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48話 老兵の思い
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「……お、終わったの?」
無数の【魔物《モンスター》】を使って、自らの身体を能力によって作り変えようとしたドラウ。だが、その姿は異形の肉塊となって命を落とした。
肉体の拒絶反応によるものなのか、散乱とするドラウだったモノに、口元を手で押さえながら、川津 海未は呟いた。
悲惨な光景に目を背けたくなるが、かつてない強敵を倒せたことは喜んでいいだろう。一先ずの安心に胸を撫でおろす。
しかし、問題が残っていることを、この刹那ばかりは忘れていた。
隣で異形同士の戦いを観察していた佐々木が、黒い鎧を指差したのだ。
「なんじゃ、あいつは……。こっちにくるぞい!」
「え……?」
敵を倒した【黒の鎧】――リキ達が次に狙いを付けたのは、この場で生きている存在。
川津 海未と佐々木だった。
破壊する対象を見つけたリキが歓喜の叫びを上げる。両手両足が破損しているにも関わらず、あり得ない速度で迫ってくる。
ドラウを倒した【速度】。
それを無力な2人にも容赦なく使用する。点々と瞬間移動を繰り返すようにして移動するリキ。ホラーゲームにでも在りそうな光景に川津 海未は佐々木の手を取って逃げ出すが、女性と老人の足では距離を広げることは不可能だった。
「うそでしょ……」
いつの間に追い抜かれたのだろうか。リキは気が付けば正面に立っていた。逃げることが叶わない。なら、今の自分に出来ることは何かと考えた川津 海未は、「キッ」とリキを睨んだのちに、胸を張って半歩前に踏み出した。
【ダンジョン防衛隊】の隊員でもないのに、異様な強さを誇るリキを相手に、怯むことなく前に足を進めた少女の行動に佐々木は驚く。
「……。うぬ。こんな少女に庇って貰うとは、儂も耄碌《もうろく》したものじゃのぉ!」
例え自身の立場が【開発部隊】だとしても、女子高生に庇って貰うなどあってはならない。川津 海未の肩を掴み自身の後ろにへと下がらせる。
「全く。こんなことになるじゃったら、朝日に嫌われたとしても、大人しく開発の続きをしておればよかったわい」
佐々木がこの場所にいる理由。
それは佐々木の部下である望月 朝日が関係していた。
上司と部下という立場でありながら、佐々木は彼女のことを娘のように可愛がり、強引な願いも聞き入れる。
そして望月 朝日は――リキのことを気に入っている。
ならば、それを使わない手はないとガイが提案したのだった。もっとも、リキ本人には望月 朝日の思いは伝えてはいないのだが。
娘の恋愛事情が絡んでいるなど知らぬ佐々木は、腰に付けたホルスターから小型の銃を取り出す。これはかつて立花《りっか》 芽衣《めい》が、ドラウが作り出したコウモリ男を倒した時に使った【ダンジョン防衛隊】の新兵器。
銃弾に【魔物《モンスター》】の特性を付与することが出来るのだ。
「しかし、だからと言って、こんな可愛い子に守られたと合っては、今後の老後がツマらなくなるわい。どれだけ年を取っても――取らなければならぬ行動は変わるまい!!」
子供を守る。
男性は女性を守るモノ。
昔ながらの考えだと佐々木本人も分かっている。だが、そうやって生きてきた。自分の生き方を誰かに強制するつもりも、されるつもりもない。
自分で決めて自分で生きる。
ただ、それだけのこと。
銃口をリキに向けて構える佐々木の背に、川津 海未が言う。
「でも……。無理して連れて来たのは私なんだよ!」
「それに従ったのは儂じゃ。誰が悪いなどないわい!」
言いながら佐々木は引き金に掛けた指を引く。乾いた音と共に【魔物《モンスター》】の特性が込められた銃弾がリキに向かって飛ぶ。
だが、放たれた弾丸は――
「は、外れたじゃと?」
距離としては4、5メートル。老いたとは言え、的《マト》の大きさは人間だ。外すなどあり得ない。
佐々木は再び指を動かすが、やはり、その弾丸が黒い鎧に当たることはなかった。
「消滅の力だ!!」
川津 海未が叫ぶ。
今回のドラウとの戦い。
ドラウは最初から、消滅に対抗するために【竜の炎】を纏わせていた。故に初めて戦いを見る佐々木は、触れた相手を消滅させるリキの力に気付いていなかったようだ。
「……クソじゃの。他に出来ることはなにか……」
新開発した武器ですら通用しない。つまり、今、この場で佐々木に出来ることはなにもないということ。
それでも、【ダンジョン防衛隊】として最後まで戦うことを諦めない佐々木が取った行動は、黒い鎧の記録を残すことだった。
映像を残すための記録機器は持ち込んでいない。だが、今の世の中は便利な電子機器で満ちている。
こんな時のために、望月 朝日から『スマートフォン』の使い方を習っておいて良かったと佐々木は笑う。
