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35話 調査中
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「さてと」
俺は件《くだん》の隊員と会うために、【佐々木班】駐屯地の近くにある喫茶店へとやってきていた。
佐々木さん御用達のお店なようで、ここならゆっくり話せると間を取り持ってくれたのだ。
佐々木さんにお願いした時も、「儂は忙しいのに、……分かった、分かったから、言うことを聞くから暴れるな」と大変そうだったのにな……。感謝しかない。
俺は佐々木さんに感謝をして喫茶店の中に入った。
「いい雰囲気だな」
俺はカウンター席に座り店内を見渡す。
正面にはワインの瓶が寝かすように置かれていた。実際に飲むことも出来るのだろうが、インテリアとしても十分な配置の仕方だ。
振り返るとテーブル席が5つ。
半個室になるように、木製の柵で区切られていた。
だが、この店でもっとも目を引くのは店内の中心に位置する八角形のショーケースだった。ショーケースの中には剣や盾といった模型が置かれている。
少年心を刺激する店内だ。
この見せの名は【ギルド】。
どうやら、その名の通りゲームや漫画でおなじみの【ギルド】をモチーフにしているらしい。
ガイが興奮し、「おお、ここは天国かよ」と、今にも俺の服から飛び出しそうだ。胸元から顔を覗かせるガイを押さえながらコーヒーを飲む。
「カラン」と玄関から風情ある小さな鐘の音が聞こえてきた。入口に目を向けると、佐々木班で見た顔色の悪い隊員がやってきた。
俺は立ち上がって挨拶をする。
「どうも、初めまして。瀬名と申します」
「初めまして。私は堀井です」
テーブルにやってきた堀井さんは、丁寧に頭を下げて座る。
「今日は時間を作って貰ってありがとうございます」
「いや、気にしないでくれ。むしろ、元とはいえ【ダンジョン防衛隊】の隊員が興味を示してくれて嬉しいよ」
フリルの付いた黒と白の衣装を身に着けたウェイターが注文を取りにやってくる。堀井さんはコーヒーを頼むと、「もう一杯飲むかい?」と聞いてくれた。
大変な状況に置かれているのに、気を使えるなんて堀井さんはいい人なんだろうな。
「では、おかわりお願いします」
ウェイターさんは確認するために、溌溂《はつらつ》と注文を繰り返す。
厨房へと戻ったことを見届けて俺は話を切り出した。
「あの……早速なんですけど、お子さんがいなくなった時のこと、教えて頂けないでしょうか?」
「うん。とはいっても、特に変わったことはなかったんだけどね。普通に板ご飯食べて、寝てたんだ。なのに、朝起きたらどこにもいなくて……」
「唐突に……ですか」
「うん。そして息子の代わりに葉っぱが一枚床に落ちてたんだ。せめて、あれがどこに生息してるか分かれば、探す手がかりになると思うんだけど。まだ、分析は終わらないのかな?」
「あ、えっと……。もう少し時間が掛かると佐々木さんが」
「……そっか。今はそれに縋るしかないのにな」
「……」
佐々木さんから、落ちていた葉が異世界の物である確率が高いことは、まだ伏せておくようにと言われていた。
その理由は【扉《ダンジョン》】が開いた情報が入っていないから。途中経過を話して、わざわざ堀井さんを絶望させる意味はないとのことだった。
まあ、確かにこの堀井さんを見たら――言えないな。
明らかに睡眠、栄養が足りてない。
「因みに【葉】以外には、部屋が荒らされていたとかしたんですか?」
「それは全くないんだ……」
「自分の意思で外に出た可能性がありますね……」
そうなると、【魔物《モンスター》】に強引に連れ去られたとは考えにくいか。
自らの足で家を出て帰ってこないのだから。
「そうだと思うんだ。でも、自ら家を出るなんて……。ここ最近はさ、今までやらなかった宿題も自分からやりだしてさ、「僕は勉強頑張るんだ」って、張り切ってたのを知ってるから。それなのに、なんで――!!」
