」
「はっはっは。やめとけ。あいつは勢いだけの馬鹿だ。会っても得るもんは何もないさ」
「そんなことないと思いますけど」
「それよりもアウラ。【獣人】とやらとこれからも戦うんだろう? 彼女を、フルムちゃんを失わないようにするんだ。そっちの方がよっぽど重要だ」
「……はい」
僕とマルコさんが話していると、フルムさんがやってきた。
その手には鎖が握られており、先には【獣人】が繋がれていた。自分が使っていた鎖で拘束されるとは……【獣人】も思っていなかっただろうな。
「ちょっと、私の話してたでしょう? 私のいないところで私の話をするなんて、万死に値するわ」
名前を出して会話をしただけで罪が重すぎるよ……。
「いや、そこまでは値しませんよ」
「はぁ、分かったわよ。百歩譲ってあげるわ」
「あ、ありがとうございます」
「9900回、死ね」
「本当に100歩しか譲ってないじゃないですか!!」
律儀に引いてくれたのか……。
要らない気づかいだった。
不満を口にする僕に、フルムさんは舌打ち交じりに言った。
「じゃあ、死ね」
「シンプルが一番酷く聞こえますね……」
僕たちの会話が聞こえていたのか、ユエさんもマルコさんも笑っていた。
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