佐々木に鎧の手が伸びる。
手に触れただけで命は終わる。
自らの死を覚悟した時――鎧が蒼く燃えた。
「君、今度は逃がさないよ?」
無数の【魔物《モンスター》】を使って、自らの身体を能力によって作り変えようとしたドラウ。だが、その姿は異形の肉塊となって命を落とした。
肉体の拒絶反応によるものなのか、散乱とするドラウだったモノに、口元を手で押さえながら、川津 海未は呟いた。
悲惨な光景に目を背けたくなるが、かつてない強敵を倒せたことは喜んでいいだろう。一先ずの安心に胸を撫でおろす。
しかし、問題が残っていることを、この刹那ばかりは忘れていた。
隣で異形同士の戦いを観察していた佐々木が、黒い鎧を指差したのだ。
「なんじゃ、あいつは……。こっちにくるぞい!」
「え……?」
敵を倒した【黒の鎧】――リキ達が次に狙いを付けたのは、この場で生きている存在。
川津 海未と佐々木だった。
破壊する対象を見つけたリキが歓喜の叫びを上げる。両手両足が破損しているにも関わらず、あり得ない速度で迫ってくる。
ドラウを倒した【速度】。
それを無力な2人にも容赦なく使用する。点々と瞬間移動を繰り返すようにして移動するリキ。ホラーゲームにでも在りそうな光景に川津 海未は佐々木の手を取って逃げ出すが、女性と老人の足では距離を広げることは不可能だった。
「うそでしょ……」
いつの間に追い抜かれたのだろうか。リキは気が付けば正面に立っていた。逃げることが叶わない。なら、今の自分に出来ることは何かと考えた川津 海未は、「キッ」とリキを睨んだのちに、胸を張って半歩前に踏み出した。
【ダンジョン防衛隊】の隊員でもないのに、異様な強さを誇るリキを相手に、怯むことなく前に足を進めた少女の行動に佐々木は驚く。
「……。うぬ。こんな少女に庇って貰うとは、儂も耄碌《もうろく》したものじゃのぉ!」
例え自身の立場が【開発部隊】だとしても、女子高生に庇って貰うなどあってはならない。川津 海未の肩を掴み自身の後ろにへと下がらせる。
「全く。こんなことになるじゃったら、朝日に嫌われたとしても、大人しく開発の続きをしておればよかったわい」
佐々木がこの場所にいる理由。
それは佐々木の部下である望月 朝日が関係していた。
上司と部下という立場でありながら、佐々木は彼女のことを娘のように可愛がり、強引な願いも聞き入れる。
そして望月 朝日は――リキのことを気に入っている。
ならば、それを使わない手はないとガイが提案したのだった。もっとも、リキ本人には望月 朝日の思いは伝えてはいないのだが。
娘の恋愛事情が絡んでいるなど知らぬ佐々木は、腰に付けたホルスターから小型の銃を取り出す。これはかつて立花《りっか》 芽衣《めい》が、ドラウが作り出したコウモリ男を倒した時に使った【ダンジョン防衛隊】の新兵器。
銃弾に【魔物《モンスター》】の特性を付与することが出来るのだ。
「しかし、だからと言って、こんな可愛い子に守られたと合っては、今後の老後がツマらなくなるわい。どれだけ年を取っても――取らなければならぬ行動は変わるまい!!」
子供を守る。
男性は女性を守るモノ。
昔ながらの考えだと佐々木本人も分かっている。だが、そうやって生きてきた。自分の生き方を誰かに強制するつもりも、されるつもりもない。
自分で決めて自分で生きる。
ただ、それだけのこと。
銃口をリキに向けて構える佐々木の背に、川津 海未が言う。
「でも……。無理して連れて来たのは私なんだよ!」
「それに従ったのは儂じゃ。誰が悪いなどないわい!」
言いながら佐々木は引き金に掛けた指を引く。乾いた音と共に【魔物《モンスター》】の特性が込められた銃弾がリキに向かって飛ぶ。
だが、放たれた弾丸は――
「は、外れたじゃと?」
距離としては4、5メートル。老いたとは言え、的《マト》の大きさは人間だ。外すなどあり得ない。
佐々木は再び指を動かすが、やはり、その弾丸が黒い鎧に当たることはなかった。
「消滅の力だ!!」
川津 海未が叫ぶ。
今回のドラウとの戦い。
ドラウは最初から、消滅に対抗するために【竜の炎】を纏わせていた。故に初めて戦いを見る佐々木は、触れた相手を消滅させるリキの力に気付いていなかったようだ。
「……クソじゃの。他に出来ることはなにか……」
新開発した武器ですら通用しない。つまり、今、この場で佐々木に出来ることはなにもないということ。
それでも、【ダンジョン防衛隊】として最後まで戦うことを諦めない佐々木が取った行動は、黒い鎧の記録を残すことだった。
映像を残すための記録機器は持ち込んでいない。だが、今の世の中は便利な電子機器で満ちている。
こんな時のために、望月 朝日から『スマートフォン』の使い方を習っておいて良かったと佐々木は笑う。
佐々木に鎧の手が伸びる。
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