自らの意思で家から出たこと。
異世界の植物の葉。
繋がらない二つの情報に俺は混乱するばかりだ。
全く先が見えてこない。
そこから何個か質問をしたが、やはり、大きな手掛かりは得られなかった。
「長々とお時間を頂き、ありがとうございました」
「いや、こちらこそありがとう。もし、何かわかったら連絡をお願いするね」
俺は佐々木さんと連絡先を交換し、喫茶店『ギルド』を後にするのだった。
◇
「結局、なんも手掛かりは手に入んなかったな」
家に帰るなりハンモックに飛び込みながらガイは言った。話を聞けば何か分かるかもしれないと思っていたのだが甘かった。
ソファに力なく寝そべる。
目を瞑り思考を閉ざす。
すると、
「ただいまー」
と、川津 海未が帰ってきた。
俺はソファから起き上がり玄関まで出迎える。
「どうだった? なにか分かったか?」
「それが何にも。自分の足で外に出たことと、やっぱり、【葉】が落ちてたことしか分からなかったよ」
「そっか……」
「リキ先輩はなにか分かった?」
「俺も全く同じことしか分からなかったよ」
俺は首を左右に振って応じる。
だが、逆に言えばこれは間違いなく家出じゃないと言い切れる。違う場所の子供二人が同時に、同じ状況でいなくなるなんて有り得ない。
やはり、事件を解決するのに必要なのは異世界の葉。
これを解析するのが一番早いか……。
互いの報告を終えると川津 海未は今、戻ってきたばかりの玄関に手を掛けた。
「どこか行くの?」
「うん! 折角だから、ちょっと走ってくるね」
「へ? 今帰ってきたばっかりなんだから、少し休んだら?」
「ううん! やる気がある内にやらないと! やる気は有限! しかも、急になくなる厄介物だよ!!」
そう言って笑顔で玄関から走り出した川津 海未。
休みもしないなんて、体壊さなきゃいいんだけど。
リビングに戻るとガイがハンモックに揺られながら聞く。
「なあ、最近、あいつ様子、変じゃないか?」
「多分――ナーバスになってるんだよ」
【扉《ダンジョン》】による行方不明者。それは川津 海未の姉が行方不明になった時と同じなのだから。
俺は件《くだん》の隊員と会うために、【佐々木班】駐屯地の近くにある喫茶店へとやってきていた。
佐々木さん御用達のお店なようで、ここならゆっくり話せると間を取り持ってくれたのだ。
佐々木さんにお願いした時も、「儂は忙しいのに、……分かった、分かったから、言うことを聞くから暴れるな」と大変そうだったのにな……。感謝しかない。
俺は佐々木さんに感謝をして喫茶店の中に入った。
「いい雰囲気だな」
俺はカウンター席に座り店内を見渡す。
正面にはワインの瓶が寝かすように置かれていた。実際に飲むことも出来るのだろうが、インテリアとしても十分な配置の仕方だ。
振り返るとテーブル席が5つ。
半個室になるように、木製の柵で区切られていた。
だが、この店でもっとも目を引くのは店内の中心に位置する八角形のショーケースだった。ショーケースの中には剣や盾といった模型が置かれている。
少年心を刺激する店内だ。
この見せの名は【ギルド】。
どうやら、その名の通りゲームや漫画でおなじみの【ギルド】をモチーフにしているらしい。
ガイが興奮し、「おお、ここは天国かよ」と、今にも俺の服から飛び出しそうだ。胸元から顔を覗かせるガイを押さえながらコーヒーを飲む。
「カラン」と玄関から風情ある小さな鐘の音が聞こえてきた。入口に目を向けると、佐々木班で見た顔色の悪い隊員がやってきた。
俺は立ち上がって挨拶をする。
「どうも、初めまして。瀬名と申します」
「初めまして。私は堀井です」
テーブルにやってきた堀井さんは、丁寧に頭を下げて座る。
「今日は時間を作って貰ってありがとうございます」
「いや、気にしないでくれ。むしろ、元とはいえ【ダンジョン防衛隊】の隊員が興味を示してくれて嬉しいよ」
フリルの付いた黒と白の衣装を身に着けたウェイターが注文を取りにやってくる。堀井さんはコーヒーを頼むと、「もう一杯飲むかい?」と聞いてくれた。
大変な状況に置かれているのに、気を使えるなんて堀井さんはいい人なんだろうな。
「では、おかわりお願いします」
ウェイターさんは確認するために、溌溂《はつらつ》と注文を繰り返す。
厨房へと戻ったことを見届けて俺は話を切り出した。
「あの……早速なんですけど、お子さんがいなくなった時のこと、教えて頂けないでしょうか?」
「うん。とはいっても、特に変わったことはなかったんだけどね。普通に板ご飯食べて、寝てたんだ。なのに、朝起きたらどこにもいなくて……」
「唐突に……ですか」
「うん。そして息子の代わりに葉っぱが一枚床に落ちてたんだ。せめて、あれがどこに生息してるか分かれば、探す手がかりになると思うんだけど。まだ、分析は終わらないのかな?」
「あ、えっと……。もう少し時間が掛かると佐々木さんが」
「……そっか。今はそれに縋るしかないのにな」
「……」
佐々木さんから、落ちていた葉が異世界の物である確率が高いことは、まだ伏せておくようにと言われていた。
その理由は【扉《ダンジョン》】が開いた情報が入っていないから。途中経過を話して、わざわざ堀井さんを絶望させる意味はないとのことだった。
まあ、確かにこの堀井さんを見たら――言えないな。
明らかに睡眠、栄養が足りてない。
「因みに【葉】以外には、部屋が荒らされていたとかしたんですか?」
「それは全くないんだ……」
「自分の意思で外に出た可能性がありますね……」
そうなると、【魔物《モンスター》】に強引に連れ去られたとは考えにくいか。
自らの足で家を出て帰ってこないのだから。
「そうだと思うんだ。でも、自ら家を出るなんて……。ここ最近はさ、今までやらなかった宿題も自分からやりだしてさ、「僕は勉強頑張るんだ」って、張り切ってたのを知ってるから。それなのに、なんで――!!」
自らの意思で家から出たこと。
異世界の植物の葉。
繋がらない二つの情報に俺は混乱するばかりだ。
全く先が見えてこない。
そこから何個か質問をしたが、やはり、大きな手掛かりは得られなかった。
「長々とお時間を頂き、ありがとうございました」
「いや、こちらこそありがとう。もし、何かわかったら連絡をお願いするね」
俺は佐々木さんと連絡先を交換し、喫茶店『ギルド』を後にするのだった。
◇
「結局、なんも手掛かりは手に入んなかったな」
家に帰るなりハンモックに飛び込みながらガイは言った。話を聞けば何か分かるかもしれないと思っていたのだが甘かった。
ソファに力なく寝そべる。
目を瞑り思考を閉ざす。
すると、
「ただいまー」
と、川津 海未が帰ってきた。
俺はソファから起き上がり玄関まで出迎える。
「どうだった? なにか分かったか?」
「それが何にも。自分の足で外に出たことと、やっぱり、【葉】が落ちてたことしか分からなかったよ」
「そっか……」
「リキ先輩はなにか分かった?」
「俺も全く同じことしか分からなかったよ」
俺は首を左右に振って応じる。
だが、逆に言えばこれは間違いなく家出じゃないと言い切れる。違う場所の子供二人が同時に、同じ状況でいなくなるなんて有り得ない。
やはり、事件を解決するのに必要なのは異世界の葉。
これを解析するのが一番早いか……。
互いの報告を終えると川津 海未は今、戻ってきたばかりの玄関に手を掛けた。
「どこか行くの?」
「うん! 折角だから、ちょっと走ってくるね」
「へ? 今帰ってきたばっかりなんだから、少し休んだら?」
「ううん! やる気がある内にやらないと! やる気は有限! しかも、急になくなる厄介物だよ!!」
そう言って笑顔で玄関から走り出した川津 海未。
休みもしないなんて、体壊さなきゃいいんだけど。
リビングに戻るとガイがハンモックに揺られながら聞く。
「なあ、最近、あいつ様子、変じゃないか?」
「多分――ナーバスになってるんだよ」
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